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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

抗酸化物質はガンを予防し、その一部にはガンを治す可能性さえある 抗酸化物質はガンを予防し、その一部にはガンを治す可能性さえある

Steve Hickey, PhDによる論評

(OMNS、2013年1月24日)  抗酸化物質を食事およびサプリメントで摂ることがガン予防の最も効果的な方法の一つであることは、広く認められている。それにもかかわらず、Dr. James Watsonは最近、抗酸化物質はガンの原因となり、ガンの治療を妨げるという考えを示している。James Watsonは、最も有名な存命科学者の一人である。彼の研究は、他者(Rosalind Franklin、Raymond Gosling、Frances CrickおよびMaurice Wilkins)の研究とともに、1953年のDNA二重らせんの発見につながった。抗酸化物質に対する彼の最近の発言は誤解を招くものなのに、主流メディアがこれを取り上げたことから、多少の混乱が生じるおそれがある。

抗酸化物質: 何が起こっているのか

Dr. Watsonの主張によると、抗酸化物質によって進行期転移性ガンの増殖が促進されることを発見したということである。これは「二重らせん以来の、私の最も重要な研究の一つ」であると彼は言う。[1] 我々は、この研究結果が基本的に重要なものであることは認めるが、これはWatson独自の発見ではない。むしろ、オーソモレキュラー医学では標準的な考え方であり、何年も前から知られている。[2, 3] 体内では、抗酸化レベルがシグナルとして作用し、細胞分裂をコントロールする。健康な細胞や良性腫瘍の場合、酸化剤によって細胞増殖が増える傾向があるが、抗酸化物質は細胞増殖を抑制する。一方、悪性腫瘍の環境は、酸化力があまりにも強いために損傷をもたらし、アポトーシスによる細胞死を誘発することがある。この場合、抗酸化物質は、腫瘍細胞を酸化から守り、悪性腫瘍の増殖を刺激することによって、腫瘍細胞の増殖と生存を助ける可能性がある。このため、特定の例外はあるものの、抗酸化物質は、悪性腫瘍への使用が禁忌とされる場合がある。

酸化剤について

ガンの発生において、酸化剤と抗酸化物質とのバランスが重要な問題であることは、数十年前から知られている。Watsonは、栄養医学に対する評価という面では時代に遅れているようであり、驚いたことに、ガンに当てはめた場合の酸化と還元のプロセスを誤解しているようである。活性酸素種は明らかに生命に影響を及ぼす、という彼の主張は正しい。これは、生物学の基本である。活性酸素種は、老化、慢性疾患、ガンにも関与している。酸化剤はフリーラジカルによる損傷も引き起すため、体は大量の抗酸化物質を作り出すことによって、害を防ぎ健康を維持する。
遡って1950年代には、Dr. Reginald Holmanが、実験用ラットの飲用水に過酸化水素の希釈溶液を加えることにより、ラットの移植腫瘍を治療した。[4] 酸化剤の一つである過酸化水素は、レドックス(還元/酸化)の一次シグナルを体内にもたらす。この治療により、2週間~2カ月という期間内に、半数以上(50~60%)のラットが治癒に至り、腫瘍が完全に消失した。Holmanは、手術が不可能な進行ガン患者について、4つのヒト症例研究も報告している。これによると、2人の患者に、顕著な臨床改善と腫瘍縮小が見られた。(ここで我々は、過酸化水素を摂るべきであると示唆しているのではないことに注意願いたい。)彼は自分の研究結果を、当時最も信望があった定期刊行科学誌の一つであるNature誌で発表した。これは、そのほんの4年前に、CrickとWatsonによる二重らせんの論文を掲載したのと同じ雑誌であることは言うまでもない。
その頃からずっと、オーソモレキュラー医学は進歩し続けており、現在では、ガンを攻撃するために用いる、より安全で、より効果的な手法を提供している。ビタミンCの静脈内投与が良い例である。[5] それにもかかわらず、現代のオーソモレキュラー医学による治療も、従来の治療も、過酸化水素値を高めることに間接的に依存していることが多い。それによって、フリーラジカルによる損傷が腫瘍内で意図的に引き起こされる。Watsonが酸化とフリーラジカル損傷のことを、放射線療法と化学療法薬によってガンの増殖が遅くなる仕組みのもとと見なしているのは正しい。また、ガン細胞は酸化に順応するという方法によって上記の治療法に対する耐性を持つようになる、とも彼は言っているが、これも、ガン生物学では数十年前から標準的な考えとなっている。Watsonの主張の中には、「ガン研究は規制が厳しすぎる」、「進行期ガンの治癒を主要目的とすべきである」、「正しく的を絞った5~10年間の研究が行われていれば、ガンを治癒できる可能性が生じる」など、我々が同感するものもある。[6] しかし、Watsonは、時代をリードしているオーソモレキュラー医学の進歩にもっと精通すべきだと思う。

