ログイン 会員登録

「心の健康」をいかに守るかー大切な心がけー【前編】

この記事の執筆者

みゆきクリニック

精神保健指定医。精神神経学会認定医・指導医。精神分析学会認定精神療法医。認定産業医。認定スポーツ医。

自己紹介

精神分析を応用した力動的精神療法とオーソモレキュラー療法を同時に治療に採用している医療機関は世界的に ... [続きを見る]

新型コロナウイルス感染拡大防止のため長期化する自粛生活。人との社会的なつながりを感じにくい中、「落ち込む」「気分が暗くなる」と感じている方もいらっしゃると思います。

今回は、心の健康を保つための心がけについて、塙 美由貴先生(みゆきクリニック院長)にお話を伺いました。この時期のみならず、日々の生活におけるメンタルヘルス維持のためのヒントが満載です。

うつになりやすい人と症状の見極め方

編集部:周りの話を聞いていると、普段はすごく明るい方でもこれまでのように笑えない、突然涙が出てきてしまうといった症状を訴える方もいらっしゃるようです。今後さらにこうした方が増えてくると思います。どのような方がうつになりやすいのでしょうか。

:心配性の方、落ち込みやすい方、そして完璧主義な方がなりやすいですね。これらの性格傾向はこの時期に限らず、うつになりやすい人の特徴として挙げられます。

編集部:自分がうつ状態になっているか見極める方法はありますか。

:まず「眠れない」「食欲がない」といった症状が現れます。ですが、これは誰にでも起こり得ることです。ましてやこうした状況なので、みなさん不安感を抱えていると思います。しかし「何もしたくない」「1日中ベッドから出られない」「趣味も楽しむ気分になれない」場合は、深刻な状態と言えます。こうなると治療が必要になってきます。

編集部:日頃から自分自身や家族がどのような状態か、日々把握しておくことが重要ですね。深刻なうつ症状がみられる場合は、薬で症状を抑えることから始まるのでしょうか。

:症状があれば必ずしもすぐに薬が必要、という訳ではありません。私のクリニックでは、うつ病の原因により薬物治療の適応か、適応にならないかを判断しています。最近では薬物治療では改善しにくいうつ病の方が増えているので、慎重な判断が求められます。

一方、身体表現性障害や仮面うつ病と呼ばれる問題があります。内科的な疾患ではないにも関わらず、不安やうつなどの精神症状としてではなく、熱などの身体症状として症状が現れてくるもので、「不明熱」などはその代表例です。いくら検査をしても何も異常が見つからないので、ご本人も医療者側も大変苦しみます。発熱が長く続くと、今の時期はコロナではないかと不安になるかと思います。その場合、熱があっても微熱程度であれば、慌てずにしばらく様子を見る冷静さも大切です。

うつにならないために、シンプルだけど大切なこと

編集部:うつにならないためにはどのような心がけが大切なのでしょうか。

:今の状況は、ストレスを感じて当然な状況ですよね。しかし、ストレスは万病の元です。ストレスに上手く対処することは、コロナうつやコロナストレスを予防するだけでなく、様々な疾患の予防にも役立ちます。

ストレス予防に、毎日の生活習慣はとても大切です。睡眠をしっかり取り、きちんとした食事をし、栄養素を補充し、適度な運動をすることです。そして、周囲の人との人間関係を、穏やかで信頼できるものにする努力を惜しまないこと。「俺様の言うことを聞け」「私の気持ちを何でわかってくれないの」と相手に要求するばかりでは、周囲は疲弊してしまいます。

元々の性格傾向として不安になりやすい人は、少し自分の不安を客観的に俯瞰してみる練習をし、不安に巻き込まれないよう距離をおいて眺めることも大切です。自分の心を客観視することは難しいことですし、不安がなくなることもないかもしれませんが、自分の中で不安を扱いやすくすればいいのです。 

編集部:不安が不安を呼ぶ。そうなると悪循環に陥ってしまいますね。

:ストレス状況下で心の安定を保つには、考え方や気持ちの有り様がとても大切になります。考えても仕方ないことは、考えるのをやめる。ある考えが浮かんできて不安が募るようなら、他の作業に没頭し考えすぎないようにすることも一つの方法です。料理をしたり、絵を描いたり、部屋の片付けも良いですね。断捨離する人が増えていると聞きますが、いい対処法だと思います。

孤独は感じて当たり前、“一人”でも“独り”ではない

編集部:緊急事態宣言後、在宅勤務を行う方が増えています。社会とのつながりといった点で、一人暮らしの方は特に今までよりも孤独感を感じやすい状況にあるとも言えるかと思います。孤独感を払拭するために各々ができることはあるのでしょうか。

:人間は社会的な生き物ですので、一人で生きていくことはできません。ストレス状況下では、家族や同僚、友人たちとの信頼関係を大切にするための努力がより一層必要になってきます。とはいえ、コロナウイルス感染予防のために人との物理的な距離を保たなければならず、孤独感を感じる方もいらっしゃるでしょう。今の時代には孤独を紛らわすツールがたくさんあるので、オンライン飲み会やオンライン美術館、オンラインコンサートなどを楽しまれてはいかがでしょうか。

