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漢方と不眠

この記事の執筆者

氣生薬局

漢方歴27年! 豊島区南大塚で漢方の氣生(きお)という薬局を経営。 私の家は医療一家です。私は三女として産まれ、父(他界)は日本赤十字乳児院の院長、母は薬剤師。長女は歯科医。次女は、眼科医(専門医) ... [続きを見る]

日本人の5人に1人が何らかの睡眠の悩みを抱えていると回答しており、不眠症はいわば日本人の国民病とも言えるでしょう。

睡眠リズムが障害されると入眠障害や中途覚醒などの症状があらわれますが、睡眠リズムを障害する原因は環境的要因から身体的要因、さらには精神的要因まで多岐にわたります。

東洋医学における不眠治療では、漢方薬を用いながらこうした不眠の元になる原因を見つけ出して解消することを目指します。

本稿では、西洋医学と東洋医学の不眠治療の違いを比較した上で、「五行論」において不眠と関連する「肝」「心」「脾」の働きと、不眠治療で用いられる代表的な漢方薬についてもご紹介しています。

 

不眠は日本人の“国民病”?

不眠に悩む日本人は非常に多く、5人に1人が「十分に睡眠が取れていない」「何らかの不眠がある」と回答しており、“国民病”とも言われています。さらに20人に1人の割合で不眠のために睡眠薬や抗うつ剤を服用しているという回答が調査されています。

その他の人たちは、どうせ不眠は治らないからと病院に足を運ぶこともないのが現状です。しかしながら東洋医学では、不眠症は「失眠」「不寝」とも呼ばれる歴とした病気なのです。

とはいえ、睡眠時間にはかなり個人差があります。そのため「○時間しか眠っていないから不眠」あるいは「○時間以上眠っているから不眠ではない」といったラインは存在しません。

例えば、かの有名なフランスの革命家ナポレオン・ボナパルトは3時間睡眠のショートスリーパー、天才物理学者アルバート・アインシュタインは10時間睡眠のロングスリーパーであったと言われています。

睡眠リズムが乱れることであらわれる症状

ヒトには生まれつき、朝に目覚めて夜に眠るという睡眠リズムが備わっています。この睡眠リズムが障害されると以下のような症状があらわれます。

  •  入眠障害:入眠までに数時間かかり、なかなか寝付けない
  •  中途覚醒:寝付いても真夜中に起きてしまい、その後眠れない
  •  早朝覚醒:寝付いても早朝に起きてしまう
  •  熟眠障害:睡眠時間は取れているが、熟睡できていない

これらの症状は、何が原因とされるのでしょうか?騒音や振動、そして明るさや気温、さらには寝具の状態などの環境的な要因であることも然りですが、精神的な要因や痛みなどの身体的要因も挙げられます。

精神的要因については、東洋医学が得意とする“こころ”の病気が原因となることが多いです。うつ病では入眠障害と早期覚醒神経症では入眠障害と中途覚醒が多くみられると言われています。

西洋医学とどう違う?東洋医学における不眠治療と睡眠のメカニズムの考え方

洋の東西での治療を比べてみると、西洋医学の不眠治療は睡眠導入剤などの一般に「睡眠薬」と言われる薬物療法が中心となります。広く使われているこの睡眠薬は、不安や緊張を和らげて眠りに導くものです。

対する東洋医学では、睡眠薬のように直接的に睡眠を誘発するのではなく、不眠の起こる原因を見つけ出してそれを解消し、より自然なかたちで睡眠に導く漢方薬を用いることが多いのが特徴です。

睡眠のメカニズムについても東西で比較してみます。まず西洋医学的な睡眠のメカニズムは、目覚めてから一定の時間が経過すると脳は睡眠を促すホルモンを分泌し、大脳皮質の活動が弱まることで眠りに入ります。睡眠は身体を休ませる「レム睡眠」と脳を休ませる「ノンレム睡眠」が繰り返されます。

一方、東洋医学的な睡眠のメカニズムは、“陰”と“陽”のバランスを考えます。“陰”と“陽”が相対的に強まったり弱まったりして生命活動を行うという点です。つまり、睡眠は“陰”が“陽”よりも強くなった時に起こるとされています。

これはどのような現象かというと、“陽”は活動的な意味合いを持つために昼間と捉え、“陽”が盛んな日中には覚醒状態になります。また、その逆で“陰”は非活動的な意味合いを持つために夜間と捉え、“陰”が盛んな夜に眠くなるのです。

不眠症と深く関連する「肝」「心」「脾」の役割

さらに、漢方では陰陽の考え方の他にも「五行論」という自然哲学的な帰納法が用いられます。

五臓六腑という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思いますが、五行の「行」は運行を意味しており、臓腑には「六臓」(肝・心・脾・肺・腎・心包)と「六腑」(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)があります。この臓のうち、不眠症に関連する臓腑の「肝」「心」「脾」の関係性をみていきましょう。

「肝」という臓器である肝臓は血の貯蔵庫であり、気や血のバランスを調節しています。葛藤や怒りによって「肝」がダメージを受けると、「肝」に貯蔵される血の量が減少してしまいます。本来、睡眠時には全身の血が肝臓に戻るのに対し、血量が減少することで寝ている間も血が脳や全身に巡り続けてしまうために熟睡できない状態となります。

次に「心」という臓器である心臓は、心を養うための栄養物質である血を送り出すためのポンプであり、血液循環の原動力です。「心は神なり」と言われ、神志を司ると表現されており、生命活動の維持や精神・意識などをコントロールしています。そのため、この「心」が侵されると中途覚醒や夢が多いなどの睡眠障害が生じます。

3つ目の「脾」という臓器である脾臓は、食事によって摂取した飲食物を消化吸収して、気や血の元になる栄養を作り出しています。ストレスなどで「心」や「脾」が侵されると、心を養うための血を「脾」が正常に作り出せなくなるため、精神活動がコントロールできなくなるなどの入眠・睡眠障害となります。

このように何らかの原因により、これら臓腑の働きに支障が生じることで心身のバランスを欠いた結果、不眠症となるのです。

不眠に用いられる代表的な漢方薬

最後に、不眠治療に用いられる代表的な漢方薬をご紹介します。「どの漢方薬が自分に適しているかよくわからない」という方は、専門家にご相談の上で決めていただくことをおすすめいたします。

  • 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)・・・体力中等度以上で、のぼせ気味で顔色が赤く、イライラして落ち着かない傾向の方の不眠症、神経症など
  • 柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)・・・体力中等度以上で、精神不安があって、便秘などのある方の高血圧の随伴症状(不安、不眠など)、神経症など。
  • 加味帰脾湯(かみきひとう)・・・体力中等度以下で、心が疲れ血色が悪い方の不眠症、精神不安など。
  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)・・・体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩が凝り、疲れやすく、精神不安などがある方の不眠症、更年期障害など。
  • 温胆湯(うんたんとう)・・・不眠・驚きやすい・憂うつ・不安などの精神症状のほか、胸やけ・食欲不振などの消化器症状を伴う。
  • 酸棗仁湯(さんそうにんとう)・・・体力中等度以下で、心身が疲れ、精神不安などがある方の不眠症、神経症など。
  • 抑肝散(よくかんさん)・・・体力中等度を目安として、神経が高ぶり怒りやすい、イライラなどがある方の不眠症、神経症など。

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