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新たに注目される“腸内フローラ移植”とは

人間の体細胞数は37兆個ですが、私たちと共生している腸内細菌は約100兆個、体全体ではなんと約1000兆個も存在すると言われています。また、遺伝子の数は人間で約2万2千個に対して、腸内細菌の遺伝子総数は2000万個以上と言われ、1000倍の遺伝子が存在しています。これらの腸内フローラ(腸内細菌叢)が、①代謝のお手伝い、②免疫力を司り、③腸と各臓器間の通信を行い、④有用物質の産生を行っています。

このエコシステムの破綻により、精神神経疾患(うつ、自閉症など)、消化器疾患(過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎など)、自己免疫疾患(関節リウマチなど)、アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎など)、がん、動脈硬化性疾患、腎疾患などの種々の疾患を発症することになります。この腸内フローラバランスを改善する従来の治療法には「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」が用いられてきました。

そして近年、新たな治療法として“腸内フローラ移植(糞便微生物移植)”が注目を浴びており、有効な症例が出てきています。

はじめに

私たちと共生している腸内細菌は、約100兆個、遺伝子総数は2,000万個以上(ヒトの1,000倍)と言われています。これらの腸内フローラ(腸内細菌叢)は、①代謝を助け、②免疫を司り、③腸と各臓器間の通信を行い、④有用物質の産生を行っています。まさしく、腸内細菌と私たちは共生して超生命体(superorganism)を形成しています。このエコシステムが破綻すると、精神神経疾患(うつ、自閉症など)、消化器疾患(過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎など)、自己免疫疾患(関節リウマチなど)、アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎など)、がん、動脈硬化性疾患、腎疾患などの種々の疾患を発症することになります。

腸内細菌と免疫

腸内細菌は、体全体の免疫システムの7割を占めるとされています。その免疫異常、崩壊により慢性炎症を起こし、様々な疾患に発展すると考えられています。慶応大学の論文では、17菌種のクロストリジウム属菌(クラスターⅣ、XⅣa)がTreg(抑制性T細胞)を誘導し、マウスの下痢、腸炎を抑制することが示されています1

また、その上流には口腔内細菌が関与し、病的口腔細菌が腸内フローラのバランスを崩し、腸管免疫機能に影響を及ぼすことにより炎症を惹起するものと考えられています2)。最近では、腸内フローラが免疫チェックポイント阻害薬の効果に影響を及ぼすという論文も出ています3)

ディスバイオシス(腸内細菌叢の乱れ)の改善

腸内構成細菌の偏りと多様性喪失による腸内環境悪化というディスバイオシスは、私たちの健康維持にとって重要な問題です。このディスバイオシスを改善するには、以下の方法が一般的です。

プロバイオティクス※1の服用。※1宿主の健康に好影響を与える生きた微生物菌体

プレバイオティクス※2の摂取。※2消化管に常在する有用な細菌を選択的に増殖させたり、有害な細菌の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分(オリゴ糖類、食物繊維類など)         

しかし、それによっても腸内フローラバランスが改善せず、治療に難渋する場合は、FMT(腸内フローラ移植、糞便微生物移植)という特殊な方法が用いられています。

FMT(Fecal Microbiota Transplantation)の歴史と適応疾患

4世紀の書物に、Ge Hong(中国)が急性下痢症患者にYellow Soupという健常人の糞便を投与したという記録が残っています。2013年、再発性Clostridium difficile感染症(CDI)患者でFMTを行い、抗生物質単独投与群と比べて圧倒的な有意差で再発抑制と腸内フローラの多様性の回復が証明されました4)。これを契機として、世界的にFMTが各疾患に試みられることになりました。

消化器疾患においては、主に潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群において、日本や世界で臨床試験が行われていますが、必ずしも高い有効率が示されているわけではありません。また、消化器疾患以外においても、インスリン抵抗性の改善、脳腸相関による精神神経疾患の諸症状とりわけ自閉症の改善5、自己免疫疾患(関節リウマチなど)、アレルギー疾患に対する有効性が報告されています。

FMTの実際

各大学でFMTを行う場合、下剤などによる前処置を行い、下部消化管内視鏡を用いて盲腸に新鮮便懸濁液を投与するのが代表的な方法です。しかしながら、このやり方では患者に負担を強いることになるため、欧米ではカプセル化や複数のドナーからの糞便のカクテル化なども検討されています。

私たち腸内フローラ移植臨床研究会6では、特殊菌液(ウルトラファインバブル)を使って注腸方式によって簡便に施行する方法を採用しています。また、移植する便は、その疾患、症状に応じて、厳しい検査を通過したボランティア・ドナーの便を用いています。

腸内環境の重要性とFMTの可能性

私たちは、地球上のすべての生物と共生関係にあります。特に腸内細菌との関係は、私たちが健康を維持していく上で極めて重要です。種々の疾患には、ディスバイオシスが関係していることが多く、腸内環境を良好に保つ栄養面での配慮が必要です。そして、治療に行き詰まった時にはFMTという選択肢も考慮に入れるべきであると考えます。





<参考文献>

(1)Atarashi K, Tanoue T, Oshina K, et al.: Treg induction by a rationally selected mixture of Clostridia strains from the human microbiota. Nature 2013; 500(7461):232-6.
(2)Arimatsu K, Yamada H, Miyazawa H, et al.: Oral pathobiont induces systemic inflammation and metabolic changes associated with alteration of gut microbiota. Sci Rep 2014;4:4828.
(3)Routy B, Le Chatelier, E, Derosa L, et al.: Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors. Science 2018; 359(637): 91-7.
(4)van Nood E, Vrieze A, Nieuwdorp M, et al.: Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile. N Engl J Med 2013; 368: 407-15.
(5)Kang DW, Adams JB, Coleman DM, et al.: Long-term benefit of microbiota transtherapy on autism symptoms and gut microbiota. Sci Rep 2019; 9(1): 5821.

<参考ウェブサイト>
(6)腸内フローラ移植臨床研究会(The Association for Clinical Research of Fecal Microbiota Transplantation Japan)https://fmt-japan.org/