執筆:Richard Z. Cheng, M.D., Ph.D.
要旨
- オーソモレキュラー医学ニュース
オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版
国際版編集主幹 | Richard Z. Cheng, M.D., Ph.D. | |
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日本語版監修 | 柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会 第4代会長(2012-2023)) | |
溝口 徹(医療法人回生會 みぞぐちクリニック 院長) | ||
姫野 友美(医療法人社団友徳発心会 ひめのともみクリニック 院長) | ||
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事) | ||
翻訳協力 | Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G |
* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。
ビタミンD抵抗性の理解と対処: 遺伝的要因・環境要因・栄養要因を統合する包括的アプローチ
ビタミンD抵抗性とは、体がビタミンDに十分反応しない一つの疾患であり、その発症形態は、遺伝性と後天性の両方が考えられます。本論文では、ビタミンD抵抗性の複雑さについて考察し、遺伝的素因、生活要因、感染症、ホルモンバランスの乱れ、微量栄養素の欠乏など、多くの因子が本質的に関わっていることに焦点を当てています。遺伝性のビタミンD抵抗性は稀で、ビタミンD受容体における突然変異を伴うものが一般的です。一方、後天性のほうは珍しくなくなってきており、慢性疾患や環境要因との関連も多く見られています。
本論文では、ビタミンD抵抗性に効果的に対処するためにはこうした多様な要因の理解が重要であることを明確に示しています。ビタミンD抵抗性を緩和するための重要なアプローチとして提示されているホールセルニュートリション(全細胞のための栄養摂取)というコンセプトは、種々の栄養素間での相乗効果を重視したものです。また、本論文では、正しい栄養バランス、生活習慣の改善、解毒、先進療法(バイオアイデンティカルホルモンバランス補充療法、フォトバイオモジュレーション療法、幹細胞移植など)によって健康状態を最適化する統合的オーソモレキュラー医療を支持しています。全人的(ホリスティック)で統合的なアプローチを用いれば、体がビタミンDを効果的に利用できる能力が高まり、骨粗しょう症から自己免疫疾患まで、各疾患における健康転帰の改善につながる可能性があります。
1.序説
ビタミンDは、カルシウムの恒常性、骨の健全性、免疫機能、細胞制御を含む数々の生物学的機能に不可欠です。しかし、ビタミンD値が正常、またはたとえ高値であっても、体がそれに十分反応しないビタミンD抵抗性の人も一部に見られます。ビタミンD抵抗性は主に2つの形態、つまり遺伝性と後天性に分類することができます。有効な診断と治療を行うためには、根底にあるメカニズムや、それをもたらしている要因を理解することが極めて重要です。
2.遺伝性と後天性があるビタミンD抵抗性
遺伝性のビタミンD抵抗性は、ビタミンD受容体における突然変異によって生じるものなどがありますが、稀にしか見られません。一方、後天性のビタミンD抵抗性が認められる場面は増えており、今後さらに増える可能性があります。後天性のものは、慢性的な健康障害、生活要因ならびに免疫系の調節不全に関連付けられることがよくあります。研究では、かなりの割合の人が、標準用量でのビタミンD補給を行っても十分に反応しない可能性があることが示唆されています。ビタミンDへの「反応が低い」人が25%近くいる可能性も示されており、低反応の人が望ましい生理学的効果を得るためには、ビタミンDの用量を増やしたり、さらに個別に調整したりする必要があります(1)。
2.1遺伝性のビタミンD抵抗性
遺伝性のビタミンD抵抗性は、遺伝性ビタミンD抵抗性くる病としても知られており、ビタミンD受容体遺伝子の突然変異によって生じる稀な遺伝性疾患です。この突然変異が生じると、ビタミンDの活性型である1,25-ジヒドロキシビタミンDにビタミンD受容体が結合する能力が低下したり、ビタミンD受容体の機能障害が生じたりすることにより、くる病、低カルシウム血症、二次性副甲状腺機能亢進症というような臨床症状が生じます。遺伝性ビタミンD抵抗性くる病は通常、幼児期に発症し、骨格の変形、発育遅延、また場合によっては脱毛症などの症状を伴うこともあります。通常の治療では、カルシトリオール(活性型ビタミンD)とカルシウムの高用量補給を行って、ビタミンD抵抗性の克服を目指します(2-7)。
2.2後天性のビタミンD抵抗性
後天性のビタミンD抵抗性は、それより後の年齢で生じるもので、遺伝子の突然変異が原因ではありません。これは、様々な外的・内的要因によって、体が効果的にビタミンDを利用する能力が損なわれることに起因します。後天性のビタミンD抵抗性には、慢性疾患や特定の薬剤、また、ビタミンD代謝に影響する疾患との関連がよく見られています。最近の研究で、食事、睡眠、運動、毒素、栄養摂取、さらにはホルモンバランスの乱れを含む生活要因がどれもビタミンD抵抗性の一因となり得ることがわかっています。後天性のビタミンD抵抗性の例として、慢性腎臓疾患ではビタミンDから活性型ビタミンDへの変換に障害が生じ、特定の自己免疫疾患では炎症や免疫調節不全によってビタミンDの代謝と受容体機能に変化が生じる可能性があります。
2.3
ビタミンD抵抗性の診断は除外診断であり、臨床評価、臨床検査(血清中の25(OH)D値と副甲状腺ホルモン(PTH)値の検査を含む)、ならびにビタミンD補給への反応の観察を組み合わせて行います。ビタミンDの状態が十分であると同時に、副甲状腺ホルモン値が高い場合は特に、ビタミンD抵抗性の兆しとされます(1)。
- 臨床症状: 骨の痛みや筋力低下、くる病・骨軟化症の兆候など、ビタミンD欠乏やビタミンD抵抗性を示す症状を患者が呈することもあります。
- 医療履歴: 総合的な医療履歴に、食事でのビタミンD摂取量と日光曝露量の評価、ならびに、口腔・歯性感染症、慢性腎臓疾患、胃腸障害などの慢性疾患がある場合はその評価を含めるべきです。ビタミンDの代謝に悪影響を及ぼし得るその他の生活要因も考慮に入れるべきです。
- 血清中25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)値: 血清中の25(OH)D値を測定してビタミンDの状態を見極めます。低25(OH)D値の場合、ビタミンD欠乏を示していることはあっても、必ずしもビタミンD抵抗性を示しているとは限りません。
- 副甲状腺ホルモン(PTH)値: 25(OH)D値が適正もしくは高値であるにもかかわらず副甲状腺ホルモン値が高いというのは、後天性のビタミンD抵抗性の顕著な特徴の一つとされます。この状態は、体がビタミンDに適切に反応しておらず二次性副甲状腺機能亢進症に至ったことを示唆しています(1)。
