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障がいを持った子どもへのオーソモレキュラー栄養療法

この記事の執筆者

医療法人花乃羅会 ふじもとクリニック

障害を持つ子どもたちの発達を促す治療としての最適解はまだわかっていないのが現状です。そのため、(制度の充実によって以前より軽減されてきたものの)こうした子どもを持つ親の負担は計り知れません。

自分の子どものために何ができるのか?手探りの中で、私が出会ったのがオーソモレキュラー栄養療法でした。オーソモレキュラー栄養療法は、障がいを持った子どもたちの発達のためにも有効な治療法の1つと考えています。

今回は、障害を持つ子どもへのオーソモレキュラー栄養療法の効果や食事内容、そして体幹の重要性について、私自身の経験を踏まえてお話ししたいと思います。

はじめに

今回は、医学的・専門的な内容はあまり記載しないつもりです。なぜなら私自身、どうするのが正解なのかよくわからないからです。

ただ、クリニックを開業して5年が経ち、障害を持った子どもたち(大人も含む)と関わり、確信していることはオーソモレキュラー栄養療法をもとに考えると、単に療育のみを行う場合よりも確実にいい方向への変化が期待できるということです。

積極的に関わった方が良い結果が出るというのが結論です。今回の「障がいを持った子ども」は、自閉症スペクトラム、ダウン症、アンジェルマン症候群、知的障がいの子どもたちを指します。

私自身の体験として、長女がアンジェルマン症候群という遺伝性疾患を持ち、そのきっかけで、知的障がいを持つ子どもたちの世界やその人生を知ることになりました。

学生時代、遺伝性疾患の病気の特徴などの講義はあっても、実際の生活や制度などに関する情報はほぼありませんでした。そのため当時の私は、「こうした子どもたちの発達を促す治療は『療育』のみで、ほぼ自然経過に任せるしかない」と勝手に結論付けていたのです。(もしかすると、私の授業態度にも問題があったのかもしれません)

こうした考えから、しばらくは療育という世界に任せきりでした。ところが、オーソモレキュラー栄養療法を知るにあたって自分の無知を知り、考え方を大きく変えることとなりました。

今回はそのような私の経験を通じて、親としての見解と、医師としての見解という2つの異なる立場から、かなり主観的内容ではありますが「障がいを持った子どもへのオーソモレキュラー栄養療法」について述べてみたいと思います。

「親」としての見解

子どもの成長に伴い、療育センター、子ども発達支援施設、特別支援学校を経て、長女はこの春から高等部3年生となりました。

平日は支援学校に通学後、放課後デイサービスを利用し、時々夜間グループホームのショート(お泊まり)利用をしています。高等部卒業後は、このグループホームに入所する予定です。制度の充実によって、親の負担はだいぶ減ってきた印象があります。(ただ、親の負担の軽減と子どもの症状の改善は別の話ですが・・・)

このような流れを経験すると、長女のこれまでの人生で発達を促す方法は、主に療育のみでした。その療育の内容は、ほとんどが体幹を鍛えるということに重きが置かれていたように感じます。実際に、何かにつけて「体幹を鍛えるべき」と言われてきました。

「夜眠らないのは日中動く量が足りないからで、日中なるべく動かした方がいい」
「歩行が不安定なのは体幹が弱いからなので、日中もっと動かしたほうがいい」

じっと座っていられなかったり座る姿勢をキープできなかったり、ペンやスプーンが持てない、そういったことも全て体幹のせいと言われてきました。もちろん、体幹が大事であろうことは何となく理解していましたが、「果たしてそれで全て解決するのか?」という疑問は常に持っていたのが本音です。

動かない娘の体幹をどう鍛えるのか?言葉を発さない娘に、どう行動を促せばいいのか?
昼間に頑張って動かしても夜中すぐに起きてくる娘、これはどういうことなのだろうか。「いずれ良くなる」の「いずれ」とは、一体いつなのだろうか。

