ログイン 会員登録

世界を席巻するファスティング、間欠的ファスティング

この記事の執筆者

ごきげんクリニック浜田山

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

ファスティング(断食)と聞いて、どんなイメージがありますか?

ここ数年、世界を牽引するアメリカの栄養学会、先進医療学会、機能性医学会、アンチエイジング学会で、(間欠的)ファスティングが脚光を浴びています。その理由としては、いつでも好きなものを好きなだけ食べられる“飽食・過食”の時代に、ファスティングによって得られる様々な良い効果が科学的に証明されてきたためです。

人間が進化の過程で生き残るために発達させた、細胞危険応答(CDR:体のありとあらゆる代謝が変化し、細胞と宿主を害から守る反応)が異常に長引くと、炎症やその他様々な慢性疾患を引き起こすと考えられています。ファスティングは、この反応を健康的な方向へ逆転させることができます。細胞危険反応の逆転は、体の代謝の変化を語る上でパラダイムシフトとも言えます。これにより栄養素をバランス良く使うことができるようになり、全身の代謝、腸内細菌叢が整い、行動さえも改善し、慢性疾患や老化を予防し、改善することができるのです。

ファスティングの効果

「ファスティング」。日本語で言うと断食ですが、その健康効果は実に様々です。まずその一つとして、2型糖尿病に代表されるようなインスリン耐性の予防・改善が挙げられます。食べ物を食べないことで、血糖値やインスリンの上昇を防ぎ、慢性的なインスリン過剰によるインスリン耐性を予防することができます。

インスリン耐性は2型糖尿病の発症に影響を及ぼすことが知られています。また、インスリン耐性は、他にも下記に挙げる慢性疾患の原因となる恐れがあるので、糖尿病でなくても注意が必要です。

<インスリン耐性が影響する疾患>
心臓病、血管病、脳梗塞、アルツハイマー、コレステロール上昇、高血圧
肥満、脂肪肝、痛風、動脈硬化、閉塞性睡眠時無呼吸、ガンなど

また、ファスティングは最も自然に成長ホルモンを増やす方法でもあります。逆に、過食は成長ホルモンを80%も抑制します。成長ホルモンは筋肉や骨の強度を増したり、リポプロテインリパーゼなどを上昇させ脂肪の燃焼を促進します。そのため、低下すると骨や筋肉量が減る一方で脂肪が増え、老化を促進してしまいます。この点を踏まえると、ファスティングの支持者にボディビルダーが多いのも納得です。

その他にも、脳神経の成長を助け記憶の保持に重要な、BDNF(brain derived neurotrophic factor)の効果を増強させ記憶力を改善したり、古い細胞や“出来損ない”の細胞をリサイクルするオートファジーを活性化することで、ガンやアルツハイマー病などの予防に重要な役割を果たします。オートファジーは、インスリンや血清グルコース、タンパク質が上昇している状態では行われず、たった3gのロイシンでもオートファジーは停止してしまうと報告されています。

ファスティングによくある誤解

ここで、ファスティングに関してよくあるご質問にお答えします。

ファスティングは危険?

7日間を超える長期のファスティングにおいては、水だけでなく自家製のボーンブロスなど、リンや他ミネラル、ビタミン、タンパクが必要になることはありますが、長期のファスティングでも電解質異常を起こすエビデンスはありません。

例えば、ナトリウムやクロールは、腎臓で必要な分は再吸収できるため、塩を必要とすることは稀です。そして、他にカルシウムやリン、マグネシウムは骨に99%貯蔵されており、ファスティング中も尿や便として排泄されますが、その量はかなり少ないと言われています。

ただし、小児や妊婦、授乳婦は必要量が上がっているので、その意味でファスティングは推奨されません

空腹感が辛い?

ファスティングを始めてから1日、2日目は空腹感を感じる可能性はあります。それも3日目以降になれば、お腹が空いたと感じさせる「グレリン」というホルモンが下がるため、空腹を感じにくくなります。また、この頃になるとエネルギー源が糖から脂肪に切り替わるため、血糖値も安定します。血糖値が安定化することで、さらに空腹感が減ります。

代謝が下がるのでは?

ファスティング中はアドレナリンが上昇したり、睡眠時のエネルギー消費が通常よりも12%上昇し、代謝が逆に上がるという報告があります。糖を体の燃料として燃やしている状態から、脂肪を燃やす状態に変化するということですね。

筋肉量は落ちない?

