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花粉症と治療法【前編】

この記事の執筆者

医療法人社団徳照会 いとう耳鼻咽喉科

自己紹介

大学病院では腫瘍専門外来も担当しておりましたので、早期発見・早期治療に努めたいと思います。患者さんに ... [続きを見る]

花粉症の患者さんは年々増加しており、1998年と2008年で比較すると、有病率は19.6%から29.8%へと1.5倍に上昇しています。つまり、約3割の方が花粉症ということです。花粉症患者さんが増えた理由の一つに、スギ花粉の増加があります。

スギは植林後40年ほどで成木になり、花粉を飛散し始めます。現在、植林されたスギの大半が樹齢40~60年となり、活発に花粉が飛散する時期を迎えています。また、花粉症の主な発症原因は、遺伝的にアレルギー体質であることと言われております。それ以外の原因としては、食生活の変化、生活環境の変化、ストレスなどが挙げられます。

今回は国民病と言われる「花粉症」のお話と、そのアレルギー発症の仕組みについてお話ししたいと思います。

花粉症について

花粉症(pollinosis)または枯草熱(hay fever)は花粉抗原によって生じるアレルギー性疾患の総称であり、主に季節性アレルギー性鼻炎(seasonal allergic rhinitis)とアレルギー性結膜炎(allergic conjunctivitis)を生じます。

現在、約60種類の花粉アレルギーが報告されていますが、患者数が最も多いのはスギ花粉症です。2008年の鼻アレルギーの全国疫学調査によると、アレルギー性鼻炎全体の有病率は39.4%であり、花粉症全体の有病率は29.8%、そしてスギ花粉症の有病率は26.5%でした。花粉症で悩む方の大多数にとっては、スギが天敵なのです。

これは、日本の森林の18%、国土の12%をスギ林が占めているためです。また、スギ花粉症の抗原であるスギアレルゲン(Cry j 1、Cry j 2)とヒノキアレルゲン(Cha o 1、Cha o 2)とは交差反応性が強いため、スギ花粉症とヒノキ花粉症は合併することが多いと言われています。

樹木の花粉では他にシラカンバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ、ケヤキ、コナラ、クヌギなどがあります。シラカンバ花粉症などの中には、下記のような症状が出ることがあります。

・皮膚が荒れる
・咳や喘息が起きる
・バラ科(リンゴなど)の果物を食べると口の中が腫れるもしくは痒くなる。

次に多いのがイネ科植物のカモガヤ、オオアワガエリなどで、キク科のブタクサ、オオブタクサ、ヨモギや、アサ科のカナムグラなどもあります。植物によって飛散する時期が異なります。花粉カレンダーなどで大体の情報を知っておくと、予防や症状の緩和に役立ちます。<表>をご参照ください。

<表>花粉カレンダー(鼻アレルギー診療ガイドライン2013年より改変・転載)

スギ花粉症

さて、これから花粉症の中でも特に大多数を占めるスギ花粉症についてお話ししていきたいと思います。

飛散までの流れ

スギの雄花は例年7月から8月にかけて作られます。この時期の日照時間が長く、さらに気温が高いと雄花の量が多くなります。逆に、冷夏や長雨の場合は雄花が少なくなり、翌年の花粉量の減少につながります。

雄花は11月頃までに完成し、中に大量の花粉が作られます。その後低温や昼間の時間が短くなることで活動を休止し、休眠に入ります。そして、一定期間低温にさらされることで休眠から覚め、開花の準備期間に入ります。この開花準備期間内、暖冬であれば早めに開花し、寒冬なら開花は遅れます。

スギ花粉の飛散時期

日本気象協会は1990年からスギ花粉の飛散予測を発表しています。日本気象協会の花粉飛散予測は前シーズンの花粉飛散結果や今後の気温予測などの気象データをもとに、全国各地の花粉研究会や協力機関からの情報、花芽の現地調査の結果などを踏まえて予測しています。

