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農薬が子どもの精神神経系の発達に悪影響を及ぼす

この記事の執筆者

SPIC Clinic

一般社団法人日本オーソモレキュラー医学会代表理事。スピッククリニック名誉院長。 杏林大学医学部卒、同大学院修了。 医学博士。杏林大学保健学部救急救命学科教授を経て、2008年より国際統合医療教育センター所長。2011年国際オーソモレキュラー医学会殿堂入りし、2012年より国際オーソモレキュラー医学会会長。

農薬の健康に対する影響は長年続いている問題です。ここ数年、農薬を使用する農場の近くで暮らしている子どもに、知能指数(以下IQと表記)の低下や学習能力の低下など精神神経系の発達に問題を与えると警鐘を鳴らす医学論文を目にします。

今回は研究グループが行った研究結果を元に、農薬曝露が子どもに与える影響についてお話しします。この機会に是非、皆様にも農薬について考えていただければと思います。

農薬が与える影響を示した研究

スペインのアンダルシア公衆衛生大学院の研究グループは、一般的な有機リン系農薬が使用されている地域に住む子どもの脳機能や精神の発達への影響を調査し、環境医学の専門誌であるEnvironment International誌(2015年)に発表しました。農業地域の公立学校に通う6歳から11歳の無作為に選ばれた小学生305人について、尿中の有機リン系農薬の代謝物を測定し、彼らの精神神経系の能力との相関を検討しました。また、その地域の経年農薬使用量から、出生前から調査時までの農薬曝露を推定し、関連性を検討しました。その結果は驚くべきものでした。

尿中農薬代謝産物が高い子ども、すなわち日常の農薬曝露の高い子どもほど、IQならびに言語理解能力が低かったのです。この傾向は特に男児に強くみられました。また、出生後の農薬曝露が高いほど、IQ、処理速度そして言語理解能力が低下しました。出生前の農薬曝露に関しても、比率は弱くなるものの、処理速度、言語理解能力の低下に影響を与えることがわかりました。

研究者らは、「出生前後の子どもの環境における農薬曝露は、精神神経系の発達に悪影響を及ぼす。いまや農薬は国土の広い範囲に使用されている。脳の発達が旺盛な小児期は農薬の毒性に感受性が高く、その影響は大きい。まさに、これは公衆衛生的に大きな問題である」と警鐘を鳴らしています。

その後、5カ国からなる研究チームが同様の研究を行い、Cortex誌(2016年)にて、コスタリカのタラマンカ地区バナナ農園周辺に住む6歳から9歳の子ども計140人を調査した結果を発表しています。尿中の有機リン系農薬の代謝物量が高い子どもほど、作業記憶、視覚運動協調、認知、色彩識別、言語理解、処理速度の各能力の低下と相関を示していたのです。彼らは、「農薬を恒常的に使用するバナナ農園周辺から子ども達を退避させなければならない」と警告しています。

 

それでは、農薬を使用する畑や農場からどの程度離れたところで子ども達を生活させるべきなのでしょうか。現にカリフォルニア州では、「学校を含む子どもが利用する施設から、1/4マイル(0.4 km)以内での農薬の使用を禁じる」という州法があります。
カリフォルニア大学バークレー校の公衆衛生大学院小児環境医学部門がPLOS Biology誌(2017年)に、「農薬は、子どもの精神発達や呼吸器疾患などへの様々な悪影響がある。この1/4マイルルールだけでは十分とは言えないが、大きな一歩である。しかし、もっとも農薬の毒性に敏感なのは子宮にいる胎児であり、将来的には妊婦への農薬への曝露を防ぐ法律の制定が必要である」と述べています。

また、同研究グループはカリフォルニア州サリナスバレー地域で使用された15種類の詳細な農薬使用量の経年データを入手しました。そして、妊娠中の母親が住んでいた地域のデータと、その子どもが7歳になった時のIQについて検討し、『International Journal of Environmental Research and Public Health』誌(2017年)にて、「母親が妊娠中に住んでいた家の農薬曝露が高い場合、子どもの7歳時におけるIQスコアは6.4〜6.9低下する」と発表したのです。

カリフォルニア大学サンディエゴ校の公衆衛生学健康科学部門では、農薬短期曝露が子どもの精神神経系に与える影響を『Neurotoxicology』誌(2017年)に発表しています。エクアドルの農家は、いわゆる“母の日”用の花を栽培していますが、出荷時期に合わせて畑に大量の農薬散布を行います。研究者は母の日を過ぎてから63日〜100日目に、その地域に住む4〜9歳の308人の子どもに神経行動学的評価をしました。

その結果、農薬に曝露してから日の浅い子どもほど、神経行動スコア(注意制御や抑制機能、視覚空間処理、感覚運動機能)が低下していることが明らかになりました。また、注意制御や抑制機能の低下傾向は、女児よりも男児に顕著に表れました。研究者らは「農薬に一過性に曝露するだけでも、子どもの神経行動機能の低下が一時的に起きうる」と結論付けています。

