「痛み」は「実質的または潜在的な組織損傷、あるいはこの損傷に伴う不快な感覚・情動体験」と定義されています。さらに、慢性疼痛については「典型的には 3ヶ月以上持続する、または通常の治癒期間を超えて持続する痛み」と定義されています。
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痛みの治療における新しいアプローチ:幹細胞培養上清とCBDオイルの活用
痛みとは 「実質的または潜在的な組織損傷、あるいはこの損傷に伴う不快な感覚・情動体験」と定義されています。
一度痛みが起こると神経が刺激され、さらに痛みが増すといった“痛みの悪循環”を招くことがあります。現在ある様々な手段を用いても、痛みを完全に取り除くことが困難な場合も少なくありません。
幹細胞上清は、幹細胞から分泌されるサイトカインなどの様々な種類の生理活性物質を含んでいます。これら生理活性物質は体内の損傷を受けた組織や細胞の機能回復に重要な役割を果たし、老化などにより衰えた細胞の回復を後押しします。
一方、CBDは大麻草から抽出される生理活性物質です。ヒトは内因性カンナビノイドを持っており、それを介して様々な機能を制御しています。CBDオイルの投与は植物由来のカンナビノイドにより、ヒトの内因性カンナビノイドの欠乏を補う治療です。
上記でご紹介した幹細胞上清とCBDオイルを組み合わせた治療は、今日における痛み治療の分野において一般的ではありません。今後さらに症例を増やすことによって新しいアプローチとして定着する期待が寄せられています。
痛み治療、主流のアプローチとその問題点
現在、世界の人口の約5人に1人が何らかの慢性疼痛を抱えています。痛みでも組織を障害する痛みは「侵害受容性疼痛」、心理的な問題によって生じる痛みは「心因性疼痛」と言われています。
痛みが持続すると脳と脊髄に変化が生じ、持続する痛みを補うための神経系の経路の再構築が生まれます。すると痛みがある局所が治療によって治癒しても、再構築された中枢神経系が痛みの経験を持続し慢性化させてしまうことがあります。また、一度痛みが起こると神経が刺激され、血流が悪化して代謝異常が起こり、さらに痛みが増すといった“痛みの悪循環”が起こります。
このように、痛みは様々な要素が複雑に絡み合っていることが多く、現在ある様々な手段でも痛みを完全に取り除くことが困難な場合も少なくありません。
現在、痛みの治療としては主に理学療法と薬物療法(内服薬、神経ブロック、関節内注射)が組み合わされています。薬物療法では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)※1とアセトアミノフェン※2、三環系抗うつ薬※3、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、オピオイド※4 などが用いられています。
しかし、薬物療法には副作用があり、これらを用いても十分な鎮痛を得られない場合が多くあります。その中でも、特に広く用いられているNSAIDsの長期使用については「消化管出血、心血管イベント、腎機能障害を増加させるため、投与量や投与期間を適正化すべきである」と警鐘が鳴らされています。
※1:抗炎症作用、解熱作用、鎮痛作用を持つ薬剤の総称。代表的なNSAIDsとしてロキソニン、ボルタレン、バファリンなどが挙げられる。
※2:解熱鎮痛薬の一つ。アセトアミノフェンを成分とする鎮痛剤としてはカロナールが挙げられる。
※3:化学構造の中に“3つの輪”を持つことからこのように呼ばれる。抗うつ薬の中でも古い歴史を持ち強力な抗うつ作用を有する反面、副作用が出やすいと指摘されている。三環系抗うつ薬にはアモキサン、トフラニールなどの抗うつ薬が含まれる。
※4:麻薬性鎮痛薬やそれと似た作用を有する合成鎮痛薬を総称してオピオイドと呼ぶ。
幹細胞上清と痛み治療
幹細胞上清とは、体内に存在する歯髄・臍帯(さいたい:へその緒)・骨髄・脂肪などの「間葉系幹細胞」と分類される幹細胞を培養した際に放出される何百種類もの生理活性物質が含まれる培養液から細胞を取り除いたものです。
幹細胞から分泌されるサイトカインなどの様々な種類の生理活性物質は、体内の損傷を受けた組織や細胞の機能回復に重要な役割を果たし、老化などにより衰えた細胞の回復を後押しします。期待される作用は以下の通りです。
- 組織・神経修復作用
- 抗炎症作用
- 抗酸化作用
- 創傷治癒作用
- 免疫調整作用 など
現在、これらの作用を用いて疼痛治療が行われつつあります。例えば、効果を得たい部位に培養上清液を注射で局所注入します。注入した部位では、炎症が改善され疼痛が緩和します。そして、細胞分裂が活発になり組織の再生が行われることが期待されます。 関節内への注入では、関節炎などの炎症を抑えて骨膜などを再生します。
CBDオイルと痛み治療
一方、CBDオイルとはカンナビノイドと総称される大麻草中の生理活性物質の中で最も有効な成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)などが含有されるチンキ状のオイルのことです。
しかし、THCはその精神作用のため規制されているため、日本国内で使用できるのはCBDをはじめとするTHC以外のカンナビノイドとなります。CBDには、以下の作用があることが知られています。
- 抗痙攣作用
- 抗炎症作用
- 細胞障害の抑制と改善作用
- 抗不安作用
- 降圧作用
- 特定のがんにおける細胞死を誘導する作用 など
全ての脊椎動物は内因性カンナビノイドを持ち、それを介して様々な機能を制御しています。これをエンド・カンナビノイド・システム(ECS)と言います。ECSは食欲、睡眠、性行動、疼痛、免疫、感情、運動機能、発達、老化、認知、記憶などをコントロールしています。
ヒトは老化や強いストレス、栄養障害、重金属、環境ホルモンなどによりカンナビノイド欠乏の状態となります。CBDオイルの投与は、植物由来のカンナビノイドによってヒトの内因性カンナビノイドの欠乏を補う治療です。
慢性疼痛では持続的な痛みを訴える一方で、痛みによりうつや不安障害などの神経症状や睡眠障害などを併発するケースが多くあります。こうした合併症は病態を複雑にし、疼痛のさらなる悪化を引き起こすという負の連鎖をもたらします。
このような場合にCBDオイルを用いることによって痛みそのものを改善し、さらにはECSを整えることによって睡眠障害が改善され、感情のコントロールが容易になると考えられています。
まとめ
痛み治療の分野では、今回ご紹介した「幹細胞上清」と「CBDオイル」を組み合わせた治療はまだ一般的ではありません。さらにこれらの症例を増やすことにより、新しいアプローチとして定着する期待が寄せられています。
<参考文献>
・IASP (International Association of the study of Pain) www.iasp-pain.orgより
・Miguélez-Rivera L, Pérez-Castrillo S, González-Fernández ML, et. al.: Spine J. 2018 Feb;18(2):330-342. doi: 10.1016/j.spine.2017.09.002. Epub 2017 Sep 20.PMID: 28939169
・T eitelbaum J.: A hemp oil, CBD, and Marijuana Primer: Powerful Pain, Insomnia, and Anxiety-relieving Tools! Altern Ther Health Med. 2019 Jun;25(S2):21-23.PMID:31202200
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