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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

勃起障害(ED)とナイアシン

目次

    執筆:W. Todd Penberthy, PhD、Andrew W. Saul

    ビタミンB3の標準形態であるナイアシンの単独投与が、勃起障害(ED)の有効治療に役立つ可能性を示す明確なエビデンスがあります[1]。男性の勃起は陰茎への血液供給に依存しており、ナイアシンは血中脂質を正常化する働きがあることから、ナイアシンの長時間にわたる血行改善効果の一つとして勃起が促進される可能性があります[2,3]。ナイアシンアミドにはこうした働きはありません。

    EDの診断は、満足な性交を行う能力の喪失のみならず、それより重大な問題を示している可能性が高いと認識することが重要です。実際にEDは、加齢による死因の上位にあるアテローム性動脈硬化症の前兆として最も早期に現れる症状の一つと見なされています[4]。EDには、高脂血症、高コレステロール血症、タバコの乱用、糖尿病、冠動脈疾患といったリスク因子がよく見られます[5]

    幸いなことに、市販の高用量ナイアシンを毎日コツコツ摂る方法がアテローム性動脈硬化症、高脂血症、高コレステロール血症、冠動脈疾患に直接対処するための有効療法として確立されており、臨床医学では60年以上も前からナイアシンが安全に有効利用されています[6-8]。一般的に、ナイアシンは用量が多いほど効果があります[9]。ナイアシンは絶食状態のときではなく食物と一緒に摂るのが常にベストです。

    民間に普及しているED治療薬と同じく、ナイアシンにも血管拡張作用があります。ただしED治療薬による血管拡張のほうが長く続く可能性はあります。その一例として、ナイアシンフラッシュそのものは30分くらいで終わるのが一般的です。高用量ナイアシン治療には多くの方法があり、ナイアシンがED患者に効果をもたらす仕組みについて、そうしたフラッシュ経路が主要な作用機序であるのかまだ完全にはわかっていません。陰茎の充血は健康的な血液循環に依存しているので、ナイアシンは安全な方法でこうした問題に直接対処できるのです。

    男性の勃起は生化学的に言うと、脳内で始まった神経信号のカスケードが長い脊髄を伝って陰茎まで達することにより生じます。この信号に反応してスポンジ状の脈管構造(陰茎海綿体)の中の神経から一酸化窒素ガス分子が放出され、それが環状グアノシン一リン酸(cGMP)の生成を促進することにより、最終的に、勃起に特有な弛緩膨張作用をもたらします。

    しかし永久的な勃起は当然困るので、自然にもたらされたのがcGMPを分解するホスホジエステラーゼ5(PDE5)という酵素です。製薬会社が開発したバイアグラのような薬は、必要に応じてこのPDE5を阻害し、勃起の刺激で高くなったcGMP値を維持するものです。バイアグラは最もよく使われる手段ですが、バイアグラが導入される前はプロスタグランジンE1(PGE1)模倣剤を陰茎に注射する方法が用いられEDに直接対処する標準治療と見なされていましたが、バイアグラよりも多くの副作用がありました[10]

    ナイアシン治療を行えば一酸化窒素合成酵素の産生が増し、ナイアシンフラッシュではPGE2などプロスタグランジンの大量放出が生じます。ただしPGE1もナイアシンで増えるかどうかは不明です。

    eNOS = 内皮型一酸化窒素合成酵素: 一酸化窒素(NO)の生成を助ける酵素
    PDE5 = ホスホジエステラーゼ5: cGMP(下記)を分解する酵素
    cGMP = 環状グアノシン一リン酸: NOの産生増加に関与
    IIEF = 国際勃起機能スコア: 一般に認められているED転帰測定基準

    実際にナイアシンの単独投与がEDに効くことを示すエビデンスがあります。ナイアシンのみによるED治療研究の第一号「Effect of Niacin on Erectile Function in Men Suffering Erectile Dysfunction and Dyslipidemia(勃起障害と脂質異常症がある男性の勃起機能に対するナイアシンの効果)」[1]の著者は次のように述べています:

    「ベースライン時のEDの重症度によって患者を分類したところ、中程度~重度のED患者でナイアシン投与を受けたグループは、ベースライン値と比較してIIEF-Q3IIEF-Q4のスコアに有意な改善が見られた一方、プラセボグループにこうした改善は見られなかった。重症のED患者におけるIIEF-EFドメインスコアの改善率は、プラセボグループで2.65p <0.04)であったのに対し、ナイアシンを投与したグループでは5.28p≤0.001)であった」。

    上記の結果は統計的有意性が高く(つまり偶然の結果ではないことはほぼ間違いなく)、著者は「中程度~重度のEDと脂質異常症がある患者の勃起機能をナイアシンの単独投与で改善する可能性がある」と結論付けています。

    有名なバイアグラのジェネリック薬としてよく使われるシルデナフィルは、肺高血圧症の治療薬として処方されるもので、一種の血管拡張薬です。これまでナイアシンが高血圧症の治療剤として認識されることは多くありませんでしたが、血圧低下に役立つ可能性があるのです。ナイアシンは、シルデナフィルよりずっと効果の持続性が高く、PDE5阻害薬よりはるかに多くの効果があることが臨床的に証明されています。

    男性の勃起の元はまさに血流の増加であり、脂質異常症に伴う血管閉塞によって勃起のプロセスが妨げられるという予測も可能です。そう考えると上記の辻褄が合います。

    PDE5阻害薬は一酸化窒素(NO)を増やすことによって最終的に作用し、ナイアシンもNOを増やすことが知られています。

    重度のEDはほとんどの場合、血行不良を伴っており、血行不良は高用量ナイアシン療法で効果的に治せる可能性があります。その副次的な効果として心血管イベントによる死亡リスクを低下させるかもしれません。最も一般的な死因による死亡率を調べた無作為化比較試験(RCT)では、ナイアシン治療(1日当たり2.4 g摂取)による死亡率の低下効果がその治療を停止してから9年後の時点でも見られることが判明しており(新生児は除く)、バイアグラやシルデナフィルの場合、ならびに肺高血圧症の成人患者の場合、こうした結果は見られませんでした[11-13]

    PDE5阻害薬であるバルデナフィルについて、ナイアシンを併用した場合と併用しない場合、プロピオニル-1-カルニチンとL-アルギニン(NCA)を併用した場合の効果を比較した研究によると、IEFF5の増加幅はNCA単独による治療の場合2ポイント、バルデナフィルを用いた場合4ポイント、NCAとバルデナフィルを併用した場合5ポイントであり、プラセボグループには全く変化が見られませんでした[14]

    シルデナフィル(バイアグラ)は、EDだけでなく、肺高血圧症、高地浮腫、レイノー症候群にも使用されます。我々の個人的な知り合いに、高用量ナイアシン療法を2週間受けてレイノー症候群が解消された人々がいます。ナイアシンの血管拡張効果は十分注目に値すると報告されており、ナイアシンフラッシュで暖まる感覚は手足が冷える人には歓迎されます。

    用量に関しては、十分に摂らないとナイアシンフラッシュは生じません。その量は人によって大きな差があります。血管拡張を生じるのは標準型のナイアシンで、他の形態のナイアシンでは起こらないので注意してください。ナイアシンアミドにその効果はなく、ニコチン酸イノシトールにもおそらくありません。苦痛を避けるため、ナイアシンは絶食状態のときではなく食物と一緒に摂るべきです。

    ナイアシンの高用量投与によって日常的に脂質異常症を矯正できることには、医師も患者も驚きます。一般的に、用量を増やすことによって最大の効果が得られます。高用量ナイアシン投与は、高値の総コレステロール、トリグリセリド、超低密度リポタンパク質(VLDL)、LDLコレステロールを日常的に矯正すると同時にHDL(善玉)コレステロールを増やし、その効果は既知のどんな薬剤をも上回ります。

    アテローム性動脈硬化症のリスクに対する脂質の関与を調べるため多種の臨床検査が利用できることにも注目すべきです。将来の心血管イベントの前兆となる最重要誘因に高リポタンパク(a)血症と高フィブリノゲン血症があります[15,16]。ナイアシンはリポタンパク(a)とフィブリノゲンの値を下げます[1,6,16]

