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老ける食事

この記事の執筆者

デンタルスタジオ・ラグフォーム新百合ヶ丘

大学卒業後、高齢者医療と美容医療を平行して取り組むことで、加齢による顎顔面の機能・形態変化の若返りを主眼とした治療を行う様になる。

自己紹介

寒いのが苦手です。

小さい頃、地べたに座って大人の顔を見上げるといつも鼻の穴が見えていました。

―顔の真ん中に穴が空いている―

今思えば当たり前のその光景がいつも不思議でした。なぜなら、鏡で自分の顔を見ると下から見上げなくても鼻の穴がはっきり見えていたからです。今なら「それは中顔面の発育前だから」と論じてしまうところですが、当時の私にはそのようなことを知る由もありませんでした。それ故に小学校低学年になるまで、人の顔を描く時には必ず正面に鼻の穴を大きく描いていました。

つまり、私の中で大人と子どもの顔立ちの最大の違いは“鼻の穴の見え方”だった訳です。正面からでもはっきりと見えれば「子ども」、下から見上げないと見えなければ「大人」と認識していました。それからというもの、人の顔を描く時は鼻の穴が最大の関心事項となり、絵を描く度に顔の割合に対する鼻の穴が大きくなっていったのでした。

視覚情報の影響力

今日においては日常的に見るメディアからの動画や写真といった視覚情報を含め、人の顔を目にする機会は数え切れないほどあります。その都度、私たちは目にした顔立ちから瞬時にその人物の性別・国籍・年齢といった情報を推測します。この瞬時の判断がいわゆる「第一印象」となります。

例えば、雑誌や写真を見る時などは人物の顔を注視する時間も自然と長くなります。企業は自社の商品を広告したい時にモデルを起用することで、商品のブランドイメージやターゲット層を明確にし、受け手側にメッセージを発信します。また、モデルの起用によって受け手側は商品の詳細文を読まずともその商品のイメージを強く認識することができます。

これは商品における第一印象を定義付けるための有効な手段で、まさに“百聞は一見にしかず”を形にした戦略ですが、ここで注目したいのは商品の写真を見るよりもモデルの写真を見た方がよりイメージを広げやすい、という点です。それだけ人は他者を見る時、対象に意識を大きく傾けて自己を投影しやすいとも言えます。

つまり、私たちは無意識のうちに相手の顔立ちから情報を引き出しているのです。メイクや美容整形では、この瞬時に認識する能力を利用して「女性的な顔」「男性的な顔」「東洋人的な顔立ち」「西洋人的な顔立ち」など、理想とする顔貌へ近付けていきます。

なぜ、そのようなことが可能なのでしょう。それは、人種や性差には先天的な定義付けがなされていて“特定の基準”を作りやすいためです。

推定年齢と“老けないレーニン”

年齢に関しても同様です。ロシアの政治家ウラジーミル・イリイチ・レーニン氏は1924年に53歳で逝去しましたが、遺体は防腐処理を施されており現在でもその姿見を保ち続けています。彼がまだ生きていたのなら、今年で140歳になります。

レーニン氏の顔を拝見すると、それまで仮に彼の存在を知らなかったとしても日本人ではないことや男性であることが伺えます。ところが、ひとたび年齢の話に焦点を当ててみると50代には見える一方、100歳以上の顔には到底見えません。

つまり、顔年齢は年月のみが影響するのではなく、動的な状態の積み重ねで決まってくるということです。レーニン氏に関して言えば53歳までは動的状態で、それ以降は静的状態を保ち続けています。静的状態を維持し始めた時点で、彼の見た目年齢と実年齢には乖離が生じ始めたのです。

見た目年齢と筋運動

これまで、人間の種や性差は生まれ持った特徴であること、年代に関しては後天的な動作により決定付けられることがわかってきました。具体的に言えば、種や性差などの多くの特徴は骨格に由来しており、世代の違いについては筋運動の程度により決まります。人の顔を見た時に“おおよその年齢”が判断できる主な理由としては、顔の成長後から現在に至るまでの顔の筋運動の回数を指標とすることができるためです。

