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身体の元気はこころの元気~うつには運動で炎症を抑える~<後編>

この記事の執筆者

下北沢西口クリニック

医学博士。産業衛生専門医・指導医。社会医学系専門医・指導医。専門は予防医学、産業保健、分子整合栄養療法

<前編>では、キヌレニン仮説をもとに運動によってうつが改善する仕組みをご紹介いたしました。<後編>では、「炎症とは」「炎症があるときの対応」について、こころの健康のためのサプリメントも合わせてご紹介いたします。

炎症とは

1)肥満

なぜ肥満?と不思議に思われるかもしれませんが、肥満と炎症は切っても切れない関係にあります。

肥満では脂肪細胞が増えますが、その脂肪細胞からTNFαなどの炎症性の生理活性物質が分泌されます。

肥満は全身の炎症を促進します。ですから、肥満は多くの生活習慣病の原因となるのです。

2)腸内細菌の乱れ

腸内細菌が乱れて悪玉菌が優位となると、腸の粘膜が荒れて炎症が起きます。腸と精神疾患は強い関係があると言われていますが、炎症が原因となっている可能性が高いのです。腸の不調は免疫機能にも影響を与えます。

リーキーガット症候群などで腸の粘膜が荒れていることもうつ病を引き起こす原因である可能性があります。

3)ストレス

ストレスがあると胃酸の分泌が増え、胃炎となったり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍となったりします。炎症が長く続くことも多いため、精神面への影響が出ます。

PTSDのように、大きな精神的ストレスによるダメージを受けた場合に炎症性マーカーが上昇することも知られています。

4)歯周病

慢性炎症を起こす病気として、歯周病は見逃せません。歯周病とうつの関係も指摘されています。

これらの炎症はすべてセロトニン経路を抑え、キヌレニン経路を促進することになります。

ですから、これらの炎症を伴う病気がうつのきっかけとなったり、あるいは逆にこれらの病気の改善がうつを軽快させたりすることもあるわけです。

タバコを吸うと身体に炎症が起きやすくなりますから、うつになるリスクも上がるかもしれません。

運動をして肥満を解消すること、ストレスを解消すること、歯周病の治療をすること、タバコを吸わないようにすることなど、身体の健康を保つことがこころを元気にする秘訣なのです。

逆に、統合失調症、うつ病、双極性障害などの患者ではCRP(C反応性たんぱく)やTNF―α、IL-1βなどの炎症性サイトカインの血中濃度が高くなっていることが報告されています。つまり、精神障害のときには身体の中で炎症が起きているということです。

前編でお話しした過重労働の面談の対象者にはかなりの割合でこの炎症の状態の人がいます。

ストレスがかかって、甘いものを食べたり、帰宅が遅くなって夕飯を遅く食べ、食べた後すぐに寝てしまう、というように肥満に直結するライフスタイルとなっている人。運動もしないので余計に肥満となります。

喫煙者であれば、ストレスでタバコの本数が増えていることも多々あります。

なんだか胃腸の調子が悪い、下痢や便秘という訴えも多いものです。

これらはすべて炎症です。

炎症があるときの対応

炎症があるときには、トリプトファンをセロトニン経路に進ませることができません。

5HTPに変換することができなくなるわけですから、サプリメントで5HTPを摂ることもうつの予防に効果があります。

また、炎症があるときに、「うつに良いから」とトリプトファンを多く含む食品をせっせと摂ってしまうと逆に神経毒性物質を作り出してしまうことになりかねませんので注意が必要です。キヌレニンはチック症の原因になる可能性も示唆されています。

トリプトファンといえば、牛乳というイメージですが、肉、魚、豆、ナッツ類、チーズ、卵、そして意外に麺類にも多く含まれています。

うつ病の方が眠れないときの対策として、ホットミルクを夜飲む、というのはあまりよくありません。

ビタミンB3(ナイアシン)の摂取

キヌレニン経路では、キノリン酸からナイアシンが出来ます。ナイアシンをたくさん摂っていると、ネガティブフィードバックがかかってキヌレニン経路が活性化されにくくなり、セロトニン経路が促進されます。うつや不眠のときにナイアシンやナイアシンアミドを摂取するのが効果的なのはこのためであると考えられています。

