大麻は古来より疾患の治療に用いられていましたが、長い間その薬理作用は不明でした。しかし1990年代以降、「内因性カンナビノイド受容体」の発見によって徐々に解明されてきました。
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がん領域で期待されるCBD
近年、がん領域においてCBD(カンナビジオール)の注目度が高まってきています。
CBDには、
①(直接的な)抗がん作用
②化学療法・放射線療法を増強する作用
③化学療法や放射線療法による副作用を軽減する作用
④がん性症状を緩和する作用
など幅広い作用があり、これらは基礎研究や前臨床研究においては確実なものとなっています。さらにここ数年でヒトでの臨床研究がようやく進み始めているため、有効性を示すデータは今後次々と出てくるものと思われます。
本稿では、CBDのこれらの作用についてのエビデンスと、今後の展望についてお話しします。
CBDの作用
大麻草には「カンナビノイド」と呼ばれる薬理作用を持つ成分が120種類以上含まれており、その中心となるのがTHC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)です。
THCは多幸感などの向精神作用や依存性など、いわゆる大麻でイメージするような作用を有しているため、国際的に規制の対象となっていました。一方、CBDにはそういった作用は一切なく、安全性と有効性についてはWHO(世界保健機構)などからも認められています。
CBDは、抗不安・睡眠促進・抗炎症・鎮痛・抗けいれん・抗酸化・自律神経調節・神経保護など様々な作用を有します。
がん領域におけるCBDの可能性
また、がん領域においては
- 抗がん作用
- 化学療法・放射線療法の増強作用
- 化学療法による副作用の軽減
- がん性症状の緩和作用
があり、がんの代替療法としての期待も高まっています。
1.抗がん作用
カンナビノイド受容体は、全身の正常細胞だけでなくがん細胞表面にも発現しており、がんの増殖などに関わっています。例えば、直腸がんにおいてはCB1受容体とCB2受容体の発現量が予後と相関しています。
CBDの抗がん作用はCB1・CB2受容体などのカンナビノイド受容体やTRPファミリー、PPARγ、GPR55などの受容体を介して起きます。作用としては、アポトーシスやオートファジー、増殖抑制などの直接的な作用と、転移・浸潤能の抑制、上皮間葉系転換抑制、血管新生抑制などの間接的な作用があります。
基礎研究や前臨床研究によって、神経膠芽腫、肺がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、膵臓がん、乳がん、子宮頸がん、前立腺がん、白血病、悪性リンパ腫などに対するCBDの抗がん作用はすでに確認されています。
一方で、ヒトでの有効性は症例報告で数えるほどしかなく、今のところ神経膠腫と肺がんでのみ報告がなされています。しかし、ヒトでの臨床試験がここ数年でいくつか始まっているので、将来的にはもっと増える可能性があります。
2.化学療法・放射線療法の増強作用
CBDは、化学療法や放射線治療の効果を増強させる作用があります。シスプラチンや5-FU(フルオロウラシル)、パクリタキセル、ドセタキセル、ドキソルビシンなどの殺細胞性の抗がん剤とCBDを併用することで、その作用が強まることが証明されています。
また、乳がんのホルモン治療薬であるタモキシフェンも、CBDを併用することでその効果が増強します。これらの作用はまだ前臨床試験のみでしか確認されていませんが、今後臨床試験が行われ、ヒトでも増強作用が確認される可能性があります。
3.化学療法による副作用の軽減
さらにCBDは化学療法の副作用を軽減することがわかっており、その中でも最も期待されているのが化学療法誘発性末梢神経障害(以下CIPNと記載)の症状である手足のしびれや疼痛に対する緩和です。
オキサリプラチンの投与前日から投与後8日間、CBDオイルを舌下投与する試験では、オキサリプラチンによる手足の寒冷過敏症や咽頭違和感、筋痙攣などの改善がみられました。
また、CIPNに関しては、CBDの服用よりもCBDの外用によってさらなる改善が見込める可能性があります。CBDの外用で85%もの患者の症状が改善したとのメイヨークリニック(米国)の報告もあります。この結果を受けて、CIPNに対するCBDの外用の有効性を調べる第2相試験が始まりました。
当院での使用経験から鑑みても、服用よりも外用の方がCIPNに対する有効性が高い印象を受けます。CIPNに対するCBDの有効性について述べてきましたが、例えば分子標的薬による手足症候群や化学療法全般による口内炎など、CIPN以外でもCBDの外用が有効であった症例を経験しています。
CBDを併用することで、シスプラチンによる腎障害やドキソルビシンの心毒性が軽減することも報告されています。
4.がん性症状の緩和作用
がん性疼痛、嘔気、不安、不眠、うつ症状などを改善する可能性があるとして、がんの緩和医療でもCBDは注目されています。大麻が認可されている国では、終末期の苦痛を軽減させる目的で大麻が使用されている一方、大麻が認可されていない国(日本を含む)においてはCBDへの期待が高まっています。
CBDが緩和ケアに有効だとする研究はあるものの、それらは全てTHCが含まれている製剤であり、CBD単体での報告はこれまでありませんでした。しかし、CBD単体でがん症状苦痛スコアを改善したという報告が上がり始めており、CBD単体での報告は今後さらに増えていくものと思われます。
最近では、緩和ケアに対するCBDの安全性と有効性を調べる二重盲検ランダム化比較試験も始まっています。この試験で有効性が証明されることになれば、大麻使用が禁止されている日本のような国でも、代替としてのCBDが終末期医療に用いられる日が訪れるかもしれません。
医薬品として認められるか?日本におけるCBDの今後の展望
最後に、日本においては「大麻取締法」により大麻を原料とする医薬品の製造が禁止されていることから、サプリメントや化粧品などとしての用途でしかCBDを使用できないという問題があります。
医師や歯科医師で構成される臨床CBDオイル研究会では、疾患に対するCBDの症例報告がなされていますが、表向きはあくまでサプリメントとしての使用です。一方、世界に目を向けてみると、CBD製剤であるエピディオレックス®が、レノックス・ガストー症候群、ドラベ症候群といった小児難治性てんかんの治療薬として認可されています。しかし、日本では抽出部位の問題等もあり、法律上は使用できません。
ところが、エピディオレックス®の臨床試験が日本でも承認されたため、今後はその使用に向けて法改正が行われると予想されており、そうなると医薬品としてのCBDの使用が広まっていくと思われます。
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