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機能性医学からみた慢性疲労症候群の治療

ー「自己治癒力を高める治療」の可能性についてー

この記事の執筆者

医療法人 全人会 小西統合医療内科

総合内科専門医。

慢性疲労症候群の患者は全国に約100万人いると言われています。本当の原因は未だ不明ですが、分子栄養学・機能性医学の立場から根本的治療を行うことは可能です。当院においてはこれらの知識に基づいた「自己治癒力を高める治療法」を“体のバランスを整える根本的治療”と定義しています。

本稿では、分子栄養学・機能性医学に基づいたアプローチによって自分自身の体のバランスを整えることで自己治癒力を高め体内の炎症を鎮めるという点から、慢性疲労症候群の治療について考えてみたいと思います。

原因不明とされてきた慢性疲労症候群

慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome)は、身体を動かすことのできないほどの疲労が6か月以上続く病気です。1988年に米国疾病予防管理センター(CDC)により新しい疾患概念として提唱されました。Chronic Fatigue Syndromeという英語名から「CFS」と呼ばれることもあります。

風邪に似た症状が長引き、改善しないまま摂食障害や不眠に発展するケースが多く、全身の検査(ホルモンの異常、内臓や脳、神経系の検査など)では異常が見つからない時に慢性疲労症候群が疑われます。これまでウイルス感染 や遺伝的要素、精神的要因などが関連しているのではないかと言われていましたが、はっきりとした原因解明にはまだ至っていません。

慢性疲労症候群と脳の関係

原因が明らかではないと前述したものの、最近の研究では脳内の炎症と関連している場合が多いとして、「筋痛性脳脊髄炎」という病名が併記されるようになってきました。

慢性疲労症候群の患者においては、脳の海馬・視床・扁桃体を含む複数個所での神経炎症が確認されています。アミノ酸の一種であるアセチルカルニチンの脳内への取り込み低下やアシルカルニチンの血中低値も報告されており、慢性疲労症候群と脳の器質的病変を伴う病気であることが認められつつあります。これは慢性疲労症候群の根本的治療の足掛かりとなる大きな発見と言えます。

自己治癒力と慢性疲労症候群

脳内に限らず、体内で生じる炎症は様々な病気の原因となります。ここで言う炎症とは、炎症性サイトカイン(炎症症状を引き起こすサイトカイン)と呼ばれる物質や、活性酸素が増えている状態を表します。これからの医療では、今以上に「抗酸化治療」「抗炎症治療」の有効性が示されるでしょう。すでに、慢性疲労症候群の患者さんに対して抗酸化サプリメントが効果的であるという報告も出てきています。

慢性疲労症候群は免疫系・神経系・内分泌系の多系統の病態が関係する複雑な機序を持つ病気です。しかし、一言で表すならば、炎症が全身の様々なシステムに細胞機能不全を起こした状態と言えます。

まずは体の炎症を抑え、炎症の原因となる素因を改善することで根本的な治療を行うことができるのです。実際に、当院ではこれまでに何百人もの慢性疲労症候群の患者さんの治療を行い、改善された方を多くみてきました。

自己治癒力を低下させる体内環境の悪化

自己治癒力が著しく下がった時、体に炎症が生じます。当院ではこの炎症を引き起こす原因として「リーキーガット症候群」「腸管カンジダ症」「重金属や環境汚染物質などの蓄積」を想定した上で検査を行っています。

上記のような“体内環境の悪化”がサイトカインレベルを上昇させたり、活性酸素を増やして体全体や脳の炎症を広げる原因となっているのです。そして、検査結果を元に炎症の原因となる要因を一つずつ取り除いていくことによって、体は徐々に自己治癒力を取り戻し始めます。

分子栄養学・機能性医学に基づいた治療の可能性

分子栄養学の観点からみると、慢性疲労症候群を「ミトコンドリアの機能障害」と捉えることができます。その場合、鉄やビタミンB群といったエネルギー代謝に関連するビタミンやミネラルを補う治療が行われます。これらの治療は例えるならば、“精密機械の歯車がスムーズに動くようにするために「潤滑油」を補う治療”と言うことができます。

ただし、これらのビタミンやミネラルを補ったからといって、必ずしも体の機能が改善する訳ではありません。腸内環境が悪化してリーキーガット 症候群を起こすと、腸管にできた隙間から未消化の食物成分や環境汚染物質・重金属などの炎症の原因となる物質が体内に入り込んできます。さらに腸内環境が悪化すると、悪玉菌やカンジダ菌などの真菌の増殖(ディスバイオシス)を招き、様々な毒素を放出するようになることで体内に炎症が起こり始めます。

体内に炎症を起こす物質が溜まることは、先ほどの例えで言えば、“歯車の隙間に砂が詰まり、歯車がスムーズに回らなくなること”にあたるでしょう。「リーキーガット症候群」「腸管カンジダ症」「重金属や環境汚染物質などの蓄積」は体に炎症を起こし、歯車に目詰まりを起こす原因となる訳です。そして、これらの要因を改善して歯車の目詰まりを取り除く方法を「機能性医学」と言います。

私たちの体調不良や原因不明の様々な症状を体の歯車が正常に動いていない状態であるとすると、分子栄養学的治療は潤滑油を補う治療法です。そして、歯車の目詰まりを取る治療法が機能性医学と言えます。さらに、歯車に必要な潤滑油を補い、目詰まりを取ることで歯車が正常に機能するように調整する治療法は「自己治癒力を高める治療」であると考えています。

治療における「根本的原因」を理解することの重要性

慢性疾患は突発的な要因によって生じる訳ではありません。根本的な原因は体内環境にあり、それが最終的に「病気」という形で姿を現しているだけなのです。そのプロセスを理解した上で、様々な方法を用いて治療にあたることこそ「自己治癒力を高める治療」の実践にほかなりません。

今回は慢性疲労症候群の治療について解説しましたが、炎症を起こす根本的な原因を解決することによって様々な症状を改善するプロセスは、他の疾患や症状にも十分に応用が可能です。現在健康な人が病気になりにくい身体作りをする上でも同様に、重要なアプローチであると確信しています。

まとめ

長く原因不明とされてきた慢性疲労症候群ですが、脳の炎症が関与していることがわかってきました。脳に限らず、体内の炎症は病気の誘因となる可能性があります。抗炎症治療だけではなく、リーキーガット症候群やカンジダ症、重金属や環境汚染物質の蓄積など体内環境を悪化させている根本原因の解決は、症状の改善につながるでしょう。

体内の炎症抑制は慢性疲労症候群だけでなく、現在健康な人の自己治癒力の向上や維持にも役立ちます。機能性医学の観点からも、今後さらに自己治癒力に目を向けることが望まれます。