ログイン 会員登録

高濃度ビタミンC点滴療法とアルファリポ酸点滴によるがん治療

この記事の執筆者

鎌倉元気クリニック

一般社団法人日本オーソモレキュラー医学会 代表理事。鎌倉元気クリニック 名誉院長。 杏林大学医学部卒、同大学院修了。 医学博士。杏林大学医学部内科助教授を経て、2000年〜2008年同大学保健学部救 ... [続きを見る]

私はαリポ酸点滴を米国・ニューメキシコ統合医療センター所長のバートン・バークソン先生から教えて頂き、日本に紹介してきました<写真1>。また、バークソン先生は私から高濃度ビタミンC点滴療法を教わり、高濃度ビタミンC点滴とαリポ酸点滴を併用するプログラムを実践されていました。私も高濃度ビタミンC点滴とαリポ酸点滴を併用したケースがあり、ビタミンC点滴単独より良い臨床経過であると実感しています。

<写真1>バークソン先生と筆者

近年、バークソン先生が高濃度ビタミンC点滴とαリポ酸点滴を併用して有効であったケースを発表したので、紹介します。

αリポ酸は人間の体内で合成され、補酵素としてエネルギーの生成過程に重要な働きをしています<図1>。αリポ酸はサプリメントとして抗酸化作用、水銀デトックス、がん、糖尿病性末梢神経障害、膠原病、慢性肝炎に有用であることは、既に多くのエビデンスがあります。

オーソモレキュラー医学とは「体の中に自然に存在する物質(ビタミン、ミネラル、アミノ酸など)を分子レベルで最適な量を投与して病気の予防と治療をする」ことです。

すなわち、αリポ酸による治療はオーソモレキュラー医学の一つです。

<図1>αリポ酸(C8H14O2S2)の化学構造式

ステージ4腎臓がんのケース

米国・ニューメキシコ統合医療センター所長のバークソン先生は、アルファリポ酸点滴を用いたがん治療では世界的に有名です。バークソン先生はこれまでにもαリポ酸に関する多くの論文や書籍を発表しています。今回、バークソン先生は高濃度ビタミンC点滴とアルファリポ酸点滴で治療をした腎臓がんの患者さんについて報告をしています。

64歳、男性。患者は2008年6月に血尿で病院を受診し、左腎の原発性腎臓がんと診断された。

既に左肺に直径1cmの転移性腫瘍が認められ、ステージ4と判定された。テキサス大学がん治療センターにおいて左腎の摘出と術後化学療法を受けたが、肺の転移性腫瘍は徐々に増大、直径8〜9cmとなった。主治医からは、もはや治療はないと伝えられた。

2010年8月に患者はニューメキシコ統合医療センターを訪れた。患者は既に弱々しく、低栄養状態であった。息切れや胸焼け、耳鳴り、不眠、体重減少、強い不安を訴えていた。

センターでは外来で午前中に高濃度ビタミンC点滴50g、昼食後に高濃度αリポ酸点滴(300〜600mg)で治療を開始した。またオピオイド受容体拮抗薬であるナルトレキソンの低用量療法(4.5mg)、サプリメントとして、ビタミンB群の他にαリポ酸300mg、セレン200µg、シリマリン900mgを各1日2回投与した。

同時にニューメキシコ統合医療センター方式のライフスタイルを勧めた。内容は十分な野菜に低糖質食とし、加工食品は禁止する。運動とリラクスゼーションプログラムも併用した。

治療開始1週間で、明らかに体調は良くなってきた。患者はダラスに戻り、ホームドクターで週2回のビタミンCとαリポ酸の点滴を継続した。患者は3ヶ月に一度、ニューメキシコ統合医療センターを訪れて、集中的に週5日の点滴を2週続けて受けた。

2011年1月に患者は仕事に復帰したが、肺の転移性腫瘍の大きさは変わらなかった。2011年6月のPET/CTから徐々に肺の腫瘍は小さくなり、2012年3月のPET/CTで腫瘍は消失していた。その後も同じ治療を続け、2017年9月のPET/CTでも肺の転移性腫瘍は消失したままであった。患者の健康状態はすこぶる良好であった。

<図2>患者のPET/CT。2010年10月左上肺野に転移性肺腫瘍(→)が認められた。

高濃度ビタミンC点滴とαリポ酸点滴を併用し、18ヶ月後の2012年3月には腫瘍が消失している。

ビタミンC点滴とαリポ酸点滴の併用

米国がん学会の統計データでは、ステージ4の腎臓がんの5年生存率は僅か8%です。バークソン先生のケースでは、殆ど生存の見込みのない全身状態でした。高濃度ビタミンC点滴療法とアルファリポ酸点滴の併用、サプリメントやライフスタイルの改善により、肺転移は消失し、9年間も長期生存しています。

高濃度ビタミンC点滴療法はがん細胞のアポトーシスの誘導、新生血管の阻害、抗炎症作用、活性酸素の消去など多岐にわたります。一方、αリポ酸も強力な抗酸化作用、ビタミンCのリサイクル、炎症性サイトカインの抑制などが報告されています。

特に最近2〜3年のαリポ酸のがんに関する研究は盛んになっています。αリポ酸の併用による抗がん剤(パクリタキセル、シスプラチン)の効果の増強、シスプラチンの副作用である聴力障害の予防、TGFβシグナリングの抑制による乳癌の浸潤抑制、肺がん細胞と乳癌細胞の増殖抑制、肺がん細胞の化学療法に対する感受性の増強、放射線治療による炎症の抑制、がん幹細胞の抑制、化学療法による末梢神経障害の改善などです。

おわりに

統合医療におけるがん患者さんの治療選択肢は多いが、個々の患者さんに合った治療をいかに選択し、組み合わせるかが難しい。私は高濃度ビタミンC点滴療法をがんと診断されたときの基本治療と考えています。

そこにどのようなサプリメントや点滴、時には化学療法を選択するかがポイントです。

今回のビタミンCとアルファリポ酸点滴療法の組み合わせは、同日にできるメリットがあるので、今後の統合医療の選択肢として期待できると考えています。

わが息子とまで私のことを呼んでくれたバークソン先生は2024年3月4日に85歳で永眠されました。臨床医として、また研究者として、バークソン博士は医学と学術の分野に多大な貢献をし、多くの命を救ってきました。彼の学問と教育への情熱は、医学における誠実さと相まって、これからも人類に大きな貢献をし続けるでしょう。

【参考文献】

Genet Mol Res. 2015 Dec 22;14(4):17934-40

柳澤 厚生 (ヤナギサワ アツオ)先生の関連動画

同じタグの記事を読む