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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

ビタミンの高用量摂取がアルツハイマー病を抑える。それならば医師は何故それを勧めないのか

目次

    (OMNS、2008年12月9日) 最近ニュースメディアで、「アルツハイマー病に相当する状態にしたマウスの実験にて、ある普通のビタミンの大量投与によって記憶障害が解消されたようである」と報道された。そしてすぐ、こう付け加えられていた:「通常用量を超えたビタミン摂取を自分で試すよう推奨する構えは科学者にはない」(1)。

    つまり、あるビタミンを特別多く摂れば役立つのである。それなら摂ろうではないか!

    それは滑稽である。ではどんな話なのだろう?

    カリフォルニア大学アーバイン校の研究グループが、アルツハイマー病のマウスに、ヒト用量なら2,000~3,000 mgに相当するビタミンB3を与えたところ(2)、成果が見られた。この研究グループの一員であるKim Greenの言葉が引用されている:「マウスの認知機能は治った。まるでアルツハイマー病になったことがないようなパフォーマンスであった。」

    具体的に言うと、この研究で用いたのは大量のニコチンアミドであり、これは、獣肉、鳥肉、魚類、ナッツ類、種子類などの食品に幅広く含まれているビタミンB3である。サプリメントには、このニコチンアミドという形態のナイアシンが、食品よりはるかに大量に含まれている。ニコチンアミドは、ナイアシンアミドという呼び名のほうが一般的で、安価であり、その安全性には定評がある。ナイアシンアミドを非常に高用量で摂ったときの副作用として最もよく見られるのは、吐き気である。それをなくすには、用量を減らす方法や、代わりに普通のナイアシンを使う方法が考えられる。普通のナイアシンは、ほてりを生じることがあるが、イノシトールヘキサニアシネートを選べば、ほてることはない。上記のものはすべてビタミンB3である。

    HealthDayニュースのリポーターは、そのビタミンがいかに安価かということに触れていた。研究論文の著者らは、「1年分を30ドルで購入」しており、「安全なようである」と述べている。それでもある著者は、「私なら、人々がこうした物を買いに走って毎日何グラムも食べることは支持しない」と言っている(1)。

    BBCニュースでは、英国のアルツハイマー病研究トラストの最高責任者であるRebecca Woodの言葉を引用していた:「人体での研究が完了するまでは、そうしたサプリメント摂取を始めるべきではない…(中略)…自分の食事を変えることやサプリメントを摂ることについて慎重になるべきである。ビタミンB3は、高用量で摂ると有毒な場合がある」(3)。

    Irish Timesでも同じことを言っていた:「記憶障害を防ごうとして高用量のビタミンB3サプリメントを買いに走ることについては、これまで警告がなされていた…(中略)…この発表以来、そうした警告が現実になる日がやってきた…(中略)…ビタミンは、高用量で摂ると有毒な場合がある」(4)。

    彼らの言葉の選択は巧妙であるが、ほとんど正確性に欠ける。猛然と「殺到」するようなことはないし、人口の半分はすでにサプリメントを摂っている。「有毒」という言葉については、ナイアシンには当てはまらない。カナダの精神科医であるAbram Hoffer, M.D.は、実際にナイアシンは極めて安全性が高いと主張している。「ナイアシンのサプリメントによる死亡例はこれまでにない」とDr. Hofferは言う。「犬に対する半数致死量(投与対象の半数が死亡する用量)は体重1 kg当たり5,000~6,000 mgである。人間の場合、これは1日に約1ポンド(約450 g)のナイアシンを摂ることに相当する。こんなに摂ったら、有害量に達するずっと前に吐き気を催すだろう。」 Dr. Hofferは、ナイアシンの二重盲検プラセボ比較臨床試験を初めて行った人であり、こう付け加えている:「ナイアシンは肝臓への毒性はない。ナイアシン療法によって肝機能検査値は高くなる。しかし、こうした数値上昇は、肝臓の働きが活発であることを意味するもので、潜在している肝臓病変を示すものではない。」

    医学文献により、ナイアシンの安全性は繰り返し裏付けられている。実際、栄養学(オーソモレキュラー医学)を専門とする医師は、50年以上にわたり、ビタミンB3を1日当たり数万ミリグラムもの高用量で用いている。心臓専門医は、コレステロールを下げる目的で1日数千ミリグラムのナイアシンを患者に与えることがよくある。ナイアシンが選ばれるのは、安全裕度が非常に大きいからである。米国中毒管理センター協会の毒性暴露監視システムの年報によると、ナイアシンの形態を問わず、ナイアシンによる死亡は1年に1件もない(5)。

    一方、きちんと処方された処方薬に起因する死亡は、年間14万件に上る(6)。しかも、これは1年間だけ、それも米国内だけの数字である。さらに、薬剤の過量投与や不適切な処方、薬剤による有害な相互作用も数に入れれば、薬剤による合計死亡者数は毎年25万人を超える。