- カルシウム値とリン酸塩値: 血清中のカルシウム値とリン酸塩値を調べます。ビタミンD抵抗性の場合、カルシウムの吸収力が低下することにより、低カルシウム血症や、リン酸塩代謝の変化が生じる可能性があります(8,9)。アルブミン値が低い場合は補正カルシウム値が用いられていますが、この方法に反論している論文もあります(10)。
- ビタミンD受容体の機能性: ビタミンD抵抗性の一因となり得る遺伝的要因を評価するため、ビタミンD受容体や関連遺伝子の多型性を調べる遺伝子検査が指示される場合もあります。
- ビタミンD補給試験: ビタミンDの高用量投与(Coimbraのプロトコルに準じた試験など)を行い、血清中の25(OH)D値と副甲状腺ホルモン値の変化を観察するという方法は、ビタミンDに対する体の反応性を評価する上で役立つと思われます。予想される反応が見られない場合、ビタミンD抵抗性を示している可能性があります(1)。
- 長期的な観察: 定期的な経過観察と検査を繰り返せば、ビタミンD療法に対する各患者の反応が低いか否か判断するのに役立ちます。低反応の場合は、治療効果を得るため用量を増やす必要があるかもしれません。
3.ビタミンD抵抗性の一因となる要因
3.1遺伝的要因
遺伝性ビタミンD抵抗性くる病の他にも、ビタミンDの代謝と受容体機能に大きな影響をもたらすことによってビタミンD抵抗性の変動の一因となる遺伝的多型はいくつかあります。
- CYP24A1変異体: CYP24A1は、活性型ビタミンDを分解する酵素をコードする遺伝子です。この遺伝子の多型は、血中ビタミンD値や有効性の低下をもたらす可能性があります。rs3886163などの変異体にはビタミンD値低下との関連が見られており、ビタミンD代謝全体ならびに関連する健康転帰に影響します(11,12)。
- CYP2R1多型: CYP2R1は、ビタミンDを活性型に変換するために不可欠な遺伝子です。rs10500804、rs12794714など、この遺伝子の変異体には、血清25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)値の低下との関連が見られており、ビタミンD代謝における重要な役割が示唆されています(12,13)。
- ビタミンD受容体多型: ビタミンDの受容体をコードするビタミンD受容体遺伝子にも、ビタミンDのシグナル伝達に影響を及ぼすおそれがある多型が見られます。3'非翻訳領域中にあるFok1などの変異体は、ビタミンD受容体の発現と機能を変化させることによりビタミンDの生物学的効果に影響を及ぼす可能性があります (11,14)。
- 健康上の影響: こうした経路における遺伝的変異には、肥満や2型糖尿病を含む様々な健康障害との関連が見られています。ビタミンD欠乏について、また、ビタミンD欠乏が代謝障害に及ぼす広範な影響を理解する上で、こうした多型が重要であることが研究で明確に示されています(13,14)。
3.2感染症
感染症、特に慢性の感染症は、ビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります。根管治療をした歯に関係する感染症など(15,16)、歯性感染症には、全身性炎症への関与が見られており、それによってビタミンD代謝に変化が生じる可能性があります。また、結核や慢性ウイルス感染症というような感染症は、ビタミンD受容体の機能や免疫制御を妨げることによってビタミンD抵抗性を増悪させる可能性があります(1,17-23)。
3.3生理学的状態
肥満がビタミンD抵抗性の一因となることはよく知られています。肥満の人の場合、ビタミンDが脂肪組織に閉じ込められることにより、ビタミンDの生体内利用率が低下します。その結果、血中ビタミンD値が低くなり、補給の必要が高まります(24-26)。
3.4処方薬
ビタミンDの代謝を高める作用やビタミンDの吸収を妨げる作用によってビタミンD抵抗性の一因となり得る処方薬がいくつかあります。
◆抗てんかん薬(AED)
- フェニトイン: この薬剤はシトクロムP450酵素の発現を誘導することが知られており、この酵素はビタミンDの分解を促進するため、体内のビタミンD値低下につながります(27,28)。
- カルバマゼピン: フェニトインと同類のカルバマゼピンは、ビタミンDの肝代謝を高める作用があるため、長期服用するとビタミンD欠乏に至ります(27-29)。
- フェノバルビタール: この薬剤もビタミンDの代謝を誘導する作用があるため、ビタミンD欠乏の一因となります(28,30)。
◆ガン治療薬
- タモキシフェン: 乳ガン治療に用いられるタモキシフェンには、ビタミンD値低下との関連が見られています(29)。
- シクロホスファミドおよびタキサン(パクリタキセルなど): これらの化学療法剤もビタミンDの代謝を乱す可能性がありますが、正確なメカニズムはあまり明確には定義されていません(27)。
◆心血管系薬剤
- カルシウムチャンネル遮断薬(ベラパミル、ジルチアゼムなど): ビタミンD前駆体の変換を妨げる可能性があり、結果的に血清ビタミンD値の低下につながるおそれがあります (27)。
- ACE阻害薬: いくつかの研究で、ACE阻害薬がビタミンD値の低下をもたらす可能性が示唆されています。ただ、その関係は基礎疾患の影響を受けるとも考えられます(27)。
◆その他の薬剤
- 抗生物質: 特定の抗生物質、特にリファンピシンは、ビタミンDの代謝を速める肝臓酵素を誘導する可能性があります(29,30)。
- 胆汁酸吸着剤(コレスチラミンなど): ビタミンDをはじめとする脂溶性ビタミンの吸収を妨げる可能性があります(28)。
- オルリスタット: この肥満治療薬は、食事で摂った脂肪の吸収を抑える可能性がありますが、ビタミンDの吸収にも影響を及ぼすおそれがあります(28)。
- ステロイド剤: プレドニゾンのようなコルチコステロイド剤は、ビタミンDの代謝と吸収の低下をもたらす可能性があることから、ビタミンD欠乏の一因となるおそれがあります(29)。
3.5生活要因
ビタミンDの代謝に影響を及ぼしてビタミンD欠乏症やビタミンD抵抗性の一因となり得る生活要因もいくつかあります。
◆高炭水化物食: 炭水化物を多く摂る食事は、ビタミンDの状態に悪影響を及ぼすおそれがあることから、ビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります。特に、妊婦など特定の集団でその可能性が見られています。炭水化物を多く(1日300g以上)摂っている場合、ビタミンDの状態の主要指標である25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)値が低くなることとの有意な相関が研究で見られています(31)。妊婦を調べた研究で、炭水化物の摂取量と25(OH)D値に有意な逆相関が見られており、これは炭水化物の多量摂取がビタミンDの状態に影響を及ぼす可能性があることを明確に示しています(31)。別の研究では、低炭水化物食と、25(OH)D値が高いこととの関連が認められており、これは炭水化物の摂取量を減らせばビタミンDの状態の改善に役立つ可能性があることを示唆しています(32,33)。
