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たどり着いた「オーガニック」という答え【前編】

「私たちの体は、食べたものからできている」

この言葉は、“質の良い食事が質の良い体を作る”と言い換えることができます。現代に生きる私たちの周りには食べ物があふれていますが、その分、自分の体に取り入れるものをしっかりと取捨選択しなければいけません。日々の生活の中で、より多くの栄養を摂るため、そして将来の自分の健康を守るため、食材一つひとつの品質を見極めたいところです。今回はこうした観点から、オーガニック業界のパイオニア的存在である株式会社ナチュラルハウス代表取締役会長の白川 洋平氏にお話を伺いました。



<写真>ナチュラルハウス青山本店と白川洋平氏

自己紹介

編集部:はじめに簡単な自己紹介をお願いします。

白川:ナチュラルハウス 代表取締役会長の白川洋平と申します。現在は神戸に住んでいますが、東京には毎週来ています。元々は商社に勤務しておりまして、1996年からナチュラルハウス に関わり始め、オーガニック業界に携わることになりました。その後約20年間社長を務め、去年創業メンバーに後任を任せました。現在は、会長として商品開発や販売チャネルの多様化などを中心に行っています。

オーガニックの魅力は「基準」では語れない

編集部:早速ですが、オーガニックの重要性についてはどのようにお考えですか。

白川:ナチュラルハウスは、父が40年前(1978年)に創業しました。母方の祖父が神戸を中心にお菓子の会社を経営していたのですが、その新規事業として設立したのが、このナチュラルハウスだったのです。今年で創立41年目を迎える訳ですが、当初はオーガニックではなく自然食品店として展開していました。そして無添加の安全性だったり、“生産者の顔が見える安心”を掲げてきました。

僕は、ちょうど設立年に商社からナチュラルハウスに入りました。当時はバブルがはじけ、借金を抱えていましたので、その返済に追われる日々が続きました。ですので、この時はオーガニックの重要性というよりも、まずは借金をどう返済するか頭を悩ませていました。2000年を過ぎた頃、借金返済にもひと段落つき「これから、この会社で自分はいったい何がしたいのか?」を考えました。自問を繰り返す中、同年に有機JAS法が制定されました。その後、海外に赴き、ホールフーズやドイツのオーガニックスーパー等を視察しました。印象としては、こうも世界ではオーガニックが広がっているのかと感じた一方、いま一つピンとこなかったのが率直な感想です。

編集部:その時はまだご自身の中でのビジョンが明確には定まっていなかったのですね。

白川:その後、生産者に会いに行くことにしました。そこで、後の私にとってのオーガニックの師匠の一人、佐藤 秀雄さん(山形県)に出会いました。佐藤さんは、オーガニックが認証マークであったり法律の制度といった「基準」としてのオーガニックではなく、生態系から人間の環境などを含めて考えていました。私はそうした彼の思いに感銘を受けました。彼は僕にとってのオーガニックの原点ですので、今でも毎年、新入社員を連れては山形に訪れています。とても愛情に溢れた方なんですよ。

ナチュラルハウスでは、オーガニックという基準だけでなく「ローカル」「サステイナブル」をショップコンセプトとして掲げています。安心安全はもちろんのこと、生産者の顔が見えることで「今年も佐藤さんのお米が獲れた」といったように、自分の知っている人が作った食材が並ぶというのは、お金だけでは決して買うことのできない価値だと思うのです。これを社内では“My食卓自給率”と呼んでいます。オーガニックの重要性ということですが、安全性ということだけでなく、「ローカル」「持続可能性」などを総括的に含めてオーガニックの魅力と感じています。

編集部: 顔が見えるを越えて付き合いのある方が作った食材を食卓に並べられるのは、とても特別で素敵なことですね。

オーガニックの定義と一般的な食材との違い

編集部:オーガニックの定義についてしっかりと認識している方は、まだ少ないと思います。私自身、正しく説明できる自信がありません。改めて教えていただきたいです。

白川:オーガニックの道を歩んで行こうと決めた2000年当初は、オーガニックという言葉すら知らない方がほとんどでした。時代が進み、近年ではオーガニックをご存知の方が多くなってきたと感じています。ですが、いざその定義を聞かれた時に正確に答えられる人は1%もいないのでは、というのが本音です。オーガニック食材の定義は、大きく分けて次の3つになります。

