がんは様々な要因が重なり数年以上経過したのち、臨床上問題になるがんが発生します。とりわけ生活習慣の基本である食事や栄養といった環境要因が大きく作用します。
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がんと栄養療法:がんと食習慣の深い関わり
がんの発生および進行のリスクを抑制するには、栄養療法として留意すべき重要な点が3つあります。
それは以下の通りです。
- 重金属、農薬、化学物質などの毒物をできるだけ体内に入れないようにし、早く体内の毒物を解毒することによって遺伝子傷害を回避し細胞の正常な働きを維持します。
- 炭水化物(糖質)・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルなどの栄養素を適切に消化および吸収し、正常細胞環境を整えることです。場合によってサプリメントを利用します。
- がんとの闘いに勝利するために最も重要なのは、がん免疫を正常に維持し、さらにがん免疫を向上させることです。
これら全ての働きを進めているのは、腸内細菌叢(腸内フローラ)です。がんの特徴を踏まえ、腸内フローラを育てるために穀菜食を中心とした日本食をアレンジし、糖質(特に単糖類)を過剰に摂取しないこと、野菜、食物繊維を十分に摂取すること、獣肉、牛乳、乳製品はできるだけ控えること、精製塩は控えめにすること、などを基本にしていくことが必要です。プロバイオティクスを利用することもあります。
今までの食習慣を変えることは難しいですが、種々のがん治療が有効に作用するためには栄養療法が基本となります。
がんの特徴をつかむことが克服への第一歩
がんの発症予防・再発・転移阻止には、がんの特徴をつかみ、それに応じた栄養療法を行うことが重要です。
がんの特徴として、主に嫌気性解糖系(代謝過程で酸素を利用しない)を利用して分裂・増殖し、低体温、酸性環境、塩分(Na)の多い環境を好み、慢性炎症状態で増殖しやすく免疫が抑制されています。
すなわち、がんを克服する上では以下の4点が大切になります。
1.解糖系をブロックする
2.ミトコンドリアを活性化する
3.免疫力を増強する
4.細胞環境を適正化する
がんの栄養療法において重要な3つの要素
また、臨床上でのがんの栄養療法においては ①解毒 ②消化吸収 ③免疫力増強 が重要になります。
①解毒
まず、1つ目の「解毒」について解説します。重金属、農薬、化学物質など毒物をできるだけ体内に入れないようにします。そして体内の毒物を早く排泄することにより、遺伝子傷害を回避して細胞の正常な働きを維持します。具体的には、以下の3点を意識して下さい。
(1)水銀、カドミウム、鉛、ヒ素、ニッケルなどの重金属汚染物質を食物(主に大型魚)、歯科金属などから体内に入れないこと。
(2)農薬、遺伝子組み換え作物、食品添加物をできるだけ避けること。
(3)抗生物質、ホルモン剤などの薬剤に注意すること。
②消化吸収
2つ目の「消化吸収」では、炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を食物から適切に消化吸収し、正常細胞環境を整えます。場合によってはサプリメントの利用も有効でしょう。
各栄養素の摂取時に留意したいことを具体的にお伝えします。
炭水化物(糖質)
単糖類・二糖類は控えます。一方、デンプン(穀類、特に玄米)、オリゴ糖などの少糖類・多糖類は腸内フローラの発育に必要になります。食物繊維も腸内フローラを育て、腸内環境を整えるために役立ちます。また、解糖系をブロックするハーブを使用することもあります。
脂質
炎症を促進させるアラキドン酸※1 などのオメガ6系脂肪酸を控えめにし、オメガ3系脂肪酸である亜麻仁油やエゴマ油、そしてEPA・DHAを多く含む魚油を多めに摂る方が良いでしょう。
マーガリンをはじめとするトランス脂肪酸は、がんのみならず様々な疾患のリスクを増やすので極力避けるようにしましょう。
※1:魚・肉・卵などの動物性食品に多く含まれる脂肪酸。
タンパク質
タンパク質は、生体構造・酵素・細胞機能に重要な働きを持ち、正常細胞環境を整えるために重要な栄養素です。
ただ、日本人はタンパク質の消化能力が低く、未消化な状態で腸に達する傾向があります。そのため、リーキーガット症候群やSIBO(小腸上部細菌増殖症)などによる食物不耐症や腸内フローラの乱れが起こり、これが慢性炎症や免疫異常のきっかけにもなります。したがって、がんとの闘いにおいては不利な状態となります。
この点からも、牛乳・乳製品・不適切な配合飼料(抗生物質、ホルモン剤、遺伝子組み換え作物)を食べている動物の肉などには注意する必要があります。それよりも有機の大豆・味噌・醤油・納豆などの発酵食品を食することが、とりわけホルモン依存性のがん(乳がんなど)の予防および進行抑制に役立ちます。
