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未来の治療法?ペプチド療法の可能性とは

この記事の執筆者

ごきげんクリニック浜田山

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

現代医療において、常に新しい治療法が開発されています。その中で、最近、アメリカなどの(日本以外の)先進国で特に注目されているのが「ペプチド療法」です。もともと人間の体内で自然に生成され、老化で減少するペプチドを補充することで、身体の機能が回復したり病気の治療に役立つなど、特定の効果を持つペプチドがペプチド薬として使用されています。

ペプチド療法は従来の治療法では治療が難しかった疾患や症状に対して、より正確な治療効果を発揮します。例えば糖尿病や肥満症などの生活習慣病から、認知症やがん、感染症などの様々な疾患や、アンチエイジングや筋力アップ、ダイエットや集中力、記憶力のアップまで、様々な用途において効果が期待できます。

今回は、ペプチド療法の基礎知識や最新の研究成果、今後の展開について紹介していきます。

<写真1>ペプチド療法のBefore and After と検索すると多くの写真が出てきます。ペプチド療法のすごい所は、これが極稀なチャンピオン症例ではなく、普通に起こりうる症例であるということです。

ペプチド薬とは?

ペプチドとはアミノ酸が 2 〜50 個、結合してできた分子を指します。50 個以上のアミノ酸が結合したものはタンパク質と呼ぶため、イメージとしては、アミノ酸が文字、ペプチドは単語で、文章がタンパク質という感じです。実際にペプチドは生体内においてホルモンや成長因子、神経伝達物質など、様々な生理作用を持つものがあり重要な役割を果たしていることが知られています。もともと体で生成されているものを元に創薬されているため、従来の医薬品(低分子化合物)に比べ、効果が高く副作用が少ないことが一番の特徴です。例えば市場にすでにあるペプチド薬として、インスリンやGLP-1受容体作動薬などがあります。

GLP-1受容体作動薬

ペプチド薬のよく知られている例として、例えばGLP-1受容体作動薬は日本では糖尿病薬、アメリカでは糖尿病薬と肥満薬(ダイエット薬)として国から認可されていますが、日本でも自由診療の分野ではダイエット薬として人気を博しています。GLP-1受容体作動薬が登場する前のダイエット薬は正直なところ効果が出にくいものも多く、自信をもって患者さんにおすすめできるものがあまりありませんでした。しかしGLP-1受容体作動薬は、使用いただいたほとんどの方で劇的な食事摂取量の減少などの効果が現れ、今までのダイエット薬とは一線を画します。そもそも糖尿病も脂肪肝も食べすぎが原因の方が多いので、そのような方の病状も劇的に改善します。

このように従来の薬では見られないような劇的な効果と安全性、また近年の科学技術の進歩に伴いペプチドが安価で創薬できるようになったことも相まって、ペプチド薬は次世代の医薬品として注目されるようになりました。現在世界中で 197 種類ものペプチド薬が市販されており、2028 年までにペプチド薬の市場は 750 億ドルとなる見込みと言われています。

ペプチド薬に期待できる効果

実際にアメリカのアンチエイジング医学会などで使用されているペプチド薬には以下のような効果が認められています。

  • 靭帯や腱の捻挫、筋挫傷、断裂など、外傷の治癒促進
  • 短期記憶と長期記憶の強化
  • 体脂肪の減少、筋肉量の増加 、骨の強度と密度の増加
  • 免疫システムの強化(抗がん効果)
  • 睡眠の質の改善
  • エネルギーレベルの上昇、疲労回復
  • 健康的な性欲のサポート 、勃起不全の軽減 
  • 気分の改善、集中力の改善
  • 慢性炎症、アルツハイマー病、外傷性脳損傷などの主要な病気を治療する

これらの効果はそれぞれのペプチド薬で、また組み合わせて用いることで期待することができます。言うまでもありませんがペプチド薬も魔法ではないので、健康的な生活習慣や栄養、ホルモンレベルの最適化をすることで、より大きな効果を得ることができます。

ここからはメジャーなペプチド薬をいくつかご紹介します。

チモシンα-1

チモシンα-1は 1977年に子牛の胸腺から発見されたペプチドで、T細胞や樹状細胞、抗体の産生や免疫応答、サイトカインやケモカインの調節を行う働きがあり、Zadaxinという商品名でFDAに認可されています。適応疾患である慢性B型肝炎の他、複数の種類のがんやウイルス性疾患、自己免疫性疾患において広く使用されており、私が見学させていただいた韓国の統合医療でがん治療を行っているクリニックでも3院中3院が取り扱っていました。

安全に免疫力を高められることから、新型コロナウイルスが流行りだした頃は、コロナの予防の目的でチモシンα-1が使用されたりもしていました。

BPC-157

BPC-157は胃液から分離された「身体保護化合物」(BPC)と呼ばれる胃保護タンパク質に由来するペプチドです。血管内皮増殖因子(VEGF)などの体の傷ついた部分の血流を改善したり、また腱や靭帯の損傷に対しては、1型コラーゲンを増加させることによって、身体の自然治癒プロセスを強化し、怪我からの回復速度を速めます。またBPC-157には抗炎症作用と細胞保護作用があるため、消化管の粘膜を守り維持する働きもありますし、脳内のセロトニンやドーパミンの生成を調節することにより発揮される、神経保護作用もあります。腸管(胃潰瘍やリーキーガット、IBS、クローン病)や皮膚の火傷、靭帯や骨の損傷(関節炎など)多くの種類の傷の治癒を改善します。

イパモレリン

イパモレリンは成長ホルモン放出ホルモンの一種で、成長ホルモンの分泌を増加させることで、筋肉量の増加や脂肪量の減少、骨密度の向上に効果が期待できます。また他の成長ホルモン分泌促進物質とは異なり、コルチゾールやアセチルコリン、プロラクチン、アルドステロンの濃度を上げないため、安全性の高い成長ホルモン分泌促進薬と見なされてきました。

アンチエイジングではとても良く使われるペプチド薬になります。

エピタロン

エピタロン(エピサロン)は我々が自然に産生しているポリペプチド「エピタラミン」の合成品で、感情的なストレスに対する人の抵抗力を高めたり、抗酸化物質として、また免疫細胞の効果を成長化させたり、高齢者のメラトニンレベルを回復させるなどの作用があります。またヒトの細胞においてテロメアを長くすることが知られており、老化を遅らせるアンチエイジング効果が期待されています。

実際にエピタロンを使った前後でテロメア長を測り、短くなっていたという体験談を上げているYoutuberも見つけることができました。とてもおもしろい効果ですね。

この他にも、デルタ睡眠を誘導して睡眠の質を改善するペプチドや、筋肉量を増やしたりインスリン抵抗性が改善したりと、まるで運動したかのようになるペプチド、集中力や記憶力がアップし頭が良くなるペプチド、性欲を高めることでFDAに認可されているペプチドなど、個性豊かでおもしろいペプチドがたくさんあります。

おわりに

米国では、栄養療法やホルモン療法、再生医療などとともに、ペプチド療法も、アンチエイジング医療においてなくてはならない選択肢となっています。私も数年前からこのペプチド療法を日本に入れようと頑張ってきましたが、念願叶い、もうすぐ日本でもこのペプチド療法を開始できそうですので、皆さん楽しみにお待ちいただけたらと思います。

 

※本記事は『統合医療でがんに克つVOL.179 (2023年5月号)』にて掲載された「リオルダンクリニック通信47」の許可を得た上で一部調整したものです。

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