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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

酸性食品とアルカリ性食品: 本当の話

アルカリ化する食品は、体内での酸の蓄積を防ぐという理由で酸性食品より健康に良いと時折信じられていますが、それは単なる作り話です [1-3]


野菜、果物、ナッツ類をはじめとするアルカリ化食品が健康に良いのは、酸の蓄積を防ぐからではなく、必須栄養素と食物繊維を他より多く含み、炭水化物と脂質のバランスが健康に良いためです[3]


食事で摂る食品には、様々な生化学物質と必須栄養素が含まれています。食品には、酸性のもの、中性のもの、アルカリ性のものがあります。消化の過程では、どの食品も非常に強力な胃酸により酸性化されます。そして代謝の過程で、獣肉、チーズ、魚、卵というような一部の食品は酸(低pH)を発生させます。野菜、果物、ナッツなど、その他の食品はアルカリ性(高pH)の状態をもたらします。

 

体がpHを管理する仕組み

 血液ならびに体器官のpHは、7.4前後の極めて狭い範囲内(7.35~7.45の間)に維持されています。この維持機能はいくつかのメカニズムによって果たされます。血液と体器官のpHは主に、炭酸(H2CO3)の量によってコントロールされます。炭酸は重炭酸イオン(HCO3-)と平衡を保っており、血漿中の炭酸が多いほどpHは低くなり、炭酸が少ないほどpHは高くなります[4]

 

 CO2

CO2 + H2O

H2CO3

H+ + HCO3-

(気体)

 

(分解)

       

 

数秒から数分という単位でのpH調整は呼吸の速さによって行われます。呼吸が速いほど、肺から吐き出される二酸化炭素の量が増えます。血液中の炭酸は肺内の二酸化炭素と平衡を保っているため、速く呼吸するほど、体から酸度が奪われてpHが高くなります。


数時間から数日間という単位でのpH調整は、腎臓にて、重炭酸塩その他のイオン(アンモニアなど)の排出を増減させることによって行い、これによって尿の酸度が上下します。酸を含む食品や、代謝の過程で酸を発生させる食品を食べると尿が酸性になるのは、自然な結果です。登山者は、酸素を十分取り込むために速く呼吸しなければなりませんが、その結果、血液から炭酸が奪われ、血液のアルカリ度が高くなります。実際、高くなりすぎます。高地の場合、数週間の間は頻繁に休憩を取るようにして、腎臓が十分な重炭酸ナトリウムを分泌してpHを正常値まで下げることができるようにしなければなりません[4,5]

 

病的な相対酸度(pH 7以下)は問題となりますが、健康体であればpHは生理学的範囲(7.357.45)に保たれるよう慎重にコントロールされます。これには、酸性の食品および酸を生じる食品の影響も含まれます。体は、呼吸を速くする(pHを上げる)、遅くする(pHを下げる)、酸またはアルカリの成分を尿中に排出してpHを範囲内に保つことにより、血液のpHを調整します。たとえば、アスコルビン酸(ビタミンC)を摂ると、尿は酸性になりますが、血液は酸性になりません。そう、アスコルビン酸は吸収されて体内ならびに血流に入ったのです。そうしたことにかかわらず血液のpHは、7.357.45という一定値に保たれます。

 

酸度をほぼ一定に保つプロセスは、体が自動的に行います。自分の呼吸がなぜ速くなったり遅くなったりするのか、我々は常にその理由がわかるとは限りません。それには様々な理由がありますが、一つは、血液の酸度の綿密なコントロールを維持するためです。食べる食品を選ぶときに体や尿の酸度を気にする必要はありません。胃の酸度を下げるために制酸剤を飲むと、マグネシウムを含め、食品の正常な消化と吸収が妨げられます。マグネシウムは「現代型の食事」をしている人の大半、とくに高齢者に欠乏しています[6]