    一方、スタチン薬は実際にリポタンパク(a)値の上昇をもたらし、これは完全に有害です。スタチン薬は副作用が多いことで有名であり、重篤な副作用も生じかねません。それでもスタチン薬は一般的に使用されていて、報奨利益が大きいので新しい臨床試験による研究が続けられています。

    シルデナフィル(バイアグラ)は、ED、肺高血圧症、高地浮腫、レイノー症候群に使用されています。我々は、高用量ナイアシン療法を2週間受けてレイノー症候群が解消された人々を個人的に知っています。

    PDE5阻害薬(シルデナフィル/バイアグラ、バルデナフィル、タダラフィル、アバナフィル)は、陰茎勃起を直接引き起こすのではなく性的刺激への反応に影響を及ぼすものです。シルデナフィルは最初に承認された薬で、軽度~中程度のEDには最も効果があります。その反応を活発にするためには性的刺激が必要です。

    シルデナフィルの副作用として、頭痛、紅潮、消化不良、鼻詰まり、視覚障害(羞明やかすみ目など)があります。ナイアシンはシルデナフィル/バイアグラよりずっと前からありました。シルデナフィル/バイアグラがED治療薬として最初に販売されたのは1998年でしたが、ナイアシンにはもっと多くの試験で研究されてきた歴史があります。

    ナイアシンが脂質異常症を正す効果は用量に大きく依存し、また、昔ながらの単純な即放性ナイアシンのほうが徐放性より高い効果をもたらします[9]。この研究では、脂質異常症の測定基準であるHDLコレステロール、トリグリセリド、総コレステロール、LDLコレステロールの矯正効果について、1日3 gという高用量投与を行った場合、2 g、1 g、500 mgという用量より高い効果が得られることがはっきり示されています。

    ナイアシンの必要量と用法は人によって大きく異なります。他の人よりナイアシンフラッシュ反応に敏感な人もいます。まず、高用量ナイアシンは絶食状態のときではなく必ず食物と一緒に摂るべきです。そして、高用量ナイアシン摂取を続けるほど体の耐性は増します。よって、最初は50 mgずつ1日3回という、自分にとっての「高用量」摂取を1〜2週間続けてから用量を増やしても良いでしょう。

    最終的に500 mg~2 gの量を1日に1~2回、苦痛なく摂れるようになるのが理想です。50 mgでも大きな影響を受ける人もいれば、2 g摂っても何ともない人もいます。一般的に、後者のほうが良い兆候とは言えません。

    EDを防ぐ最も有効な方法はおそらく、EDに関連した生化学的経路の不具合を正すことであり、ナイアシン値とアルギニン値の矯正もこれに含まれます。そうした経路では一酸化窒素の生成のためナイアシンとアルギニンに依存しているためです。ナイアシンのコストはED薬の3%未満という単純な事実だけでも、さらに研究を進める理由となります。

    (生化学研究者であるDr. W. Todd Penberthyは、医学教育のライターとコンサルタントを続け[ www.cmescribe.com ]、多数の定期刊行誌の他、「Present Knowledge in Nutrition(栄養学における現在の知識)」、「Biochemical, Physiological, and Molecular Aspects of Human Nutrition(ヒトの栄養学の生化学的・生理学的・分子的側面)」などのテキストにも最新のビタミン研究について寄稿している。

    Andrew Saulは、「Niacin: The Real Story(ナイアシン:本当の話)」の著者(Dr. Abram HofferおよびDr. Harold Fosterとの共著でドイツ語、ポーランド語、中国語にも翻訳されている)で、その他にも著者や共著者として十数冊の本があり、「The Orthomolecular Treatment of Chronic Disease(慢性疾患のオーソモレキュラー治療)」というテキストの編集者も務めている)



