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うつ病の過去と今:薬物治療が唯一の選択肢なのか

この記事の執筆者

みゆきクリニック

精神保健指定医。精神神経学会認定医・指導医。精神分析学会認定精神療法医。認定産業医。認定スポーツ医。

自己紹介

精神分析を応用した力動的精神療法とオーソモレキュラー療法を同時に治療に採用している医療機関は世界的に ... [続きを見る]

ある疾病が健康問題だけでなく経済活動にも大きな影響を及ぼすことは、今回の新型コロナウイルスでも明らかです。WHO(世界保健機関)は、2030年までに精神疾患による経済的損失は16兆ドル(19000兆円!)にまで上ると試算しています。

以上のことから、うつ病をはじめとする精神疾患の予防、また、うつ病を発症した後も以前と変わらない生活を取り戻して頂くことは世界的な急務とも言えます。とはいえ、現行の薬物治療中心の治療観ではうつ病の根本的な改善は容易ではありません。うつ病の病態も以前とは異なってきています。こうした状況を加味しても薬物治療以外の選択肢、オーソモレキュラー医学による精神疾患の治療および改善が期待されます。

日本人の悲哀とうつ

30年前の日本人のうつ病は、メランコリー親和型うつ病が大半を占めていました。当時、うつ病は責任感の強い人がなりやすいとされ、他者ではなくて自分を責める自責的傾向が特徴とされ、日本人のうつ病の中心には悲哀感がありました。

病態と治療観の“ズレ”

現代型のうつ病は、以前とは全く様変わりしたように見受けられます。日本人が変わったのか、自分を責めるより他者を責める人が増え、悲哀感は無価値なものとしてまるで隅に追いやられてしまったかのようにさえ映ります。

現代型のうつ病は、明らかにメランコリー親和型うつ病とは異なります。今日の治療において、メランコリー親和型のうつ病が多かった時代に確立された治療法を現代型うつ病の治療にそのまま踏襲している傾向にあります。病態が変遷しているにも関わらず、臨床や理論が追い付いていない側面が無視できません。こうした点が一般的に「うつ病が治りにくくなっている」と言われる大きな要因であると考えられます。

モノアミン仮説

1980年代からうつ病のモノアミン仮説が支持されるようになり、うつ病は脳内のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の不足から生じると考えられるようになりました。この仮説をもとに、神経伝達物質の再吸収を阻害する薬つまりSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が続々と開発されました。そうして現代にも続くうつ病治療における第一選択肢となっていったのです。

薬物治療の現状

前述の薬物治療によりうつ病から回復する患者がいた一方、改善がみられない患者、時にアクティベイト※1という深刻な副作用を呈する患者がいます。

とりわけ10代の若者にとっては、既存の抗うつ薬は効果が乏しいだけでなく、自殺率を高めるという深刻な副作用が生じる可能性が報告されています。かつて“夢の薬”と謳われた SSRIsが効かない、あるいは薬剤が原因でより増悪するうつ病患者がいることが明らかになってきました。

効果が見込めないと理解した上で、小中学生にも抗うつ薬を処方する医師がいます。彼らの心境としては、おそらく目の前にいる患者さんに何かしてあげたい一心で薬を処方しているのだと思います。しかし、効果が乏しいとわかっていながら、無力感に耐えられずに薬を処方する先生方にこそ、是非一度オーソモレキュラー医学を学んでほしいと切に願っています。オーソモレキュラー医学は、患者さんの人生の役に立つばかりでなく、医師の無力感をも救ってくれる医療だと考えています。

※1) SSRIをはじめとする抗うつ薬の服用によって引き起こされる一時的な気分の高揚、不安焦燥、攻撃性・衝動性の亢進など。

うつ病と炎症

近年、うつ病と炎症、うつ病と栄養素、メチレーション(メチル基を物質に結合させる化学反応)との関係性が次々と明らかになってきました。ストレス時には、炎症性サイトカインが放出され、脳内の炎症がうつ病の発症に関わっていることがわかっています。そのため抗炎症薬の開発が待たれていますが、私たちはすでに優れた抗炎症作用のある物質を知っています。それがビタミンCです。

強い抗酸化作用を持つ電子供与体であるビタミンC以上に抗炎症作用のある薬がはたして開発されるのかと疑問に思うほど、ビタミンCには炎症を抑える力があります。高濃度ビタミンC点滴は炎症の強いタイプのうつ病、焦燥感の強い病態の改善に効果が期待されます。

うつ病と栄養素

セロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸から体内で合成されますが、補酵素としてビタミンB6を必要とします。ドーパミンは、フェニルアラニンとチロシンというアミノ酸や鉄、葉酸から体内で合成されます。これらの神経伝達物質の体内での合成を促進するには、トリプトファンやフェニルアラニン・チロシンなどのアミノ酸を含む食品、肉、ナッツ類、大豆製品を積極的に食べ、ビタミンB6、葉酸、鉄や亜鉛、マグネシウムなどのミネラルを補充することが大切です。

これはうつ病の予防や改善にも有効であり、薬剤のような深刻な副作用を起こす危険性のない安全な治療法です。ただし、うつ病のタイプによっては葉酸の摂取によりメチレーションを抑制し、うつが悪化する場合があるため注意が必要です。

また、日本女性は鉄の不足あるいは利用障害が起こっている場合が多く、近年では男性でも貯蔵鉄量の低い方が増えています。そのため、貯蔵鉄量を測定し、低値の際には鉄の補充を検討することがあります。鉄や亜鉛などのミネラルは血液検査での測定が可能なので、不足を確認しやすいという利点があります。

うつ病治療におけるオーソモレキュラー医学の可能性

エピジェネティクスとは、遺伝的に決定された遺伝子の発現が、環境・生活習慣・栄養状態により変化する遺伝子の可塑性を示しています。遺伝的にある疾患になりやすい素質を持った人も、DNAの脱メチル化を介して遺伝子の発現を抑制または活性化することがあると考えられるようになりました。これはつまり、運命は変えられることを示しています。

その鍵となるのが、ビタミンやミネラルなどの栄養素です。オーソモレキュラー医学は、ビタミンやミネラルなどの栄養素の不足がうつ病をはじめとする精神疾患を引き起こす場合があるということを明らかにしてきました。

SSRIsの無効なうつ病患者や近年急増する若者のうつ病の治療に、オーソモレキュラー医学はひとつの答えを提供しています。社会経済的にも、患者さん一人ひとりの人生のためにも、従来の薬物治療のみに拘らずに治療の選択肢を広げ、その人本来の能力を発揮できるようになることを援助する治療が求められています。こうした中、オーソモレキュラー医学が精神医学に貢献する可能性は今後ますます増してくるのではないかと期待しています。