ビタミンB6、鉄、マグネシウム、亜鉛の不足に注意

そして、キヌレニン経路に進んだときにビタミンB6、鉄、マグネシウム、亜鉛などの欠乏があると有害なキヌレニンを代謝することができませんから、これらの物質も不足しないように気をつけなければいけません。

精神疾患とキヌレニン代謝 運動の効果

カロリンスカ研究所の論文以来、人間においても運動とキヌレニン代謝と精神疾患について多くの調査が行われています。

高齢者にうつ病が多いのも、筋力の低下によって、KATが減少することが原因となっている可能性も指摘されています。

まだ仮説とはいえ、運動が精神面にプラスの影響を与えることは、様々な面からみて間違いがないことと考えられています。

運動は

  • キヌレニンを減らして神経毒性を抑える効果
  • 肥満を解消して炎症を減らすことにより、セロトニン経路を活性化させるということ

両方の効果によってうつ病をはじめとした各種の精神疾患対策としてとても優れていると言えるでしょう。

精神疾患のための栄養医学 サプリメント

ここでこころの健康のためのサプリメントをご紹介しておきます。

1)タンパク質(必須アミノ酸) プロテイン接種

・各種神経伝達物質をつくる

トリプトファン:セロトニン、メラトニン

フェニルアラニン:ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン

メチオニン:GABA(γアミノ酪酸)

・各種ビタミン、ミネラルを運ぶ担体をつくる

2)ビタミン

ビタミンB群(B1、B3ナイアシン、B6)、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE

3)ミネラル

鉄、マグネシウム・亜鉛、セレン

4)その他

オメガ3(DHA、EPA、亜麻仁油)、レシチン、COQ10(ミトコンドリアの活性を高める)

参考文献

1)Agudelo LZ et alSkeletal muscle PGC-1α1 modulates kynurenine metabolism and mediates resilience to stress-induced depression. Cell. 2014 Sep 25;159(1):33-45. doi: 10.1016/j.cell.2014.07.051.

2)Herrstedt A et al. Exercise-mediated improvement of depression in patients with gastro-esophageal junctioncancer is linked to kynurenine metabolism. Acta Oncol. 2019 Jan 30:1-9. doi: 10.1080/0284186X.2018.1558371.

3)Alligon DJ. et al. Exercise training impacts skeletal muscle gene expression related to the kynurenine pathway. Am J Physiol Cell Physiol. 2019 Mar 1;316(3):C444-C448. doi: 10.1152/ajpcell.00448.2018.

4)Schlittler M et al. Endurance exercise increases skeletal muscle kynurenine aminotransferases and plasma kynurenic acid in humans. Am J Physiol Cell Physiol. 016 May 15;310(10):C836-40. doi: 10.1152/ajpcell.00053.2016.

5) Hartwig FP et al. Inflammatory Biomarkers and Risk of Schizophrenia: A 2-Sample Mendelian Randomization Study. JAMA. Psychiatry. 2017 Dec 1;74(12):1226-1233. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2017.3191.

6)Miller K et al.The Role of Inflammation in Late-Life Post-Traumatic Stress Disorder. Mil Med. 2017 Nov;182(11):e1815-e1818. doi: 10.7205/MILMED-D-17-00073.

7) Hoekstra, P.J., Anderson, G.M., Troost, P.W. et al. Plasma kynurenine and related measures in tic disorder patients. Eur Child Adolesc Psychiatry 16 (Suppl 1), 71–77 (2007). https://doi.org/10.1007/s00787-007-1009-1

 

※本記事は宮川路子先生のホームページ『こころと身体の栄養療法』にて掲載された『身体の元気はこころの元気 うつには運動で炎症を抑える キヌレニン仮説 精神疾患のためのサプリメント』を、許可を得た上で転載しております。

https://eiyouryohou.com/?p=2406

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