前号では消化管の入口である口腔と、食物の最終的な消化吸収の場である腸管とがPPIなどの影響により関係性に変化が生じていることをお話しました。もちろん、それは消化管としてつながっていることで起きる訳ですが、口腔と腸管の、特に免疫機能をめぐる相互作用は、それ以外の経路も大きく関わることが示されています。食物の消化プロセス以外の、別の時空で口腔と腸管は繋がっているのです。
宇宙と宇宙を繋ぐ(3)口腔の健康管理が腸の健康にとって重要
別の時空で口腔と腸管は繋がっている
T細胞などの免疫系細胞はいきなり「完成形」として登場するのではなく、未熟な細胞(ナイーヴ細胞)として誕生します。そして成熟過程を経ることで専門化(分化)し、高度な機能を獲得していきます。20歳過ぎまでは、その成熟はおもに胸腺で行われますが、胸腺はその後萎縮してしまい、成年以後の免疫の中心は腸管となります。それが腸内環境を良好に保つことが免疫機能に非常に大切と言われる理由です。
免疫の重要な舞台
免疫の重要な舞台の一つが血管やリンパ管などの脈管系です。抗体や免疫細胞は遠く離れた臓器から感染巣に集結し、あるいは常に脈管内を巡回パトロールしています。
この脈管系を使って感染巣から遠隔の臓器に移動するのは「敵」も同様です。まず口腔内では歯周ポケット内の細菌そのもの、グラム陰性菌由来のLPS(菌体内毒素)や酵素(ジンジパイン)が歯周ポケット上皮の潰瘍部分から歯周組織に侵入することで、歯周炎病巣内でTNF-αやIL-6等の炎症性サイトカインが産生されます。
別のステージで全身へ影響していく歯周炎
このようなプロセスで局所の歯周炎は進行し、歯を支える歯周組織は破壊されていくわけですが、歯周炎はここから別のステージで全身へ影響していきます。歯周炎病巣から細菌、LPS、酵素やサイトカインが血管内に入り、血流にのって全身に拡散していくのです。これらは体内の各所で様々な炎症を引き起こしていきますが、腸管では上皮細胞の細胞膜や細胞間の透過性を亢進し、腸管経由で毒性物質やアレルゲンを体内に引き入れてしまうことになります(図1)。
(図1)
そして腸管以外でも、同様のプロセスで口腔由来の炎症性物質が各臓器に到達します。たとえば肝臓では、高脂肪食NASHマウスモデルを用いた実験では、歯周病の悪化の主役であるPorphyromonas gingivalis(P.g)を口腔に感染させるとそれが肝臓で検出されます。その結果肝臓における炎症反応が増強し、線維化を助長することが明らかになりました1)。脂肪肝になるとTLR2の発現が肝細胞で増加し、P.gのLPSや細胞膜成分に対する感受性が高まるため、過剰なサイトカインの産生が起こり、NASHの病態進行により大きな影響を及ぼすというメカニズムが生じています。
その他にもリウマチなどの自己免疫疾患、心血管病変、そして中枢神経の病態に関係することになります(これは次号以降で解説致します)。
前号でも述べたように、歯周炎が引き起こされると、口腔内で増殖した歯周病原細菌が消化管経由で腸に達し炎症を引き起こします。この結果、腸内の単核食細胞(単球・マクロファージ・樹状細胞の総称)がインフラマソーム(炎症反応の惹起に関与する細胞内タンパク質複合体)を活性化させ、炎症を誘発します。
そして歯周炎が腸の炎症を悪化させる過程には、他にも重要な機構が存在します。口腔内で感作された樹状細胞から抗原提示を受けたTh17細胞がリンパ管を介して腸に移動(ホーミング)し、腸内で病原体に反応して腸炎を引き起こすことも確認されました2)。これらのTh17細胞は、口腔内の炎症によって感作され、腸に移動してから抗原に反応して活性化し腸炎を引き起こすのです(図2)。
(図2)
おわりに
このように口腔と腸は様々な経路で相互に影響を及ぼしており、それ単独で考えることは重大な見落としを生む危険があります。口腔の健康管理が腸の健康にとって重要で、またその逆も然りということでしょう。今後の研究や治療において考慮すべき重要な考え方と思います。
【参考文献】
- Dental infection of Porphyromonas gingivalis exacerbates high fat diet-induced steatohepatitis in mice. Furusho H, Miyauchi M, Hyogo H, et al. J Gastroenterol. Nov;48(11):1259-70. 2013.
- Kitamoto S, Nagao-Kitamoto H, Kamada N et al. The Intermucosal Connection between the Mouth and Gut in Commensal Pathobiont-Driven Colitis. Cell. 2020 Jul 23;182(2):447-462.e14. PMID: 32758418.
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