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女性の健康(不妊・妊娠・出産)と栄養療法

妊娠・出産という時期は、女性の一生の中でも身体の状態が大きく変化する時です。この変化に対応する身体の健康度がとても重要になります。

そのためには妊娠前から栄養をしっかり補給し、健康な状態で妊娠して分娩に備えることが基本となります。近年、妊娠前から身体の状態を整えることを指す「プレコンセプションケア」の重要性が注目されています。

ヒトの身体を構成する各々の細胞が正しく機能を果たせば、自ずと身体は健康になるようになっており、妊娠しやすく、妊娠してからも身体が適切に対応し、スムーズな出産に導いてくれます。

また、出産には自律神経が大きく関わっています。心臓が意志と関係なく鼓動し、胃と腸で食べたものを消化吸収してくれるのは、自律神経が上手く働いてくれているからです。出産も、意志とは関係なく自律神経の働きにより陣痛が起こり、様々なホルモンが自然に分泌され、分娩に導いてくれます。

したがって、妊娠期間が順調に進み、トラブルなく出産するためには、バランス良く食事を取ること、そして足りない栄養素はサプリメントで補い、身体をより一層健康な状態に保つことが肝心です。

近年注目される「プレコンセプションケア」とは?

女性の一生の中でも、妊娠・出産という時期は身体の状態が特に大きく変化する時です。妊娠するとホルモンや循環血液量の変化など本来女性は生理的に、出産に備えて身体が変化し適応するようになっています。

この大きな変化を受け入れ、適切に対応する身体の健康度が非常に重要です。妊娠する前から栄養をしっかり取り、健康な状態で妊娠して分娩に備えることが基本となります。そして近年、「プレコンセプションケア」(妊娠する前から身体の状態を整えること)の重要性が指摘されています。

2012年、WHO(世界保健機関)は「プレコンセプションケア」として妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うことを提唱しています(1)(2)

健康で妊娠しやすい身体作りのためには、生命活動のエネルギー源である食事をバランス良くしっかり取り、食事で足りない分の栄養素はサプリメントの追加などにより補うことが推奨されます。

もちろん、すでに身体に何か問題がある場合は妊娠する前に治療しておくことが重要です。ヒトの身体を構成するおよそ37兆個の細胞の各々が機能を果たせば、自ずと身体は健康になるようにできており、健康状態が良くなると妊娠しやすく、妊娠後も身体が出産に備えて適切に変化し、より安全な正常分娩が期待できます。

自律神経と妊娠・出産

出産には自律神経の働きが大きく関わっています。妊娠40週前後に月などの天体・気象・その他環境の影響によって陣痛のスイッチが入り、プロスタグランディンやオキシトシンなどの陣痛に関わるホルモンが分泌されます。すると子宮が反応(収縮)し、胎児を押し出していきます。

一方、 “脳内麻薬”と呼ばれるセロトニンやエンドルフィンといった痛みを和らげるホルモンも分泌されます。これらのメカニズムはとても精巧で自律神経が主に担っており、妊婦の意志でコントロールできるわけではありません。このメカニズムは科学で未だ十分に解明されていませんが、分娩を安全で順調に終了するために自律神経を正常に機能させることが重要です。

各々の細胞が正しく機能を果たせば、自ずと身体は健康になるようにできており、妊娠前なら妊娠しやすくなり、妊娠後も身体が適切に対応することで病気になりにくく順調な妊娠経過で出産に導いてくれます。

また、もし妊娠中にウイルスや細菌などが侵入してきても免疫によって感染症の発症を予防し、分娩時の出血にも本来備わっている止血機能が働き、出血が少なく無事に出産を終えることが期待できます。細胞が正常に機能してくれると、妊婦は何も心配することなく身体が自然と正常分娩へと導いてくれるのです。

妊娠すると大脳新皮質が構造変化を起こし、いわゆる「動物的本能」を司る脳幹部、基底核、小脳などが優位に働く可能性があると報告されました(3)。大脳新皮質を機能低下にすることで、自律神経が働くように身体が調節しているのです。

残念ながら現代社会は大脳新皮質ばかり使い、動物的本能の役割を果たす古い脳を使いにくい環境になっていると考えられます。

栄養補給の重要性

自律神経を正常に機能させスムーズな出産を迎えるために、まずは栄養を十分に摂ることが大変重要です。ところが、しっかり食事をしている方であっても、食事だけでは栄養が足りていないのが現状です。

食物を育てる土壌の栄養価が低下し、食材そのものの栄養価も下がっていると言われているためです(4)。それに加え、加工食品が増えたことによる様々な添加物の影響も否めません。

近年のパンブームやコンビニ食の多用などから、食の生活習慣は大きく変化してきました。「朝食は何を食べましたか?」の問いに対し、多くの方が「パン」「フルーツ」「ヨーグルト」と答えられます。

現代の日本女性の多くは、当たり前かのようにこうした偏った食事をされています。仕事や子どもの世話などに追われ、朝の忙しい時間の中で自分の食事がおろそかになっている方が非常に多くなっているのです。

朝食は和食を基本に、たんぱく質が含まれるものを2品目以上は食べるようお勧めします。また、妊娠を希望されている方、妊娠中でこれから出産を迎える方、授乳期の方においては特にしっかりと栄養を摂る必要がありますので、朝食は抜かずにたんぱく質を意識した食生活を意識していただきたいです。そして良質なサプリメントを上手に活用して十分な栄養補給をすることも重要です。

