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ケトン食が「がんを殺す」

この記事の執筆者

BFLクリニック

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

前々回の記事『「がんと食事の関係」避けたい食品・摂りたい食品』では、がんの死亡率をぐっと減らす食事のポイントとして主に以下の4点をお伝えしました。

  1. 基本はホールフード(加工食品ではなくスーパーで「食材」として売っている食品)
  2. 野菜はたくさん食べる
  3. 砂糖は避ける
  4. できれば食品の質に気をつけること

こうした食事はがんの発生率や死亡率を大幅に減少させますが、そのメカニズムは体の炎症を減らして腸内環境を整え、ホルモンのバランスを改善させることでした。

つまり、がん患者さんに限らず、以下の慢性疾患に効果が期待できます。

・糖尿病
・高血圧
・認知症
・うつ
・リウマチなどの自己免疫疾患
・腎および腸疾患
・原因不明の蕁麻疹 など

また、このような食事には、体調が良くなって快眠できるようになったり、気持ちが安定したり、体重が減ってスリムな体型に近付いたりする嬉しいおまけ付きです。

「特に病気はないけれど最近不調・・・」という方、そもそも不調になりたくないという方にもおすすめの、全ての人に実践してほしい食事です。

がんを殺す、積極的な食事

以下の食事がステップ1の「体を整える食事」とすると、ステップ2は「積極的にがんを殺しに行く食事」=ケトン食となります。

  1. 基本はホールフード(加工食品ではなくスーパーで「食材」として売っている食品)
  2. 野菜はたくさん食べる
  3. 砂糖は避ける
  4. できれば食品の質に気をつけること

もちろんステップ2を導入する場合も、上記ステップ1の4原則をベースにプラスαで行います。

ご存知の方も多いと思いますが、ケトン食とはケトン体ダイエットとも呼ばれており、普段の食事からお米やパンなどの炭水化物を減らすことで、体のエネルギー源を炭水化物(糖質)からケトン体(脂質)へシフトさせる食事を指します。

「PET-CT」と呼ばれるがんの検査を受けたことがある方は、がんや転移したリンパ節などが体の正常な部分よりも糖分を積極的に取り込むため、その部分が黒く光っている画像を見たことがあるかもしれません。

PETの原理は、このようにがん細胞が正常に比べて(インスリン受容体とグルコース輸送体を増やすことで解糖速度を速め)10〜15倍、糖分を必要としていることを利用しています。つまり、PETで光るがんがある場合(ほとんどのがんはPETで光ります)、糖分を減らしてがんを飢えさせるケトン食は有効なのです。

DNAを標的にしたがん治療の限界

ケトン食ががんを餓死させる理由を理解するには、一般的な標準治療である抗がん剤や放射線治療との違いを考えるとわかりやすくなります。よくある抗がん剤などは、簡単に言うと「このがんにはこのDNA変異があるから、この薬でブロックしましょう」といった具合に、がんのDNA変異を標的にしています。

“DNAをブロック”、何だか難しい最先端技術のような響きで、とても効きそうな印象を受けるかもしれません。しかし実際には、例えば一言で「肝臓がん」と言っても、がん細胞(DNA変異)は人によって大きく異なるだけでなく(腫瘍間不均一性)、その人の肝臓がんの塊の中にも、がん細胞一つひとつに個性があり同一ではありません(腫瘍内不均一性)。

さらに体の他の部位に転移すると転移間不均一性と言って、原発の肝臓がん細胞と転移した細胞との間でDNA変異に違いが生じ、それら全てのDNA変異をブロックするのは現実的には不可能です。

このような細胞の不均一性を無視しているため、DNAを標的とした現在の治療は特に進行性の転移がんや脳のがんの場合、ほとんど効果がありません。さらに公平で明らかな統計を用いた論文では、がんによる死亡率は1950年代と比べてごくわずかに改善したのみという結果が出ています。2003年に完了したヒトゲノム計画※1 でも、研究者はがんに共通する明らかな変異を見つけることはできませんでした。

仮に治療によって一時的にがんが小さくなったとしても、がんは時間的に均一でないため、いたちごっこのように次から次へと変化します。

例えば、乳がんのHER2変異に対する抗がん剤であるハーセプチンは、治療患者さんの半数でがんを縮小させますが、生存期間を延ばしたい人にはほとんど意味がありません。ハーセプチンを追加しても全生存期間の絶対差では、4年で2.9%、6年で5.5%、8年で7.8%、10年で8.8%増加という残念な結果です。


※1:ヒトが持つ全ての遺伝情報の解読を試みた計画

ミトコンドリア(代謝)を標的にした治療の可能性

さて、DNAを標的とした治療がなかなか結果を出せない理由がわかったところで、様々ながん細胞に共通する希望の治療ターゲットをお伝えします。それが“がんの代謝障害”です。

1924年、ノーベル賞受賞者でドイツの偉大な生化学者オットー・ワールブルクは、がん細胞が正常細胞とは異なり、エネルギー源をミトコンドリアの酸化的リン酸化メインではなく、糖分を発酵させる解糖系に大きく頼っていることを「がんに共通する特徴」として発見しています(割合としては解糖系60%、酸化的リン酸化40%ほどと言われています)。

がん細胞の成り立ちが「私たちの正常細胞が長期間低酸素状態に置かれるなどしてミトコンドリアに障害を受けること」と考えると、ミトコンドリア障害つまり代謝障害ががんの共通項目と言われても頷けます。

DNAの構造を発見したジェームズ・ワトソンは、ニューヨークタイムズの論説『がんと闘う、敵を知る』で「がん治療の対象をがんの遺伝学から代謝に焦点を移すべきだ」と提案しました。さらに「がん細胞は代謝的に脆弱な細胞であり“スーパーマン”ではなく“病人”として扱われるべき」とも言っています。

がんの特徴を捉えるとともに代謝治療の希望も上手く表している、とても良い言葉だと思います。ちなみに、彼が2重らせん構造のアイデアを他の科学者から盗んだというのは有名な話ですが、このがんの代謝治療におけるアイデアも不当に入手した情報を元に提案したとされていることは余談です。

ケトン食の実践

具体的なケトン食の方法や注意点についてはまたの機会にご説明するとして、最後にケトン体自体の効果(図1)とケトン食の禁忌(図2)を示します。

<図1>ケトン体の効果

エネルギー代謝を糖からケトン体にシフトするだけでなく、これら様々な効果がケトン食の効果を支えています。ケトン体サプリメントもケトン体レベルをがん治療域(3mmol/L以上)に上げるのに有効ですし、図1のような効果によってパフォーマンスを向上させるため、アスリートやアメリカ海軍でも使用されています。

<図2>ケトン食の禁忌

がんがあっても元気な方は1日当り炭水化物を12〜16g、手術から回復中あるいは化学療法や放射線療法を行っている方は20〜25g、甲状腺疾患や他のホルモンバランス不均衡がある方は20〜25gで始めてみてはいかがでしょうか。

ジャンプスタートをしたい場合、3日程度のファスティングから入るのも効果的です。がん治療の基本の“き”としてケトン食をおすすめします。






※本記事は『統合医療でがんに克つVOL.139(2020年1月号)』にて掲載された「リオルダンクリニック通信8」を許可を得た上で一部調整したものです。

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