また、コロナ後には人間関係のあり方も大きく変わっていくことが予想されますが、人が社会的な生き物であり、人とつながっていたいという思いを持っていることは変わりません。ですので、オンラインを人と関わる上でどうつなげていくか、様々な試みが広がっていくと思います。

編集部:オンラインで集まってお互いの悩みを話すだけでもホッとしますよね。

: 言葉にして話すということは、心の中の不安を「話す」ことであり「離す」ことでもあるのです。一人で抱え込まない、ということはとても大切です。一方、オンライン飲み会が苦手という方もいらっしゃいますよね。人付き合いが苦手、人と話すことが苦手という方は、ペットを飼ってペットに話しかけるのもいいと思いますよ。それも難しければ、ぬいぐるみを家族として迎えるという手もあります。いつも一人で食事をしている人は、例えば好きなアイドルの写真や映像に向かって何かつぶやいてみるとか、誰かと一緒にご飯を食べているような気持ちになることも、上手な孤独の対処法ですね。

編集部:孤独感の払拭にぬいぐるみですか!

:いい年をした大人が、ペットやぬいぐるみ、映像に向かって話しかけるというのは何だかおかしいですよね。でも、自分の部屋で一人で楽しむ分には、誰に気兼ねをする必要もないと思いますよ。孤独感で一杯になって周囲に怒りや恨みを向けるよりも、人に迷惑をかけない形で想像力を駆使し、不安やうつ、ストレス、孤独感を発散させる方法を見つけていただきたいと思います。

家族との上手な関わり方

編集部:在宅ワークの導入により、家庭内で過ごす時間が長くなっている方も多いと思います。家族同士で適切な距離感を保つ秘訣はあるのでしょうか。

:こうした時、お互いを思いやる関係だったか、お互いを非難する関係だったか、良くも悪くも家族の関係性がはっきり現れますね。日本では狭い空間に家族みんなで過ごすという住宅事情もあるので、長時間、同じ空間で一緒に過ごせば、イライラしたり何となく家族を疎ましく感じる時もあるでしょう。そんな時、大事なのはイライラを直接相手にぶつけないことです。イライラを家族や子どもにぶつけないで、上手に切り替えることができるといいですね。今までは家族そろって食事する時間が少なかったご家庭も多いでしょう。家族みんなで食事をすることで関係性を見直すきっかけになれば、と思います。

塙先生がおすすめするストレス発散法

:イライラを子どもや家族にぶつけるのではなく、対象を「ぶつけてもいいもの」に替えて、そのエネルギーをぶつけてみて下さい。例えばパン焼き。パン生地をバンバンたたきつけることで、ストレス発散になります。パンの代わりに粘土でもいいですね。親子でお料理をしながらバンバンやってみてはいかがでしょうか。ただし、台所が汚れたとお子さんを怒らずに、後でまとめて片付けましょう。 

編集部:パン作り、ストレス発散しつつパンも作れるので嬉しいですね!

:大きくて空気圧の低い、当たっても痛くないボールをバンバン投げるのもいいでしょう。家族や周囲の人にイライラや怒りのエネルギーを向けないで発散することが大切です。

他人の行動には寛容さが肝心

:ちなみに、何故他人に不満を持つのかと言うと、思い通りにしようとするからです。例えば「そこ、今掃除したばかりだから汚さないで!」など。自分の価値観で人をコントロールしようとするからイライラしてしまうのです。当然ですが他人・家族の行動を変えるボタンは存在しません。自分の認識を変えることも大事です。自分自身も疲れてしまうので「あとで片付ければいいし、まぁいっか」くらいに達観できると良いですね。

編集部:よく、自分は変えられても人は変えられないと言いますが、諦めることも時には肝心ということですね。

:一番気を付ける必要があるのは“こうあるべき”という思考です。「こういう状況下では、こうするべきだ」この類の言葉は、相手をかなり追い詰めます。

編集部:日本人は真面目な国民性故に「べき」「しなければならない」が癖になっている方もいるかもしれません。

:例えば、一つの家族の中でも、こまめに手を洗う人もいれば洗い忘れてしまう人もいると思います。すると、手を洗わない家族に対して「外出したなら手を洗うのは常識」と言ってしまいがちですが、一方的に否定された側としてはなかなか素直に受け取れないものです。

その声がけを「今日も1日お疲れ様。いつもありがとうね。でも、もし感染したら大変だから手洗ってくれたら嬉しいな」と言い換えると、どうでしょう?こう言われてムッとする人はいないと思います。同じことを言われるのでも、言い方ひとつでだいぶニュアンスが変わりますよね。

編集部:まずは相手を肯定し、その後に理由を明確にするということですね。

:危機的な状況下では、家族の関係性が浮き彫りになります。修復不可能なくらいに関係性が悪化している場合は別ですが、修復の余地があるなら、お互いのことを思いやり関係性を見直すきっかけになればと思います。ピンチはチャンスでもあるので、今回を機にいい方向に切り替えていけるといいですね。