ガンと酸度

 ガンは酸性環境で成長するため酸度をもたらす食品を食べるとガンの成長を促進するおそれがある、と信じている人もいます。20世紀初頭、Otto Warburgらは、ガンと低血液pHとの相関関係を見出しました。現在では、ガンが低酸素環境で成長する可能性があることがわかっています。ガンはクエン酸回路を用いなくなる代わりに、発酵による糖代謝を行って乳酸を放出するからです。Warburgは原因と結果を逆にとらえた、というのが現在の一般的な同意です。つまり、多くの種類のガンは、エネルギー源として糖を利用するのに酸素を要しないため低酸素環境で成長するのです(多量の血液供給がない腫瘍など)。そして、ガンが乳酸を放出すると(乳酸が完全に代謝されるためには酸素を要するので)体のpHが下がります。こうした酸はガンの結果であり、ガンになる原因ではないのです [7-9]


低酸素環境とガンには、何らかの相互作用があると考えられます。DNAの突然変異によってガン細胞が進化していく過程では、酸素がなくても成長する腫瘍内の変異細胞が最も早く増殖するからです。


他の正常な体細胞は、酸素がなくてもしばらくは生きていくことができます。たとえば、一部の動物に見られる網膜の光受容器は、毎夜、実質的に無酸素状態となるので、グルコースの発酵に依存しています[10,11]。これが放出する乳酸を体内で効率よく中和することにより、血液pHが7.35より低くならないようになっています。激しい運動をすると筋細胞から乳酸が発生しますが、これは、クエン酸回路で供給できる量よりも多くのATPが筋細胞に必要となるからです。血液中に乳酸がたまると我々は「疲れ」を感じ、回復するのに少し時間がかかります。体はクエン酸回路によってこの乳酸を酸化することにより、回復を遂げます [4]

 

しかし、状況はこれよりもっと複雑です。ある意味、酸素は毒の一種です。多種の酸化分子を示す「活性酸素種(ROS)」は、あらゆる細胞にとって深刻な問題であり、DNAに遺伝子突然変異をもたらす可能性があります[12-14]。Warburgの時代の科学者たちは、こうした詳しいことは全く知らなかったのです。ガンはかつて、一つの特異的疾患と思われていました。しかし今では、一つではなく多数の疾患であることを我々は知っています。その開始因子には、活性酸素種やその他の毒素、放射線をはじめ、多くのものがあると考えられています。突然変異を引き起こすその他のメカニズムの中には、正常な細胞内で生じるものさえあります。

 

ところでWarburgは、毒素がガンの主な原因の一つであり、それが後の段階で体の病的な酸度につながりかねないと信じていた点で正しかったのです。また、食事で野菜から栄養素を摂ることが体の回復の強力な後押しになる—そしてガンや他の進行性疾患の予防に役立つ可能性がある、と信じていた点でも正解でした。だから今にして思えば、彼が後に、毒性を取り除くこと、野菜をたくさん摂る健康的な食事を提供することを重要視していたのも正しいことでした。野菜を大量に摂る食事は「アルカリ度を生む」ことがわかってきたのです。

 

優れた食事

 優れた食事とは、以下を含む多種多様な食品から成るものと考えられます - 控えめな量の高タンパク質食品(獣肉、卵、魚など)および高脂肪食品(チーズ、バター、ナッツ類、アボカドなど)、少量のデンプン質炭水化物(パン、パスタ、サツマイモ、玄米など)、多種多様のカラフルな生食野菜(トマト、ニンジン、大根、ピーマンやパプリカ、サラダ用野菜など)、たっぷりの量の調理したカラフルな野菜(冬カボチャ、ブロッコリー、芽キャベツ、サヤマメ、ケールやコラードなど)、ならびに果物(オレンジ、チェリー、ベリー類、キウイ、モモ、リンゴなど)。個人の好みや生化学的状態に合わせた各種食品の比率も重要と思われます。

 

サプリメントを勧める論理的根拠

 白米やパン、パスタというような加工された炭水化物で、もとの全粒成分を含まない穀物製品から作られたものが一食分出された場合、できれば少量だけ食べて、一食分の脂肪含有食品とバランスをとるのが賢明な方法です。そして、マグネシウム、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなど、加工の過程で失われた栄養素を含むサプリメントを十分な量摂りましょう。また、可能なときはいつでも、健康に良い量の野菜を食べましょう。

 