ビタミンC・ビタミンD
ビタミンCを大量に点滴注射することにより、がん細胞において過酸化水素が発生し、生存率を低下させる可能性があります。また、定期的なビタミンC内服によって免疫改善や酸化ストレス軽減などの正常細胞環境を良好にします。
そしてビタミンD(25(OH)ビタミンD3)は、治療目標とする血中濃度により抗がん作用を発揮します。
ミネラル
数多くあるミネラルの中でも、特に重要なのがマグネシウムと亜鉛です。マグネシウムは傷害されたDNAの修復、ミトコンドリア機能、そしてATP産生に関わっていて、大腸がんとの関連が指摘されています。
亜鉛は活性酸素除去酵素、DNA修復、免疫の活性化に関与し、食道がんの生存率にも関わっています。
野菜・果物
野菜や果物の中には、抗がん作用や免疫力向上の作用が認められるものが含まれていることがあり、これらは“ファイトケミカル”と呼ばれます。
代表的なファイトケミカルには、
- クルクミン(ウコン)、アントシアニン(ブルーベリーやナス)などのポリフェノール
- ブロッコリーやキャベツといったアブラナ科野菜に含まれるイソチオシアネート、アリシン(ニンニクやネギ)などの有機硫黄化合物
などがあります。
また、ルテイン(ホウレンソウ)やリコペン(トマト)などのテルペノイドは抗酸化作用や抗がん作用を示し、フラボノイドの一種であるケルセチン(タマネギ)にも抗がん作用が認められています。
③免疫力増強
最後は「免疫力増強」についてです。がんとの闘いに勝利するために最も重要なのは、がん免疫を正常に維持すること、さらにがん免疫を向上させることです。サプリメントを利用する場合もあります。
シイタケ、マイタケなどのキノコ類に含まれるβ-グルカン(食物繊維の一種)、もずくなどの海藻類に含まれるフコイダンには免疫力向上作用があります。
腸内環境の悪化は「万病の元」?腸内フローラを整える2つの方法
これまで上げた①②③全ての働きを進めているのは、腸内細菌叢(腸内フローラ)です。
腸内構成細菌の偏りと多様性喪失による腸内環境悪化(ディスバイオシス)は、免疫力だけでなく、栄養素の代謝、食物繊維の分解、短鎖脂肪酸やビタミン類の産生など多様な働きを阻害し、正常細胞環境を悪化させ、ひいてはがんの発生や進行に大きな役割を果たしています。
ディスバイオシスを改善するには、以下2つの方法があります。
- プロバイオティクス:宿主の健康に好影響を与える生きた微生物菌体を服用する方法(乳酸菌製剤や発酵食品などを利用する)
- プレバイオティクス:消化管に常在する有用な細菌を選択的に増殖させ、有害な細菌の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分(オリゴ糖類や食物繊維類など)を摂取する方法
もし、これらの方法で改善を得られない場合は、腸内フローラ移植を選択することも1つの方法です。
まとめ
がんの予防から発症後の進行および転移予防まで、あらゆる時期において食事・栄養療法は基本となるものです。医療者には長年の食事、栄養、そして腸内フローラのアンバランスにより、がんが発生もしくは進行したという認識を持って指導を行ってほしいと思います。
<参考文献>
- Routy B, Le Chatelier, E, Derosa L, et al.: Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors. Science 2018; 359(637): 91-7.
- Robert L. Thomas, Lingjing Jiang, John S. Adams, et al.: Vitamin D metabolites and the gut microbiome in older men. Nature Communications volume 11, Article number: 5997 (2020)
- ケリー・ターナー:がんが自然に治る生き方(プレジデント社)
- ジェイン・プラント:乳がんと牛乳(径書房)
- アントニオ・ヒメネス:HOPE for CANCER(株式会社ネオアクシア)
- 腸内フローラ移植臨床研究会(The Association for Clinical Research of Fecal Microbiota Transplantation Japan) https://fmt-japan.org/
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