  1. 農薬不使用
  2. 化学肥料不使用
  3. 遺伝子組み換えでない

さらに、日本における有機JASマークは、第三者から与えられる認証です。最初のオーガニック認証は、1970年代に米国カリフォルニアにて制定されました。それまでのオーガニックは、ある人からみたら農薬50%使用減、ある人にとっては農薬一切不使用でした。要するに、判断基準が統一されていなかったんです。それだと曖昧でわかりにくいということで「第三者認証が付いたものがオーガニック」となったんですね。そのため、日本の法律上では、この認証マークがなければオーガニック・有機栽培とうたってはいけないことになっています。

現状では前述した3つの定義しか広まっていません。しかし、本当に大事なのはこれだけではないと思います。社内では“Our quality standard”と呼んでいるのですが、一般の食材がどういった添加物や薬剤を使用しているのか理解していなければ、オーガニックの本質的な価値は伝わらないと思っています。例えば、プロセスチーズと呼ばれるものは、実は発酵させておらず、厳密に言えばチーズではなかったり、有機米でなければ燻蒸されていたりします。また、畜産物・畜産加工品に使用されている成長ホルモンあるいは抗生物質の危険性、ハムに含まれる増粘剤や発色剤といった一般食品の危険性について知ることが大切です。

編集部:比較しないと本質的な良さは伝わりづらいですね。

編集部
:話が逸れますが、有機JASマークの獲得するにはどれほどの手間がかかるものなのですか。

白川:認証が始まってから約20年経つので、当初と比べればだいぶ事情は変わってきました。オーガニック認証の出始めの頃は、真面目にやっている生産者であるほど「認証を取りたくない」と言っていました。そうした声の理由としては、本来は健康を害する恐れのある殺虫剤や殺菌剤、化学肥料を使用している人たちが、それらの使用を証明するべきなのに、不誠実なものを使わずに生産している人たちがコストおよび書類提出などの手間を強いられていることが挙げられます。そのため、認証を取ることに否定的な方も多くいました。

費用面に関しては、品目によって様々なので一概にはお伝えできませんが、少なからず生産者に負担がかかっているのは間違いないでしょう。何よりも第三者認証なので、農林水産省の外部機関がチェックに訪れます。ISO(国際標準化機構)と同様に全て記録に残す必要があるので、こうした点でもどうしても手間がかかってきますね。私たちがオーガニック専門店として全国の生産者の方々を説得に回りましたが、あるりんご生産者の方はこう言いました。

「なぜ、オーガニック認証が必要なのですか?認証があるから、取ってくれるのですか」

編集部:一消費者として、正直なところ認証マークがあることへの安心感がありましたが、生産者の方は全く違う視点からみていたのですね。

日本のオーガニック市場規模は曖昧?

編集部:これまでオーガニックの定義や重要性についてお話を伺ってきましたが、世界からみた日本のオーガニック市場とはどのような立ち位置なのでしょうか。

白川:難しい質問ですね。というのも、日本のオーガニック市場の規模は、統計的に管理されていないからです。市場規模に関しては、見方によって変動しますが、一般的には「1%の壁」と言われています。アメリカで7%、欧米諸国では10%近くあるので、オーガニックに関して後進国であることは事実です。オーガニック認証がなければオーガニックとうたえないのですが、現在の日本に存在するオーガニック認証の対象は、畜産物・畜産加工品、農産物・農産加工品のみです。はちみつやお酒、化粧品などの認証はまだありません。一方、アメリカでは全品目のオーガニック認証があるので、それだけ市場規模も大きく広がっているのです。

衛生基準に関して話せば、日本はレベルが高いと思います。コンビニエンスストアなどで購入した商品が腐っていた、なんてことはまず考えられないですよね。ですが、例えば日本の野菜にはアメリカの約3倍の農薬が使用されていることを知っている日本人はどれくらいいるでしょうか。また「国産なら安心」という認識を持たれている方が多い印象を受けます。

次にこれは私見ですが、アメリカは貧富の差が激しいため、それぞれの家庭の経済状況によって行きつけのスーパーマーケットも変わりますし、質の高い食材を入手するにはそれなりのお店に行く必要があります。そして日本と違い、国民皆保険ではないため「自分の身は自分で守らないと」という意識が強いように思います。また、政府・行政としても「オーガニックを取り入れましょう」と国民に啓蒙しています。一方、日本は皆保険であり、貧富の差も海外ほどは激しくないので、多くの国民が“そこそこのもの”を食べられます。その中でも先述の通り「国産を選べばひとまず安全だろう」といった認識が強いように思います。





※後編では、優先して取り入れてほしいオーガニック食材や、今後のオーガニック市場の展望についての白川氏の声をお届けします。お楽しみに!

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