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ビタミンCが白血病をはじめとする血液がんの進行を遅らせる

この記事の執筆者

SPIC Clinic

一般社団法人日本オーソモレキュラー医学会代表理事。スピッククリニック名誉院長。 杏林大学医学部卒、同大学院修了。 医学博士。杏林大学保健学部救急救命学科教授を経て、2008年より国際統合医療教育センター所長。2011年国際オーソモレキュラー医学会殿堂入りし、2012年より国際オーソモレキュラー医学会会長。

血液がんの一つであり、最近では競泳女子・池江璃花子選手が公表したことで関心が高まっている白血病ですが、有効な治療法はないのでしょうか。実は白血病をはじめとする血液がんの治療とビタミンCには、大きな関わりがあるのです。
今回は、実際に行われた研究結果に基づき、血液がん治療におけるビタミンCの有用性についてお話します。

ビタミンCと血液がん

2017年8月16日に米国科学専門誌としては最高峰の「Cell」誌(インパクトファクター:32.2)オンライン版に、「ビタミンCは、血液がんの幹細胞のTET2(tet methylcytosine dioxygenase 2)に働きかけ、病気の進行を遅らせることができる可能性がある」という論文が発表されました。発表したのは、ニューヨーク大学医学部付属パールムッターがんセンターの内科部長である、ベンジャミン・ニール医師の率いる研究グループです。

一方で、直後の8月21日にハワード・ヒューズ医学研究所のシーン・モリソン博士らの研究チームがNature誌オンライン版(インパクトファクター:43.7)に「血液幹細胞ではビタミンCの濃度が高く、ビタミンCが欠損すると白血病発生が早まる」と発表したのです。

血液がんとTET2

骨髄造血幹細胞におけるTET2(tet methyl-cytosine dioxygenase 2)の酵素反応は、造血幹細胞を血球へと分化・成熟させる役割を担います。ある種の白血病細胞には、TET2という酵素反応を低下させる遺伝子の変異があることが知られています。これが幹細胞の分化に機能障害が生じ、結果として血液がんを発症します。

このようなTET2の機能を減弱させる遺伝子変異は、急性骨髄性白血病の10%、骨髄異形成症候群の30%そして慢性骨髄単球性白血病の50%にあるといわれています。年齢と共にこれらの疾患は増加し、いったん骨髄生成機能が低下すると貧血、出血、感染のリスクが高まります。

このタイプの血液がん患者は全米のがん患者の2.5%であり、毎年42,500人の新しいTET2遺伝子異常の患者が診断され、ある種のリンパ腫や固形腫瘍もその中に含まれていると著者らは指摘しています。

ニール医師らの研究

ニール医師の研究グループは、TET2とシトシンの関係に注目しました。TET2にはDNAの4塩基のうちシトシンと結合したメチル基を酸化除去する「脱メチル化」を可能にする働きがあります。脱メチル化は幹細胞が血液細胞、神経、筋肉など様々な細胞を作る上で欠かせないプロセスです。この脱メチル化により、幹細胞を血液細胞へと成熟させ、異常な細胞増殖ではなく正常な細胞死へと向かわせる遺伝子のスイッチが入ると考えられています。
一方、TET2機能が不全となったがん細胞は、脱メチル化が正常に生じずにアポトーシスが起こらないまま、増殖を続けることになるのです。

研究チームは、遺伝子操作によりTET2機能のオン/オフができるマウスを作り出しました。すると、TET2機能がオフになると未熟細胞の増殖が亢進し、オンになると正常になることがわかりました。また、TET2機能が低下している時にビタミンCを加えると、TET2機能が復活したのです。

ニール医師は、「白血病にビタミンCを投与することで、低下したTET2機能が回復して血液がん幹細胞の脱メチル化が生じ、アポトーシスが誘導され、ひいては病状の進行速度を緩めることができるだろう」と述べています。
直接がん細胞を殺す化学療法から発想を転換し、正常細胞に備わっているオン/オフスイッチをがん幹細胞にも発現させることは、がん治療を根底から覆すかもしれないと期待されています。

共同研究者であるルイス・シミノ助教授は、高濃度のビタミンC投与が、がん幹細胞のDNAを傷害することから、がん細胞のDNA損傷の修復をブロックするPARP(poly ADP-ribose polymerase)阻害剤(薬剤)と併用することを提案しています。PARP阻害薬とビタミンCの併用は、TET2変異を伴わない血液がんについても有用である可能性があるためです。

同じく共同研究者で病理学教授であるイアニス・アンファンティス博士はこの分野の研究について、「これからは、機能が低下しているTET2の脱メチル化を促進するという新しい治療の選択肢として研究を進めることになるだろう」と予測しています。

モリソン博士らの研究

モリソン博士らの研究チームは、人間とマウスの血液幹細胞には他の細胞よりもビタミンCを高濃度に内包しているが、このビタミンC濃度が低下すると細胞の分化機能も低下すること、さらには体内のビタミンC濃度の低下によりTET2の機能低下が生じ、白血病細胞変異が生じることを明らかにしました。
結論としてはニール医師らと同様、ビタミンCが血液がん幹細胞の正常な分化と寿命に重要な働きをしていることを示しています。

まとめ

基礎論文とはいえ、血液がんの治療にビタミンCが重要な役割を果たすことがわかってきました。ビタミンCの投与により、白血病の進行を遅らせることができるかもしれません。今後は他のがんについての研究、そして経口ビタミンCや高濃度ビタミンC点滴療法によるがんの補助療法に関する臨床研究の発展が期待されます。

 

<参考文献>