≪相互作用のメカニズム≫
- 体組成と脂肪組織内貯蔵: 炭水化物の多量摂取は体脂肪率の増加につながる可能性があり、それによって体内のビタミンD値が低下するおそれがあります。脂肪組織にビタミンDが貯蔵される可能性もあり、そうするとビタミンDの生体内利用率が低下して肝臓でのビタミンD代謝に障害が生じるおそれがあります(31,32)。
- インスリン抵抗性: 高炭水化物食はインスリン抵抗性を促進する可能性があり、それには様々な代謝障害との関連が見られています。インスリン抵抗性自体に、ビタミンDの代謝に影響を及ぼす可能性があることから、体内の活性型ビタミンD値の変動が生じるおそれがあります(34)。
- 食事構成: ケトン食や、低炭水化物・高脂肪食(LCHF)など、炭水化物の少ない食事は、ビタミンDの状態を高める可能性があることが研究で示唆されています。こうした食事では多くの場合、ビタミンDを豊富に含む食品の量が高炭水化物食より多いため、全体的なビタミンD値の改善に役立つ可能性があります(32,33)。
◆毒素: ビタミンDの活性化に関わっている酵素の機能に、環境毒素が障害を及ぼす場合もあります。
- 大気汚染、化学物質への曝露: 大気汚染、環境化学物質および喫煙によってビタミンD欠乏が誘発され得る仕組みについて考察したレビュー論文があり、その著者は、こうした要因がビタミンDの代謝に影響を及ぼす場合の潜在的なメカニズムとして、皮膚でのビタミンD合成の阻害、肝臓代謝における変動などを挙げています(35)。
- 栄養と環境要因の影響: サウジアラビアのある集団におけるビタミンD欠乏症の蔓延に焦点を当てた研究で、食事摂取や環境の影響を含む様々な要因との関連を調べた結果、たとえ晴天領域であっても、肥満である、日光にあまり当たらないというような要因がビタミンD欠乏症の増悪をもたらす可能性が示唆されています(36)。
- 内分泌かく乱化学物質(EDC): プラスチックによく含まれているビスフェノールA(BPA)やフタル酸エステルのような物質は、ビタミンDに関連する内分泌機能を含む内分泌機能をかく乱する可能性があります。米国の成人グループを対象として、フタル酸代謝物およびビスフェノールAの尿中値と、ビタミンD値との関係について分析した研究があります。内分泌かく乱化学物質は、ビタミンD代謝に関わる酵素の発現に変化をもたらす可能性があることから、体内でのビタミンDの効力が下がるおそれがあります。研究の結果、フタル酸代謝物とビスフェノールAの尿中値が高いほどビタミンD値が低いという相関が見られたことから、食事での毒素摂取がビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります(35)。
◆超加工食品: 超加工食品(UPF)の摂取とビタミンD欠乏には懸念すべき関係があることが最近の研究で示されています。
≪ビタミンD値への影響≫
- ビタミンD欠乏症との関連: ブラジルで行われた横断的研究で、超加工食品の高量摂取と、ビタミンD欠乏症のリスク増加との間に有意な関連が見られています。超加工食品の摂取量が多かったグループは、それより摂取量が少なかったグループと比べて、ビタミンD欠乏症になる可能性が2.05倍高くなっていました。これは、超加工食品が血清ビタミンD値に悪影響を及ぼす可能性があり、被験者集団におけるビタミンD欠乏症の一因となり得ることを示唆しています(37)。
- 微量栄養素の含有量: 別の研究では、超加工食品を多く含む食事と、ビタミンDを含む数種類の微量栄養素の摂取量が逆相関の関係にあることが明確に示されています。超加工食品を多く摂る食事では、自然食品や、加工を最小限に抑えた食品を基本とした食事より、微量栄養素の含有量が大幅に少ないという観察結果が得られています。この研究では、食事に占める超加工食品の割合が高いほどビタミンDなどの必須栄養素の数値が低くなることが具体的に示されています(38)。
- 栄養面での広範な影響: 超加工食品の悪影響が及ぶのはビタミンDだけではありません。健康に重要である様々な微量栄養素の摂取不足との関連も見られているからです。特に、超加工食品の摂取量が急増している集団では、こうした傾向が公衆衛生上、大いに懸念されます (39,40)。
◆種子油(食事で摂るオメガ6のPUFA)の過剰摂取: 食事で摂るオメガ6の多価不飽和脂肪酸(PUFA)(主に種子油に含まれている)の多さと、ビタミンD抵抗性には関連が見られており、その主な理由は、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の代謝が競合関係にあるためです。オメガ6のPUFAもオメガ3のPUFAも同じ酵素によって代謝されるため、オメガ3の摂取量と比べてオメガ6系の摂取量が過剰に多いと不均衡が生じる可能性があります。不均衡が生じた場合、炎症プロセスの増悪が生じたり、体がビタミンDを効果的に利用する能力が阻害されたりするおそれがあります。オメガ6のPUFAを食事で多く摂ると、炎症や代謝調整不全に関わるメカニズムを通じてビタミンD抵抗性の一因となるおそれがあります。最適な健康状態を維持し、有効なビタミンD代謝を確実にするためには、オメガ3とオメガ6の脂肪酸をバランスよく摂ることが極めて重要です。
- オメガ6のPUFA、特にリノール酸由来のものは、炎症を促進する傾向があります。慢性炎症は代謝経路に変化をもたらすことがあり、ビタミンD受容体の発現や、ビタミンD代謝に関与している酵素がその影響を受けることによって、ビタミンD抵抗性につながる可能性があります(41,42)。
- 栄養バランスの乱れ: 現代の典型的な食事では、オメガ3に対するオメガ6の比率(オメガ6:オメガ3比)は高く、4:1~5:1という推奨比率を大きく上回る20:1~50:1ほどの比率もよく見られます。オメガ6脂肪酸のこうした過剰摂取は、炎症を誘発するエイコサノイドの過剰産生につながるおそれがあり、さらには代謝の調節不全、ビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります(41,42)。
- 遺伝的要因: 脂肪酸の不飽和化に関与している遺伝子(FADS遺伝子クラスターなど)の変異体は、個人によるこうした脂肪酸の代謝の仕方に影響を及ぼす可能性があり、それによって、食事で摂るオメガ6・オメガ3脂肪酸に対する反応が多様化することも考えられます。こうした遺伝的相違は、エイコサノイドの合成、ひいては炎症反応に影響する可能性があることから、ビタミンのD代謝に関連します(42,43)。
◆日光と運動: 内発的なビタミンD合成のためには、十分な日光曝露が非常に重要となります。しかし、現代の生活習慣では日光曝露が限られることが多く、それがビタミンD欠乏やビタミンD抵抗性の一因となります。定期的な運動は、代謝の促進と炎症の軽減をもたらすことにより、ビタミンDの状態を向上することがわかっています。
