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「がんと食事の関係」避けたい食品・摂りたい食品

この記事の執筆者

ごきげんクリニック浜田山

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

どんな食事が健康的と言えるのか?

近年ではケトン食や低糖質ダイエットなど様々な食事が次々と世の中のブームになっては、流行のように移り変わっています。その時々で色々な人が色々なことを言い、「一体何を信じればいいの?」「何を食べたらいいのかよくわからない」という人も多いと思います。

今回は〇〇ダイエットというような、ある意味極端な食事法に関して言及するわけではありません。とはいえ、どのような食事ががんに効果的なのかは、明らかに科学的に証明されているシンプルな方法に落とし込むことができます。

統合医療について勉強する前の「普通」の医師だった私は、食事や生活習慣でがんや他の病気が治るなんて、“トンデモ医師”が言うことだと思っていました。病気は薬で治すものだと、薬だけがエビデンスのある全うな医療だと、信じて疑わなかったのです。

そんな「普通」で「全う」、そして勉強不足な医師だった当時の私にも是非教えてあげたい食事の持つ「エビデンス」を今回はまとめてみました。あなたは、あなたの食べたものでできていることを忘れずに!(図1)

<図1>「あなたは、あなたの食べたものでできている」

炎症を引き起こす食事、炎症を癒す食事

がんは炎症性疾患です。そのため炎症を引き起こすことで、がんを発生させたり増悪させてしまいます。逆に炎症を抑えることは、がんの発症予防やがんの進展の抑制につながります。

私たちの毎日の食事には、例えばオメガ3などの成分として直接的に、または腸内細菌の働きや代謝を変えることを介して、糖尿病や肥満など他の疾患を増悪させることで、間接的に炎症を起こしたり抑えたりする働きがあります。

濃い緑の野菜や食物繊維の豊富な食事は、CRPを含む複数の炎症マーカーを低下させることがわかっていますし、4万人以上の女性を追跡した調査では以下のような結果が報告されています。

  • 炎症を引き起こす可能性の高い食事をしていた女性は、そのような食事をしていなかった女性に比べて、乳がんを発症するリスクが35%、さらに若い頃からそうした食事を続けていた女性では41%も高くなる。

また、より対象人数が多い論文として80万人以上を対象としたメタ研究でも、炎症を起こす食事とがんの強い関連が報告されています。

腸内細菌の喜ぶ食事を選ぼう

マイクロバイオーム(体内に存在する微生物叢)は、炎症を変化させるだけでなく、体脂肪率やインスリン抵抗性、免疫応答を調整することでもがんの進行に影響を与えます。

例えば、2015年のアフリカ系アメリカ人と南アフリカの農村部族20人ずつの食事を2週間交換した研究では、大腸がんのリスクが低い南アフリカ人でも「アメリカの典型的な食事(朝食にパンケーキとソーセージ、昼食にハンバーガーとフライドポテト、夕食にミートローフと米などの高脂肪・低繊維・高動物性タンパク質の食事)」を取ると、2週間後にはマイクロバイオームが変化して腸内炎症が高まりました。

一方、大腸がんのリスクが他の人種より高いアフリカ系アメリカ人が「南アフリカ人の典型的な食事(低脂肪・高繊維食。魚のタコス、マンゴーのスライス、オクラ、トマト、黒目豆など)」を取った場合には逆の変化が起こりました。

マイクロバイオームと関連するがんは、大腸がんだけでなく肝臓がん、膵がん、肺がんや乳がん、皮膚がんなど多岐に渡ります。そして、ゲノムマッピングのように、マイクロバイオームのマッピングをすることが腫瘍学での世界的なブームになりつつあります。

ちなみに2013年、Science誌に発表された画期的な論文では、マウスにアメリカ式の食事を与えると、その後どれほど健康なマイクロバイオームを移植してもコロニー形成は認められませんでした。

せっかく良質なサプリメントを摂っても、食事が良くなければ意味がないということで、これはとてももったいないことです。

「砂糖」と「加工食品」を避けることが健康への第一歩

過去10年間の多くの研究から、高血糖が特定の種類のがん(肺がん・前立腺がん・乳がん・卵巣がん・子宮がん・大腸がん・肝臓がん・膵がんなど)を引き起こすこと、また、その死亡リスクを上げることは明らかです。

これは血糖値が上がることで、インスリンやβカテニンというがんを発症させるタンパク質が放出されたり、慢性炎症を引き起こしたりするためと言われています。もちろん、これに砂糖による肥満が加わると、脂肪組織からがん細胞の成長を高めるホルモンやエストロゲンが放出され、さらにがんを増悪させます。