体脂肪率が4%を切ると、脂肪から筋肉へエネルギー源がシフトします。一般に男性のマラソン選手の体脂肪率は約8%(女性はそれ以上)と言われていますから、体脂肪率が4%よりも低い方はなかなかいないのではないでしょうか。また、ファスティング中はタンパク消費が下がり(通常のタンパク分解は75g/日、ファスティング中は15~20g/日)、成長ホルモンやアドレナリンは増加するため、筋肉量を増やしたいアスリートにもファスティングは支持されています。

最新の代謝研究とファスティングの関係

2014年、慢性疾患の原因や機序を理解するにあたり「CDR(細胞危険応答)」という新しいパラダイムを提供する論文が、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部のロバート・ナビオー教授によって発表されました。このパラダイムは、ファスティングがどのように私たちの健康に利益をもたらすかをわかりやすく示してくれています。

私たち人類は数千年に渡り、生き残るために2つの代謝システムを進化させてきました。夏に食物が豊富だった時期には、私たちの先祖は様々な食べ物を蓄え体重を増やし繁栄しました。季節が変わり、冬になって食料が不足すると、夏に比べてはるかに少ない食料でも生き延びられるように、夏とは代謝システムを変化させることで対応しました。

つまり、⑴夏の栄養素をたくさん使い、体の成長を促進させる代謝 と、⑵冬の少ない食物で損傷したタンパク質や脂質、DNAやRNAを修復して再利用する抗炎症性の代謝 の2つを行き来することで、バランスを保ち健康を維持してきました。

しかし、現代のこの飽食の社会では、“終わりのない夏”とも言える代謝状態で私たちは日々生活をしています。好きな時に好きなものを好きなだけ食べることができ、冬の代謝システムへの移行ができなくなったのです。その結果として、肥満や炎症をはじめ様々な慢性疾患を引き起こしています。ファスティングは、冬の代謝への移行を刺激し、私たちが本来持つべき健康を取り戻す手助けをしてくれます。

CDR(細胞危険応答)が夏と冬の代謝にどう影響するか、下に図で示します。<図1>※上が冬の代謝で、下が夏の代謝です。

<図1>


細かい内容なので、抜粋して簡単に説明しましょう。例えば、夏の代謝が続くと以下のような反応の原因となります。

・ストレスホルモンであるコルチゾールの生成が増加する。

・活性型ビタミンD濃度が低下し、炎症や自己免疫のリスクを直接増加させる。

・アレルギー反応の原因となるヒスタミンの生成が増加する。

・様々な神経伝達物質やホルモンの生成に重要なメチル化、メチレーションが低下する。

・トリプトファンの代謝が変化する。結果、炎症が誘発されたり、うつや不安の原因となる物質が増加する。

・有害金属の蓄積が増加する。

・腸内細菌叢が大きく変化し、リーキーガットの原因となる。

日々の生活に取り入れやすい、間欠的ファスティング

ここまでファスティングのメリットをご紹介してきましたが、やはり断食と聞くと自分にできるか不安になる方もいらっしゃると思います。そんな時は、短期間のファスティングがおすすめです。「プチ断食」と呼ばれたりもしますが、1日のうち食べ物を食べない時間を作る間欠的ファスティングのことを示します。生活をファスティングに合わせて変えるのではなく、ファスティングを柔軟に変更して自分の生活に取り入れることを検討してみてくださいね。

例えば、仕事が忙しくて朝食を食べる時間がなかったという日は、その間ジュースやお菓子を食べず、水やお茶で過ごすことができれば、“12~16時間ファスティング”をしていることになります。

ちなみに、12時間ファスティング(12時間以内に食事を取る)でも16時間ファスティング(=8時間以内に食事を取り、朝食を抜く。ボディビルダーの間ではリーンゲインズメソッドと呼ばれるファスティング)、20時間ファスティング(1日1食)でも、ファスティングの効果は期待できます。ファスティング自体に慣れて余裕が出てきたら、<図2>のような24時間ファスティングや36時間、42時間ファスティングに挑戦してみても良いでしょう。

ファスティング中にお腹が空いたら、水を十分取ることで気を紛らわすことができますし、お茶やコーヒーには食欲を抑える働きがあります。頭痛がある場合には、岩塩やシーソルトを少し舐めてミネラルを補給してみて下さい。くれぐれも塩分の摂り過ぎには注意しましょう。ファスティング前後の食事は、精製された炭水化物や加工食品は避け、ホールフードを時間をかけて少量ずつ食べ始めてみると良いですよ。

<図2>

あらゆる場所に食べ物が溢れていて過食になりがちな現代の食生活の中で、私たちが元々持っているはずの健康的な体の働きを取り戻すために、ファスティングはとても効果的です。様々な体の不調の予防や改善に、是非ファスティングを生活の中に上手に取り入れてみて下さい。





<参考文献>

  • Robert K. Naviaux : Metabolic features of the cell danger response. Mitochondrion 2014 May; 16:7-17.
  • Jason Fung, Jimmy Moore. The Complete Guide to Fasting Victory Belt Publishing Inc.
  • Neil Nathan. Toxic. p132-135. Victory Belt Publishing Inc.

前田 陽子 (マエダ ヨウコ)先生の関連動画

同じタグの記事を読む