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オーソモレキュラー生化学のすすめ

この記事の執筆者

医療法人回生會 みぞぐちクリニック

オーソモレキュラー療法は、栄養状態を最適化することによって病態を改善させる治療法です。1968年、Science誌に掲載されたライナス・ポーリング(1901~1994)の論文『Orthomolecular Psychiatry』1) で“Orthomolecular”という単語が紹介されたのが始まりです。

ポーリングとともにオーソモレキュラー療法を確立したカナダのエイブラム・ホッファー(1917~2009)は、
「私の意見では、ポーリング博士によって唱えられたorthomolecularという言葉以外に、正しく意味を伝えるものは存在しません。どんな言葉もビタミンの効果的な量の摂取がいかに重要であるかを表現し得ないのです」と記しています。

オーソモレキュラー療法は、いわゆるメガビタミン療法などとは異なる概念です。血液検査データから通常の臓器障害などを評価するだけでなく、各項目の本来の生化学的な特性から栄養状態を評価する方法は、日本オーソモレキュラー医学会のウェブサイトでも紹介されている金子 雅俊氏が確立しました。

「従来の欠乏症でなければ栄養は足りている」という概念とは異なり、潜在性の欠乏状態を血液検査データから詳細に把握し、適切な補正を行うことによって多くの病態の改善が可能であると考えます。

オーソモレキュラー療法の歴史

オーソモレキュラー療法は、栄養状態を最適化することによって病態を改善させる治療法です。1968年Science誌に掲載された『Orthomolecular Psychiatry』というライナス・ポーリング(1901~1994)の論文で“Orthomolecular”という単語が紹介されたのが始まりです。1)

ホッファーとオーソモレキュラー療法

ポーリングとともにオーソモレキュラー療法を確立したカナダのエイブラム・ホッファー(1917~2009)は「私の意見では、ポーリング博士によって唱えられたorthomolecularという言葉以外に、正しく意味を伝えるものは存在しません。どんな言葉も、ビタミンの効果的な量の摂取がいかに重要であるかを表現し得ないのです」と記しています。

オーソモレキュラー療法は、いわゆるメガビタミン療法などとは異なる概念です。ホッファーはもともとビタミンの生化学者でしたが、ビタミンB群の一種であるナイアシンの欠乏症であるペラグラでは認知機能の低下や妄想などの症状を訴えることも多く、統合失調症にみられる精神症状の背景にナイアシンの不足が関係していると考え、医学部を卒業し精神科医として臨床を始めました。

当時は、統合失調症に対してインスリンを用いた昏睡療養、電気ショック、ロボトミーといわれる脳外科的手術などが行われていました。ホッファーはこれらの治療について、下記のようなコメントを残しています。

「はっきりとした器質的疾患もないのに『病気』とされ治療されている。単独で問題を解決できる魔法の弾丸などは存在しないと認識した」

つまり、その当時行われていた精神疾患の診断および治療は、ホッファーを納得させる生化学的根拠を伴うものではなかったのです。

1950年代、ホッファーはナイアシンによる統合失調症の治療効果などを報告2) しますが、彼の報告は当時の精神科医療界からはことごとく無視されます。その後ホッファーは、国際オーソモレキュラー医学会の学会誌へ多くの論文を報告し、一般向けにオーソモレキュラー療法に関する著書を記しています。

著者は1997年にオーソモレキュラー療法を知ることになり、2000年から一般臨床でオーソモレキュラー外来を始め、2003年に専門医療機関を開設しました。2004年にはカナダのビクトリア市にあるホッファーのクリニックを訪れ、2008年ホッファーの自宅でお会いしたのが最後となりました。(写真1)

<写真1>エイブラム・ホッファーと著者


この期間、ホッファーとはメールで質問や相談のやり取りをしていましたが、必ず返信には最新の関連論文が紹介されていました。

その中でも2008年に報告された論文3) は「統合失調症の患者の前頭葉ではナイアシン親和性レセプターの発現が減少している」という内容で、1950年代にホッファーが提唱した統合失調症へのナイアシン療法が基礎理論的に証明されたことを示しています。

従来からホッファーは、オーソモレキュラー療法は“代替療法”とみなされるべきではなく、医学の基本的主要項目であると提唱していました。しかし、依然として医学教育では栄養素のもつ生化学的特性と病態形成には触れられず、栄養学ではいわゆる「欠乏症」の教育とともにPFCバランス1 を始めとする食事の領域のみが興味の対象となっています。


※1:P(Protein=タンパク質)、F(Fat=脂質)、C (Carbohydrate=炭水化物) のバランス

オーソモレキュラー療法と生化学

私たちの生命活動の多くは、酵素を介した生化学的反応によって得られています。特に基本となるエネルギー産生に必要なATPは3大栄養素の代謝から得られるアセチルCoAが基質となっています。(図1)

<図1>


アミノ酸がエネルギー基質として利用されるためには、窒素を含むアミノ基を処理する必要があるためアミノ基転移反応を介してアセチルCoA産生に必要な回路に入ります。アミノ基転移反応を触媒する酵素はビタミンB6を補酵素とするため、ビタミンB6が不足するとATP産生は糖質や脂質へ依存するようになります。

