8つの州の大学病院ならびに関連病院において、救急医療、急性呼吸器疾患、感染症の専門家ら8人が共同で「新型コロナウイルス(COVID-19)最前線におけるクリティカルケア・ワーキンググループ」を組織し、新型コロナウイルスの治療プロトコルをリリースしました。
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米国にてCOVID-19治療にビタミンC点滴を含むプロトコルが誕生
8つの州の大学病院ならびに関連病院において、救急医療、急性呼吸器疾患、感染症の専門家ら8人が共同で「新型コロナウイルス(COVID-19)最前線におけるクリティカルケア・ワーキンググループ」を組織し、新型コロナウイルスの治療プロトコルを作成しました。今回は、このプロトコルを実際に導入した医師の話を紹介しながら、期待される効果とその可能性についてお話しします。
「MATH+」の早期導入が鍵を握る?
目的は救急外来(ER)を受診した患者や入院患者が呼吸困難を発症した時、このプロトコルで早期に治療介入し、急激に増強する炎症を抑えることで人工呼吸器装着を減らし、かつ患者の命を救うためです。
この治療プロトコルは「MATH+」と呼ばれています。
「MATH+」とは
「MATH+」は下記の略称です。
M:Intravenous Methylprednisolone(メチルプレドニゾロン静注)
A:High Dose Intravenous Ascorbic Acid [Vitamin C](高濃度ビタミンC点滴)
T:PLUS optional Treatment components(オプション治療)
H:Low Molecular Weight Heparin(低分子ヘパリン)
注視すべきは「サイトカインストーム」
ワーキンググループの救急医療の専門家は、集中治療室(ICU)への入院または人工呼吸器の装着が必要となる前すなわち疾病経過の早い段階で、強力な治療法である「MATH +」の採用を同僚の医師にも強く求めています。「MATH +」の積極的な早期導入によって、ICUの入院患者を減らすこと、人工呼吸器が必要になる前に多くの命を救うことを予測しています。
ワーキンググループのメンバーであるピエール・コリー医師(ウィスコンシン大学 救急治療責任者)は、
「緊急治療室で『MATH+』の早期導入を開始し、6時間毎にメチルプレドニゾロンとビタミンCを点滴投与できれば、この疾患の死亡率と人工呼吸器の必要性が大幅に低下する可能性があります。患者を殺すのはウイルスではなく、ウイルスによって引き起こされた激しい炎症『サイトカインストーム』が肺の機能不全を引き起こすためです。重篤な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)への悪化を防ぐには、コルチコステロイド(メチルプレドニゾロン)が必要です」と述べています。
さらに、炎症は複数の臓器で高率の血液凝固を引き起こす可能性があるとされ、その際には抗凝血剤の使用が必要となります。
「MATH+」に基づく治療結果
<イースタンバージニア医科大学>
イースタンバージニア医科大学のポールE.マリック博士は、このプロトコルに基づきCOVID-19患者30〜40名の治療を行い、結果として2名を除く全員が生存しました。2名はいずれも80歳以上であり、深刻な併存疾患があったとのことです。つまり、COVID-19ではなく基礎疾患によって亡くなったと判断されました。
<ユナイテッドメモリアルメディカルセンター>
ユナイテッドメモリアルメディカルセンターのジョセフ・ヴァロン医師は、40名のCOVID-19患者に同プロトコルで治療し、大腸がんと敗血症の既往歴のある90歳の女性を含む30名がすでに退院しており、死亡例はまだありません。
(関連記事『ある医師がCOVID-19患者の命を守るため選択した治療プログラム』https://isom-japan.org/article/article_page?uid=BsZZg1588308221)
コルチコステロイドとサイトカインストーム
ワーキンググループの専門家全員が「患者がICUに入室したら直ちに早期介入することが重要である」と強調しています。
