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母親のビタミンB12欠乏が子どもの発達に与える影響

この記事の執筆者

鎌倉元気クリニック

一般社団法人日本オーソモレキュラー医学会 代表理事。鎌倉元気クリニック 名誉院長。 杏林大学医学部卒、同大学院修了。 医学博士。杏林大学医学部内科助教授を経て、2000年〜2008年同大学保健学部救 ... [続きを見る]

オックスフォード大学薬学部の名誉教授であるデイビッド・スミス博士は、ビタミンB群と認知症や小児の発達に関する研究を行い、2022年には国際オーソモレキュラー医学会の名誉の殿堂入りを果たしました。

2018年、同博士は小児の発達にとってビタミンB12が非常に重要な役割を担っていることを小児医学研究の専門誌『Pediatric Research』に投稿しています。今回はこの内容についてご紹介いたします。

5歳児の身長は「妊娠時の母親の血漿ビタミンB12レベル」と関連している?

栄養問題による子どもの発育阻害は、世界中で少なくとも1億6500万人(2011年時点)に生じているとされ、高所得国の子どもの7%、低中所得国の子どもの28%に認められています。

栄養による発育阻害は様々な要因によって起きますが、母親への栄養の介入によって改善できる要素もあります。なかでも、乳児が母乳で育てられている時の微量栄養素であるビタミンB12のレベルが数年後の子どもの身長に関連することが注目されています。

ネパールの女性と子どもに関する研究では、母乳で育てられている乳児が出生後7ヶ月目に、母親と乳児から血液サンプルを採取しました。この時の母親と乳児のそれぞれの血漿総ビタミンB12の値と、母乳育児中の母親のビタミンB12摂取量は、その後の子どもが5歳になった時の身長に関係していました。

この時の母体のビタミンB12平均摂取量は0.8μgで、米国栄養摂取推奨量の2.6μgをはるかに下回っていました。一方、母体の血漿ビタミンB12濃度が欠乏症と定義される148pmol/L以下であったのは5%だけでした。

驚くべきことに母体の血漿ビタミンB12濃度は、5歳になった時の子どもの身長と正の相関を示していたのです。計算上、母体のビタミンB12摂取量が1μg増加する毎に、子どもの身長が1.7cm増加しました。(2)(3)

<写真>デイビッド・スミス博士

妊婦のビタミンB12欠乏は健康上のリスクを高める可能性も

11編のコホート研究によれば、ビタミンB12欠乏は妊娠前期の21%、中期の19%、後期の29%に認められました。ビタミンB12欠乏状態は、妊婦の健康に害を及ぼすというエビデンスが示されています。

例えば、ビタミンB12の欠乏は低中所得国や菜食主義者の割合が高い国ばかりでなく、高所得国においても妊娠中の糖尿病・肥満・貧血のリスクを高める要因になります。

また、妊娠中のビタミンB12欠乏は早産のリスクを高める可能性があります。さらにビタミンB12は他の栄養素と相互作用するため、B12が低値で葉酸が高値の場合は妊娠中の糖尿病・低出生体重児・インシュリン抵抗性、さらには6歳児における肥満のリスクを高めます。(4)(5)(6)

母体中のビタミンB12・葉酸レベルと子どもの神経管閉鎖障害

母体中のビタミンB12の状態は、妊娠中における胎児のビタミンB12の重要な決定因子となります。また、出生後に母乳で育てられていない乳児と比較し、母乳で育てられた乳児のビタミンB12は著しく低値です。

ビタミンB12の低下状態は、母乳とミルクを合わせて育てられている乳児の場合も発生するといわれています。ここで一番重要な問題は、母乳育児で育てられている乳児のビタミンB12低下状態が母乳の低いビタミンB12含有量によるものなのか、はたまた母乳自体が乳児のビタミンB12低下を引き起こすのかということです。

母親のビタミンB12の低下は、子どものいくつかの障害に関連することがわかっています。例えば、神経管閉鎖障害※1葉酸欠乏によって引き起こされることが知られています。

母親が正常値範囲でビタミンB12低値の場合、神経管閉鎖障害のリスク増加はほとんど生じません。ところが、葉酸を強化してもビタミンB12が低値だと「神経管閉鎖障害のリスクが高まる」と指摘されています。

実際に、インドでは神経管欠陥の有病率が非常に高くなっており(4.5/1000出生)、こうしたケースでは葉酸の状態こそ良好で​​ある場合が多いものの、ビタミンB12の状態が非常に悪いとされています。(7)


※1
:胎児に起こる脳や脊髄の先天異常。妊娠初期に生じる。

妊娠時のビタミンB12レベルと、子どもの認知機能障害・発達障害における相関

ある研究において「母親の妊娠中のビタミンB12が低かった9歳児は、同時期にビタミンB12が良好な母親の子どもよりも認知検査の成績が低かった」と報告されています。高所得国および低所得国双方の調査によると、母乳で育てられた乳児のビタミンB12欠乏による深刻な症状として、以下の症状が報告されています。

