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日本人の甲状腺ホルモンが危ないーその疲労や体重増加、“年のせい”ではないかも?

この記事の執筆者

ごきげんクリニック浜田山

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

いきなりですが、あなたの喉仏辺りにある甲状腺の働きは問題ありませんか?

甲状腺が健康であれば、朝から晩まで十分なエネルギーを感じ、頭はスッキリ明るい気分で過ごせます。記憶は非常にはっきりとし、体重が増えやすくなることもコレステロールが高すぎたり低すぎたりすることもありません。

靴下を履いて寝たりする必要はもちろんなく、髪はフサフサ、肌は潤い、爪も乾燥したりはしません。不眠とも無縁の生活でしょう。

これらの症状は全て「ただの老化現象」で説明がつく症状ではありません。もし、あなたの甲状腺がこれらの症状の原因となっているのであれば、甲状腺を本当の意味で健康な状態にすることなく、誰が抗うつ薬や睡眠薬を処方され、また、“不定愁訴を訴えている患者”として精神科に紹介されたいでしょうか。

しかしながら、残念なことに一般の医者が行う甲状腺の検査には落とし穴があります。そのため甲状腺の状態を正確に把握することができず、参照する検査の基準値は古くなっている可能性があります。

数年前に医学部で学んだ「普通の」参照基準では、甲状腺機能は正常であるはずという誤解を招きかねません。たとえ、もっと甲状腺を健康にできる方法があり、あなたの原因不明の症状を改善できるチャンスがあったとしても、です。

是非、今回を機に健康な甲状腺を手に入れ、現代日本人に蔓延する甲状腺の機能不全症状から解放されることを願っております。

甲状腺ホルモンの働き

甲状腺は心臓や肺・肝臓などと違って、地味なイメージを持たれやすい臓器かもしれません。しかし実は体のほとんど全ての細胞の活動を調節するホルモンを分泌し、体に必要なエネルギーを生成したり代謝を維持する脳や消化管を活性化するなど、私たちの健康維持に必要不可欠な臓器です。

甲状腺ホルモンが低下すると、体がエストロゲンやコルチゾールなどの他のホルモンのメッセージを受け取る効率が悪くなり、カロリーを燃焼させるスピードを低下させます。カロリーの燃焼や代謝に深く関わるホルモンなので、基礎体温が一貫して36.5℃以下の人は甲状腺機能低下が疑われます。

そんな健康のベースとも言える甲状腺の働きですが、一般に正常と言われている人でも必ずしも正常と言えない場合がある、というのが残念ながら事実なのです。

「正常値」と「最適値」:基準値の違い

健康診断などで正常範囲に入っている人でも実は正常ではない、とはどういう意味なのでしょうか。実は検診などの一般の正常範囲と、体が一番健康な状態になる甲状腺ホルモンの値には、かなり大きな差があります(図1)。

例えば、fT4=1.2, fT3=3.0, TSH=2.5だったとすると、一般的には異常なしの診断になると思います。一方で機能性医学的には機能低下の値となるため、甲状腺機能低下症状があれば治療の検討をするべきでしょう。そして治療により症状の改善が望めることが多いです。

<図1>妊娠中の女性の場合:TSH<2.5μIU/mL

“隠れ甲状腺機能低下”をあぶり出す?「リバースT3」とは

基準値の違い以外にもう1つ、一般の検査にはなく機能性医学の検査にはある項目として「rT3(リバースT3)」という検査項目があります。

注意していただきたいのは、TSH,fT3, fT4が正常でも、このrT3が上昇することによって甲状腺機能が低下していることが珍しくないです。rT3はfT3の働きにブレーキをかけるホルモンで、rT3が増えるとfT3の代わりにrT3が受容体に結合してしまい、fT3の働きを抑えてしまいます(図2)。

<図2>甲状腺機能とrT3の関連


そのため、fT3が正常範囲内でもrT3が増加していないかチェックする必要がありますし、fT3とrT3の比(10:1未満)が非常に重要です。

そして、この比を測ってみると日本人ではびっくりするほど正常範囲に入る人が少なく、甲状腺の機能が下がっていることがわかります。ただし、rT3は一般の保険診療では測定できないため、この“隠れ甲状腺機能低下症”を診断するためには自費で検査を行う必要があります。

