線維筋痛症(FM:Fibromyalgia:以下FMと表記)患者さんは、中枢性感作(脳や脊髄における興奮性の変化)に関連すると考えられる広範囲にわたる痛み、疲労、認知機能障害、睡眠障害などの慢性的な症状に苦しんでいます。近年、特定の食事成分が異常な神経伝達を引き起こし、中枢性感作のプロセスを持続させる可能性についての証拠が蓄積されてきています。
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体の痛みも改善できる?線維筋痛症と栄養療法
長引く体の痛みにお困りの患者さんの中には「線維筋痛症」と呼ばれる、広い範囲におよぶ難治性の痛みを抱えている方がいらっしゃいます。原因については不明点も多いのですが、主流となっているのは脳や脊髄での「痛みを感じる神経の変化による」という説です。また、驚くべきことに食品中の興奮性アミノ酸がこの変化を引き起こしている可能性も、種々の研究により指摘されています。
栄養療法(オーソモレキュラー医学)の観点からみると、症状の抑制には以下の2点が役に立つと考えられています。
1.グルタミン酸ナトリウム(調味料)、アスパルテーム(人工甘味料の一つ)、改変タンパク質(ゼラチン、加水分解タンパク質、酵母エキス、タンパク質濃縮物、タンパク質分離物など)といった食物性興奮毒を極力避けること。
2.マグネシウム、亜鉛、ビタミンB6、オメガ3系脂肪酸および抗酸化物質を摂取すること。
はじめに
痛みと興奮性アミノ酸
慢性痛は、興奮性アミノ酸である「グルタミン酸」の放出によって媒介されると考えられています。グルタミン酸はAMPA受容体に作用し、脳と末梢の両方で活動電位を持続させる働きがあります。異常なグルタミン酸作動性神経伝達は、下記疾病への関与が指摘されています。
・FM
・顎関節障害
・過敏性腸症候群
・うつ病
・片頭痛
・そのほか疼痛全般
侵害受容中にグルタミン酸と共に放出されるサブスタンスPは、血液脳関門(BBB:blood-brain barrier)の透過性を高めることが示されています。BBBは通常、高濃度の食物性グルタミン酸から脳を保護しています。しかし、中枢性感作中に観察されるサブスタンスPの増加により食物性グルタミン酸が脳に入りやすくなることで、FMの症状に影響を与える可能性があります。FMおよび片頭痛患者において、脳脊髄液中のグルタミン酸濃度が高いこと、FM患者に対するMRIを利用した複数の研究においても、脳のグルタミン酸レベルが高くなると報告されています。
食事の観点から
上記でお話しした「グルタミン酸」は、食物中に含まれる負に帯電した2つの非必須アミノ酸(グルタミン酸とアスパラギン酸)の1つです。「アスパラギン酸」は、痛みやうつ病に関係する重要な受容体であるNMDA受容体に作用します。
これらのアミノ酸は、グルタミン酸ナトリウム(MSG:調味料)、アスパルテーム(フェニルアラニンとアスパラギン酸のジペプチド:人工甘味料)、改変タンパク質(ゼラチン、加水分解タンパク質、酵母エキス、タンパク質濃縮物、タンパク質分離物など)といった添加物として、様々な食品に含まれています。
研究が示す食品添加物の“落とし穴”
2001年スミスらは、食事からグルタミン酸ナトリウムとアスパルテームを除去した後、FM症状が改善した4名の症例を報告しました。2010年に実施された別の症例研究でも、アスパルテームの使用を中止した2名の患者で、広範な疼痛およびその他FM症状の寛解が報告されました。ここで特筆すべき点は、彼らがアスパルテーム再開後に症状の再燃が確認されたことでしょう。
後の臨床研究においても、エキソトキシン除去食(これらのアミノ酸供給源を除去したもの)を1か月間摂取した8名のFM患者全員に、顕著な症状改善が認められました。
そして食事療法の1か月後、症状の30%以上が改善した被験者を対象に追加試験を行いました。プラセボと比較し、グルタミン酸ナトリウムでのチャレンジ時に症状の有意な発現が実証されました。つまり、“興奮毒の除去”が症状緩和の理由であることが示唆されたのです。
興奮毒を避けるには成分リストの確認を
この「興奮毒」に対する感受性をテストする唯一の方法は、食事からこれらを完全に取り除くことです。実施する際にはグルタミン酸ナトリウム、アスパルテーム、改変タンパク質などの成分を避けなければならないため、食品ラベルの成分リストの確認が必須となります。
また、混合調味料にはグルタミン酸ナトリウムのような風味増強剤が含まれていることが多いため、調理する場合はこれらを天然のものに置き換え、さらには「遊離グルタミン酸」が多く含まれる食品も避ける必要があります。
【遊離グルタミン酸が含まれる食品例】
食品醤油、魚醤、ウスターソース、アミノ酸調味料、チェダーチーズ、パルメザンチーズなど。
アスパルテームに関しては、現在多くの食品に用いられている人工甘味料であるため、とにかく避けることが肝心です。テスト期間は、1か月間(外食なし)が理想的ですが、これまでの研究ではほとんどの被験者が1週間以内に改善を感じ始めています。
痛みと微量栄養素
微量栄養素も神経機能をサポートする重要な役割を果たし、いくつかは潜在的にグルタミン酸作動性神経伝達を調節します。
興奮毒性と栄養素の関連性
【マグネシウム・亜鉛】
例えば、マグネシウムはNMDA受容体をブロックし、亜鉛はグルタミン酸とともにシナプス間隙に共放出されることで、興奮性応答を負に調節すると考えられています。つまり、マグネシウムと亜鉛のレベルが低いと、興奮毒性が強まる恐れがあります。
【ビタミンB6】
ビタミンB6も重要な役割を果たします。ビタミンB6は、グルタミン酸(興奮性神経伝達物質)をGABA(抑制性神経伝達物質)に変換する酵素である「グルタミン酸デカルボキシラーゼ」の重要な補因子として働きます。ビタミンB6の欠乏はグルタミン酸増加とGABAの阻害をもたらし、ひいては中枢神経系の興奮毒性を促進してしまいます。
【オメガ3系脂肪酸】
オメガ3系脂肪酸の欠乏も興奮毒性を高めることが示されています。オメガ3系脂肪酸には細胞膜の流動性を高める作用があり、シナプスの裂け目から過剰なグルタミン酸を除去し、さらに興奮毒性を防ぐグルタミン酸トランスポーターの発現を調節する可能性もあります。
※微量栄養素が重要となる下流の役割もあります。興奮毒性は、神経系での活性酸素生成の増加を通じて酸化ストレスを引き起こす可能性があります。したがって、グルタミン酸作動性神経伝達が過剰になると、ビタミンC、ビタミンEをはじめとする抗酸化物質摂取の必要性が高まります。
まとめ
食物性興奮毒がどのようにFMの症状発生につながるかについて、生物学的な妥当性が存在します。オーソモレキュラー医学においては、マグネシウム、亜鉛、ビタミンB6、オメガ3系脂肪酸、抗酸化物質の摂取も症状の発生を抑える役割を果たします。これらの栄養素と興奮毒性との間の大きな相互作用を踏まえると、今後グルタミン酸作動性神経伝達の調節には、これらの摂取量と血漿レベルの測定も含める必要があると考えられます。
<参考文献>
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