また、血糖値を急上昇させるものには砂糖のほか、加工食品に入っていることが多い果糖、ほとんど砂糖のようなものであるアルコールなどが挙げられます。これらはがんの患者さんだけでなく、将来病気になりたくない全ての人が避けるべき食品であると言えます。

私は最近、勝間 和代さんのYouTubeをよく観ていますが、同チャンネルではシュガーフリーや加工食品を口にしない理由、その上でどのように食材を調理するのかといった動画が上げられています。非常にわかりやすくまとまっているので、興味のある方は是非ご覧いただければと思います。

野菜が持つ効果

砂糖と加工食品を避けた食事をすることが健康への第一歩だとしたら、それを協力に後押ししてくれるのが十分な量の野菜です。野菜には多くの抗酸化物質が含まれるだけでなく、インスリンの上昇を緩やかにしたり食物繊維が腸内細菌を健康にする効果があります。

95個の研究をまとめたメタ研究では「1日に10種類の野菜や果物を食べると心臓病やがんなどの慢性疾患のリスクを大幅に下げ、年間780万人の早期死亡が十分な野菜の摂取により防ぐことができたはずである」と結論しています。また、「野菜を十分摂ることで前立腺がんによるがん死を50%減少させた」とする論文もあります。

農薬と野菜

グリホサートなどの農薬の使用基準が世界中で年々厳しくなっているのに対し、日本では2017年に農産物の残留基準値が引き上げられるなど、世界の潮流に逆行しているのを不安に感じる方は、有機栽培の野菜を選んでください。

とはいえ、有機を選ぶことで野菜の値段は上がります。予算を少しでも抑えたい場合には、下記の「有機で買った方がいい野菜・果物(Dirty Dozen)と有機でなくても問題が少ない野菜・果物(Clean 15)」のリストを、食材を選ぶ際の参考にしていただければと思います。(図2)

<図2>Dirty Dozen(有機野菜を選んだ方がいい食材)とClean15(有機野菜でなくても問題の少ない食材)

お肉やお魚の「質」に注意!

砂糖と加工食品を避けて十分な野菜を摂っていれば、もう食事としてはほぼ完璧だと思います。しかし、日米貿易交渉によって米国産牛肉の関税が引き下げられるというニュースを見たため、お肉の質について少し追加で書きたいと思います。

安くておいしいお肉ができるまで

お肉になる牛などの家畜を育てる際、日本ではホルモン剤の投与は禁止されている一方、ホルモン剤を使って育てられたアメリカ産の食肉の輸入に関しては禁止されていません。

食の安全に厳しいEUでは1989年から米国産牛肉の輸入は原則禁止されていますが、日本では牛肉の関税が引き下げられ、“安くておいしい”米国産牛肉がこれからますます身近な存在になってくると考えられます。

ホルモン剤を投与されて圧倒的に安いコストで太らされた牛や豚などは、牧草ではなくトウモロコシや大豆など、これまた低コストの遺伝子組み換え飼料で育てられます。これらのお肉は、牧草を食べて育った牛や豚などのお肉と違い、オメガ3とオメガ6が炎症を引き起こすほどに悪いバランスになっています。

アメリカのスーパーでは、オーガニックのグラスフェッドビーフも通常の牛肉も横並びで売られていますが、圧倒的な値段の違いをいざ目の前にすると、異常なほど低価格な「通常の牛肉」を買うのが直感的に怖く感じます。

自分の身は自分で守るしかないのか

以前、リオルダンクリニックにセカンドオピニオンに来られた患者さんから、前に通院されていた某名門私立大学のがんセンターには「ご自由にどうぞ、とキャンディーやホットチョコレートが置かれている」とお聞きした時、私は大きな衝撃を受けました。

がんを化学療法や放射線治療で倒そうとしているのに、食事には何も言わないどころか“砂糖の塊”を患者さんに勧めるなんて・・・。結局自分の身を守れるのは自分しかいないと、とても寂しい気持ちになりました。

けれど、それと同時に「賢い選択をして誰よりも健康ながん患者になろうと思う」と仰った患者さんの言葉に気持ちが救われたことを、私はこれからも忘れないでしょう。




※本記事は『統合医療でがんに克つVOL.137(2019年11月号)』にて掲載された「リオルダンクリニック通信6」を許可を得た上で一部調整したものです。

前田 陽子 (マエダ ヨウコ)先生の関連動画

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