ガンが増殖する仕組み

ガンは、酸化その他の損傷の存在下で細胞が増殖したときに発生する。小進化モデルによると、細胞は損傷を受けると、行動が変わり、抑制不可能な状態で増殖し、起源である単細胞動物のように行動する。ガン細胞のこうした個人的行動は、複雑な多細胞生物に不可欠な協調的抑制プロセスを凌ぐものとなる。重要なのは、抗酸化物質は酸化的損傷を抑えることにより、初期の良性ガン増殖を抑制してガンの発生を防ぐ、ということである。
ガンが悪性になると、信じ難い遺伝的多様性を呈する。良性腫瘍は、よく似た異常細胞のコロニーのようである一方、悪性腫瘍は、一つの完全な生態系である。この進行期で、一部の(ただし全部ではない)抗酸化物質が、実際にガン細胞の増殖を促進する可能性がある。数千種類の異なった細胞が共存し、生き残るために強調し、競争し、奮闘する。悪性腫瘍の初期発生時には嫌気状態が優勢となり、その結果、ガン細胞は、エネルギーの発生方法で(つまり、ブドウ糖を用いて嫌気的にエネルギーを発生することから)選ばれたという点で、正常細胞とは異なることになる。これは、1950年代のもう一つの発見であるワールブルグ効果[7]としてよく知られている。[8]

ガンが止まる仕組み

ビタミンCなど、特定の「抗酸化」物質は、ガン細胞と正常細胞との違いを利用することができ、正常細胞を助けながら、ガン細胞を殺す。[9] こうした物質には、その環境に応じて、抗酸化物質として、もしくは酸化促進物質として、作用する能力がある。これらは、腫瘍内では酸化促進物質として作用し、ガンを攻撃する過酸化水素を生成する一方、正常細胞では保護的な抗酸化物質として作用する。
こうした物質に上記の二面性があるということは、きわめて重要である。なぜなら、標準的な化学療法や放射線療法は、ガン細胞と同じくらい正常細胞にも害を及ぼすからである。Watsonは、ガン細胞に対してのみ選択的に作用する薬という考えに感銘を受けたようであり、「選択的に[ガンの]幹細胞を殺す、メトホルミンを超える化合物の発見に向け、高度に集中的な新薬開発を開始すべきである」と示唆している。[10] メトホルミンは、血糖値を下げることによってガンに不利に作用する抗糖尿病薬である。大変興味深いことに、オーソモレキュラー医学によるガン療法では、炭水化物を減らすなど、「ガンを餓死させる」方法が標準となっている。[2]
Dr. Watsonが提唱している類の選択的抗ガン剤は、すでに存在が知られており、これには、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK、α-リポ酸、セレンなどが含まれる。ガン治療におけるこうした物質の相乗作用を調べるための研究計画が緊急に必要である。従来医学にとっては、ガン研究における自己の失敗を受け入れ、オーソモレキュラー医学による選択的方法を採用する時なのである。医学が利益よりも患者に焦点を合わせるようになるまでの間(たぶんしばらくの間)、一般人は栄養療法を続けるべきである。自分に最も役立つ可能性があるまさにその物質を、警告によって遠ざけてはならない。

 

参考文献

1. Watson J. (2013) Nobel laureate James Watson claims antioxidants in late-stage cancers can promote cancer progression (ノ―ベル賞受賞者James Watsonの主張:進行期ガンにおける抗酸化物質の使用はガンの進行を促進するおそれがある), The Royal Society, latest news, 09 January,?http://royalsociety.org/news/2013/watson-antioxidants-cancer.

2. Hickey S. Roberts H. (2005) Cancer: Nutrition and Survival (ガン:栄養と生存), Lulu Press.

3. Hickey S. Roberts H.J. (2007) Selfish cells: cancer as microevolution (利己的細胞:小進化としてのガン), 137-146.

4. Holman R.A. (1957) A method of destroying a malignant rat tumour in vivo (ラットの生体内悪性腫瘍を破壊する方法), Nature, 4568, 1033.

5.?http://www.doctoryourself.com/RiordanIVC.pdf,?http://www.riordanclinic.org/research/research-studies/vitaminc/protocol/?and?http://www.doctoryourself.com/Radiation_VitC.pptx.pdf

6. Lettice E. (2010) James Watson: ‘cancer research is over regulated’ (「James Watson:「ガン研究は規制が厳しすぎる」) The Guardian, Friday 10 September,?http://www.guardian.co.uk/science/2010/sep/10/james-watson-cancer-research.

7. Gonzalez M.J. Miranda Massari J.R. Duconge J. Riordan N.H. Ichim T. Quintero-Del-Rio A.I. Ortiz N. (2012) The bio-energetic theory of carcinogenesis (発ガンの生体エネルギー理論), Med Hypotheses, 79(4), 433-439.

8. Warburg O. (1956) On the origin of cancer cells (ガン細胞起源論), Science, 123(3191), 309-314.

9. Casciari J.J. Riordan N.H. Schmidt T.L. Meng X.L. Jackson J.A. Riordan H.D. (2001) Cytotoxicity of ascorbate, lipoic acid, and other antioxidants in hollow fibre in vitro tumours (中空糸の生体内腫瘍における、アスコルビン酸塩、リポ酸などの抗酸化物質の細胞毒性), Br J Cancer, 84(11), 1544-1550.?http://www.nature.com/bjc/journal/v84/n11/abs/6691814a.html

N.H. Riordan, H.D. Riordana, X. Menga, Y. Lia, J.A. Jackson. (1995) Intravenous ascorbate as a tumor cytotoxic chemotherapeutic agent (腫瘍細胞傷害性化学療法剤としてのアスコルビン酸塩の静脈内投与), Med Hypotheses, 44(3), 207-213,?http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/030698779590137X

10. Watson J. (2013) Oxidants, antioxidants and the current incurability of metastatic cancers (酸化剤、抗酸化物質、ならびに現在における転移性ガンの不治性), Open Biology, January 8, doi: 10.1098/rsob.120144.

 

日本語訳監修 溝口 徹 (新宿溝口クリニック)