日本で大麻というと「ダメ。ゼッタイ。」なクスリのイメージですが、アメリカにおいて医療大麻は全50州のうち33州で合法、お酒やタバコのように使う嗜好用大麻も10州で合法化されています(図1)。
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日本が知らない、カンナビノイドの世界
私が研修を行ったリオルダンクリニックや学会などで学んだアメリカの統合医療のトピックスをできるだけわかりやすくシェアしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、アメリカのみならず世界中でセンセーショナルなムーブメントが来ているカンナビノイド(大麻に含まれる生理活性物質)についてご紹介します。
2018年、カンナビノイドが世界中を席巻した年
<図1>アメリカ合衆国における大麻合法州地図
(出典元・著作権:Cannabistock.jp ※アメリカのカンナビノイドをめぐる動向の最新情報が日本語で読める貴重なサイトです)
2018年10月にカナダで嗜好用も含め全面解禁したことは大きなニュースになりました。同年11月にはイギリスや日本のお隣の韓国でも医療大麻が合法化され、12月にはタイでも合法化の法案が可決されました。
また、ファームビルにトランプ大統領がサインしたことで、 THC0.3%以下の大麻が一般農作物として大規模栽培できるようになり(ただし届出は必要です)、2019年にはニューヨークで嗜好用が合法化される方針も決定しています。2018年の大麻を取り巻く世界の変化は、まさしく目をみはるものがありました。
世界50カ国以上でなんらかの形で医療大麻が合法化されている状況の中、日本はというと残念ながら「あれ、鎖国中かな・・・?」と感じてしまうくらい、主要先進国の中でも唯一取り残された状態となっています。
日本でも使えるCBDは、アメリカではかなり広まっています。そんな日本でも利用することができるのが、精神作用がないCBDという成分です。CBDは医療用価値が高く、副作用がほとんどないため、アメリカではとても人気があります。私が住んでいたカンザス州は、医療大麻も合法になっていない保守的な地域でした。ところが、スーパーなどではCBDオイルはもちろん、CBD入りのクリームやボディソープ、グミやドリンク、チップスまで気軽に買うことができます。
2019年1月にアメリカ人4,000人以上を対象として行われた調査によると、4人のうち1人以上が、過去2年間に主に痛みや不安感、不眠に対してCBDを使用したことがあり、そのほとんどの人は効果があったと回答しています。
どうして大麻が体に良いのか
そもそも、なぜCBDが人体に効果があるのかと疑問に思われる方もいるかもしれません。私たちはカンナビノイドの受容体を身体中に持っていて、内因性カンナビノイドと呼ばれる成分を体内で作って、睡眠や食欲、記憶や免疫システムなどの体の様々な機能に利用して
います。そのため、内因性カンナビノイドが欠乏すると炎症性腸疾患や緑内障、PTSDや妊娠中毒症、線維筋痛症など様々な病気の原因となる可能性があります。
これを補うためには、内因性カンナビノイドの元となるオメガ3やオメガ6を食事で取るのも良いですし、CBDオイルなどで外から補うのも効果的です。カンナビノイドの効果はかなり幅広く、がんに対する作用については後ほど詳しくご説明しますが、そのほかは簡単に表でご紹介します(表1)。
<表1>カンナビノイドの効果
世界的な医学雑誌の医療大麻に対する見解
このように様々な効果がある医療大麻ですが、医療界の一般的な見解としてはどのようになっているのでしょうか。世界的に権威のある医学雑誌の論説をご紹介します。『ランセット』は1995年、大麻の吸引に対して、“たとえ長期に渡ったとしても健康に害はない”としたのち、2003年には“タバコは非合法にすべき”としました。
また、1997年、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』は“疼痛管理が難しい患者にマリファナを処方できないことは非人道的で(以下略)、有効量と致死量の差が非常に狭いモルヒネやオピオイドは処方できるのに、多く吸っても死ぬことはない大麻を処方できないのは間違っている”と論説を出しています。
大麻の安全性
世界的に権威のある医学雑誌が認めているだけあって、大麻の安全性は科学的に証明されています。健康リスクや依存性において、アルコールやタバコの方がよほど悪いことが明らかになっていますし、実際に大麻の過剰摂取でヒトが亡くなった報告はありません。