つまり、30代よりも60代の方が顔の筋運動の総回数が多く、その分だけ顔年齢が高く見えるということです。重ねて申し上げれば、子どもの顔の変化は「骨の成長」に起因し、大人の顔の老化は「筋運動に連動する皮膚や脂肪の状態変化」に起因すると言えます。

さらに、人間は多くの他の動物と違って二足歩行です。首の位置や口元の張り出し方も異なります。人間と他の動物を比較した場合、骨格的な違いが人間と動物の顔の加齢変化の差に影響をもたらしていることが窺えます。要するに人間は他の動物と比べると、より顔の筋収縮が顔年齢に影響しやすいと言い換えられます。

動物と人間では骨格が異なりますが、同じ骨格を持つ動物同士であっても顔の加齢変化の差は人間ほど著しくありません。このことから、動物は筋運動を繰り返してもその影響が人間よりも少ないと言えます。その理由は形態(骨格)と機能(筋肉)のバランスにあります。

骨格と筋肉は互いに作用しながら変化を続けていきます。骨の発育や形態は筋肉の動きに影響を受けますし、骨格の形態や位置は筋肉の進展に影響を与えます。人間の顔は動物よりも形態と機能のバランスを崩しやすい、そして両者のバランスに影響を与えるものこそが生活習慣です。

生活習慣と骨格の形成

「生活習慣」と言ってもその内容は多岐にわたります。24時間365日における全てが生活習慣であり、その1つひとつには理由があります。ここで、その中でも人間と動物に共通している生活習慣に焦点を当ててみましょう。

一番に思い浮かぶのは、睡眠運動食事です。まず、睡眠については神経やホルモンには共通面が多い一方、骨格が違うため寝方は異なります。運動に関しても、やはり骨格が違うので動き方に違いがみられます。食事に関しては、食べる物と食べ方のどちらも異なります。食べ方は“食べる姿勢”に由来するため、食べ物の種類以外はどれも骨格の違いによる生活習慣の差と言えるかもしれません。

ということは、ホルモンや神経伝達に乱れがなければ、顔の加齢変化は骨格に由来する生活習慣の違いが大きな原因となっている可能性があります。

さて、動物と人間の顔の加齢変化の違いには骨格が大きく影響していることはわかりましたが、次に食べ物の違いについて考えてみます。動物は全て自然界にあるものを食べています。人間は必ずしもそうではありません。この点が動物と比較した際の決定的な差です。

自然界では、同じ種であれば同じものを食べて生活しています。例えば、草原ではシマウマが群れを成して一斉に同じような草を食べています。一方で、人間が食べるものはバラエティーに富んでいて人それぞれ異なります。シマウマの群れの写真を見ても、専門家でない私にはシマウマの年齢の違いがわかりません。しかし、群衆を見ると専門家でなくても各々の大体の年齢を推察できます。

顔貌の変化は、筋肉の動きによる脂肪や皮膚の変化の積み重ねで起こります。通常、顔の筋肉の動きは歯・骨と互いに影響を及ぼしながらバランスを保つように制限されています。しかし、このバランスに生活習慣が悪影響を与えていきます。顔貌に影響を与える主な生活習慣は、食事・姿勢・睡眠の乱れです。この乱れは「定量的な悪影響」と「定性的な悪影響」という2つの側面に分類されます。

  • 定量的な影響:咀嚼や嚥下、呼吸と言った日常の動作 など
  • 定性的な影響:神経伝達物質やホルモンといった内分泌系の乱れ など

食事・姿勢・睡眠の乱れが神経伝達物質やホルモンに深く関わってくるのですが、そもそも神経伝達物質やホルモンの働きは代謝経路の乱れと密接に関わりがあります。生活習慣の乱れは、そのまま代謝経路の不具合につながるということです。そして、この代謝経路の乱れは突き詰めると栄養摂取の過不足による場合が多いのです。つまり、顔貌の変化の要因を辿っていくと「食事」という大元に辿り着きます。