運動不足は、主に、筋肉量とビタミンD代謝への影響を介して、ビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります。定期的な身体活動、特にレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)は、筋組織におけるビタミンD受容体の発現と、筋細胞から血流中へのビタミンD放出を促進することにより、ビタミンDの状態を高める可能性があることが研究で示されています(44,45)。
ビタミンD抵抗性を生じるメカニズム
- 筋肉量とビタミンDの貯蔵: レジスタンス運動に伴う筋肉量の増加は、ビタミンDの貯蔵に役立つ可能性があります。増えた筋組織にてビタミンDの結合と貯蔵が行われた場合、ビタミンDを十分に補給しないと25(OH)D(主要な循環型ビタミンD)の血清中値が低下する可能性があります(44)。
- 運動によって誘発される変化: 一過性の運動には血清25(OH)D値を一時的に高める効果が見られていることから、身体活動はビタミンD代謝を高める可能性があると思われます。たとえば、1 回運動しただけでも、その直後にビタミンD値が上昇する可能性があることが研究で示されています(45,46)。
- ビタミンD受容体: 定期的に運動すると、筋肉にてビタミンD受容体発現が増える可能性があり、そうすると効果的にビタミンDを利用できる体の能力が高まります。ビタミンDは筋機能と身体能力全般に重要な役割を果たすため、定期的な運動は極めて重要です(46,47)。
- 季節要因と環境要因: 運動がビタミンDの状態にもたらす効果は、ビタミンDの主要供給源である日光への曝露量の季節変動によって左右される可能性もあります。屋外で身を動かせば天然ビタミンDの合成が生じますが、座っていることが多い人はその機会を失いかねません(44,46)。
◆睡眠: 睡眠不足は、概日リズムの乱れをもたらす可能性があり、それが乱れるとホルモン値やビタミンD代謝に影響します。最適なビタミンD値の維持とビタミンD抵抗性の軽減のためには、十分な睡眠が非常に重要です。
- 睡眠不足は、ビタミンD抵抗性との関連が見られており、ビタミンDの欠乏が睡眠障害や睡眠の質の低下を激化させる可能性を示唆するエビデンスも現われています。睡眠不足とビタミンD抵抗性が互いに影響するのであれば、十分なビタミンD値の維持が、最適で健全な睡眠に重要となることは明確です。ビタミンD欠乏を睡眠障害に関連付けている有望なエビデンスもありますが、さらに、質の高い研究によって因果関係を確立し、関与しているメカニズムを明確にする必要があります。
- ビタミンDと睡眠との関係
- 疫学的エビデンス: ビタミンD欠乏の人は睡眠障害を経験するリスクが有意に高くなるという研究結果があります。9,397人の被験者を含めたメタ分析で、血清ビタミンD値が低いグループでは、睡眠の質が低い、睡眠時間が短い、日中に過度の眠気を生じるといった確率が高いことがわかりました。具体的には、血清25(OH)D値が20 ng/mL未満だったグループでは、睡眠障害のリスクが1.5倍高くなっていました(48,49)。
- 生物学的メカニズム: ビタミンDと睡眠調節との関連は、生物学的に理にかなっていて、実際にその可能性は高いと思われます。ビタミンD受容体は脳に存在し、ビタミンDは、睡眠・覚醒サイクルに不可欠なセロトニン神経系の調節にも役立っていることから、睡眠に影響を及ぼす可能性があります(50,51)。
- 介入研究: いくつかの介入研究で、ビタミンD補給が睡眠の質の改善をもたらす可能性が示唆されています。一例として、無作為化比較試験で、退役軍人の被験者グループにビタミンD補給を行ったところ睡眠時間が長くなったという報告があります。しかし、結果は各研究間で一貫しておらず、ビタミンD補給による睡眠の有意な改善が見られなかった研究もあります(49,52)。
- 睡眠不足がビタミンD値に及ぼす影響
- 睡眠不足はビタミンDの代謝と体内での有効性にも影響を及ぼします。慢性的な睡眠不足は、ビタミンDの合成と利用に関わっている代謝プロセスの変化につながる可能性があることから、ビタミンD欠乏とビタミンD抵抗性のサイクルが生じる一因となりかねません(48,51)。
3.6他のビタミン・微量栄養素の不足や欠乏
ビタミンDの代謝は他の微量栄養素とも密接な関係があるため、微量栄養素の欠乏がビタミンD抵抗性の増悪をもたらすおそれがあります。
◆栄養不足: 食事によるビタミンDとカルシウムの摂取量と、ビタミンD欠乏症の蔓延との相関を調べた研究があり、食事での摂取量が不十分で、それに環境毒素が重なった場合、ビタミンD代謝関連の大きな健康問題に至る可能性があることが明確に示されています(36)。
◆ビタミンC: ビタミンCが欠乏すると、ビタミンDによる免疫調節効果が損なわれる可能性があることが研究で示されています。ビタミンCは、ビタミンDの効果、特に、代謝の健全性と免疫機能を改善する効果を高める可能性があります。
- 代謝の健全性: ある研究で、肥満のマウスにビタミンCとビタミンD3の両方を補給した結果、代謝のパラメータに改善が見られ、代謝の健全性への相乗効果が示唆されています。ビタミンCとビタミンD3を組み合わることで腸内細菌叢に有意な変化が生じ、腸内細菌叢の多様性が増して全体的な健康増進につながりました。代謝の調節には腸内細菌叢の変化が非常に重要です(53)。
- 免疫機能: ビタミンCは免疫のサポートに役立つことで知られており、ビタミンC補給には、免疫反応の改善との関連が見られています。一例として、ビタミンCは好中球をはじめとする免疫細胞の機能を高めると考えられることから、感染症に対する体の反応を助ける可能性があります。ビタミンDも免疫調節にて重要な役割を果たしていることから、ビタミンCのこうした免疫増強特性がビタミンDの効果を補完する可能性があります(54-56)。
- 臨床での効果: メタボリックシンドローム患者の転帰を改善する目的で、ビタミンCとビタミンDの併用補給がこれまでにも提案されていることから、臨床現場で効果をもたらす可能性があることは明らかです。ビタミンCは、ビタミンD欠乏に伴うビタミンD抵抗性の一部緩和に役立つ可能性があり、それによって全体的な健康転帰が改善されると考えられます(53,57)。
◆ビタミンB: ビタミンB群は、ビタミンDの活性に影響を及ぼします。ビタミンBは、ビタミンD抵抗性の改善において、特に骨の健全性や代謝機能との関連で有益な役割を果たす可能性があることが研究で示されています。ビタミンBとビタミンDのこうした相互作用が、特に骨の健全性や認知機能といった面で、ビタミンDの有効性を高めると思われます。ビタミンDはカルシウムの吸収と骨の健全性に不可欠であり、そこにビタミンB群が存在していれば、ビタミンDの代謝経路と生理学的効果の最適化を助ける可能性があります。
≪ビタミンBとビタミンDの相互作用≫
- 補給の効果: ある研究で、ビタミンD3とビタミンBの補給によって高齢者の骨のターンオーバーのサイクルが有意に短くなるという結果が見られています。具体的には、ビタミンD3とビタミンBを組み合わせて補給した場合に血漿25-ヒドロキシビタミンD値の改善と副甲状腺ホルモン値の低下が見られたもので、これらは骨代謝にとって非常に重要です(58)。