夜2時間以上かけて寝かしつけ、ようやく寝てくれたと思ったら、20分後に起きてきて翌日の夜まで寝ない時もありました。娘が夜眠らない日々は、親としては満身創痍で何とか生活している状態です。

娘を寝かせるためには、当時は睡眠剤を飲ませることしか思いつきませんでした。その睡眠剤も、そもそもこんな小さな子に与えていいのか?という不安もありましたし、何をどのくらい与えていいのかもよくわかりませんでした。

親としての罪悪感を持ちつつ夫婦で相談して覚悟を決め、「飲ませよう」と決めた日のことは今でもよく覚えています。結局、睡眠剤を飲ませても寝ないままだったのですが。(今では薬だけでなく、血糖値の調節やCBDオイルなどの選択肢も出てきました)

色々なことは成長に伴って「いずれ」良くなるかもしれない、そんな感じに捉えていたように思います。どこかで諦めもあったかもしれませんが、本当にそれで正解なのかと、よくわからないことがたくさんありました。

先に述べたように、医学的に劇的な効果の出る治療法はないと思っていましたし、療育の知識もないので、それが正しいものだと勝手に思い込むことで自分を納得させていた部分もあったのかもしれません。

親の立場からすれば、障がいを「個性」と捉えて片付けるのではなく、改善できるのなら改善させたいと願っています。普通の子どもになってほしいという気持ちは、いつも持っています。

我が子への愛情はもちろんありますが、なれるのであれば普通の方が良いに決まっています。

何をもって「普通」というのかも難しい話ですが、単語だけでもいいから言葉を発してほしい、トイレも1人で行けるようになってほしい、屋外に出たら静かにしてほしい、夜は寝てほしい、なるべく普通の状態になってほしいと、親であれば誰でも願っているのではないかと思います。その感情を否定することはできません。

「医師」としての見解

さて、オーソモレキュラー栄養療法を導入した場合、そういった子どもや大人たちにどういったことが期待できるのでしょうか?普通の子どもと同じ状態になることが難しいにしても、今の状態よりは少しでも普通に近づけることが期待できると考えています。

遺伝子トラブルを治すことが難しくても、表情が豊かになったり語彙力が伸びたり、日中の癇癪の頻度が減ったり、夜寝るようになったり、歩く距離が長くなるなど脳機能の改善や日中の生活の質の改善を期待できます。

そのためには、やはり何を食べさせるのか、そして、それをどのようにしっかり吸収させるのかが重要になります。

十分な水分やたんぱく質を補給することはもちろん、足りない栄養素を効果的に吸収させるために鉄やビタミンB群・DHAなどのサプリメントを摂ること、さらに24時間のなかで血糖値の急激な変化をなくすことなどが非常に重要です。腸内環境の改善も大切なポイントになります。

例えば、鉄は脳の機能だけでなく体のエネルギーのもとにもなるため、日中の活動度の改善にもつながりますし、筋力にも影響を及ぼします。

もし、その子に栄養不足があったとしましょう。それゆえに体が疲弊して動かせる状態ではなくなっているのに、無理に動かすことを促している場合は本末転倒です。例えるなら、ガソリンの入っていない車をアクセル全開で動かそうとしているようなものです。

その子の栄養状態を把握した上で適切な療育プランを立てなければ、成果を出すことは非常に困難です。

血液検査の重要性

その子の栄養状態を推測するためには血液検査が必要です。とはいえ、子どもたちは死にものぐるいで抵抗するので、採血には非常に苦労します。

ですから採血される側の子どもはもちろん、付き添う親、そして採血を請け負う医療機関にとっても負担は大きくなります。

オーソモレキュラー栄養療法の採血は、一般的な採血よりも血液の量を多く採る必要があるため、その分時間もかかります。じっとしてもらえる時間が長くなければ、十分な量の血液が採れません。

その子の体が小さければ採血できる体勢は作りやすい一方、血管が細いと採血が難しくなります。逆に体が大きくなれば採血はしやすくなっても、採血できる体勢を保つことが非常に困難です。