食習慣の違いが生むもの

食事の内容は、定量的・定性的に顔貌を取り巻く生活環境に影響を与えます。ここで言う“定量的”は加工食品かホールフードかというテクスチャーの違いを意味し、“定性的”は具体的な栄養素や添加物を指します。定量的な側面は主に筋肉・骨・歯のバランスに関係する一方、定性的な側面はその上位にある神経や内分泌系に影響を及ぼしていきます。

20歳と50歳では30年分の生活習慣の積み重ねに差があり、この差が顔の老化に大きな影響を与えています。私たち人間は哺乳類で、哺乳類の大きな特徴としては母乳を飲むことが挙げられます。この点までは他の哺乳類と大差ありません。

ところが、離乳後の動物は自然界にあるものを食べるようになります。この一連の流れは脈々と受け継がれており、栄養摂取と筋運動・骨成長に再現性があります。一方、人間は社会生活の変化によって加工食品が増え始め、世帯や個人によって食生活が大幅に変わるようになりました。そのため、同じ人間であっても食生活には再現性がありません。

“食生活に再現性がない”ということは、成長期の筋運動や骨形成にも大きく影響が及ぶということです。よって、人間の顔は文明の発達という歴史とともに変化していると言っても過言ではありません。

生活習慣の変化により骨の形成が悪くなっている身近な例としては、

  • 親知らずが生えてこない
  • 歯並びが悪い 

などが挙げられます。

筋運動で顔が変化する?

骨の上には筋肉が付着します。発育が不十分な骨に付着している筋は、筋運動時に余計な収縮を加えて動きを補正する必要があります。余計な筋力がかかっている骨は、その影響により形態が変化していきます。この形態の変化に伴い、さらに筋肉が収縮し補正しようとするために悪循環が生じます。

私たちは母乳を飲む時に舌を動かします。この舌の動きこそ、その後の顔の骨の発育に影響を与えるのです。離乳後もしっかりと舌を動かして食事をすることで、理想的な骨格に成長していきます。

もし、成長期に骨の形成が順調に進まないとどうなるのでしょうか。その答えは「筋運動に支障をきたして若いうちから老けやすい顔になる」です。人が食べ物を噛む時、咀嚼筋群の働きにより顎関節が動きます。顎関節が動くことで、付近の脂肪が押されて少しずつ移動します。押し出された脂肪は、重力によって顔の下方へと移動していきます。

その結果、側頭骨上部の脂肪が減り下顔面部に脂肪が移動します。咀嚼時には「咬筋」と「側頭筋」の2つの筋肉を主に使います。ところが、柔らかいものばかり食べていると咬筋しか使わなくなってしまい、側頭筋が萎縮します。側頭筋の萎縮によって、さらに側頭部のくぼみが目立つようになります。このように、筋の収縮により顔の皮膚が伸ばされて脂肪が下へ下へずれ落ちるという現象が顔全体で繰り返し行われます。

食事における顔の筋運動により、脂肪の移動と皮膚の進展が毎日わずかに起こります。筋運動に影響する要因は顎関節の動きです。顎関節の動きに影響を与えるのは噛み合わせ(歯並び)です。この噛み合わせを決めるのは顎骨の発育であり、顎骨の発育を誘導するのが「舌筋」や「咀嚼筋群」の働きです。そして、舌筋・咀嚼筋に影響を及ぼすのが食事のテクスチャーになります。

これらのバランスが損なわれると上顎骨の劣勢長が起こり、頬骨の張り出しが不十分になります。若い時は「小顔」にこそ見えるものの、貧弱な上顎では後から成長してくる下顎を十分に受け止めることができません。その不調和を是正するために筋肉が収縮します。

先ほどもお伝えした通り、筋肉の収縮は顔の変化を進めます。つまり、老けやすい顔か否かは成長後の美容習慣だけでなく、老けにくい顔に成長できたかという点も大きな要因になります。もし、私が子どもの頃、鼻の穴から顔の成長の仕組みに気付いていたなら、老け辛い食事に励んでいたはずです。

このような思い出から、スーパーで楽しそうに数々の加工食品を手に取っている親子を見かけると、何だか神妙な面持ちになってしまいます。