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幹細胞培養上清液治療の可能性

この記事の執筆者

クリスタル医科歯科クリニック

近年、日本でも幹細胞培養上清液が多く使用されるようになってきました。副作用も少なく安全に、また様々な方法で投与が行えるため、臨床応用の可能性が大きく広がっています。

本稿では、傷ついた細胞や組織を修復し、機能回復も見込める幹細胞培養上清液の基礎を説明いたします。

「幹細胞」とは?

幹細胞は自己複製能や多分化能を持っていて、筋肉、心筋、骨・軟骨、血球、皮膚、神経、肝臓、血管、脂肪など様々な組織に分化していきます。代表的な幹細胞には、以下の3種類があります。

①受精卵の中にあるES細胞
②山中教授が世界で初めて作成に成功したiPS細胞
③からだの各種臓器にある体性幹細胞

③の体性幹細胞を培養すると、上澄み液の中に大量のエクソソームやケモカイン(1)などのサイトカインが含まれます。


(1)白血球を遊走させる時に必要となる分泌タンパク質。

サイトカインの種類と特徴

サイトカインには、bFGF(血管新生、組織修復)、EGF(組織修復)、PDGF(皮膚細胞の再生)、IGF-1(コラーゲンやエラスチンの産生)などがあります。これらのサイトカインを含む幹細胞培養上清液を用いて治療すると、体内の損傷を受けた臓器や細胞の機能回復を促し、老化などで傷つき機能が衰えた細胞の修復を行います。

さらにサイトカインには、周りの細胞に影響を及ぼすユニークな効果があります。「細胞から分泌されたサイトカインが、分泌した細胞そのものに作用すること」をオートクライン効果、「細胞から分泌されたサイトカインが近隣の細胞に作用すること」をパラクライン効果、「細胞からの分泌物が大循環を介して遠方の細胞に作用すること」をエンドクライン効果といいます。

また、幹細胞は投与されると体内を循環し、問題がある組織からのSOS信号を受けて、血流に乗った幹細胞が集まってきます。これをホーミング効果といいます。指示を受けた幹細胞が血管壁を超えて傷ついた組織へと向かい、多分化能と分裂を繰り返して傷ついた組織を修復していくのです。

ホーミング効果は「幹細胞そのものが、傷ついた箇所へ集まって修復していくこと」を指しますが、培養上清液に含まれるサイトカインでも同じホーミング効果が得られるのではないかと 考えられています。

幹細胞培養上清液治療で期待される効果

幹細胞培養上清液治療では、以下の効果が期待されます。

  • 抗炎症作用
  • 血管再生、血管新生作用
  • 活性酸素除去作用
  • 免疫調整作用
  • 脳の活性化
  • 美容作用 など

また、以下の多岐にわたる症状において改善が見込めます。

  • 頭痛・めまい
  • 慢性疼痛
  • 創傷・治癒の促進
  • 心筋梗塞
  • 脳梗塞
  • しびれ
  • 視力低下
  • 肌荒れ
  • 歯周病・歯肉炎 など

LOX-index(ロックス・インデックス:将来の脳梗塞・心筋梗塞の発症リスクを判定する血液検査)は血管内皮障害マーカーで、近年では人間ドックでもよく使用されるようになってきました。

ストレスやタバコの影響で酸化した変性LDL(悪玉コレステロール)と、変性LDLの受け皿である血管内のLOX-1が結合することで動脈硬化が進行することがわかっています。LOX-indexの数値が高いと脳梗塞の発症率が通常の3倍、心筋梗塞では約2倍に跳ね上がると言われています。

幹細胞培養上清液を複数回投与するとLOX-indexは下がっていきますが、これは幹細胞培養上清液を投与することで動脈硬化が改善されたことを示します。

幹細胞培養上清液治療のこれから

再生医療には3つの種類があります。

第1種は、ES細胞やiPS細胞、他人の幹細胞を培養し て治療を行う場合です。第2種は自分自身の幹細胞を培養して治療を行う場合で、例えば自分の脂肪を採取して培養する脂肪幹細胞治療があります。第3種は、幹細胞培養上清液を使った治療になります。

第1種、第2種の幹細胞治療は効果の持続性が高いですが、コストも高く、がん化のリスクがあります。一方、第3種の培養上清液は効果の持続性がやや短いため、効果を持続させるには繰り返し投与する必要があるものの、コスト・リスクともに低い治療法と言えるでしょう。

また、培養上清液は静脈投与のほか、局所注射(薄毛治療、ED治療)、点鼻、点眼、塗布(肌質改善)など色々なアプローチが可能です。そのためケロイドや認知症、線維筋痛症など従来の治療では改善が困難だった症例にも応用できる可能性があります。

今回ご紹介した幹細胞培養上清液治療は副作用もなく比較的簡便に投与できるため、今後、治療への応用や用途の拡大が期待されます。

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