花粉飛散開始日は、ダーラム法(又はロータリー法)で1平方センチメートルあたりの花粉数が2日連続して1個以上になった最初の日で、これにより本格的な飛散が開始したと考えられます。また、初観測日は、1月1日以降、ダーラム法(又はロータリー法)で計測視野内に1個でも花粉が観測された最初の日と設定されています。スギの開花日は個体差があるため、飛散開始日前であっても計測にかからない程度の少量の花粉が飛ぶ場合があります。

花粉症のピークは、一般的には2月から4月と思われています。しかし、意外なことに量・種類とも多いのはその後の5月です。地域別のカレンダー情報からも分かるように、花粉症を引き起こす植物は様々です。植物の種類ごとに花粉症の症状は違うため、事前に確認して対策を立てておきましょう。

花粉症増加の原因を考える

花粉症の患者さんが増加した背景には、花粉症の原因で最も多い「スギ」が戦後の植林事業の結果として各地に植えられたことが関係しています。現在のスギの生育状況から、花粉の飛数量は2050年には現在の1.8倍に増え、花粉症の患者さんも飛数量に比例し増加していくと予想されています。

その他、母乳から人工栄養への切り替え、食生活の変化、腸内細菌の変化や感染症の減少、大気汚染や喫煙なども花粉症患者の増加に影響していると指摘されています。これらの要因のうち、最近の研究では花粉症の症状を悪化させる可能性があるものとして、空気中の汚染物質やストレスの影響などが考えられています。

I型アレルギーとは

アレルギー性鼻炎は、鼻粘膜のI型アレルギー性疾患で、原則的には発作性反復性のくしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉を3主徴とします。I型アレルギー性疾患はアレルギー素因(アレルギーの既往症、合併症、家族歴)をしばしばもち、血清特異的IgE抗体レベルの上昇、局所肥満細胞、および局所と血液の好酸球の増加、粘膜の非特異的な過敏症亢進などの特徴があります。

またアレルギー反応には即時相反応と遅発相反応があります。即時相反応は鼻に花粉が入るとくしゃみ・鼻水が出て、その後鼻づまりが起こります。遅発相反応は鼻の粘膜が花粉に繰り返しさらされることによって、その後に家の中など花粉がない場所に移動しても鼻づまりが続きます。

スギ花粉症の発症機序

鼻の機能として、呼吸する空気の加温、加湿、防塵がありますが、鼻は空気を清浄化し、その空気を肺に送り込む役目を持っているため、鼻腔粘膜の表面には線毛があり、スギ花粉が鼻孔から入ると表面の粘液に花粉をくっつけます。表面についた花粉は鼻の粘膜にある線毛の働きにより、鼻の奥に運び出されます。運び出されなかったスギ花粉がアレルギーの原因となるタンパク成分(Cry j 1、Cry j 2)を鼻の粘膜に浸透させていきます。

花粉抗原(Cry j 1、Cry j 2)が鼻の粘膜内に入ると、粘膜組織に存在する免疫細胞(樹状細胞あるいはマクロファージ)に抗原提示が行われ、ヘルパーT細胞により認識されます。さらに抗体産生細胞であるB細胞に抗体を作るように情報が送られ、B細胞が形質細胞に分化して花粉に対するスギ特異的IgE抗体を作ります。これがアレルギー反応の感作induction phase(誘導相)という最初の段階です。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギー、アナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応では15分から30分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示します。関与する免疫グロプリンはIgEですが、一部IgG、特にIgG4(short term skin sensitizing IgG: STS-IgG)も関与すると言われています。

血中や組織中のマスト細胞および好塩基球の表面にある高親和性IgE受容体(FcεRI)というレセプターに結合したIgE抗体にアレルゲンが結合することによって、レセプターを介してマスト細胞、好塩基球からヒスタミンをはじめとする種々の化学伝達物質が遊離します。そして、各組織において平滑筋収縮、血管透過性亢進、腺分泌亢進などをきたします。結果として、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどのアレルギー症状を発症effector/eliciting phase(反応相)します。

反応相はさらに即時相と遅発相に分けて考えられています。即時型アレルギー反応が終わった数時間後に、同じ部位に同様の反応が生じる場合があります。この反応をⅠ型アレルギー反応の遅発相,または遅発相反応と言います。これはTh2細胞が優位の反応であり、Th1細胞が優位であるCoombsの分類の遅延型(Ⅳ型)アレルギー反応とは異なるメカニズムによるものです。