(Dr. Robert G. Smithは、ペンシルべニア大学ペレルマン医学大学院の神経科准研究教授であり、オーソモレキュラー医学ニュース配信サービス(OMNS)の共同編集者である。「眼疾患のビタミンC療法」の著者であり、「関節炎のビタミン療法」の共著者でもある。OMNSの創設者で編集長であるAndrew W. Saul は、4冊の著書をAbram Hoffer, MDと共同執筆しており、テキストブック「慢性疾患のオーソモレキュラー療法」の編集者でもある。)

 

この二人の著者が表明している見解は、必ずしも、OMNS編集審査委員会の全員を代表しているものとは限りません。OMNSは様々な見方による原稿の提出を歓迎します。下記の連絡先にEメールで送っていただいても構いません。

 

参考文献 

  1. Alkaline diet. US News and World Report.(米国のニュースと世界のレポート)
    https://health.usnews.com/best-diet/acid-alkaline-diet.

 

  1. Collins S. (2018) Alkaline Diets.(アルカリ性の食事)
    https://www.webmd.com/diet/a-z/alkaline-diets.

 

  1. Blackburn KB. (2018) The alkaline diet: What you need to know.(アルカリ性の食事:知っておくべきこと)
    https://www.mdanderson.org/publications/focused-on-health/the-alkaline-diet--what-you-need-to-know.h18-1592202.html

 

  1. Gropper SS, Smith JL. (2013) Advanced Nutrition and Human Metabolism. Chapter 9: Integration and Regulation of Metabolism; Chapter 12: Water and Electrolytes.(先進栄養学とヒトの代謝 第9章:代謝の同化と調整、第12章:水と電解質)Wadsworth, Belmont CA. ISBN-13: 9781133104056.

 

  1. West JB (2006) Human responses to extreme altitudes.(極端な高度に対するヒトの反応)Integrative and Comparative Biology, 46:25-34. doi:10.1093/icb/icj005. 
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21672720

 

  1. Dean C (2017) The Magnesium Miracle, second edition.(マグネシウムの奇跡 第2版)Ballantine Books, ISBN 9780425286715.

 

  1. Quora. (2016) Why does Krebs cycle not occur in cancerous cells?(クレブス回路はなぜガン細胞では生じないのか)
    https://www.quora.com/Why-does-Krebs-cycle-not-occur-in-cancerous-cells

 

  1. Isaacs T. (2016) What Otto Warburg Actually Discovered About Cancer.(ガンについてOtto Warburgが実際に発見したこと)
    https://thetruthaboutcancer.com/otto-warburg-cancer

 

  1. Piepenburg D (2014) Acid - Alkaline Balance and Cancer: The Truth Behind the Myth.(酸とアルカリのバランスとガン:伝説に隠れた真実)
    http://mnoncology.com/about-us/practice-news/acid-alkaline-balance-and-cancer-the-truth-behind-the-myth.

 

  1. Yamamoto F, Borgula GA, Steinberg RH. (1992) Effects of light and darkness on pH outside rod photoreceptors in the cat retina.(猫の網膜における桿体光受容器の外側のpHに対する光と暗闇の影響)Exp Eye Res. 54:685-697.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1623953.

 

  1. Linsenmeier RA. (1986) Effects of light and darkness on oxygen distribution and consumption in the cat retina.(猫の網膜における酸素の供給と消費に対する光と暗闇の影響)J Gen Physiol. 88:521-542. 
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3783124.

 

  1. Winslow RM. (2013) Oxygen: the poison is in the dose.(酸素:その毒は用量にある)Transfusion. 53:424-437. doi: 10.1111/j.1537-2995.2012.03774.x. 
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22804568.

 

  1. Gebicki JM (2016) Oxidative stress, free radicals and protein peroxides.(酸化ストレス、フリーラジカルおよびタンパク質過酸化物)Arch Biochem Biophys. 595:33-39. doi: 10.1016/j.abb.2015.10.021.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27095212.

 

  1. Dizdaroglu M, Jaruga P. (2012) Mechanisms of free radical-induced damage to DNA.(フリーラジカルが誘発するDNA損傷のメカニズム)
 Free Radic Res. 46:382-419. doi: 10.3109/10715762.2011.653969.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22276778