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『アスリート栄養療法の新たなパラダイム:分子栄養学的アプローチ〜Zone Medical Method〜』

この記事の執筆者

医療法人社団健静会 アクアメディカルクリニック

近年、競技スポーツにおける栄養管理の重要性が高まっているが、従来の画一的な栄養指導では個々のアスリートの特性に対応できない課題がある。本稿では、バイオケミカル検査を活用した分子栄養学的アプローチつまり、「Zone Medical Method」による新たな栄養療法を提案する。

特に重要なのは、ミトコンドリア機能の最適化である。リーキーガット、毒素の蓄積、過剰な活性酸素の産生はミトコンドリア機能を低下させ、パフォーマンスに悪影響を及ぼす。これらの問題に対し、4F(グルテンフリー、カゼインフリー、シュガーフリー、カフェインフリー)の導入や、腸内環境の改善、適切なデトックスプログラムが有効である。

Zone Medical Methodは、各種バイオケミカル検査に基づく個別化された栄養プログラム、競技特性を考慮したサプリメンテーション、生活習慣の最適化を統合的に実施する。この方法により、慢性炎症の制御、腸内環境の改善、ミトコンドリア機能の向上が実現し、競技力向上と健康維持の両立が可能となる。今後は、より精密な個別化サポートシステムの確立と、競技特性に応じた栄養プログラムの細分化が期待される。

Zone Medical Method アスリート栄養療法

【現代のアスリート栄養療法の限界】

従来のスポーツ栄養学では、カロリーやマクロ栄養素のバランスに主眼が置かれ、「バランスの良い食事」という漠然とした概念に基づく画一的な栄養指導が主流であった。しかし、個々のアスリートの代謝特性や競技特性は大きく異なり、画一的なアプローチでは最適なパフォーマンスを引き出すことは困難である。

【現状の課題】

現代のスポーツ栄養療法はアスリートのパフォーマンス向上のために、栄養摂取量、栄養バランス、摂取タイミングなどを最適化することに重きを置かれがちである。我々が考える「Zone Medical Method」は、個体差とドーズレスポンスを考慮し、パフォーマンスアップのための根本的な要因を見つけることにある。特に重要なのは、バイオケミカル検査による生化学的な評価である。様々な検査から導かれた包括的な評価により、個々のアスリートに最適化された栄養プログラムを策定することが可能となる。

【ミトコンドリアとパフォーマンス向上】

アスリートのパフォーマンス向上において、細胞内のエネルギー産生工場であるミトコンドリアの機能は特に重要となる。ミトコンドリアの機能を最適化することで、持久力の向上、回復力の増強、疲労耐性の向上が期待できる。我々はこのアプローチを「ミト育」と呼び、アスリートの競技力向上の核心に位置づけている。

【ミトコンドリア機能低下の3つの原因】

ミトコンドリアの機能低下は、疲労感の増大、回復力の低下、免疫機能の低下などの身体的症状に加え、集中力の低下やモチベーションの低下といった精神的症状も引き起こす。特に、リーキーガット(腸内環境の乱れ)、重金属などの毒素の蓄積、過剰な活性酸素の産生が、ミトコンドリア機能を著しく低下させる要因となっている。

【栄養療法による症状改善】

選手が訴える様々な症状の多くは、適切な栄養療法によって改善が可能である。例えば、筋肉の硬さや肩こりの訴えはマグネシウム不足に起因することも多く、また、集中力の低下や睡眠の質の悪化は、タンパク質やビタミンB群、ミネラルの不足が原因となっていることが多い。特にタンパク質は筋肉や内臓、骨、腱の構成だけでなく、神経伝達物質の材料としても重要であるからである。セロトニンやドーパミンといった脳内物質の産生には、タンパク質由来のアミノ酸が不可欠であり、その代謝過程には亜鉛やマグネシウム、ビタミンB群が補酵素として関与している。このように、選手の心身のコンディショニングには、単なる栄養素の補給ではなく、それらの代謝経路を考慮した包括的な栄養管理が求められる。

【アスリートのパフォーマンスを低下させる3大要因】

アスリートの競技力を低下させる主要な要因として、

  1. 慢性炎症の悪化
  2. 腸内環境の破綻
  3. 毒素の蓄積

が挙げられる。これらは相互に関連し、悪循環を形成する。慢性炎症は免疫機能の低下やエネルギー代謝の異常を引き起こし、腸内環境の悪化は栄養素の吸収障害や炎症性物質の産生を促進する。毒素の蓄積は酸化ストレスを増大させ、細胞機能の低下を招く。