    参考文献

    1. Ng C-F, Lee C-P, Ho AL, et al. (2011) Effect of niacin on erectile function in men suffering erectile dysfunction and dyslipidemia.(勃起障害と脂質異常症がある男性の勃起機能にナイアシンがもたらす効果) J Sex Med. 8:2883-2893. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21810191
    2. Hoffer A, Saul AW, Foster HD (2015) Niacin: The Real Story.(ナイアシン:本当の話) Basic Health Pubs. ISBN-13: ‎ 978-1591202752. 要約および詳しい内容の参照先: http://www.doctoryourself.com/niacinreviews.html .
    3. Parsons W (2000) Cholesterol Control Without Diet.(食事療法を伴わないコレステロール管理) Lilac Press. ISBN-13: ‎978-0966256871
    1. Nehra A, Jackson G, Miner M, et al. (2012) The Princeton III Consensus Recommendations for the Management of Erectile Dysfunction and Cardiovascular Disease.(勃起障害と循環器疾患の管理に関するプリンストンIIIコンセンサスの勧告) Mayo Clin Proc 87:766-778. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22862865
    2. Miner M, Seftel AD, Nehra A, et al. (2012) Prognostic utility of erectile dysfunction for cardiovascular disease in younger men and those with diabetes.(若年男性ならびに糖尿病患者における勃起障害の循環器疾患に対する予後因子としての有用性) Am Heart J. 164:21-28. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22795278
    3. Carlson LA (2005) Nicotinic acid: the broad-spectrum lipid drug. A 50th anniversary review.(ニコチン酸:広域スペクトル脂質薬 50周年記念レビュー) J Intern Med. 258:94-114. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16018787
    4. Creider JC, Hegele RA, Joy TR (2012) Niacin: another look at an underutilized lipid-lowering medication.(ナイアシン:十分に活用されていない脂質低下薬を見直す) Nat Rev Endocrinol. 8:517-528. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22349076
    5. Guyton JR, Bays HE (2007) Safety considerations with niacin therapy.(ナイアシン療法に伴う安全性の考察) Am J Cardiol. 99:22C-31C. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17368274
    6. Pieper JA (2002) Understanding niacin formulations.(ナイアシン製剤を理解する) Am J Manag Care 8:S308-S314. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12240702
    7. Preckshot J (1999) Male impotency and the compounding pharmacist.(男性のインポテンスと調合薬剤師の役割) Int J Pharm Compd. 3:80-83. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23985547
    8. Canner PL, Berge KG, Wenger NK, et al. (1986) Fifteen year mortality in Coronary Drug Project patients: long-term benefit with niacin.(冠動脈疾患薬プロジェクトの参加患者における15年死亡率:ナイアシンによる長期効果) J Am Coll Cardiol. 8:1245-1255. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3782631
    9. Kelly LE, Ohlsson A, Shah PS. (2017) Sildenafil for pulmonary hypertension in neonates.(新生児の肺高血圧症へのシルデナフィル使用) Cochrane Database Syst Rev. 8:CD005494. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28777888
    10. Wang R, Jiang F, Zheng Q, et al. (2014) Efficacy and safety of sildenafil treatment in pulmonary arterial hypertension: a systematic review.(肺動脈性肺高血圧症におけるシルデナフィル治療の有効性と安全性:系統的レビュー) Respir Med. 108:531-537. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24462476
    11. Gentile V, Antonini G, Antonella Bertozzi M, et al. (2009) Effect of propionyl-L-carnitine, L-arginine and nicotinic acid on the efficacy of vardenafil in the treatment of erectile dysfunction in diabetes.(糖尿病での勃起障害治療におけるバルデナフィルの有効性に対するプロピオニル-L-カルニチン、L-アルギニン、ニコチン酸の影響) Curr Med Res Opin. 25:2223-2228. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19624286
    12. Tunstall-Pedoe H, Woodward M, Tavendale R, et al. (1997) Comparison of the prediction by 27 different factors of coronary heart disease and death in men and women of the Scottish Heart Health Study: cohort study.(スコットランド心臓健康研究の被験者男女における冠動脈性心疾患とその死亡の27種類の要因による予測比較:コホート研究) BMJ 315:722-729. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9314758
    13. Jacobson TA (2013) Lipoprotein(a), cardiovascular disease, and contemporary management.(リポタンパク(a)、循環器疾患およびコンテンポラリーマネジメント) Mayo Clin Proc. 88:1294-1311. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24182706