- 正の相関: 別の研究では、青少年の被験者グループについて、血漿25-ヒドロキシビタミンD値が、葉酸値とビタミンB12値の両方と正の相関関係にあったことが明示されています。これは、十分なビタミンB値を保つことがビタミンDの代謝と有効性の後押しとなる可能性を示唆しています(59,60)。
- 認知力と記憶力への効果: ビタミンB12と葉酸は、ビタミンD欠乏に関連があるとされる認知機能障害の好転に役立つ可能性もあることが研究で示されています。ここでは、認知機能をはじめ、様々な生理学的プロセスにおいてビタミンB群はビタミンDの有効性を全体的に高める可能性があることが明確に示されています(61)。
◆ビタミンK2は、ビタミンDと相乗的に作用してカルシウム沈着を制御します。ビタミンK2が欠乏するとビタミンDの有効性が損なわれる可能性があります。
≪ビタミンK2はビタミンDの有効性を高める≫
最近の研究で、ビタミンDの有効性、特に、ビタミンD抵抗性の改善や、骨や血管の健全性に関する全体的な健康転帰の改善をもたらす効果がビタミンK2によって高まる可能性が示されています。ビタミンDとビタミンK2が相互に作用するということは、それを組み合わせて補給すれば、骨の健全性やインスリン感受性の改善のみならず、心血管の健全性や免疫機能の増強もできる可能性があることを示唆しています。こうした相乗関係は、特に、ビタミンDの欠乏や、関連する健康問題のリスクがある人について、食事とサプリメントによるビタミンDとビタミンK2の両方の摂取を検討することの重要性を明確に示すものです。
≪ビタミンDとビタミンK2の相乗効果≫
- 骨の健全性: カルシウムの吸収にビタミンDは不可欠であり、一方、ビタミンK2はカルシウムを骨に導いて、動脈に沈着しないようにする働きがあります。ビタミンD3とビタミンK2を組み合わせて補給すると、骨密度(BMD)の有意な改善、ならびに骨粗しょう症のリスク低下につながる可能性があることが研究によって示されています。こうした相乗効果は、骨の形成と石灰化に不可欠なタンパク質(オステオカルシンなど)の活性化にビタミンKが必要とされ、ビタミンK2がその役割を果たしていることによると考えられます(62-64)。
- インスリン感受性: ビタミンK2の補給は、特に2型糖尿病がある人において、インスリン感受性の改善との関連が見られています。ビタミンK2の補給を受けた患者グループでHOMA-IR値が低下したことを明示して、ビタミンK2によるインスリン抵抗性軽減の可能性を示唆している研究があります。これは、ビタミンK2にビタミンDの代謝効果を強める働きがある可能性を示すもので、それによってグルコース代謝が改善され、糖尿病関連の合併症のリスクが軽減されると考えられます(65)。
- 心血管の健全性: ビタミンDとビタミンK2の併用は、動脈の石灰化を防ぐ働きによって心血管の健全性に効果をもたらす可能性もあります。ビタミンK2は、動脈の石灰化を抑えるマトリックスGLAタンパク質(MGP)を活性化します。ビタミンD単独では同程度の動脈石灰化予防効果が得られない可能性があるため、併用による予防効果は特に重要となります(63,64)。
- 免疫機能: ビタミンDもビタミンK2も免疫機能のサポートに関わっています。ビタミンDは免疫反応を高め、一方、ビタミンK2には炎症を調節する働きがあることがわかっています。この2つを一緒に摂れば、免疫反応の改善と、炎症性疾患のリスク低減に役立つ可能性があります(63,66)。
◆マグネシウムは、ビタミンDの活性化において極めて重要な役割を果たします。マグネシウムは、ビタミンDをその活性型であるカルシトリオールに変換する酵素の補因子の一つです。マグネシウム値が低いとビタミンDの代謝に障害が生じる可能性があり、そうするとビタミンD補給の効果が低下してビタミンD抵抗性の一因となるおそれがあります(67,68)。
◆亜鉛も、免疫系をサポートする必須微量栄養素であり、これもビタミンDの代謝に影響を与える可能性があります。亜鉛はビタミンDの生物学的作用に必要なビタミンD受容体の活動に関与しています。十分な亜鉛値を保てば、ビタミンDに対する体の反応が高まる可能性があり、ビタミンDによる健康促進効果が改善される可能性もあります(68,69)。
◆セレンは、抗酸化特性を有しており、免疫反応の増強に役立つ可能性があります。セレンがビタミンDの代謝と受容体の活性に影響を与える可能性はいくつかの研究で示されていますが、この関係の解明にはさらなる研究が必要です(69)。
◆カルシウムは、ビタミンDと密接な関係があります。ビタミンDは腸内でのカルシウム吸収に不可欠で、それがビタミンDの主要機能の1つだからです。十分なカルシウム値を保てば、ビタミンDによる全般的な効果、特に、骨の健全性の維持や、骨粗しょう症のような疾患の予防の効果が後押しされる可能性があります(67,69)。
4.ビタミンD抵抗性に対するホルモンの影響
4.1メラトニン
- メラトニン不足とビタミンD抵抗性: メラトニン不足がビタミンD抵抗性の一因となる可能性を示すエビデンスは増えています。メラトニン不足は、夜間の人工光への過剰曝露というような要因によって生じることが多く、ビタミンD受容体やシグナル伝達経路の正常な機能を狂わせてビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります。ビタミンDの状態と機能を最適に保つためには、明暗サイクルを正常に維持することによって十分なメラトニン生成を確実にすることが重要と考えられます。
- メラトニンとビタミンDには多くの類似点があります。どちらも、免疫調節機能と抗炎症機能によって多系統に影響を及ぼすホルモンです。メラトニンはよく「暗闇のホルモン」と言われます。メラトニンの生成は暗闇で刺激され、光を浴びると抑えられるからです(70)。
- メラトニン値には、多発性硬化症の重症度ならびに再度の悪化との逆相関が見られています。ビタミンD欠乏にも、多発性硬化症のリスク増加との関連が見られています。また、メラトニンとビタミンDはどちらも、血液脳関門の完全性に重要な役割を果たしています(71)。
- 研究によると、ビタミンD不足の是正がメラトニン値に良い影響をもたらす可能性があり、そうであればメラトニン欠乏関連の睡眠障害の治療に役立ちます。メラトニンとビタミンD値には中等度の正相関が見られています(72)。
- ビタミンDは、睡眠を調節する脳領域内の中枢受容体を介して、メラトニンの合成に影響を及ぼします。ビタミンDとメラトニンの併用療法が慢性不眠症の改善に役立つことを示した症例報告もあります(73)。
- メラトニンは、ビタミンD受容体に結合することによってビタミンDのシグナル伝達効果と後続の細胞活動を促進する可能性があります(74-76)。これは、メラトニンとビタミンDという2つのホルモン間にクロストークがある可能性を示唆するものです。
4.2HPA軸
