2022年におけるアルツハイマー病の推定患者数は470万人ですが、10年後には625万人、30年後には750万人にまで増加すると予測されています①。
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「オメガ3」「ビタミンB群」がアルツハイマー病予防の切り札に?
1906年、ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマー医師が特異的な認知症患者を報告し、後年、この認知症は「アルツハイマー病」と呼ばれるようになりました。アルツハイマー病は、現代において高齢者に最も一般的な認知症として知られていて、認知症の大部分(2/3ほど)を占めています。
80歳以上の高齢者のうち最大20%が罹患するとも言われるアルツハイマー病は、記憶・思考・行動などに問題が生じたのち、徐々に進行して日常生活が困難なほどの物忘れや気性あるいは人格の変化が現れ、書面または会話でのコミュニケーションにも問題が生じていきます。
今回は、アルツハイマー病とオメガ3脂肪酸・ビタミンB群(ビタミンB6・ビタミンB12・葉酸)との関連を観察した研究結果を取り上げながら、アルツハイマー病の予防および進行抑制に対するオメガ3・ビタミンBの可能性について考察しています。
アルツハイマー病の増加と治療戦略の失敗
「アルツハイマー病の原因は、脳内におけるアミロイドβやタウタンパクの蓄積による神経細胞の損傷である」とした論文が発表され、これらの除去が薬物療法の主要な治療戦略となり、膨大な研究費が注ぎ込まれるに至りました。
しかしながら、この病気の進行を食い止める決定的な治療薬は未だ存在しません。そして患者数は止まることなく増加しており、結果としてこの治療戦略は完全に失敗したという評価が下されました。
最近では、アルツハイマー病のアミロイド説を提唱した2006年の論文②そのものに対しても懐疑的な意見が出ています③。
ホモシステインの増加がアルツハイマー病を進行させる?
アルツハイマー病の栄養療法に関する永年の研究業績により、国際オーソモレキュラー医学会2022年度の名誉の殿堂入りをされたデイビッド・スミス博士(オックスフォード大学 薬学部名誉教授)は、「適切な食事とライフスタイルでアルツハイマー病の発症リスクを半減できる」と提唱しています。
<写真>デイビッド・スミス博士
スミス博士が注目したのはホモシステインです。ホモシステインは、必須アミノ酸であるメチオニンの代謝副産物として生成されるアミノ酸です。
このメチオニンの代謝に不可欠なのが葉酸とビタミンB6、ビタミンB12で、これらが欠乏するとホモシステインからメチオニンへの変換が停滞します。その結果、血液中のホモシステインが増加し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。
1998年、スミス博士の研究グループは、アルツハイマー病では血清中のビタミンB12と葉酸が低下し、血清ホモシステインが高いグループにおいて脳萎縮の進行度が早いことを突き止めました④。
さらにその後の研究(前向き研究)によって、血漿ホモシステインの上昇は、
(1)加齢に伴う認知機能障害の始まり
(2)認知機能障害から認知症への移行
(3)認知症およびアルツハイマー病の発症率と認知機能低下
(4)脳の萎縮の割合の増加
と関連していることが明らかになりました⑤。
ビタミンBがホモシステインを低下させ、ひいてはアルツハイマー病の予防に役立つか
次に、スミス博士はメチオニン回路を正常に働かせるために葉酸とビタミンB12を投与することで、アルツハイマー病の進行を抑えることができるのではないかと仮説を立てました。
そこで、軽度認知障害を呈する70歳以上の被験者に、
- ビタミンB6(20mg)
- ビタミンB12(0.5mg)
- 葉酸(0.8mg)
を投与したところ、血漿ホモシステインが32%低下し、認知症の進行を30%緩やかにしました(図1)。しかし、このような改善がみられたのは、血漿ホモシステインが高いグループのみでした⑥。
<図1>ホモシステインが高い群においては、ビタミンB投与によりホモシステインが低下かつ脳萎縮の進行を抑制
オメガ3脂肪酸・ビタミンBとアルツハイマー病
次に、スミス博士が目をつけたのはオメガ3脂肪酸でした。これまでの研究で、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの血漿オメガ3脂肪酸が低い人ほど、脳萎縮が強い傾向にあることは知られていました。
では、オメガ3脂肪酸とビタミンBは相互に認知機能に影響するのでしょうか?
そこで、ビタミンB6・ビタミンB12・葉酸を投与した人の血漿オメガ3脂肪酸濃度を測定してみたところ、血清オメガ3脂肪酸レベルが高い人にビタミンB群を投与すると、脳萎縮の進行がなんと73%も減速したのです(図2)⑦。
その傾向はとりわけオメガ3脂肪酸の中でもDHAにはっきりと表れていました。
<図2>血漿オメガ3レベルが正常な場合、ビタミンB群投与により脳萎縮の進行が抑制される
このように、血漿オメガ3脂肪酸が高い人にアルツハイマー病患者が少ないことから、2006年には同病患者にオメガ3脂肪酸を1日2.3g投与し、病状が改善するか観察する研究が行われました⑧。しかしこの研究において、オメガ3脂肪酸に認知機能や脳萎縮に有益な効果は認められませんでした。
以上を総括すると、次のようにまとめることができます。
- ビタミンB(ビタミンB6・ビタミンB12・葉酸)は十分な血液中のオメガ3脂肪酸が充足している場合のみ、脳をアルツハイマー病から守ることができる。
- オメガ3脂肪酸は、ビタミンBが充足(=血中のホモシステインが低下)している時に脳をアルツハイマー病から守ることができる。
- 血清ホモシステインから、ビタミンB(ビタミンB6・ビタミンB12・葉酸)の充足を知ることができる。
今後は、オメガ3脂肪酸とビタミンBを同時に投与することで、アルツハイマー病の進行を抑制することができるか否かを確かめる研究が待たれるところです。
オメガ3脂肪酸とビタミンB群について、国際オーソモレキュラー医学会会長として思うこと
ビタミンB群(ビタミンB6・ビタミン12・葉酸)とオメガ3脂肪酸がそれぞれ単独ではなく、相互に作用し合う点に栄養医学の面白さが窺えます。
これは私の個人的な見解ですが、オメガ3脂肪酸は情緒を安定させる作用があると考えています。よってビタミンB群と併せて投与することで、うつ病や統合失調症などにも効果が期待できることは想像に難くありません。
さらにライフスタイルの改善と組み合わせることで、心臓病をはじめ応用できる範囲は大きく広がる可能性があります。
<参考文献>
柳澤 厚生 (ヤナギサワ アツオ)先生の関連動画
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