  • 筋緊張低下
  • 過敏性(いらつき)
  • 発達遅延
  • てんかん
  • 運動障害
  • 脳萎縮 など

このような子どもに対しては、できるだけ早い段階で治療を開始することが重要になります。これらの症状の多くは、ビタミンB12の投与によって(脳萎縮さえも)回復が期待されますが、長期的な認知障害が遷延する可能性もあります。

いくつかの観察研究で「母親と乳児のビタミンB12の状態は、将来の子どもの発達にとって重要である」との見解を報告しています。妊娠28週目の母親の血漿ビタミンB12濃度は、生まれた子どもが2歳になった時の精神的・社会的発達の指数と深い関連を示します。

北インドの12〜18ヶ月の子どもは、4か月前に測定された血漿ビタミンB12レベルが高くなるほど、精神発達指数スコアのより良い増加を示すことがわかりました。

また、ネパールにおいて7か月の乳児における血漿ビタミンB12値は、子どもが5歳に成長した際の視覚空間能力と社会的認識と有意に関連を示していました。著者らは「低用量でのビタミンB12の長期補給について、血漿B12レベルが低い子どもの成長率・運動能力、そして問題解決スキルの向上に有益な可能性がある」と述べています。(8)(9)(10)

妊娠・授乳中は十分なビタミンB12の補給を

今回は、妊娠中の母体の栄養状態が胎児あるいは出生後の子どもに与える影響についてお話ししました。それでは健康な子どもを迎えるために、どのようなことができるのでしょうか。また、確定的な臨床試験がない段階で、臨床医は何をするべきなのでしょうか。

第一に、ビタミンB12は母親と子どものどちらにとっても重要な栄養素であり、望ましいレベルは従来の基準値をはるかに上回っていることを理解する必要があります。そして、血漿または血清ビタミンB12濃度を300pmol/L以上にすることです。

第二に、血漿または血清ビタミンB12濃度が低い妊娠中あるいは授乳中の女性に経口サプリメントでビタミンB12を投与することを検討してください。

インドの研究では、妊娠14週目から出産後6週目まで活性型ビタミンB12(メチルコバラミン)を毎日50μg経口投与することにより、母体および乳児の血漿ビタミンB12レベルの増加と母乳レベルが増加することが明らかになっています。

現在までの最新知識に基づいて、メチルコバラミン投与は母子双方にとって有益であると考えられます。(11)(12)





<参考文献>

(1)Smith DA: Maternal and infant vitamin B12 status and development. Pediatric Research (2018) 84:591–592.

(2)Black, R. E. et al. Maternal and child undernutrition and overweight in low-income and middle-income countries. Lancet 382, 427–451 (2013).

(3)Strand, T. A., et al. Strand, T. A., et al. Maternal and infant vitamin B12 status during infancy predict linear growth at 5 years. Pediatric Res (2018) 84:611–618.

(4)Smith, A. D., Warren, M. J. & Refsum, H. Vitamin B12. Adv. Food Nutr. Res. 83, 215–279 (2018).

(5)Sukumar, N. et al. Prevalence of vitamin B-12 insufficiency during pregnancy and its effect on offspring birth weight: a systematic review and meta-analysis. Am. J. Clin. Nutr. 103, 1232–1251 (2016).

(6)Dwarkanath, P. et al. High folate and low vitamin B-12 intakes during pregnancy are associated with small-for-gestational age infants in South Indian women: a prospective observational cohort study. Am. J. Clin. Nutr. 98, 1450–1458 (2013).

(7)Allagh, K. P. et al. Birth prevalence of neural tube defects and orofacial clefts in India: a systematic review and meta-analysis. PLoS ONE 10, e0118961 (2015).

(8)Bhate, V. et al. Vitamin B12 status of pregnant Indian women and cognitive function in their 9-year-old children. Food Nutr. Bull. 29, 249–254 (2008).

(9)Dror, D. K. & Allen, L. H. Effect of vitamin B12 deficiency on neurodevelopment in infants: current knowledge and possible mechanisms. Nutr. Rev. 66, 250–255(2008).

(10)Kvestad, I. et al. Vitamin B12 and folic acid improve gross motor and problem-solving skills in young North Indian children: A randomized placebo-controlled trial. PLoS ONE 10, e0129915 (2015).

(11)Smith, A. D. & Refsum, H. Do we need to reconsider the desirable blood level of vitamin B12? J. Intern. Med. 271, 179–182 (2012).

(12)Duggan, C. et al. Vitamin B-12 supplementation during pregnancy and early lactation increases maternal, breast milk, and infant measures of vitamin B-12 status. J. Nutr. 144, 758–764 (2014).

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