    「自分の食事を変えることについても慎重になる」べきであるというBBCの奇妙な発言は、とくに変である。大いに改善の必要がある我々の食事が、何にも増して、アルツハイマー病の発症に寄与しているものと考える科学者が増えている。「食事でのナイアシン摂取量が少ないことと、アルツハイマー病の発症リスクが高いことには、統計的に有意な関連が見られる。65歳以上のシカゴ市民6,158人のナイアシン摂取量を調べた研究では、食事でのナイアシン摂取量が少ないほど、アルツハイマー病患者になるリスクが高いことが確認された。」 ナイアシンの1日摂取量が最も多かったグループでは、それが最も少なかったグループより、アルツハイマー病の発生率が70%低かった。「これまで最も説得力があったエビデンスは、アスコルビン酸(ビタミンC)塩鉱物によって早期の記憶障害が好転する可能性がある、というものである。アルツハイマー病のリスク増加には、食事でのビタミンEおよび魚類の摂取量が少ないこととの関連も見られている。」(7)

    長年にわたる栄養欠乏状態は、栄養依存を生じることがある。栄養依存とは、不足している栄養素が過剰に要求される状態で、食事で摂ることによっても、また低用量のサプリメント摂取によってでさえも、要求が満たされないものをいう。Robert P. Heaney, M.D.は、この説明に当てはまる病気を、「長期潜伏欠乏性疾患」という言葉で表している。彼の記述によると、「先進工業国の人々に影響を及ぼしている主な慢性疾患のいくつかについて、現在では、多くの栄養素の摂取不足がその一因として認識されている。こうした慢性疾患の転帰は、明らかになるまでに何年もかかることが多く、長期潜伏欠乏性疾患と考えるべきである…(中略)…長期潜伏障害の多くは、その予防に必要な摂取量が、個々の指標疾患の予防に必要な量より多いため、単に指標疾患の予防を基準とした推奨量では、もはや生物学的な防御効果は得られない」(8)。すでに病変がある場合は、損傷した組織を修復するため、異常に大量のビタミンが必要となり得る。35年前、Hofferは別の論文で次のように述べている:「ビタミン欠乏状態とビタミン依存状態との境界は、予防と治療を考えた場合、量的なものにすぎない」(9)。

    アルツハイマー病は、広く認められている治療法がないため、予防が極めて重要である。Irish Timesは記事の中で、「ビタミンを与えた健常なマウスは、普通の食事を与えたマウスより、パフォーマンスの面でも優れていた」と認めており、論文の共著者Frank LaFerlaによる次の言葉を引用している:「これは、アルツハイマー病に効果があるということだけでなく、普通の人が摂っても何らかの記憶面に改善をもたらす可能性があることを示唆している」(4)。論文の著者であるGreenは、こう付け加えている:「これを、すでに世に出ている他の物と組み合わせれば、おそらく大きな効果が見られるだろう」。

    米国アルツハイマー病協会のDr. Ralph Nixonによると、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンB12などのビタミンがアルツハイマー病の発症リスク低下に役立つ可能性があることは、すでに以前の研究で示唆されている。同協会は、ホームページでこう述べている(これが掲載されたhttpは要検索):「ビタミンは役に立つ可能性がある。アルツハイマー病の発症リスクを下げる上で、ビタミンE、ビタミンE+ビタミンCの組合せ、ビタミンB12ならびに葉酸が重要となり得る…(中略)…連邦政府が資金提供したある大規模な研究(10)では、日常活動を遂行する能力の喪失、ならびに介護施設への入所が、ビタミンEによってわずかに遅くなるという結果が見られている。」

    ただし全般的に見て、アルツハイマー病協会は、そのホームページhttp://www.alz.org/index.aspにて驚くほどビタミンには触れておらず、とりあえず、「医師の監視下で行う場合を除き、アルツハイマー病の治療にビタミンEを用いるべきではない」と告げている(http://www.alz.org/alzheimers_disease_10428.asp)。「彼らはこうした安全なビタミンを、まるで医師の同意なく使用してはならない危険薬のように書いている」とDr. Hofferは批評している。「私はもう何十年も使っているのに。」

    ナイアシンと神経の問題は相性が良い。オーソモレキュラー医学の医師たちは、ナイアシンなどの栄養素が、強迫性障害や、不安、双極性障害、うつ、精神病的行動、統合失調症の有効な治療法となることにすでに気付いている。新しい研究では、ナイアシンアミド(アルツハイマー病の研究で用いられている同じ形態のビタミンB3)について、多発性硬化症と非常に良く似た疾患の動物実験では「脱髄軸索の変性を防ぎ、行動障害を改善する効果が大きい」ことが確認されている(11)。

