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ビタミンDの経口摂取は急性上気道炎のリスクを低下させる

この記事の執筆者

鎌倉元気クリニック

一般社団法人日本オーソモレキュラー医学会 代表理事。鎌倉元気クリニック 名誉院長。 杏林大学医学部卒、同大学院修了。 医学博士。杏林大学保健学部救急救命学科教授を経て、2008年より国際統合医療教育 ... [続きを見る]

ビタミンDは油脂に溶ける脂溶性ビタミンの一つで、魚介類やキノコなどの食品から体内に摂取することが可能です。また、日光を浴びることにより皮膚で合成することができます。ビタミンDの主な働きとして、体内のカルシウムとリンの代謝を調整し骨の生育に関与することがよく知られています。最近では感染症、アレルギーや免疫、さらにはがんの予防といった様々な作用について報告されています。ビタミンDは、風邪、インフルエンザ、そしてコロナウイルスなどのウイルス性疾患の感染予防に有用であるとの臨床研究があり、本稿ではこの点に焦点を当て解説します。

ビタミンDが不足するとウイルス性急性上気道炎に罹りやすい

体内のビタミンDの状態を把握するには、血液中の25-ヒドロキシビタミンD [25-(OH)D]を測定します。健康な人の正常値は30µg/mL以上とされています。2010年、イェール大学医学部内科のジェームズ・サベッタ准教授らの研究グループは血清中25-(OH)D濃度とウイルス性急性上気道炎の罹患頻度を調査し、血清中25-(OH)D濃度が高いほど上気道炎になりにくいという研究結果を医学専門誌『PLOS ONE』に発表しました。(1)

サベッタ准教授は198人の健康な成人の血清中25-(OH)D濃度を2009年の9月から3ヶ月間測定し、期間内のウイルス性急性上気道炎の罹患頻度を調査しました。その結果、25-(OH)ビタミンD値が 38 ng/mL未満の被験者の場合、ウイルス性急性上気道炎は100件発生しました。一方、25-(OH)ビタミンD値が38 ng/mL以上の被験者の場合、感染は3件のみと著しく減少 (p<0.0001)しさらに罹患日数にも大幅な短縮がみられました。<図1>

つまり、血液中のビタミンD濃度が低ければ低いほどウイルス性急性上気道炎に罹患しやすいということです。

 

<図1>血清ビタミンD濃度が低いほどウイルス性急性上気道炎に罹りやすい

 

日本人女性の約7割は25-(OH)ビタミンD不足

ここまでビタミンD濃度とウイルス性急性上気道炎の関係についてお話ししてきましたが、それでは私たち日本人の血中25-(OH)ビタミンD値はどのくらいなのでしょう。これについては2011年、慶應義塾大学医学部付属病院に勤務している39歳〜64歳の女性571人に、日差しの強い夏季を終えた9月に血清25-(OH)ビタミンD値を測定したデータがあります。<図2>(2)

この研究によると、ビタミンDが正常値(30ng/ml以上)であった女性は30%にも満たず、70%以上の女性にビタミンD低下もしくは欠乏がみられました。前述のサベッタ准教授のデータを日本人に当てはめるならば、なんと70%以上の日本人女性がウイルス性上気道炎を発症しやすいという結果となります。

 

<図2>日本人医療従事者の血清ビタミンD濃度

ビタミンD投与でウイルス性急性上気道炎を予防できるか

血清ビタミンDが低いとウイルス性急性上気道炎のリスクが上がることはお分かりいただけたかと思います。さて、ここで疑問に思うのがビタミンDサプリメントの補給により急性上気道炎に罹りにくくなるのか、ということです。これについても研究が行われています。

2017年、ロンドン大学クイーン・メアリー校が中心となって14カ国の国際研究チームによるメタ解析論文が『イギリス医師会雑誌(British Medical Journal)』に掲載されました。(3)  同研究チームは、ウイルス性急性上気道炎に対するビタミンD投与の効果を無作為二重盲検法※1で検討した25編の論文を選択し、その研究に参加した11,321人についてメタ解析を行いました。

その結果、ビタミンDの投与はウイルス性急性上気道炎のリスクを12%減少させていました。こうしたリスク減少は毎日あるいは毎週のビタミンD経口投与によって認められた一方、1〜2ヶ月毎のビタミンDの大量筋注投与ではリスクの減少はみられませんでした。さらに、ビタミンD経口投与による急性ウイルス性上気道炎のリスク軽減作用は、血中ビタミンD濃度が低値(25ng/mL未満)の人の方が25ng/mL以上の人よりも強く出ました。

結論として、血清ビタミンD値が低い人ほどビタミンDサプリメントによる急性上気道炎に対する効果が出やすいということが明らかとなったのです。

※1 被験者を治療薬投与群とプラセボ投与群に分けて行う臨床試験のこと

日本オーソモレキュラー医学会の立場からみるビタミンD投与

風邪やインフルエンザ、花粉症からがん予防にいたるまで、ビタミンDを健康なレベルに保つことは大切です。ビタミンDは魚介類やキノコ類を食べることでも摂取できますが、何よりも太陽の光を浴びて体内でビタミンDを生成することが肝心です。残念ながら働いている社会人、子どもでさえも以前よりも太陽の光を浴びる時間が減少しています。コロナ禍の今日であれば尚更です。さらに多くの女性は紫外線をカットする日焼け止めやファンデーションなどを習慣的に使用するため、夏場でもビタミンDが低くなる傾向にあります。

それではサプリメントから補うとすると、どれくらいの量が適切なの?と思う方もいらっしゃるでしょう。私の場合、成人なら1日50µg(2,000 IU)、小中学生でも25〜40µgの摂取を推奨しています。毎日1回の投与でも、また週に1回だけの250µg(10,000 IU)投与でも副作用なく安全に続けられます。





<参考文献>

(1) Sabetta JR et al. Serum 25-hydroxyvitamin d and the incidence of acute viral respiratory tract infections in healthy adults. PLoS One 010 Jun 14;5(6):e11088 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20559424

(2)Miyamoto T. et al. itamin D Deficiency with High Intact PTH Levels is More Common in Younger than in Older Women: A Study of Women Aged 39–64 Years. Keio Med J 2016 Jun 25;65(2):33-8 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kjm/65/2/65_2015-0010-OA/_pdf/-char/ja

(3) Martineau AR et al. Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory tract infections: systematic review and meta-analysis of individual participant data. BMJ 2017; 356:6583.https://www.bmj.com/content/356/bmj.i6583

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