一方、重度のウイルス症候群の治療におけるコルチコステロイド使用については疑問を呈する医師もいます。しかし、過去のSARSおよびH1N1(インフルエンザA)肺炎の7,000名を超える患者を対象とした2つの研究では、コルチコステロイドの使用で死亡率の大幅な減少が示されました。
ウンベルト・メドゥリ教授(テネシー大学ヘルスサイエンスセンター)は「この新しいウイルスによって引き起こされるサイトカインストームを制御するためにはコルチコステロイドが重要な役割を果たします」と述べています。
また、ニューヨーク州の内科医であるキース・バーコウィッツ博士は「ニューヨーク州での悲惨な状況を考えると、全ての病院が直ちにこのプロトコルを採用する必要があります。安全かつ低コストで、非常に効果的な治療プロトコルですが、ICU入室後ではなく、入室前の段階で導入する必要があります。何故なら、重症になると制御できない炎症によって生じる臓器の損傷が深刻となり、めったに回復が見込めないためです」と説明しています。
救急治療の専門家としての経歴が長いハワード・コーンフェルド博士は「このプロトコルは患者の命を救うだけでなく、人工呼吸器治療の必要性を減らし、ひいては治療する医師や看護師への危険を軽減します」と述べています。
一刻を争う状況下で
通常の状況では無作為化比較試験(RCT)を検討しますが、このパンデミックの状況下で数ヶ月も結果を待っている猶予はありません。RCTでなくとも、適切に設計された「MATH +」プロトコルの観察研究であれば、このような逼迫した状況でもタイムリーなフィードバックが得られ、治療プロセスがより迅速に改善されます。
ホセ・イグレシアス医師(ニュージャージー州・コミュニティ医療センター救急部)は、37名の患者を対象とした早期高濃度ビタミンC点滴治療のランダム試験を行いました。彼は「COVID-19とサイトカインストームを有する患者におけるショック解消までの時間が大幅に短縮されました」と述べています。
※ご紹介した新型コロナウイルス(COVID-19)治療プロトコルの最新版は下記サイトより入手可能です。https://covid19criticalcare.com
【和訳】新型コロナウイルス(COVID-19)治療プロトコル
これまでご紹介してきた「MATH+」の日本語版を下記に掲載いたします。
炎症と凝固亢進の管理
新型コロナウイルス(COVID-19)入院患者の治療は、強力なエビデンスに基づいた早期介入をするべきである。
早期介入により、圧倒的で破壊的な炎症反応と全身性で重度の凝固亢進による臓器障害への進行に対処できる。
集中治療室(ICU)への入室6時間以内にプロトコルを開始すれば、機械式人工呼吸器の必要数とICUの必要ベッド数は劇的に減少するだろう。
「MATH+」プロトコル
- メチルプレドニゾロンの静脈内投与
a.軽度の低酸素症(<4L):酸素吸入が必要なくなるまで40mg/日投与
b.中等度・重症:80mgボーラス投与、その後6時間毎に20mgワンショットを7日間投与
c.他の投与法:80mg/日を7日間投与
d.8日目:プレドニンの経口投与に切り替え、6日間で漸減 - 高用量アスコルビン酸(ビタミンC)の静脈内投与
a.6時間ごとに3g/100ml
b.合計7日間または退院するまで継続 - フルドーズ低分子ヘパリン
a.軽症:40-60mg/日
b.軽症〜中等症:40-60mg/日
c.退院するまで続ける - オプション治療(+):ビタミンB1、亜鉛、ビタミンD
低酸素治療
- 経鼻カニューレで酸素飽和度が低い場合は、加熱高流量経鼻カニューレを開始する。
必要に応じて流量制限を増やすことを躊躇しない。 - 酸素需要量のみに基づいた早期挿管を避ける。可能な限り低酸素血症下で呼吸管理をする。
過度の呼吸困難を示した場合にのみ挿管する。 - 酸素飽和度を高めるために腹臥位を活用する。
プロトコル翻訳:田村 亨先生(たむら内科クリニックhttps://www.tmc-aomori.com(青森県弘前市))
柳澤 厚生 (ヤナギサワ アツオ)先生の関連動画
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