ちなみにアメリカの統合医療のクリニックでは、rT3の測定はかなり一般的です。

甲状腺ホルモンが低下している理由

それでは、何故これほど多くの人が甲状腺の機能不全に陥っているのでしょうか。これは甲状腺機能不全の原因をみていくことにつながりますが、甲状腺機能不全の原因は主に以下の4つに分かれます。

  1. 甲状腺が上手く働くための栄養素が足りていない状態
  2. 炎症やストレスなどでコルチゾールが増加し、体がTSHに反応しにくくなっている状態
  3. プラスチックの成分であるBPAなどの環境エストロゲンやピルなど、エストロゲンの過剰によって結合タンパクが増えている状態
  4. 炎症などにより免疫システムが低下し、自己抗体が作られて甲状腺を自ら攻撃している状態

甲状腺機能不全の治療

それぞれの原因に対する治療が、甲状腺機能不全の根本的な治療になります。つまり、まずは甲状腺の働きを良くする栄養素を補う必要があります(図3)。もちろん各栄養素を測定し、その方に足りていない分を必要な分だけ補うのが理想です。

ちなみにセレンやマグネシウム、亜鉛などの検査は食事による影響を受けやすいため、血清ではなく赤血球値を測定することが重要です。

<図3>甲状腺の健康に必要な栄養素


次に炎症を抑えコルチゾールの分泌を抑えること、また、炎症を抑えることにより自己免疫を鎮めることです。

腸管の炎症を起こすものとしてはグルテンや乳製品が有名ですが、グルテンフリーの食事は甲状腺機能を改善させる効果がありますし、栄養素の補充として内服する抗酸化物質はコルチゾールの分泌を低下させたり炎症を抑える働きもあります。

さらに低容量ナルトレキソン療法も自己免疫性には効果が期待できます。また、感染症があればそのコントロールが重要になりますし、コルチゾールを抑える働きがある運動も積極的に取り入れるべきです。

そして、甲状腺ホルモンに結合するタンパクを上昇させるエストロゲンや環境ホルモンが過剰であれば改善すること、水銀などの重金属にもとても強い影響を受けるので、場合によってはキレーションなどのデトックスをご検討されると良いかもしれません。

また、基本的なライフスタイルの改善、つまり睡眠や食事・運動などを整えることで、甲状腺機能が改善することはよくある話ですので、まずはそこから取り組むことをおすすめします。

それでも改善が乏しいは、ホルモン剤として甲状腺ホルモンを補いますが、その場合は合成T4製剤よりも乾燥甲状腺(アーマーサイロイドやネイチャーサイロイド)などがおすすめです。こちらの方が幅広い症状に対してより良い結果が得られます。

「甲状腺ホルモン」と「チラージン」は別物?

私は、自分自身で初めて乾燥甲状腺ホルモンを内服した時のことを今でもよく覚えています。

それまでは自分の頭に霧がかかっているなんて感じたことはありませんでした。しかし、いざ乾燥甲状腺を内服してみると、びっくりするほど頭がスッキリしたと同時に、今までどれほど頭が回っていなかったかがわかったのです。

また、夕方まで疲れ知らずになって勉強や仕事の集中力が大幅に上がりました。加えて何だか機嫌も良く、毎日がとても楽しくて気持ちが楽に感じました。

そんな劇的な効果のある乾燥甲状腺ホルモンは、実は豚の甲状腺から抽出されているもので、我々ヒトが体で作っているホルモンと全く同じ分子構造をしており安全性が高いとされています(図4)。一方、お薬で処方されるチラージンなどの合成甲状腺ホルモンは、分子構造としては甲状腺ホルモンとは違うものになります。

なお乾燥甲状腺の中には、T3やT4だけでなく、微量ですがT1やT2なども含まれています。詳しい働きはまだ明らかになっていませんが、これらが含有されていることが自然に近い効果や働きが期待できる一因になっているのではないかと考えられています。

<図4>乾燥甲状腺ホルモンと合成甲状腺ホルモンの分子構造





※本記事は『統合医療でがんに克つVOL.147(2020年8月号)』にて掲載された「リオルダンクリニック通信16」を許可を得た上で一部調整したものです。

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