なぜなら、大麻を過剰摂取したとしても致死量の100分の1以下で眠ってしまい、その際に呼吸抑制も起こさないためです。アメリカではモルヒネなどの鎮痛薬の過剰投与により毎年16,000人以上が亡くなっていると言われていますが、医療大麻が認可されている州ではその人数が減っていると報告されています。
組み合わせによる相乗作用「アントラージュ効果」
私たちの体は本当にうまくできていて、一つの成分が多すぎたり少なすぎたりするとフィードバックがかかり、自動で症状が調整されるようになっています。そのため単一の成分では効果に限界があります。カンナビノイドに関しても色々組み合わせた方が、効果は大きく、副作用は小さくなります。これをアントラージュ効果と言います。一つひとつの生薬を組み合わせて新たな大きな効果を生み出す、どこか漢方薬と似ていますね。
CBDはカンナビノイド受容体に直接結合して作用するというよりは、他のカンナビノイドの働きや受容体への結合を助ける、内因性カンナビノイドを高める、そしてアントラージュ効果を高めるように広く作用するために効果が高くなると考えられます。
逆に、単一成分の薬は研究するには単純で良いのですが、難病になかなか効かない理由の一つとしてこのアントラージュ効果が期待できないことが影響していると思います。私はプラセンタが効くのもこれに近い理由があるのではないかと考えていますが、漢方やカンナビノイドのように証明されてはいません。
がんに対するCBDの効果
ここで、先ほども少し触れたCBDのがんに対する作用とそのほかの報告されている作用についてご紹介していきます。
抗腫瘍効果
ヒトでの研究はまだまだ十分とは言えませんが、CBDががん細胞の細胞死を誘導したり、抗がん剤の効果を高めることがわかっています。THCとの併用にはなりますが、がんの成長を阻害、血管新生や浸潤、転移を阻害することが乳がん・前立腺がん・肝がん・肺がんなど様々ながんの細胞株で確認されています。
中でも研究が進んでいるのは膠芽腫(こうがしゅ)で、膠芽腫ではカンナビノイド受容体が正常細胞より多く発現しており、この受容体を介して腫瘍増殖や腫瘍細胞の生存率が下がることが報告されています。また、受容体に関係なく、がん細胞のみで活性酸素を生成し酸化ストレスを増やすことや、それによりグルタチオンが減ること、第2層試験では1年生存率がプラセボ群の53%から83%に増えていることなども報告されています。
痛みに対する効果
がんの痛みは大きく分けて以下の2種類あります。
①炎症によるがん自体の痛み
②骨転移などによる神経の痛み
CBDには抗炎症作用や炎症性サイトカインを抑制する効果と、末梢神経繊維をブロックする働きがあるため、この両方の痛みに効果があります。大規模試験ではTHCとCBDの合剤ではありますが、鎮痛効果においてモルヒネに勝るという結果が出ています。CBDオイル自体にも上記のように鎮痛作用はあり、またアントラージュ効果も期待できるので、モルヒネなど非オピオイド系鎮痛薬が効きにくい場合には試してみる価値はあります。
そのほかの効果
がんに対する作用のほか、CBDには以下の作用があることが報告されています。
- 抗不安作用、抗うつ作用
- 吐き気を止める作用
- シスプラチン(抗悪性腫瘍剤)による腎障害の軽減作用
- パクリタキセル(抗がん剤の一種)による末梢神経障害の軽減作用
さらに抗炎症作用もアスピリンの数百倍あると言われており、がん治療の正常組織のダメージを軽減する効果も期待できます。がんに対する効果だけでなく、がん治療による副作用にも効果を発揮するのです。
CBDオイルを選ぶ際の基準については下記をご参照ください(表2)。
<表2>CBDオイル購入時のチェックポイント
カンナビノイドのこれから
現在の世界の大麻市場は3440億ドル、消費者は2億6300万人とも言われています。そして、CBDのみに焦点を当てても今後の市場は2017年の3億2,700万ドルから2022年までに220億ドルにまで成長すると予測されており、この成長スピードはこれからさらに加速していくと思われます。
日本は残念ながらこの動きに全くついていけていないのが現状ですが、カンナビノイドの医療効果は医学的には周知の事実となっています。CBDが必要な患者さんに何とかこうした情報が届いてほしい、がんに苦しむ患者さんの可能性の一つになってほしいと切に願います。
※本記事は『統合医療でがんに克つVOL.132(2019年6月号)』にて掲載された『リオルダンクリニック通信1』を許可を得た上で一部調整したものです。
前田 陽子 (マエダ ヨウコ)先生の関連動画
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