いずれにしても大変なことに変わりありません。ましてや「採血」という行為そのものがトラウマになってしまえば、その後医療機関に行くこと自体にも支障が出てしまいます。小さい子どもの場合は、本人からの採血を諦めて母親の血液検査から考えるという方法もあります。

当院では、グループホームに入所している18歳以上の方を対象に、年に一度クリニックに集団で来院していただき、「健康診断」として血液検査、心電図、胸部レントゲンを行っています。

病院に来るという経験も大事なことですし、最初は絶対に検査は無理だと思っていた子でも、年々慣れてきて採血がスムーズにできるようになっていきます。こうした達成感の積み重ねは大切です。

定期的に来院できる子であれば徐々に慣れることはありますが、初めての病院あるいは初めての採血の場合、ハードルが非常に高くなります。

そこで、当院では指先のわずかな血液で行える検査キットを利用する方法(血糖値を測る方法と似ている)も採用しています。市販されているキットと同じものになりますが、貯蔵鉄の評価の参考になるフェリチン値も測ることができます。

もちろん標準的な採血に比べると調べられる検査項目数は少なくなりますが、それでも鍵となる栄養素の判断は可能です。

貯蔵鉄をはじめビタミンB6、たんぱく質、血糖値、抗酸化能力、炎症の可能性などの評価が行えます。また、背景となる栄養不足の傾向がわかるので、今後どういった食事にしたらいいのかといった指標も得られます。

一般医療でもそうですが、オーソモレキュラー栄養療法でも時々劇的な改善がみられることがあります。例えば、1歳未満の夜泣きがひどい赤ちゃんがヘム鉄を服用したその日から夜泣きが減ったケースがありました。4歳の自閉症の男の子が、DHAを服用してから急に言葉が出てきたということもあります。

こうした経験をするのは、非常に嬉しいことです。ただし多くの場合、発達の改善はゆっくりです。

同時に、血液検査をもとに食事を工夫して頑張って、なかなか飲んでくれないサプリメントに悪戦苦闘しながらも継続していくなかで、「効果を実感できた」とおっしゃる保護者の方は多くおられます。

しかしながら血液検査をしたということや、その結果をみたということで満足して終わってしまえば、改善は見込めません。その結果をもとに、どう行動を起こすのかが非常に重要なのです。

栄養状態の把握が療育につながる

オーソモレキュラー栄養療法は、残念ながら保険診療ではありません。採血にはそれなりのお金がかかりますし、医療期間で購入できるサプリメントも決して安くはありません。そして、治療のゴール設定も難しいものです。

子どもが小さい頃に治療を開始すると効果は出やすいと感じていますが、その分治療継続期間は長くなってしまいます。

そして、成長に伴う不安定さも表出してきます。乳歯が抜ける前後や、生理が始まりそうな前後で体調が悪くなったり、普通の子どもと同様に不安定な時期の波を乗り越えていかなければなりません。その度に、親はくじけそうになるのです。

日中多く過ごすことになる特別支援学校などの公的機関や、利用する医療サービスでの食事やおやつの内容の改善も必要になってきます。

障がい児の発達を促す医療においては、まだまだ不明なことが多く、どういった医療が最適であるのかはよくわかりません。ただ、親の立場を理解すれば、その子が今の状態よりも少しでも改善することが切なる願いであることは揺るぎません。

その子の栄養状態を判断した上で、食事を工夫しつつ足りない栄養素を補給し日々の療育につなげ、その子自身と保護者の笑顔が少しでも増えることを期待したいです。

最後にお伝えしたいこと

障がいを持った子どもの場合、親の負担は計り知れません。負担の大きさはその親にしかわかりませんし、愛情があるからこその苦しさも存在します。

ただ一つ言えるのは、まず親が元気でいないと、プラスアルファのことはできません。「家族で食事を共有している」ということは「その食事を変えれば家族全員が元気になれる可能性がある」ということです。

子どもだけに目を向けるのでなく、まず親である自分自身が元気になることがとても重要です。パワー!やゆとりがあってこそ、見逃してきた多くのことに気づき、行動を起こせるようになるはずです。

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