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ビタミン・ミネラル点滴の定番『マイヤーズ・カクテル』

この記事の執筆者

鎌倉元気クリニック

一般社団法人日本オーソモレキュラー医学会 代表理事。鎌倉元気クリニック 名誉院長。 杏林大学医学部卒、同大学院修了。 医学博士。杏林大学医学部内科助教授を経て、2000年〜2008年同大学保健学部救 ... [続きを見る]

マイヤーズ・カクテル(Myers’ Cocktail)で知られるビタミン・ミネラル点滴があります。欧米の統合医療医では定番の治療で、慢性疲労、喘息、偏頭痛など様々な疾患に効果があります。マイヤーズ・カクテルは「適切な栄養素を最適な量で投与して疾病の予防と治療をする」というオーソモレキュラー療法、すなわち分子栄養療法です。今回はマイヤーズ・カクテルが世に知られるまでの歴史とマイヤーズ・カクテルの効果について紹介します。

ジョン・マイヤーズ医師の栄養点滴療法

ジョン・マイヤーズ (John A. Myers)医師(写真1)は、もともとジョンズ・ホプキンス大学で電気工学を修了してから医学の道に進んだ変わった経歴を持っています。米国ボルチモア市で家庭医として開業する傍ら、ジョンズ・ホプキンス大学でも教鞭をとっていました。特に人体における微量ミネラルの代謝に興味を持ち、米国臨床栄養学会を創設しました。

(写真1)ジョン・マイヤーズ (John A. Myers)医師

マイヤーズ医師は、研究の傍ら自分のクリニックで患者にビタミンとミネラルの点滴をしていました。この点滴が評判になり、多くの患者が通院、近隣の医師からも患者を紹介してきたのでクリニックでは患者が溢れていました。

ところが1984年にマイヤーズ医師が亡くなり、クリニックは閉院、残された患者は途方に暮れていました。

マイヤーズ医師の死後にゲイビー医師が点滴を再現

マイヤーズ医師の患者の一人がペンシルバニア州のアラン・ゲイビー(Allan R. Gaby)医師(写真2)のクリニックを訪れました。

(写真2)アラン・ゲイビー(Allan R. Gaby)医師

ゲイビー医師はBaster大学教授、米国ホリスティック医学会の会長を務めた方です。ゲイビー医師はマイヤーズ医師の点滴に強く興味を覚えました。彼はマイヤーズ医師のクリニックスタッフや患者から情報を得、さらに現代の科学的エビデンスに基づいて点滴処方を再現しました。

2002年、ゲイビー医師は再現した点滴処方について医学誌に発表、この点滴を博士の功績を讃えて「マイヤーズ・カクテル」と名付けました。ゲイビー医師は様々な学会や講演会でマイヤーズ・カクテルを紹介、今では世界中に「マイヤーズ・カクテル」が知られるようになりました。

2013年、ゲイビー医師は栄養療法の普及に対する貢献で、国際オーソモレキュラー医学会の名誉の殿堂入りに選出されました。

マイヤーズ・カクテルとは

人間に必要な栄養素であるビタミンとミネラルを点滴投与する治療法です。このままだと単なる栄養療法です。しかし、マイヤーズ・カクテルではビタミンやミネラルを直接血管内に投与することで血中濃度が急速に上昇、薬理学的な効果を引き起こします。

例えばビタミンCは高濃度だとがん細胞やウイルスを殺し、中等度だと抗アレルギー作用、通常量だと抗酸化作用と栄養的な効果を発揮します。ビタミンC点滴一つとっても、がん、インフルエンザ、アレルギーの治療、そしてアンチエイジングまで幅広く効果が期待できます。

マイヤーズ・カクテルの処方の実際

マイヤーズ・カクテルの処方はそれほど難しくはない。当初、私がマイヤーズ・カクテルを日本で再現しようとしたとき、一番の問題はオリジナルの処方に使っている米国製医薬品と全く同じ規格の国内医薬品が入手できなかったことです。幸い、試行錯誤してほぼ同じ処方を国内製品で再現できました(表1)。

マイヤーズ・カクテルの適応症

ゲイビー医師の論文をみると、さまざまな疾患にマイヤーズ・カクテルが有用であることに驚きます(表2)。しかし、全て科学的にあるいは臨床的な裏付けがされています。また、この論文を契機に研究者らが栄養療法による疾病治療に関心を持つようになりました。

例えば、線維筋痛症については米国立補完代替療法センターが2004年に臨床試験を開始、2007年に有用であることを発表しています。また、気管支喘息に対する有用性についても米国栄養学会誌に発表されました。

私自身の経験でも、偏頭痛、喘息、耳鳴り、慢性疲労などに効果的で、非常に使い回しの良い治療です。なによりも点滴に用いる薬がビタミンとミネラルだけですので、副作用の心配はまずありません。私の15年以上の経験でも副作用は1例もありませんでした。

マイヤーズ・カクテルを提供するクリニック

2007年に医師向けにマイヤーズ・カクテルの講習を始めて、今では全国で2000軒以上のクリニックでマイヤーズ・カクテルを受けることができます。

おわりに

マイヤーズ・カクテルは2005年に私が自分のクリニックに導入したのが、日本で初めてです。当時はインターネットで「マイヤーズ・カクテル」で検索しても、ラム酒のカクテルしか出てきませんでした。

マイヤーズ・カクテルに使用している薬の一つ一つは薬価収載されていますが、健康保険の適応にはなりません。すべて自分で治療費の全額を支払う自由診療となります。

ここに悩みがあります。喘息発作にマイヤーズ・カクテルはとても良く効き、且つからだに優しく、安全で安価です。有効であるという医学論文もでています。しかし、保険適応ではないので、ネオフィリンやステロイドを使うことになります。もし私や家族がひどい喘息発作であった時は、副作用の怖いステロイドの前に、まずはマイヤーズ・カクテルで治療することでしょう。

マイヤーズ・カクテルは標準治療よりも時に効果的で安心です。

【参考】

    1. Gaby AR: Intravenous nutrient therapy: The Myers’Cocktail. Alternative Medical Review 2002;7(5):389-403
    2. ShraderWA: Short and long term treatment of asthma with intravenous nutrients. Nutrition Journal 2004;3:6-13

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