視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸は、体のストレス反応を調節する経路であり、慢性的なストレスがあるとHPA軸の調節不全が生じる可能性があります。主要なストレスホルモンであるコルチゾールは、ビタミンD代謝を阻害してビタミンD受容体の発現量を低下させ、ビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります。
- ビタミンD抵抗性の一因となる副腎不全: 副腎機能障害が体内でのビタミンDの代謝と作用に影響する可能性を示したエビデンスがあることから、副腎不全とビタミンD抵抗性は相互につながりがあると思われます。副腎不全は、ホルモン調節や免疫反応を含む複雑な相互作用を介して、ビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります。
≪副腎不全とビタミンDとの関係≫
- 副腎機能におけるビタミンDの役割: ビタミンDは、免疫反応やホルモン調節など、様々な身体機能に不可欠です。研究によると、ビタミンD欠乏症は副腎不全を増悪 させるおそれがあり、特に重症の場合は、ビタミンD欠乏症と副腎不全の両方が心血管系や免疫系に悪影響を及ぼす可能性があります (77,78)。
- ビタミンD抵抗性のメカニズム: 副腎不全といった状況下でのビタミンD抵抗性の根底にあるメカニズムは完全にはわかっていません。ただ、仮説として、ビタミンD値が低いと、副腎ホルモン、特に、ストレス反応と代謝機能に不可欠なコルチゾールの産生力が低下すると考えることもできます。いくつかの研究で、ビタミンDがストレスに対する副腎反応を調整していてコルチゾールの合成と分泌に影響している可能性が示唆されています(79,80)。
- 臨床観察: 副腎不全を特徴とするアジソン病のような疾患がある患者は、ビタミンD値が低くなる傾向があります。ビタミンD欠乏はそうした疾患の発症や合併症の一因となると思われ、これは、副腎不全に対処する上でビタミンD補給が治療に役立つ可能性があることを示唆しています(77,81)。
- 研究結果: ビタミンD欠乏は様々な副腎疾患と関連していて、副腎疾患患者に見られるビタミンD抵抗性は副腎組織でのビタミンD受容体の発現減少がその一因である可能性が体系的レビューで明確に示されています。また、自己免疫性副腎疾患ではビタミンDの免疫調節効果が保護的な役割を果たしている可能性もあり、この2つの要因間の関係をさらに複雑化しています(77,78)。
4.3甲状腺
甲状腺ホルモンの状態は、ビタミンDの代謝と感受性にかなり影響することから、ビタミンD抵抗性の一因となります。その関係は複雑で多面的であり、中枢と末梢の両方のメカニズムが関わっています。
◆甲状腺ホルモンとビタミンDの相互作用: 甲状腺機能低下とビタミンD欠乏には関連が見られており、その関係性が甲状腺機能低下症患者におけるビタミンD抵抗性の一因と考えることもできます。
- 甲状腺ホルモンの産生不足を特徴とする甲状腺機能低下症は、様々な代謝不均衡につながる可能性があり、ビタミンD代謝における変化もそれに含まれます。甲状腺機能低下症、特に、橋本病のような自己免疫性の甲状腺炎の患者に低ビタミンD値が見られることが多いという研究結果も複数あります。一例として、甲状腺機能低下症の患者では、顕性、無症候性を問わず、かなりの割合でビタミンD欠乏が見られており、これは甲状腺機能低下症とビタミンD欠乏に強い相関があることを明確に示しています(82,83)。
- ビタミンD抵抗性のメカニズム: 甲状腺機能におけるビタミンDの役割は複雑です。ビタミンDは、甲状腺ホルモンの分泌を調整することがわかっており、刺激ホルモンに対する甲状腺の反応に影響を及ぼすと考えられます。ビタミンDの受容体と甲状腺刺激ホルモンの受容体は構造が似ていることから、ビタミンDが甲状腺刺激ホルモンの分泌と甲状腺ホルモンの産生に直接影響を及ぼす可能性が示唆されます。一方、甲状腺機能低下症の患者はビタミンDの効力をうまく得られない可能性があり、ビタミンDを補給しても予想されるほどの生理学的反応が得られないビタミンD抵抗性の状態に至るおそれがあります(84,85)。
- 治療への効果: ビタミンD補給は血清ビタミンD値を高め、甲状腺機能低下症患者の甲状腺刺激ホルモン値を下げるのに役立つ可能性があることが研究でわかっています。ただし、得られる効果の程度は人によって異なる可能性があり、根底にあるビタミンD抵抗性のメカニズムによってビタミンD補給に十分反応しない人もいると考えられます(84,86)。ビタミンD値を定期的に調べてビタミンD補給を検討することは、特に甲状腺機能低下症患者の場合、有益とも考えられますが、上記のとおり、患者によってビタミンD補給への反応が一様には見られない可能性もあります(87,88)。
◆甲状腺ホルモン抵抗性: 最近の研究によると、甲状腺ホルモン抵抗性はビタミンD代謝の変化に関連している可能性があります。ビタミンD値が高くても低くても、甲状腺フィードバック四分位インデックスなどの関連指標が変動したことから、甲状腺ホルモンのフィードバックメカニズムの感受性に影響があると見られています。甲状腺が甲状腺刺激ホルモンに効果的に反応できる能力にビタミンD値が密接に関わっていることを、この研究結果は示唆しています(89,90)。
- 相互作用のメカニズム: ビタミンDは、甲状腺細胞にあるビタミンD受容体に結合することにより、甲状腺の機能に直接影響を及ぼすと思われます。この結合によって、甲状腺刺激ホルモン受容体の活性が抑えられて甲状腺ホルモン産生の刺激が低下すると考えることもできます。また、ビタミンDは、チロキシン(T4)をそれより活性の高いトリヨードチロニン(T3)に変換する上で欠かせない脱ヨード酵素の調節にも関わっています。この変換は、甲状腺ホルモンの数値と機能を正常に維持する上で不可欠です(85,89,91)。
- ビタミンD欠乏と甲状腺機能障害: ビタミンD欠乏と種々の甲状腺疾患、特に甲状腺機能低下症には、顕著な関連が見られています。甲状腺機能低下症の患者は、健常対照群と比べて有意に低い血清25-ヒドロキシビタミンD値がよく見られることが研究で実証されています。ビタミンDが欠乏すると、甲状腺の機能障害が増悪する可能性があり、ビタミンDの状態悪化と甲状腺ホルモン抵抗性悪化の連鎖につながりかねません(85,90,92)。
- 臨床での効果: 自己免疫性甲状腺疾患や甲状腺機能低下症などの疾患に対処するには、甲状腺ホルモンとビタミンDの相互作用を理解することが極めて重要です。十分なビタミンD値を保てば、甲状腺ホルモンへの感受性が向上し、甲状腺機能全体を改善できる可能性があります。一方、ビタミンDが欠乏している人がビタミンD補給を受ければ、甲状腺ホルモンの数値と感受性の改善につながる可能性があります。ただし、その正確なメカニズムの解明には、さらなる研究が必要です(84,90,91)。
4.4性ホルモン