【4Fによる慢性炎症の改善】

慢性炎症の改善には、4F(グルテンフリー、カゼインフリー、シュガーフリー、カフェインフリー)の導入が効果的である。グルテンは腸管透過性を亢進させ、慢性炎症を惹起する。カゼイン(特にαs1型とA1型β)は炎症性反応を誘発し、消化器系に負担をかける。完全なるシュガーフリーは逆に禁忌で、シュガー選択とし、摂っていい砂糖といけないものの棲み分けは必須である。過剰な糖質摂取は血糖値の急激な変動を引き起こし、自律神経のバランスを崩し、持っているパフォーマンス力を発揮できない。カフェインも一長一短があり、過剰摂取は常にストレスにさらされているアスリートにとって副腎疲労悪化の原因となるため、摂取の仕方に注意が必要である。

【カンジタ対策の食事療法】

最近の研究により、トップアスリートは特徴的な腸内細菌叢を有することが明らかになっている。この優れた腸内環境は、短鎖脂肪酸の産生を促進し、腸管の健康維持、免疫機能の調整、エネルギー代謝の最適化に寄与している。

腸内環境の改善には、カンジダの過剰増殖を抑制することが重要である。具体的な食事療法として、

  1. 発酵食品の積極的な摂取による有益菌の増加
  2. 食物繊維の適切な摂取による短鎖脂肪酸の産生促進
  3. 糖質の質と量の管理によるカンジダの増殖抑制
  4. 抗真菌作用を持つ食材(ココナッツオイル、にんにく、オレガノ等の香味野菜)の活用

など。

【デトックスを促進する食事療法】

毒素の排出を促進するために、

  1. 解毒臓器(肝臓、腎臓)をサポートする栄養素の補給
  2. 抗酸化物質の十分な摂取
  3. ミネラルバランスの最適化による重金属の排出促進
  4. 水溶性食物繊維による毒素の吸着と排出

が必要である。

カンジダの除菌やデトックスに、抗真菌薬やハーブ、抗炎症、抗酸化サプリ、クロレラなどの吸着剤を用いることもあるが、サプリ使用に制限のあるアスリートに関しては食事療法で対処していくことも多い。

【Zone Medical Methodの概要】

我々の行なっているZone Medical Methodは、アスリートの最適なパフォーマンスを引き出すための包括的な栄養療法システムである。このメソッドは以下の要素で構成される。

  1. バイオケミカルテスト:栄養解析検査、ミネラル・重金属検査、有機酸検査、GI-MAP、唾液コルチゾール検査など
  2. 個別化された栄養指導:ライフスタイルコンサルティング、検査結果に基づく個別化された食事プログラム、競技特性を考慮したサプリメンテーション、生活習慣の最適化提案
  3. パフォーマンスゴール設定:短期・中期・長期の目標設定、定期的な再評価システム
  4. パフォーマンスメンテナンス:継続的なモニタリング、状況に応じたプログラムの調整

まとめ

Zone Medical Methodを基盤とした分子栄養学的アプローチは、従来の画一的な栄養指導の限界を超え、個々のアスリートに最適化された栄養サポートを可能にする。特に、ミトコンドリア機能の最適化、腸内環境の改善、慢性炎症の制御という観点から、競技力向上と健康維持の両立を実現していく。

今後の展望として、より精密な個別化サポートシステムを確立し、新たな生化学的検査手法の開発や競技特性に応じた栄養プログラムの細分化 、長期的な競技生活をサポートするための栄養戦略を追求していく。そのために、私一人では出来ることには限界があり、2025年に分子栄養学的アスリート栄養療法実践のための「Zone Medical Academy」設立を視野に入れている。

アフリカのことわざに「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければみんなで進め」という言葉がある。アスリートの栄養サポートにおいて、Academy出身の医師、栄養士、トレーナー、カウンセラー、そして選手自身が協力し合い、科学的根拠に基づいた総合的なアプローチを実践することが、真の競技力向上につながるだろう。

参考文献

Wiley Barton, et al .:Gut. 2018 Apr;67(4):625-633.

Jonathan Scheiman, et al . Nat Med. 2019 Jul;25(7):1104-1109 

Riley L, Front Nutr. 2019; 6:191  

Diego Moreno-Perez et al . Nutrients. 2018 Mar 10;10(3):337.

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