さらに血糖値を維持するために食後数時間から始まる糖新生は糖原性アミノ酸を基質とすることが多く、ビタミンB6の不足によって糖新生が賄われず低血糖を起こしやすくなります。

これらのことから、ビタミンB6が不足した状態では糖質への依存が多くなることが示されます。

通常行われている血液検査で測定されるアミノ基転移反応を触媒する酵素は、ASTとALTです。補酵素が結合していない酵素(アポ酵素)は、立体構造的に不安定でありプロテアーゼの働きによって容易に代謝され消失することになります。

ASTと比較してALTのアポ酵素はより不安定で、血中のプロテアーゼによって分解されて消失してしまう特性があります。そのためビタミンB6の不足によってASTとALTはともにアポ酵素が増えますが、ALTのアポ酵素はプロテアーゼの働きによって消失して血中のALT濃度が低下します。

オーソモレキュラー療法では、これらの酵素がもつ生化学的特性を利用し、血液検査データから栄養状態の把握を試みます

血液検査データと栄養状態

血液検査データで測定される項目には、アルブミン、コレステロールや血糖値など栄養状態を直接反映するものが含まれています。また、前述のように肝機能を評価する項目であるASTやALTでもビタミンB6の評価が可能です。血液検査データの多くには生体内での生化学的反応に関与するものが多数含まれていることから、本来の機能を理解することで関係するビタミンやミネラルの充足状態を推定することが可能となります。

血液検査データを通常の臓器障害などを評価するだけでなく、各項目の本来の生化学的な特性から栄養状態を評価する方法は、日本オーソモレキュラー医学会のサイトでも紹介されている金子 雅俊氏が確立しました。4)

著者は1998年から金子氏の主催する勉強会に参加し始めました。2004年から血液検査データからの栄養解析についてセミナーを主催するようになり、すでに延べ4000名を超える医師および歯科医師にご参加いただきました。

COVID19感染症の流行に伴いセミナーをリアル開催できない状況になってからは、カリキュラムを見直し、Web上で「オーソモレキュラー・ドクターセミナー」の提供を継続しています。(https://www.orthomolecular.jp/doctorseminar/

<画像1>

実際の症例

この患者さんは20代女性で、うつ病の診断によって投薬治療が行われていました。

数種類の投薬によっても明らかな症状の改善はなく、数年間の治療経過中に血液検査は行われていませんでした。表1は初診時の検査データの一部ですが、投薬治療中にも関わらず肝機能は基準範囲内で、その他のデータも全て基準範囲内でした。

<表1>うつ病と診断された20代女性の初診時検査データ


上記検査データを見た時、通常の解釈では全て基準範囲内であるため「肝機能正常・腎機能正常・貧血なし」と解釈されます。ところがオーソモレキュラー生化学的な解釈を付け加えることによって、この数少ない検査データから以下の情報を得ることが可能です。

  • ビタミンB群の不足
  • タンパク質代謝の低下
  • 亜鉛不足
  • 鉄不足 など

これらの栄養的な所見から、適切な食事への変更やサプリメントによる栄養補充を行うことによって検査データの変化とともに自覚症状がどのように変化するか評価することができます。つまり、血液検査データは通常の病態把握だけでなく多くの栄養状態を読み取れる情報が隠されている宝の山なのです。

<画像2>

今年1月より、医科の医療機関からの栄養解析(血液検査データから栄養の不足を読み取る)の依頼について、著者が代表理事を務める一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所で受付が可能になりました。

血液検査データと解析に必要な情報シートの記載内容により、その方に必要な栄養素を優先度が高い順に選択します。この栄養解析が医療機関(医科)での食事指導やサプリメント選択の一助となったら、また、今後全国の先生方と有意義な意見交換を行いながらブラッシュアップしていけたらと考えています。

栄養解析サービスについては、下記ホームページをご参照ください。
https://www.orthomolecular.jp/analysys/

まとめ

1950年代に始まったオーソモレキュラー療法は、今では世界中に広がり医療分野でも知られるようになってきました。私たちの身体は栄養素から成り立ち、私たちの身体を機能させる酵素やホルモンなども栄養素から作られています。

「従来の欠乏症でなければ栄養は足りている」という概念とは異なり、潜在性の欠乏状態を血液検査データから詳細に把握し、適切な補正を行うことによって多くの病態の改善が可能です。この考え方は、医療に関わる全ての人に認識されるべきものと考え、これからも活動を続けていきます。





<参考文献>
1.Orthomolecular Psychiatry: Pauling L. Science160;265,1968

2.Hoffer A, Osmond H, Smythies J. (1954) Schizophrenia; a new approach. II. Result of a year's research. J Ment Sci. 100:29-45.

3.Christine L. Miller a,∗, Jeannette R. Dulay b:Brain Research Bulletin 2008

4.https://isom-japan.org/article/article_page?uid=LxCg91638426317

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