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赤ワインの腸内細菌叢に対する健康効果

この記事の執筆者

銀座よしえクリニック都立大院

順天堂大学大学院准教授時代に、赤ワインのポリフェノールで長寿遺伝子を活性化させるレスベラトロールの研究に従事。その際に、ワインエキスパートの資格を取得。2013年からは、ワインスクール「レコール・デュ ... [続きを見る]

赤ワイン、あなたは嗜みますか?赤ワインの健康作用は、豊富に含まれる“ポリフェノール”の抗酸化作用によるものであることが知られています。さらに最近の研究により、赤ワインが腸内細菌叢の多様性を増大させることがわかってきました。

赤ワインのポリフェノールは抗酸化作用にとどまらず、食物繊維と同じように腸内細菌叢の改善に寄与することで健康作用をもたらしている可能性があると考えられ、今後の更なる研究によるメカニズムの解明が待ち望まれます。

腸内細菌叢の多様性が健康体のバロメーター

成人における腸内細菌叢は、通常であればかなり安定していて、同じ個人の菌叢構成の特徴は時間が経っても比較的保たれています。一方、腸内細菌叢の多様性の減少が肥満や糖尿病などの生活習慣病、自閉症やうつ病などの精神疾患といった様々な疾患や病態と関連性があることが近年続々と報告されています1)。この腸内細菌叢の構成に影響を与える重要な外的因子のひとつが「食餌」です。

食餌といえば、プロバイオティクスのヨーグルトやオリゴ糖、食物繊維などが一般的によく知られています。2016年、『Science』誌に発表された研究では、これらの他にもワインやコーヒー、お茶などポリフェノールが豊富な飲み物も腸内細菌叢の多様性に寄与することが明らかにされました2)

赤ワインは腸内細菌叢の多様性を増大させる

2019年8月、ロンドン大学キングス・カレッジ(英国)のCarolline Le Royらのチームが「赤ワインは腸内細菌叢のα多様性を増大させる〜3つの独立したコホート研究から〜」という研究結果を報告しました3)

この研究は英国内916組の双子を対象に行われました。そして、ビール、リンゴ酒(シードル)、赤ワイン、白ワイン、蒸留酒が腸内細菌叢やその他の健康に関する指標にどのような影響を及ぼすか調査しています。調査結果によると、赤ワインを飲んでいる人々は、他の酒類を飲んでいる人に比べて、腸内に生息する細菌の構成バランスが優れている(多様性がある)ことがわかりました。

  1. Flemish Gut Flora Project(FGFP;n=1104)
  2. American Gut Project(AGP;n=904)

以上2つのコホート研究や、英国の別の双子50組を対象とした調査でも同様の結論が得られています。また、効果を得るには2週間に1杯ほどの赤ワインの摂取でも十分であることがわかりました。そして、赤ワインには腸内細菌叢の多様化だけでなく、肥満防止や血中インスリンレベルの正常化、HDLコレステロール増加などプラスの作用があることも判明しました。

ちなみに、赤ワインほどではないものの、白ワインにも腸内細菌叢の多様性をもたらす効果との関連性が認められています。

ポリフェノールと腸内細菌の関係

この研究チームは、ブドウの皮に含まれる「アントシアニン」「レスベラトロール」「没食子酸」といったポリフェノールが腸内細菌叢の多様性の増大に関与していると考えています。前に述べたように、それほど顕著ではありませんが白ワインにおいても腸内細菌叢の多様性との関連性が認められるという事実が、研究チームのこうした考えを裏付けていると思われます(白ワインのアルコール度数は赤ワインと同程度もしくはやや低めですが、ポリフェノール濃度は赤ワインの1/6から1/7程度です)。

ポリフェノールの抗酸化作用がアンチエイジング的に働くことはよく知られています。しかし、一方でポリフェノールの体内吸収率は、脂質やタンパク質などの栄養素に比べて低いことがわかっています。腸内細菌はポリフェノールを分解し、低分子のフェノール酸類を産生させることが知られており、これらのフェノール酸類の一部は大腸から吸収され、生体調節機能に関与していると考えられています。

肥満マウスにポリフェノールの一種であるプロシアニジン類(赤ワインにも含まれる)を摂取させ体重増加に与える影響を検討した研究では、プロシアニジン類の摂取は高脂肪・高ショ糖食の摂取によって悪化した腸内細菌叢のFirmicutes門/ Bacteroidetes門の比率を、カロリーの低い普通食を摂取させたマウスと同等にまで改善することが確認されています4)

また、プロシアニジン類の摂取によって、Roseburia菌、Adlercreutzia菌、Akkermansia菌などの特徴的な腸内細菌が増加しました。「Roseburia菌」は短鎖脂肪酸の産生菌として知られています。「Adlercreutzia菌」はイソフラボンを分解し、イソフラボンの機能的本体として考えられているエコール産生に関与する菌として知られています。「Akkermansia菌」は日和見菌の一種で、腸管バリア機能を向上させることが知られており、近年注目されている腸内細菌です。

このように、ポリフェノールはそれ自体の持つ抗酸化力以外に、食物繊維を摂るのと同様に消化管の腸内細菌に直接関与して、ヒトの健康に寄与していると言えます。

まとめ

赤ワインの健康に対する作用としては、抗動脈硬化作用や認知症予防作用が知られています。これらの効果は、赤ワインに豊富に含まれるポリフェノールの抗酸化作用によるものです。また、近年、腸内細菌叢の研究における分子生物学的手法のめざましい発展により、以前の培養を基礎とした手法では解明できなかったことが次々と明らかになってきました。細菌の遺伝子(特に16SrRNA)の配列の違いを検出する方法で、腸内細菌叢のプロファイルを同定することが容易にできるようになりました。

ロンドン大学キングス・カレッジ(英国)のグループもこの手法を用いて、赤ワインを飲む人たちの腸内細菌叢に多様性があることを突き止めました。赤ワインが“健康的なお酒”である新たな理由の一つとして、赤ワインに多く含まれるポリフェノールが体内に生息する腸内細菌の燃料として作用し、腸内細菌叢をより良い状況に導くからであると考えられています。今後の更なる発展的な研究による詳細なメカニズムの解明が待たれます。





<参考文献>

1)平山和宏:腸内細菌叢の基礎.モダンメディア60:307-311,2014

2)Alexandra Z, Alexandra K, Marc JB et al. : Population-based metagenomics analysis reveals markers for gut microbiome composition and diversity. Science;352,565-569,2016.

3)Le Roy CI, Wells PM, Si J et al. : Red wine consumption associated with increased gut microbiota α-diversity in 3 independent cohorts. Gastroenterology;2019 Aug 23. pii; S0016-5085(19)41244-4. doi: 10.1053/j.gastro.2019.08.024

4)Masumoto S, Terao A,Yamamoto Y et al. : Non-absorbable apple procyanidins prevent obesity associated with gut microbial and metabolomic changes. Scientific Reports 6, 31208, 2016