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「心の健康」をいかに守るかー大切な心がけー【後編】

この記事の執筆者

みゆきクリニック

精神保健指定医。精神神経学会認定医・指導医。精神分析学会認定精神療法医。認定産業医。認定スポーツ医。

自己紹介

精神分析を応用した力動的精神療法とオーソモレキュラー療法を同時に治療に採用している医療機関は世界的に ... [続きを見る]

新型コロナウイルス感染拡大防止のため長期化する自粛生活。人との社会的なつながりを感じにくい中、「落ち込む」「気分が暗くなる」と感じている方もいらっしゃると思います。

今回は、心の健康を保つための心がけについて、塙 美由貴先生(みゆきクリニック院長)にお話を伺いました。この時期のみならず、日々の生活におけるメンタルヘルス維持のためのヒントが満載です。

睡眠不足の特効薬は規則正しい生活習慣

編集部:これまでとは異なった生活を送っている中、熟睡できない方が増えているようです。夜、熟睡するために自分で何か気をつけられることはありますか。

: 睡眠には、メラトニンというホルモンが関係しています。朝、太陽を浴びると体内時計がリセットされメラトニン分泌が止まり覚醒しますが、その15~16時間後、つまり夜になるとメラトニンが分泌され眠くなります。また、メラトニンはトリプトファンというアミノ酸から合成されますので、トリプトファンを含む食材、特に肉をしっかり食べることが大切です。

朝太陽を浴びる、肉を食べる、そしてメラトニン合成の補酵素であるビタミンやミネラルをしっかり取ることは、睡眠リズムを保つ上でとても重要です。これはまさにオーソモレキュラー医学の領域ですね。

編集部:不安感が強まっている時こそ、いつも以上に食事に気をつけることが大切なのですね。

: 毎日3食作るのは大変です。家にいる時間が長くなると、昼食は簡単に済ませがちですよね。食事を簡単に済ませようとすると、どうしても炭水化物に偏りやすくなります。チャーハンや焼きそばにする場合でも、麺や米は少なめにして肉や野菜をたくさん入れるなど、積極的に肉を食べる工夫をなさってみて下さい。

大切なのは“見極め力”

編集部:塙先生ご自身が行われている対策がありましたら教えて下さい。

: 全ての基本は、食事運動です。これは全ての病気の予防に共通することです。運動は元々好きではありませんでしたが、密にならない環境で1時間のトレーニングを週3回から4回ほど行っています。食事についてはできるだけ無農薬野菜を取り寄せ、肉や魚をしっかり食べています。なお、調理に砂糖や人工調味料は一切使いません。

油の質も吟味しており、火を使う調理には椿油かエキストラバージンオリーブオイル、火を使わない料理には亜麻仁油やエゴマ油を使います。サラダ油やマーガリン、砂糖は置いていません。あまり厳しい糖質制限はしていないので、少量の炭水化物は摂取しますし、芋類も食べますが、お菓子はまず食べないですね。よくお土産にお菓子を頂くのですが、目の前にあっても食べません。お土産を持ってきて下さる方には「お菓子はいりません」と声を大にして言いたいですね(笑)

編集部:生活習慣に加え、食材に関してはより栄養価の高いものを選ばれているのですね。

「コロナうつ」の実態(みゆきクリニックの場合)

編集部:「コロナ(による)うつ」で受診される方は、今後増加すると考えられますか。

: 確かに今の状況は、不安やうつになりやすい時かもしれません。しかし、正しい知識を学び何が怖いのか、問題点を明確にできれば対処しやすくなるので、不安に押し潰されるようなことはかなり防げると思います。みゆきクリニックで、コロナの感染拡大が起こる前からオーソモレキュラー療法を受けていらした患者さんたちは、不安やうつ、不眠になることもなく、皆さんとても落ち着かれています。

患者さんは落ち着いているのですが、会社に行くと周囲が苛立っていて、それがストレスになる、と言っている方もいらっしゃいましたね。苛立っている人達にオーソモレキュラー療法を受けたら良いのに、と言ってくれる患者さんもいます。オーソモレキュラー療法がストレス対策にも非常に有効であることがより明らかになったと感じております。

編集部:対策の有無による違いがこうした時に表れてくるのですね。

:一方、 みゆきクリニックにも薬だけの治療で通院されている患者さんもいらっしゃいます。残念なことに、不安やうつが悪化して薬を増やさざるを得ない人もいます。しかし、オーソモレキュラー療法を受けている人は、やはりとても落ち着いていて、不眠や不安を訴える人はほとんどいません。オーソモレキュラー療法を受けているか否かで、ここまで違うのかと、私自身驚きました。

ストレスを感じると、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが出て、脳下垂体を介し副腎皮質からコルチゾールが分泌され、血圧や血糖を上昇させます。慢性的なストレス状態になると交感神経優位になり、コルチゾールの分泌が続きます。これがうつや不安、不眠の悪化に関係してきます。オーソモレキュラー療法は、コルチゾールによる酸化リスクから身体を保護することを得意としています。

