1912年、糖化(glycation)はフランスの科学者メイラードによって発見されました。非酵素的な化学反応であり、メイラード(Maillard)反応とも呼ばれます(1)。ブドウ糖や果糖などの単糖類がタンパク質等のアミノ基と非酵素的に反応して、シッフ塩基やアマドリ化合物を形成し、その後、AGEs(Advanced glycation end products)を形成します。
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「糖化」を防ぎ「老化」を防ぐ
糖化とは、身体の中で過剰な糖質とたんぱく質が結び付いた結果、たんぱく質の性質が変わり、細胞などを焦げ付かせるAGEs(最終糖化産物)という悪玉物質を生成することです。この「AGEs」は分解されにくく、多くの病気の原因や老化現象を引き起こします。
例えば動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病、アルツハイマー型認知症、がんなど様々です。身近なところでは肌のシミ・シワ・くすみなどにもつながります。AGEsが増える原因として、以下の2つが挙げられます。
①体内でたんぱく質の性質がかわる(体内で糖化する)
②食事からAGEsを摂取する(糖化したものを摂取する)
①(体内での糖化)を防ぐためには、血糖値を上げすぎないことが重要です。
自分でできる対策として、
a.ゆっくりよく噛んで食べる
b.グリセミック指数(GI値)の低いものを多く摂る
c.糖質を摂り過ぎないようにする
e.抗酸化物質や抗糖化物質の摂取を心がける
などがあります。
②(糖化したものの摂取)を防止するためには「焦げているもの」「きつね色のもの」に注意することです。
a.高温での焼き物・揚げ物を避ける
b.ゆでる、蒸す、生などでの摂取を心がける
以上の対策を行い、体内にAGEsを蓄積させないようにしていきましょう。
AGEsの蓄積は様々な疾患の進行に影響を及ぼす
AGEsの生成・蓄積は、アルツハイマー病、動脈硬化症、骨粗鬆症などの進行に関与していると言われています。
AGEsを溜めないためにできること
多量の糖類が存在する場合だけでなく、加齢や炎症などの酸化ストレスによってもAGEsの生成は促進されるため、食事療法や栄養療法が重要となります。また、外的なAGEsも体内で蓄積されるため、摂取量にも気を付ける必要があります。
予防医学では、こうしたAGEs産生や蓄積を抑えることがアンチエイジングやリバースエイジングのカギになると考えられます。体内での糖化の予防を考えると、過剰な糖の摂取を控えて血糖値スパイクを防ぐことが重要であり、積極的な抗酸化物質および抗糖化物質の摂取が望まれます。
近年、便利になり過ぎたための糖質過剰な食事や人工甘味料等の添加物の使用増加は著しく、血糖値はスパイク状に上昇しやすくなります。しかし、以下のような対策を行うことで血糖値スパイクを予防し、結果的にAGEs産生を抑えることが可能です。
(1)よく咀嚼すること
(2)グリセミック指数(GI値:食後血糖値の上昇度を示す指数)の低い食事を意識する
(3)ベジタブルファースト
(4)食後の軽い運動
他にも、
(5)果糖を制限する
(6)抗酸化物質や抗糖化物質を積極的に摂取する
(7)食事由来のAGEsを最小限にする
といった心がけでも一部AGEsの産生や蓄積を抑えることができます。
最後に、上記の(5)〜(7)についてそれぞれ詳しく解説したいと思います。
果糖を制限する
近年、色々な経路から様々なAGEsが産生されることが明らかになっています。Glycer-AGEs(ブドウ糖や果糖の代謝中間体であるグリセルアルデヒドに由来するAGEs)は、他の経路から生成してくる様々なAGEsとは異なり、非常に強い細胞障害性を示すことが明らかになっています。このことから、Glycer-AGEsは他のAGEsと区別する意味合いで“toxic AGEs(TAGE)”と呼ばれます(2)。
清涼飲料水などの飲み物、お菓子に多く含まれる果糖ブドウ糖液糖などの異性化糖や果物の多量摂取によって、より障害性の高いTAGEが生成されるため、果糖の摂取量には注意する必要があります。
果糖はブドウ糖と比較して10倍ほどAGEsを生成しやすいとも言われているので、ブドウ糖以上に摂取量には気を付ける必要があるのかもしれません。
抗糖化・抗酸化物質を積極的に摂取する
同志社大学大学院のアンチエイジングリサーチセンターでは、サニーレタス、ローズマリー、ショウガなどには糖化抑制作用が認められていることを明らかにしています(3)。
また、お茶の種類によって以下の効果があると言われていますので、上手く組み合わせて活用したいものです。
- 甜茶(てんちゃ:テンヨウケンコウシ)やドクダミ茶など・・・AGEs生成抑制
- 柿の葉茶、ルイボスティーなど・・・AGEs分解促進
- グアバ茶など・・・食後血糖値の抑制および糖化反応の防止
さらに、クエン酸が多く含まれるお酢やレモン柑橘類も抗糖化に役立つと言われています。これらを化学調味料などが豊富なドレッシングの代わりに使用するのも良いでしょうし、加熱や調理の過程で生成されるAGEsを抑えられるとも言われているので、下ごしらえの段階で使用するのも良いでしょう (4)。
抗糖化に役立つ成分は他にもあります。
キチン・キトサンはエビやカニの殻などに含まれるほか、キノコや酵母の細胞壁の主成分でもあります。第7の栄養素と言われる、植物由来の栄養素「ファイトケミカル」も有用です。カテキンやケルセチンなどのポリフェノール系、スルフォラファンなどの硫黄化合物もAGEsの形成や吸収が抑えられる可能性があると言われています(5)。
このように、身近な食材にも抗糖化作用を認めるものは多数あるので、加工食品やファーストフードだけに頼らずに素材の味を生かしたバランスの良い食事を心がけることが大切です。
食事由来のAGEsを最小限に抑える
食事に含まれるAGEsは体内に取り込まれ、一部残存することが明らかにされています。そして、揚げ物や加工食品を多く食べる人の生命予後は悪いと言われています。一方、AGEs制限食によってAGEs値だけでなく炎症や酸化ストレスマーカーも下がると言われています。高温での調理については、できるだけ避けるのが望ましいと思われます。
体内にAGEsを入れないように、また、体内にAGEsを溜め込まないようにして健康的な長寿を目指していきましょう。
<参考文献>
- Maillard LC. ,Action des acides aminés sur les sucres: formation des mélanoïdines par voie méthodique, C R Acad Sci[Vol.154],1912, pp.66-68.
- Takeuchi, M. Toxic AGEs (TAGE) theory: a new concept for preventing the development of diseases related to lifestyle. Diabetol Metab Syndr 12, 105 (2020)
- Ishioka Y, Yagi M, Ogura M, Yonei Y. ,Antiglycation effect of various vegetables: Inhibition of advanced glycation end product formation in glucose and human serum albumin reaction system,Glycative Stress Research 2(1): 22-34, 2015.
- 「老けないのはどっち?何を食べるか・どう食べるかで大差がつく」(山岸昌一,河出書房新社,2020)
- Yamagishi SI, Matsui T, Ishibashi Y, et al. ,Phytochemicals against advanced glycation end products (AGEs) and the receptor system. Curr Pharm Des 2017; 23: 1135-1141.
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