◆エストロゲンのバランスの乱れはビタミンD抵抗性の一因となる: エストロゲンのバランスの乱れがビタミンD抵抗性に大きな影響を及ぼす可能性はあります。これは両方のホルモン(エストロゲンとビタミンD)の複雑な相互作用によるもので、特に女性ではそれが健康全体に影響します。エストロゲンにはビタミンDの代謝と受容体の発現を調節する作用があることから、エストロゲンのバランスの乱れはビタミンD抵抗性の一因となると考えることができます。特に、ホルモン障害がある女性の場合、ビタミンD欠乏に対処し、ホルモンバランスを維持することが健康全般にとって非常に重要です。その相互作用や治療法への影響について完全に理解するためには、さらなる研究が必要です。
- ビタミンDの代謝においてエストロゲンが果たす役割: ビタミンDは、エストロゲンの産生に関与している酵素(アロマターゼなど)を調節する働きがあるため、エストロゲンの合成には欠かせません。こうした酵素はアンドロゲンをエストロゲンに変換するので、体内のエストロゲン値はこの酵素の影響を受けます。研究によると、ビタミンD欠乏はアロマターゼの活性低下につながる可能性があり、そうしてエストロゲン値が低くなると、ホルモンバランスが乱れる一因となりかねません(93-95)。
- ビタミンDとホルモン調節: 逆にビタミンDも、ホルモンバランスの維持に非常に重要な役割を果たしています。アンドロゲン過剰と月経不順を特徴とする多嚢胞性卵巣症候群などの疾患がある女性にはビタミンD欠乏がよく見られるという研究結果があり、そうした場合、ビタミンD補給は、エストロゲン値に良い影響をもたらすことにより、生殖能力が改善されて月経周期が整うことがわかっています(94,95)。
- エストロゲンのバランスの乱れがもたらす影響: エストロゲン値のバランスが悪いと、月経不順、不妊症、メタボリックシンドロームのリスク増加など、様々な健康問題を生じる可能性があります。低ビタミンD値の女性には高アンドロゲン値が見られることも多く、アンドロゲン値が高いとエストロゲン関連疾患が増悪するおそれがあります(94,96)。
- ビタミンD抵抗性: ホルモンバランスの乱れ、特に、エストロゲン値に乱れがあると、ビタミンD抵抗性が生じる可能性があります。ビタミンD抵抗性は、血流中のビタミンD値が十分であっても、ビタミンDへの生体反応が不十分として現れる場合もあります。エストロゲンが体内で作用するためにはビタミンD受容体が不可欠であり、エストロゲンはビタミンD受容体の発現に影響を及ぼすことが研究でわかっています。よって、エストロゲンのバランスが乱れると、ビタミンDの有効性が損われてビタミンD抵抗性が生じると考えることができます(94,97)。
◆プロゲステロンのバランスの乱れはビタミンD抵抗性の一因となる: プロゲステロンのバランスの乱れとビタミンD抵抗性という2つの問題は相互に関連があり、女性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に大いに影響すると考えられます。プロゲステロンのバランスが乱れるとビタミンD抵抗性の一因となるおそれがあり、ビタミンD欠乏に対処することは、ホルモンバランスの回復とリプロダクティブ・ヘルスの改善にも役立つ可能性があります。関与しているメカニズムを明確にし、こうした問題を持つ女性にとって有効な治療プロトコルを確立するためには、さらなる研究が必要です。ビタミンDは、プロゲステロンを含む生殖ホルモンの合成と調節に重要な役割を果たすことが研究でわかっています。
- プロゲステロンとビタミンDの相互作用: ビタミンD欠乏はホルモンバランスの乱れにつながる可能性があり、それによって多嚢胞性卵巣症候群などの症状が悪化するおそれがあることが研究でわかっています。多嚢胞性卵巣症候群の女性はビタミンD値が低いことが多く、低ビタミン値には、インスリン抵抗性の増進や、ホルモン調節異常(アンドロゲン値の上昇、プロゲステロンの合成障害など)との関連が見られています(94,98)。
- ビタミンDは卵巣細胞におけるプロゲステロンの合成を促進することがわかっています。ただし、血清中ビタミンD値とプロゲステロン産生との直接相関は不明のままであり、これはプロゲステロン値が主に月経周期中の黄体の機能によって左右されるためです(97,98)。
- リプロダクティブ・ヘルスへの影響: 低ビタミンD値は、不妊症や月経不順など、生殖関係の様々な問題との関連が示されています。一方、十分なビタミンD値には、体外受精における胚の質の高さ、着床や妊娠の可能性の増加など、生殖関係の転帰改善との関連があるとされています(98)。
◆プロゲステロン:エストロゲン比の不均衡とビタミンD抵抗性: プロゲステロンとエストロゲンのバランスの乱れは、プロゲステロン抵抗性とエストロゲン優勢を特徴とし、エピジェネティック(後成的)な変化や遺伝子突然変異の発生、ビタミンDとエストロゲン間の複雑な調節メカニズムの阻害によって、ビタミンD抵抗性の一因となる可能性があります。
- 子宮内膜のプロゲステロン抵抗性: プロゲステロン抵抗性は、プロゲステロンに対する子宮内膜の不応を特徴とし、子宮内膜における上皮と間質の遺伝子ネットワークの調節不全につながります。月経周期ごとにプロゲステロンとエストロゲンの作用バランスが乱れると、子宮内膜での異常な変化が誘発されることから、子宮内膜症、子宮腺筋症、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜増殖症というような子宮内膜疾患の発症の一因となる可能性があります(99)。
- エピジェネティックな変化: 過剰メチル化など、エピジェネティックな変化が生じると、子宮内膜でのプロゲステロン受容体の発現量が低下する可能性があります(99)。これは、プロゲステロンへの不応につながり、子宮内膜の正常な機能を乱すことになります。
- 遺伝子突然変異: 子宮内膜症と併発することが多い子宮腺筋症では、子宮内膜上皮細胞、特にKRAS遺伝子にて体細胞変異が見られます(99)。こうした変異は、プロゲステロン受容体の発現抑制と関連があるため、プロゲステロン抵抗性の一因となる可能性があります。
- ビタミンDとエストロゲンの相互作用:
- ビタミンDには、エストロゲン合成に関わっている酵素(アロマターゼなど)の活性を調節する働きがあります(95)。こうした酵素の調節をすることで、ビタミンDは体内のエストロゲン値に間接的な影響を及ぼします。ビタミンD受容体は様々な生殖組織に存在し、ビタミンDによって活性化されると、エストロゲンを含むホルモン産生を調節する遺伝子の転写に影響を及ぼす可能性があります(95)。
- エストロゲンは、月経周期、リプロダクティブ・ヘルス、骨や心血管の健全性を調整する上で重要な役割を果たします。エストロゲン値のバランスが悪いと、こうしたプロセスに影響が及ぶおそれがあります。ビタミンDはエストロゲンと共に骨の健全性の維持を助けます(95)。
◆テストステロンの欠乏はビタミンD抵抗性の一因となる: テストステロンの欠乏とビタミンD抵抗性は、相互につながりのある問題として、最近の研究でかなり注目を集めています。