遅発相反応は、アレルギーの細胞から放出されるロイコトリエンなどの物質が神経や血管を刺激するために発現します。鼻粘膜の知覚神経が刺激されるとくしゃみが起こり、その反射で鼻汁が出ます。鼻づまりは、血管の拡張と血管からの水分の放出により鼻が腫れるために起こります。一方、目の痒みはヒスタミンなどが神経を刺激することにより生じます。

Ⅰ型アレルギーの発現には、アレルゲン刺激によりマスト細胞、好塩基球から遊離されるケミカルメディエーター(化学伝達物質)が必須です。ケミカルメディエーターには、アレルゲン刺激以前から細胞内の好塩基性顆粒にすでに存在し、①アレルゲン刺激による脱顆粒によって遊離されるもの(preformed mediators)と、②細胞が刺激されて細胞膜の脂質より産生・遊離されるもの(newly generated mediators)があります。

①Preformed mediatorsにはヒスタミンなどがあります。②newly generated mediatorsには、一連のアラキドン酸代謝産物のうち、シクロオキシゲナーゼ代謝系産物のプロスタグランジン(PGs:PGD2、PGE2、PGF2αなど)、トロンポキサンなどと、リポキシゲナーゼ代謝系産物のロイコトリエン(LTs:LTC4、LTD4、LTE4、以前はSRS-A:slow reacting substance of anaphylaxisと呼ばれていた物質)とがあります。

また、PAF(platelet activating factor、血小板活性化因子)はウサギのマスト細胞から遊離し、ウサギのアナフィラキシー反応を引き起こす物質として注目を集めました。現在では、ヒトにおいてもアレルギー反応の重要なメディエーターと考えられています。

さらに、上記のマスト細胞やT細胞から遊離されるメディエーターやサイトカインなどによりアレルギー反応の局所に遊走してきた炎症細胞から遊離・分泌されるメディエーターも、アレルギー反応に重要な役割を果たしております。

好酸球からはLTsやPAFなどのほかに、顆粒中のMBP(major basic protein)、EPO(eosinophil peroxidase)、ECP(eosinophil cationic protein)などを遊離して気道粘膜の傷害を引き起こし、迷走神経末端の露出、irritant受容体の刺激、軸索反射による神経未端からのサブスタンスーP、ニューロキニンA, B、CGRP(calcitonin gene-related peptide)などのニューロペプチドの遊離をもたらしアレルギー性炎症に関わっています。

<図>鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版).ライフ・サイエンスより

発症機序のまとめ

最後に、アレルギー疾患が発現する機序をまとめます。体液性免疫では、①抗原(アレルゲン)と免疫担当細胞との接触、②T・B細胞協調作用による抗体産生、③抗原・抗体反応によるエフェクター細胞の活性化、④エフェクター細胞からのケミカルメディエーター、サイトカイン放出により、臓器でのアレルギー反応の出現となります。

一方、細胞性免疫では、①抗原によるT細胞の感作、②感作T細胞と抗原との結合、③感作T細胞からのサイトカインの産生、④サイトカインによるほかの細胞の活性化とさらなるサイトカイン産生、⑤サイトカインによるアレルギー反応の出現という順に成立します。

今回は花粉症の発症メカニズムについてお伝えしましたが、後編(※2月21日配信)では花粉症における具体的な治療法を中心にお話しします。





<参考文献>

  • 関眞規子 花粉症の背景.順天堂医学2000.46(1)22-26
  • 花粉症環境保健マニュアル-2014年1月改訂版-環境省環境保健部環境安全課発行https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/manual.html
  • 川内秀之,青井典明,片岡真吾,村田明道,山田高也 アレルギー性鼻炎・花粉症の病態解明と治療戦略の確立―環境衛生仮説から遺伝子治療まで―.耳展.2008. 51.1.8-25
  • 石井保之 スギ花粉症の予防・治療ワクチン.日薬理誌.2010.135,250-253

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