文中のビタミンDは全てD3(図1)を指します。
日本人に不足しているビタミンD 正しい服用基準と方法でがんや様々な疾病を予防・治療する
オーソモレキュラー医学では、がんの治療と予防に脂溶性のビタミンであるビタミンDの摂取が必須です。ビタミンDにはD2とD3があり、ヒトの体内で働くのはD3です。本稿ではビタミンDのがん予防効果と、摂取の判断基準と摂取方法などについて述べていきます。
<図1> ビタミンD3(コレカルシフェロール)
ビタミンDと乳がん
ビタミンDの医学情報で最も信頼できるのは公的な非営利医療研究機関のグラスルーツヘルス(Grassroots Health)が発信するもので、ウエブサイトで最新の情報が得られます<図2>。
<図2>ビタミンDの研究機関グラスルーツヘルスのロゴ/ウェブサイトhttps://grassrootshealth.net/
乳がんのリスクとビタミンDについて、グラスルーツヘルスがこれまでの研究をまとめています。
- 2007年にクレイトン大学で行った無作為試験で、ビタミンDを1日1,100単位とカルシウム1400-1500mg摂取することで、55才以上の女性の乳がんを含む全てのがんのリスクが80%減ると発表しました。
- 2013年のカリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の研究で、血清ビタミンDが35 ng/ml以上の女性は15 ng/ml未満の女性と比べて乳がんと診断されるリスクは70%低くなると発表しました。
- 2005年のケースコントロール研究で、血清ビタミンDが20 ng/ml以上の女性は20 ng/ml未満の女性と比べて乳がんと診断されるリスクは83%低くなると発表されました。
- 2008年のケースコントロール研究で、血清ビタミンDが30 ng/ml以上の女性は12 ng/ml未満の女性と比べて乳がんと診断されるリスクは69%低くなると発表されました。
- 2009年のケースコントロール研究で、血清ビタミンDが34 ng/ml以上の女性は24 ng/ml未満の女性と比べて乳がんと診断されるリスクは62%低くなると発表されました。
以上をまとめると、血清ビタミンD(25-ヒドロキシビタミンD)が40 ng/ml以上の女性は25 ng/ml以下の女性と比べて乳がんと診断されるリスクは50-80%低くなるという結論になります。
グラスルーツヘルスの科学者でニューヨーク州立大学のウエルシュ博士は次のように述べています。
「全ての細胞にはビタミンD受容体があり、この受容体タンパクが遺伝子発現をコントロールしています。ビタミンDは血中から乳腺細胞に入ってビタミンD受容体と結合して遺伝子発現を起こすことにより、がんの予防、進行の抑制を引き起こしていると考えられます。」
あらゆるがん予防にビタミンD
グラスルーツヘルスでは乳がんの他にも、ビタミンDのがん予防効果についてまとめています。血清ビタミンDが25 ng/ml未満と比べて、卵巣がん(47 ng/ml以上)のリスクは17%低くなります。同様に大腸がん(43 ng/ml以上)は60%、非ホジキン悪性リンパ腫(38 ng/ml以上)は18%、腎臓がん(48 ng/ml以上)は49%、子宮内膜がん(50 ng/ml以上)で37%もリスクが低くなると発表しています。
がん以外の疾病の予防効果
また、1型糖尿病(52 ng/ml以上)は66%、骨折(45 ng/ml以上)は50%、多発性硬化症(55 ng/ml以上)は54%、心臓発作(35 ng/ml以上)は30%のリスク低下が明らかになっています。
日本人の血清ビタミンD値
世界の人口の40-75%はビタミンDが不足していると推定されています。
さて、日本では2011-2013 年に行ったコホート研究ベースライン調査では、40-74 歳の成人9,084人について血清ビタミンDを測定しています。何と、健康を保つ理想値を30 ng/ml以上とした場合、国民の81.9%が理想値を下回っていました。思ったよりも日本人はビタミンDが充足していないのは改めて驚きました。
さらに、2023年2月3日、東京慈恵医科大学臨床検査医学講座の研究グループは栄養医学専門誌のJournal of Nutritionに衝撃的な発表をしました。それは「東京都民5518人を調査したところ、98%はビタミンD低下〜欠乏状態であった」というものです。すなわち、日本人のほとんどがビタミンDが低下〜欠乏していることを意味します。これは根本的な改善策が必要となります。
日本の正常基準値は15~40ng/mlとなっていますが、世界的には、値が30 ng/ml未満では不十分、20 ng/ml未満で欠乏症、10ng/ml未満で重度欠乏症と判断されます。つまり、日本では欠乏症を防ぐためには30 ng/ml以上の血中濃度が望ましいとされています。
理想的な血清ビタミンD値は40-60ng/mlを推奨
しかし、体を病気にしない、すなわち疾病予防目的の血清濃度の基準値と欠乏症を防ぐ基準値は、当然ながら異なります。グラスルーツでは、疾病予防のための血清ビタミンD濃度として40-60ng/mlを推奨しています。
ビタミンDの服用の方法
ビタミンDを服用する前に、血清ビタミンDを測定するのが原則です。不足気味程度であるならば日光を浴びる、あるいは食事でビタミンDを摂取します。
かなり不足している場合、あるいは予防的な理想値である40-60ng/mlにするには、ビタミンDをサプリメントとして摂取します。一般的に血中濃度が最高値になるまで約3ヶ月は継続的に飲み続ける必要があります。
<表>はグラスルーツが紹介している、7,324人のデータを下に算出した1日ビタミンD推奨摂取量です。例えば血清ビタミンD濃度が20ng/mlと低いため、40ng/mlにするために必要な1日ビタミンD摂取量は5,000IUになります。
<表>ビタミンDサプリメントの1日摂取量の目安(GrassrootsHealthより引用)
ビタミンD血清濃度が20ng/mlで、40ng/mlまで血清濃度を上げたいときは、1日5,000IUのビタミンDをサプリメントで摂取する。
血清ビタミンDの測定
ビタミンDを処方あるいはサプリメントとして摂取するためには、前述のようにビタミンD濃度[25-(OH)2ビタミンD3]の測定は必須です。放射性免疫測定法を用いるため、院内測定はできず、外注しなければなりません。また、外注しても結果が届くのに2〜3週間ほどかかります。これがビタミンDの普及を妨げています。
ところが、最近ではベッドサイドでビタミンDを簡単に測定できるキットができました。ドイツのプリベンティス社が開発したスマートプロテストと呼ばれるもので、数分でビタミンD値がわかります<図3>。驚いたことに、血液と反応させたキットを比色計の代わりにスマートホンの専用アプリでカメラ撮影して測定することです。私もこのキットを使ってみましたが、非常に簡単であるのに驚きました。なお、私のビタミンD値は56 ng/mlと理想値で安心しました。
このキットは医療機関向けにドイツから入手ができます[問合せ先:ファーストヘルスジャパン TEL0463-20-9070]。
<写真>ビタミンDの迅速測定キット(右)とスマートホン(左)
おわりに
ビタミンDはあらゆる疾病の予防や治療に有用なサプリメントです。ベッドサイドで簡便に血中濃度を測定できるようになったことでこの分野の研究が進むことが期待されます。そして測定値を見ながらビタミンDを摂取して健康を維持する、オーソモレキュラー医学によるビタミンD療法の時代の幕開けとなりました。
【参考】
グラスルーツホームページ:https://grassrootshealth.net
プリベンティス社ホームページ:https://www.preventis.com/en/
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