日本オーソモレキュラー医学会の立場から考える農薬問題

さて、これまで研究データを元に農薬が与える影響についてお伝えしてきました。私たち日本人は農薬についてどのように考えればいいのでしょう。

(1)農薬を使用している地域における妊婦と子どもたちの健康

(2)食品の残留農薬が子どもたちの健康に与える影響

農林水産省のホームページでは、農薬について「日本で使ってもよい農薬は、人の健康や環境への影響などについて確かめられ、国に認められたものだけです。・・・農薬には、殺虫剤、植物を病気にするカビや細菌を退治する殺菌剤、雑草を除く除草剤、ネズミを退治する殺鼠剤などがあります」と言及しています。

また、日本国内の農薬の使用量について「諸外国と比較すると、農薬使用量の計算方法や農薬の定義が国によって異なるため単純な比較はできませんが、我が国の農薬使用量は欧州各国に比べて多くなっています。この背景には、温暖多雨で、病害虫・雑草の発生が多く、農薬を使用しない場合の減収や品質低下が大きいといった実情があります」とあります。

<資料>FAO「Statistical Yearbook 2010、OECD「OECD Environmental Performance Reviews JAPAN 2010」を基に農林水産省で作成。農薬は平成18(2006)年の値。

 

上記のグラフは10年以上前のデータになりますが、確かに単位面積あたりの農薬使用量はヨーロッパ各国と比べると格段に多いことがわかります。まだまだ日本の農薬使用量は減らすことができる余地があり、政策としても減らすことが必要と考えます。

農薬の健康に対する影響について、世界各国で様々な規制や安全対策が行われており、日本もその例外ではありません。現実問題として、農薬が子どもの健康に与える影響は無視できません。歴史的にも農薬の安全基準の多くは様々な動物実験により確認されてきました。しかし、胎児期、幼児期、小児期から成人に成長する過程の脳や神経は、とてつもない細胞増殖とともに猛烈な学習をしている重要な時期です。

この感受性の高い大切な時期に、本来人間の体内にはない化学物質に晒されると、脳神経の健全な代謝が阻害され、歪んだ成長や能力の低下などを引き起こす可能性があります。化学物質が子どもの精神神経系に与える影響については、動物実験で把握することは難しいでしょう。ましてや、子ども一人一人にも個人差があるため、微妙な変化を現場で捉えるのも不可能に近いものがあります。すなわち、この分野が医学的にもまだまだ未知の部分であるというのが現状です。

オーソモレキュラー医学は、人間の体に必要量の栄養素を取り入れるだけでなく、「体内に有害な物質を入れない」という原則があります。まず、農薬をできる限り使用せず、可能であれば有機農法で行うことができれば、農業地域にすむ子どもの精神神経機能の低下を防止することができます。そして、胎内に命を授かっている妊婦にとっても、“農薬フリー”は将来的には必ず進めていかなければならない課題です。

次に残留農薬の問題があります。国の残留農薬に対する厳しい規制がありますが、前述のように精神神経機能が発達期にある胎児や子どもについての影響については未知の世界です。家庭において可能な限り、母親と子どもの食材を、農薬を極力控えている有機ないしはオーガニックの食材に切り換えられれば、影響を最小限に抑制できます。

理想の世界を描けば、つまり、日本が可能な限り農薬を使わない有機農法を選択すれば、その地域の子どもたちの健康を守ることにも繋がります。そして、その食材をその他の地域に提供することで、母親や子どもたちの健康が守られます。オーソモレキュラー医学会では、日本がそのような健康で安全な国となることをゴールと考えています。



<参考文献>

  • アンダルシア公衆衛生大学院の研究
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26425806

  • コスタリカのバナナ農園周囲に住む子供たちの研究
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010945216302350

  • カリフォルニア大学バークレー校公衆衛生大学院小児環境医学部門の研究
https://journals.plos.org/plosbiology/article/file?id=10.1371/journal.pbio.2004741&type=printable  https://www.mdpi.com/1660-4601/14/5/506

  • カリフォルニア大学サンディエゴ校のエクアドルの研究
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28188819

  • 農林水産省Website「農薬ってなに?」
http://www.maff.go.jp/j/fs/f_nouyaku/001.html

  • 環境省「農薬の毒性にかかる最近の知見」平成19年6月5日
https://www.env.go.jp/water/dojo/noyaku/hisan_risk/hyoka_tih/com01/ref07.pdf

  • 農林水産省「(1)環境保全に向けた農業の推進」と「単位面積当たりの化学肥料、農薬使用量の国際比較」

http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h24_h/trend/part1/chap3/c3_8_01.html