鉄、ビタミンD、亜鉛・・・栄養不足が母体に与える影響

近年、10代~20代の未婚女性で月経痛や月経不順を訴える方が非常に多くなっています。こうした症状を軽減するためにピルなど(LEP製剤とも言われる)のホルモン剤を服用されている方も少なくありません。

ホルモン剤の服用で症状は一旦落ち着くのですが、実際は根本治療になっていません。ホルモン剤をやめればまた症状が戻ってきてしまいます。したがって、ホルモン治療と併行して食事・生活習慣に注意し、栄養状態を改善することが重要です。

10代の若い女性は成長とともに鉄の需要が高まる一方、初潮後は月経に伴う鉄の喪失が始まり、鉄のアンバランスが生じてきます。そのため十分な鉄を補給することが重要ですが、近年の若い女性が細身の体型を好む傾向もあり、約60%の方が鉄不足になっていると指摘されています(5)

鉄不足の状態で就職し、食生活の乱れと睡眠不足が重なり、鉄不足のまま妊娠を迎えることになってしまいます。母体だけでなく胎児も多くの鉄を必要とするので、もし鉄不足のまま妊娠すると貧血がますます進行してしまいます。

鉄不足により切迫早産、妊娠糖尿病、胎児発育遅延や産後うつになりやすくなると報告されています(6)。また、近頃は若い女性のビタミンD不足も指摘されています。日焼け防止のための日焼け止めクリームなどの使用や、ビタミンD合成に必要な海産物の摂取量も少なくなっています。

妊婦のビタミンD不足によって幼児のビタミンD不足が生じることも指摘され、くる病(骨軟化症)の増加の原因とされています(7)。さらに小児の発達障害も増加傾向にあることが指摘されていますが(8)、亜鉛不足が原因の1つであることも指摘されており(9)、母体の亜鉛不足にも注意しなければなりません。

このように、現代社会においては鉄、葉酸だけでなくビタミンD、ビタミンB群、亜鉛などあらゆる栄養素が不足しやすい環境にあります。これらをわずか9ヶ月間ほどの妊娠期間中に十分量摂取するには、食事のみでは難しいでしょう。したがって良質なサプリメントを十分に補給することが必要といえます(10)~(13)

一般的な産婦人科の健診では栄養についての指導が十分ではなく、いまだに「サプリメントは必要ない」と言われる産婦人科医師もいます。また、サプリメントの検証も十分できていないため、多く流通しているサプリメントからどのサプリメントを選べば良いのか、妊婦さんご自身では判断が難しいこともあるかもしれません。このような場合には、やはりサプリメントに詳しい医師や栄養士からアドバイスを受けることをお勧めいたします。





<参考文献>

(1)Cassinelli E. H.,McKinley M. C.,Kent L.,他:Preconception health and care policies and guidelines in the UK and Ireland: a scoping review.Lancet 400 Suppl 1:S61,2022

(2)Dorney E.,Boyle J. A.,Walker R.,他:A Systematic Review of Clinical Guidelines for Preconception Care.Semin Reprod Med 40:157-169,2022

(3)Hoekzema E.,Barba-Muller E.,Pozzobon C.,他:Pregnancy leads to long-lasting changes in human brain structure.Nat Neurosci 20:287-296,2017

(4)久保 幹:土壌づくりのサイエンス,Book 土壌づくりのサイエンス,誠文堂新光社,2017

(5)星野 寛美, 貧血・かくれ貧血, in 働く女性の心とからだの応援サイト. 2020: 母性健康管理等推進支援事業 事務局.

(6)Cantor A. G.,Bougatsos C.,Dana T.,他:Routine iron supplementation and screening for iron deficiency anemia in pregnancy: a systematic review for the U.S. Preventive Services Task Force.Ann Intern Med 162:566-576,2015

(7)Yorifuji J.,Yorifuji T.,Tachibana K.,他:Craniotabes in normal newborns: the earliest sign of subclinical vitamin D deficiency.J Clin Endocrinol Metab 93:1784-1788,2008

(8)橋本 俊顕:ヒトでの発達障害の病態:自閉症スペクトラム障害、注意欠陥/多動性障害を中心に.日本毒性学会学術年会 39.1:S5-3,2012

(9)Skalny A. V.,Mazaletskaya A. L.,Ajsuvakova O. P.,他:Serum zinc, copper, zinc-to-copper ratio, and other essential elements and minerals in children with attention deficit/hyperactivity disorder (ADHD).J Trace Elem Med Biol 58:126445,2020

(10)Oh C.,Keats E. C.,Bhutta Z. A.:Vitamin and Mineral Supplementation During Pregnancy on Maternal, Birth, Child Health and Development Outcomes in Low- and Middle-Income Countries: A Systematic Review and Meta-Analysis.Nutrients 12,2020

(11)Iqbal S.,Ali I.:Effect of maternal zinc supplementation or zinc status on pregnancy complications and perinatal outcomes: An umbrella review of meta-analyses.Heliyon 7:e07540,2021

(12)Juul S. E.,Derman R. J.,Auerbach M.:Perinatal Iron Deficiency: Implications for Mothers and Infants.Neonatology 115:269-274,2019

(13)Yang F.,Zhu J.,Wang Z.,他:Relationship between maternal folic acid supplementation during pregnancy and risk of childhood asthma: Systematic review and dose-response meta-analysis.Front Pediatr 10:1000532,2022

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