編集部:それだけ自分の体の中の栄養状態が大きく関わっているということでしょうか。

:まさに栄養の力ですね。

家族がうつになったら

編集部:もし、家族の誰かがうつ状態に陥った場合、どのように接するのが望ましく、また、当事者にとっても負担が少ないのでしょうか。

しっかりしろ、と励ましたりしないで、まずは見守る姿勢が大切です。「一日中ダラダラして」などと責めるような言葉は、さらに追い詰めることになるので気をつけて下さい。うつ病の方は、人と関わることが億劫になっているので、暖かく見守りつつ、そっとしておいてあげられると良いですね。

食事も何が食べたいか聞くと、うつ病の方は思考力が低下している状態であるため、混乱してしまいます。そのため、「とんかつと焼き魚だったらどっちが良い?」などと具体的に聞くことで本人も答えやすくなります。うつの改善には、睡眠にも関係するアミノ酸のトリプトファンが重要ですので、食欲がないからとお粥で済ませるのではなく、プロテインなどでアミノ酸の補充もなさってみて下さい。

日々の生活で気をつけたいこと、これから大切になること

編集部:コロナの完全なる終息がみえない中、二次的な原因によって今後うつ・もしくは軽度のうつ傾向を示される方が増えてくるのではと感じます。私たちは、これからの日常生活でどのようなことを意識できると良いでしょうか。

: 想像力が大きな鍵を握っていると思います。日本人は指示待ちタイプが多いと言われていますが、指示を待って動くのでは後手に回ってしまうかもしれません。コロナ感染拡大の第2波が訪れる可能性は極めて高いと言わざるを得ません。その度に緊急事態宣言を出すとなると本当に経済が破綻しかねませんので、感染拡大を最低限に抑えながら経済を回していくことが現実的でしょう。

そのためにも、国の要請があるからではなく、感染を拡大させないために一人ひとり何ができるのか、何に気をつけるべきか、個人個人がしっかり考えて行動することが求められてくると思います。

健康な人は感染しても重症化しないことがわかっています。自分が無症状感染者である可能性を想定して人に感染させないように注意を払い、持病のある人は今後も外出をできるだけ控える、それぞれの事情に合わせた対策を各自がしっかり考えていく必要があります。緊急事態宣言が解除されたらこれまで通り自由にして良いということにはなりません。今後も緩やかな自粛は何年にも渡って必要になると思われますので、長期戦の構えでいきましょう。

編集部:家族関係では、何か気をつけることはありますか。

:これまで家族全員で食卓を囲む機会の少なかった家庭にとって、皆で一緒に食事ができる幸せを実感しているご家族も多いと思います。一方で食事がストレスになっている家庭もありますよね。食事がストレスになっている家庭でよくみられる問題の一つに、毎日家にいるようになったお父さんが、子ども達と一緒に食事をする機会が増え、「残すな」「こぼすな」「座って食べろ」などと口うるさく注意するようになったという家庭が増えています。

お父さんがガミガミ言うため、食べることが嫌いになってしまったという子ども達を診ています。こうしたケースでは、ご両親にテーブルマナーは二の次にしましょう、と指導しています。最近はADHDの子どもが増えていますが、彼らにとってじっと座っていることは大変な苦痛です。無理矢理座らせようとすると、食卓にじっと座ることよりも食事をしないことを選んでしまうかもしれません。

子どもにとって一番大切なのは、楽しく食事をする習慣を身につけることです。テーブルマナーはいずれ身につけていけば良いことであり、小さな子どもに紳士淑女になってもらう必要はないのです。

編集部:ある程度こういうもの、と開き直るくらいの心持ちでいられると良いのでしょうか。

: 人間関係が近くなってくると、相手に対する寛容さがより大切になると思います。できないことや失敗を責めるのではなく、寛容さを持って接していけると良いですね。

イライラした時は、パン焼きやボール投げも良いとお伝えしましたが、ハグも良いと思います。ハグするとオキシトシン(幸せホルモン)が出て、不安や緊張を和らげてくれます。ソーシャル・デイスタンスで家族間でもハグが難しい場合には、ぬいぐるみをギュっと抱きしめて代用してみて下さい。

編集部:交感神経が優位になりがちな今日において、ホッとできる瞬間は一段とかけがえのないものと感じます。

:日々のちょっとしたことに楽しみを見つける工夫も大切になってきますね。些細なことに幸せを感じることも、能力の一つではないでしょうか。厳しい生活を強いられている人も多いと思いますが、厳しさの中にも光を見つけていただきたいと思います。

働き方に関して言えば、これまで日本ではなかなか進んでいなかった働き方改革が、コロナ感染拡大によって一気に進み、結果として時間に余裕ができました。この時間を利用して、次のステップの準備を始めることが大切ではないでしょうか。コロナ後の世界では、働き方も雇用形態もさらに多様化していくでしょうし、多くの仕事をAIが担うようになると、従来人が担っていた仕事の一部がなくなってしまう可能性があります。人にしかできない、人だからこそできる仕事は何かを考えてみるのです。

それはもしかしたら、あなたが望む仕事ではないかもしれませんが、来るべき時代に備えて、柔軟に対応できるよう準備を進めるタイミングが、今なのかもしれません。