    ジャーナリスティックな警告の基準はわかりやすい。とくに、医薬品に対する絶えず新しい約束事がある場合はそうである。アルツハイマー病の治療に日常的に使われている薬剤のこれまでの成功率は期待はずれで、悲惨でさえある。よって、栄養摂取のほうが優れた解決策となり得るのなら、遅怠は不可解で、許し難くさえある。不当で、必要以上に否定的である自説に固執するのは場違いである。現在、500万人を超える米国人がアルツハイマー病を患っており、2050年までにその数は1,400万人に達すると予想される。もしかすると、今後、900万人がナイアシンの恩恵を受けるかもしれない。

    「人間は食物に依存した生物である」と、アラバマ大学の内科教授Emanuel Cheraskin, M.D.は書いている。「体に食物を与えないと死んでしまう。食物の与え方が不適切だと体の一部が死んでしまう。」 その一部というのが脳であれば、最適な栄養の使用を先延ばしにするのは危険である。

    参考文献

    (1) Vitamin Holds Promise for Alzheimer’s Disease.(ビタミンがアルツハイマー病に役立つ見込み) Randy Dotinga, HealthDay Reporter, Nov 5, 2008
    http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/11/05/AR2008110502796.html
    http://health.yahoo.com/news/healthday/vitaminholdspromiseforalzheimersdisease.html

    (2) Green KN, Steffan JS, Martinez-Coria H, Sun X, Schreiber SS, Thompson LM, LaFerla FM. Nicotinamide restores cognition in Alzheimer’s disease transgenic mice via a mechanism involving sirtuin inhibition and selective reduction of Thr231-phosphotau.(ナイアシンアミドがサーチュインの阻害とThr231-ホスホタウの選択的還元を伴うメカニズムを介してアルツハイマー病の遺伝子移植マウスにもたらす認知機能の回復) J Neurosci. 2008 Nov 5;28(45):11500-10.

    (3) BBC, 5 Nov 2008.?http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/7710365.stm

    (4) Donnellan E. Caution urged over using vitamin B3 to treat Alzheimer’s.(アルツハイマー病の治療にビタミンB13を使うことへの切迫した警告) Wed, Nov. 05, 2008
    http://www.irishtimes.com/newspaper/breaking/2008/1105/breaking91.htm

    (5) 米国中毒管理センター協会の米国中毒・暴露データベース(前称:毒性暴露監視システム)の年報. AAPCC, 3201 New Mexico Avenue, Ste. 330, Washington, DC 20016.
    1983~2006年の年報は、http://www.aapcc.org/annual-reports/?から無料でダウンロード可能。「ビタミン」のカテゴリーは通常、年報の巻末近くに記載。

    (6) Classen DC, Pestotnik SL, Evans RS, Lloyd JF, Burke JP. Adverse drug events in hospitalized patients. Excess length of stay, extra costs, and attributable mortality.(入院患者における薬物有害事象。過剰な在院日数、追加費用、および寄与死亡率) JAMA. 1997 Jan 22-29;277(4):301-6.

    (7) 21. Hoffer A and Foster HD. Feel Better, Live Longer With Vitamin B-3: Nutrient Deficiency and Dependency.(ビタミンB3で気分良く長生きしよう:栄養欠乏と栄養依存) CCNM Press, 2007. ISBN-10: 1897025246; ISBN-13: 978-1897025246.
    下記も参照: Foster HD. What Really Causes Alzheimer’s Disease.(アルツハイマー病の本当の原因) Trafford, 2004. ISBN 1-4120-4921-0.

    (8) Heaney RP: Long-latency deficiency disease: insights from calcium and vitamin D.(長期潜伏欠乏性疾患:カルシウムとビタミンDからの洞察) Am J Clin Nutr. 2003; Nov; 78(5):912-9.

    (9) Hoffer A. Mechanism of action of nicotinic acid and nicotinamide in the treatment of schizophrenia. (統合失調症の治療におけるニコチン酸とニコチンアミドの作用メカニズム) 原典: Hawkins D and Pauling L: Orthomolecular Psychiatry: Treatment of Schizophrenia.(オーソモレキュラー精神医学:統合失調症の治療) San Francisco: W.H. Freeman. 1973; p. 202-262.

    (10) Sano M, Ernesto C, Thomas RG et al. A controlled trial of selegiline, alpha-tocopherol, or both as treatment for Alzheimer’s disease. The Alzheimer’s Disease Cooperative Study.(アルツハイマー病の治療法としてセレギリン、α-トコフェロール、もしくはその両方を用いた対照試験。アルツハイマー病の共同研究) N Engl J Med. 1997 Apr 24;336(17):1216-22

    (11) Kaneko S, Wang J, Kaneko M, Yiu G, Hurrell JM, Chitnis T, Khoury SJ, He Z. Protecting axonal degeneration by increasing nicotinamide adenine dinucleotide levels in experimental autoimmune encephalomyelitis models.(実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルにおける、ニコチンアミドアデニンヌクレオチド量の増加による軸索変性の予防) J Neurosci. 2006 Sep 20;26(38):9794-804.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=pubmed
    下記も参照: Vitamins fight multiple sclerosis.(ビタミンは多発性硬化症を抑える) Orthomolecular Medicine News Service, October 4, 2006