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癌の痛みとビタミンD

この記事の執筆者

医療法人社団ドミナントサウンド 汐入ぱくクリニック

癌とビタミンDの関係については近年盛んに研究が行われ、有益な結果がたくさん得られています。大腸癌の予防・予後改善、乳癌の予防に関するエビデンスはよく知られていますが、一方で癌の緩和ケア、特に痛みのコントロールにおいてもビタミンDの有用性が認められています。

スウェーデンのカロリンスカ研究所のビョルケム・バーグマン教授らのグループが2021年に発表した論文では、ビタミンD投与により癌患者の麻薬使用量が低下したというエビデンスが二重盲検により示されました。二重盲検とは、患者も治療者も投与したものが実薬(この場合はビタミンD)か偽薬かわからない状況下で臨床試験を行うものであり、研究としての信頼度が最も高いとされています。

本稿ではこの論文を紹介しながら、癌緩和ケアにおけるビタミンDの有用性についてお伝えします。

臨床研究”Palliative D"について

“Palliative D” (緩和的ビタミンD)と名付けられたスウェーデンの臨床研究があります。カロリンスカ研究所のビョルケム・バーグマン教授らのグループが行ったもので、その結果が2021年にCancers (Basel) 誌に発表されました。

“Palliative D”は、緩和治療を受ける患者244名をビタミンD投与するグループとプラセボ(偽薬)を投与するグループに分けて、その経過を比較した臨床試験です。特筆すべきは、この研究が二重盲検である点です。緩和ケアの患者を対象とした臨床研究はその多くが観察研究か症例対照研究であり、研究精度に一定の限界があります。倫理的な問題や被験者の精神的な受け入れなど多くのハードルが想定されますが、そうした困難を乗り越えてこの研究が行われました。

予想予後3ヶ月以上の進行癌の患者でビタミンDの血中濃度が50nmol/L(20ng/L)未満の人達にビタミンD3を1日4000IU投与しました。12週間後に生存していた人たち150人の経過を比較したところ、持続型オピオイド(継続的な痛みを軽減させるために1日1〜2回または24時間の持続注射で投与される医療麻薬)の増量がビタミンD投与群で優位に少なく、倦怠感の自覚症状も軽減していました。その他の評価項目として、抗生剤使用の頻度と生命予後も比較されましたが、これらについては有意差は得られませんでした。

医療麻薬の副作用

癌による痛みを軽減させるために医療麻薬は極めて重要な治療薬ですが、眠気や吐気や便秘などの副作用が出る場合があり、麻薬の投与量を増やす場合は副作用のリスクも高くなります。また、癌末期の患者さんは他にも複数の薬剤を使用している場合が多く、思わぬ副作用につながる場合があります。ビタミンDという安全な治療で医療麻薬の使用量を少なく抑えられることは、患者さんにとって大きなメリットです。

癌末期の患者さんは病状が進行すると薬やサプリメントの内服も困難になっていきます。その際、体内に適切な微量栄養の蓄えがあれば、終末期の治療は有利になります。天然型のビタミンDをサプリメントで摂取した場合は、副作用のない貯蔵型で体内に蓄積されるため、終末期を迎える前にあらかじめ準備しておくことができます。

ビタミンDとマグネシウムは常にワンセット

ビタミンDが十分に機能するためにはマグネシウムの存在も必要不可欠ですが、この論文ではマグネシウムのことは一切触れられていませんでした。ビタミンDの活性化にはマグネシウムが必須であり、一方でマグネシウムの効果的な吸収にはビタミンDが必要です。筆者の経験した緩和ケアの症例で、ビタミンDとマグネシウムの両者が適切に補充されて、初めて効果的な鎮痛が得られたケースがあります。マグネシウムだけでもビタミンDだけでも不十分だと考えられます。ビタミンDとマグネシウムは常にワンセットで補充されるべきです。

一日4000IUのビタミンDは厚生労働省の提示する耐用上限内であり、腎機能とカルシウム濃度を適切にモニターすれば、副作用のリスクは極めて低いと考えられます。安全な範囲でのビタミンDとマグネシウムの補充は、癌患者さんの緩和ケアにとても重要な補助治療となります。

【参考文献】

Helde Frankling M, et al. 'Palliative-D'-Vitamin D Supplementation to Palliative Cancer Patients: A Double Blind, Randomized Placebo-Controlled Multicenter Trial. Cancers (Basel). 2021 Jul 23;13(15):3707. PMID: 34359609

Bouça-Machado R, et al. Clinical trials in palliative care: a systematic review of their methodological characteristics and of the quality of their reporting. BMC Palliat Care. 2017 Jan 25;16(1):10. PMID: 28122560

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html

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