- ビタミンD欠乏とテストステロン値: ビタミンD値(特に25-ヒドロキシビタミンD値)の低さと、男性のテストステロン値の低さが相関していることを示す研究はいくつかあります。その一つ、慢性脊髄損傷の男性グループを調べた研究では、ビタミンD欠乏の場合、総テストステロン値と遊離テストステロン値が有意に低いという関連が見られており、ビタミンDとテストステロンという2つのホルモン間に独立した関連性がある可能性が示唆されています(100)。
- ビタミンD補給がもたらす影響: ビタミンD補給によるテストステロン値への効果については、まだ結論に至っていません。一部の無作為化比較試験では、ベースラインのテストステロン値が正常であった男性グループにおけるビタミンD補給後のテストステロン値に有意な上昇は見られませんでした(101)。一方、別の研究によると、欠乏症の男性グループ、特に、ビタミンDとテストステロンの両方の欠乏が多く見られる肥満のケースでは、ビタミンD補給がテストステロン値の改善に役立つ可能性があるということです(102,103)。
- 共通のメカニズム: ビタミンDとテストステロンとの関係性は、肥満や生活習慣というような共通したリスク要因の影響を受ける可能性があります。例えば、ビタミンDとテストステロンとの関係には体格指数(BMI)が介在することがわかっており、つまり、肥満の場合はテストステロン産生に対するビタミンDの直接的な効果がわかりにくい可能性があります(102)。また、ビタミンD受容体は、テストステロンの産生に関与しているライディッヒ細胞に存在することから、テストステロン合成の調節においてビタミンDが何らかの役割を果たしている可能性もあります(101)。
5.ビタミンD抵抗性を改善するその他の要因
5.1低炭水化物ケトン食によるビタミンD抵抗性の改善
最近の研究で、低炭水化物食、特にケトン食(ケトジェニックダイエット)にはビタミンD代謝とビタミンD抵抗性を改善する可能性があることが示されています。
◆低炭水化物食によるビタミンD値への効果
- ビタミンD値の上昇: 炭水化物を少なく、脂肪を多く摂るケトン食は、血中ビタミンD値の上昇をもたらすことが多いことが研究によって示されています。こうした効果の要因として、脂肪代謝の変化、体重の減少、ケトン食の実践に伴うホルモン環境の変化など、いくつかのメカニズムが考えられます(32,33)。
- 他の規定食との比較: 低炭水化物高脂肪食(LCHF食)と伝統食を比較した研究で、LCHF食を実践していたグループのほうが、ビタミンDの状態を示す主要マーカーである血漿25-ヒドロキシコレカルシフェロール(25(OH)D)値が有意に高いという結果が見られています。具体的には、東欧の伝統食を守っていたグループの平均25(OH)D値が22.6 ng/mLであったのに対し、LCHF食を実践していたグループではそれが34.9 ng/mLとなっていました(33)。
- 肥満の成人56人を調べた研究によると、超低カロリーケトン食(VLCKD)を指示された被験者グループでは、血清25(OH)D値が12カ月で18.4±5.9 ng/mLから29.3±6.8 ng/mLに至るという有意な上昇が見られた一方、低カロリーの標準的な地中海食を実践したグループでは有意な変化は見られませんでした (104)。
- 超低カロリーケトン食を実践していたグループでは、減少した体重1 kg当たりのビタミンD値増加幅が0.39ng/mLであったのに対し、標準食を摂っていたグループではこの増加幅は0.13ng/mLに過ぎませんでした(104)。
- ケトン食がビタミンD代謝に変化をもたらす要因として、多量栄養素(炭水化物・脂質・たんぱく質)の摂取量の変化、他の脂溶性ビタミンの状態、体重の減少、ホルモンの変化、腸内細菌叢への影響など、いくつかのメカニズムが考えられます(32)。
- 作用のメカニズム: 低炭水化物食がビタミンDの状態を高める要因となり得るメカニズムにはケトン体の産生が含まれ、ケトン体がビタミンDなど脂溶性ビタミンの代謝に影響を及ぼすと考えることもできます。また、ケトン食に伴う体重減少によって脂肪量が低下している可能性もあります。脂肪量とビタミンD値は逆相関の関係にあります(32,33)。
- インスリン感受性: 低炭水化物食はインスリン感受性を改善することもわかっており、インスリン抵抗性のある人にとってこの情報は有益です。インスリン感受性が改善されると、体内でのビタミンDの代謝と利用度がさらに高まる可能性があります(34,105)。
- 一方、いくつか研究で、ケトン食が骨の健全性に悪影響を及ぼす可能性が示唆されており、これは、尿中のカルシウム排泄量が増えて、特に子どもの場合は骨塩量が低下するおそれがあるためです(106)。長期的な影響を調べる研究がもっと必要です。
5.2断続的断食によるビタミンD抵抗性の改善
様々な健康障害がある人は特に、断続的な断食や長時間の断食をするとビタミンD値とビタミンD代謝が改善される可能性があることが最近の研究で示されています。
◆長時間の断食によるビタミンD値への効果: 断続的断食、長時間断食のどちらも、ビタミンD値を向上させる見込みがあり、ビタミンD抵抗性ならびに関連する健康障害に対処する上でこれが有益な戦略として役立つ可能性があります。
- 研究結果: 52人の被験者を含む無作為化比較試験で、医師の管理のもと断食療法を10日間受けたグループでは、通常の食事をしたグループと比較して、ビタミンD値に有意な増加が見られました。この断食をしたグループでは、ビタミンD値の顕著な増加(p = 0.003)とともに、活力や生活の質を示す指標の改善も認められました(107)。
- 作用のメカニズム: 断食はビタミンDの代謝に刺激をもたらすようです。別の研究では、8日間の断食療法を受けた被験者グループにて、特定のビタミンD代謝物の有意な増加が見られており、ビタミンDを効果的に利用できる体の能力が断食によって高まる可能性が示唆されています(108)。
- 健康転帰との相関: 断食がビタミンD値に及ぼすプラスの影響は、特に代謝の健全性に関わるものです。2型糖尿病のような疾患の場合、ビタミンDの状態の改善には転帰の改善との関連が見られており、断食療法によってインスリン感受性が高くなって炎症が軽減される可能性もあります(109)。
- ビタミンD抵抗性に対する効果: ビタミンD抵抗性には肥満や代謝障害との関連が見られることが多く、上記の研究結果は、断食療法がビタミンD抵抗性に対処する潜在的な治療法となる可能性を示唆しています。断食療法は、ビタミンD値を高めることにより、免疫機能障害や代謝障害など、ビタミンD欠乏に伴ういくつかの健康問題の軽減に役立つ可能性があります(107,109)。
5.3近赤外線・フォトバイオモジュレーション療法
最近の研究によると、近赤外線(NIR)・フォトバイオモジュレーション療法(PBMT)は、ビタミンD合成を促進し慢性疾患要因を抑制するメカニズムを介して、ビタミンD抵抗性の改善ならびに全般的な健康効果に重要な役割を果たす可能性があります。
- ビタミンDの合成: 近赤外光への曝露は、皮膚でのビタミンD合成の増加と関連付けられています。研究によると、赤色光と近赤外光は、紫外線に当たったときにビタミンDを生成する皮膚の能力を高める可能性があり、他の方法ではビタミンDの効果に耐性を示すおそれがある人は、この方法でビタミンDの状態を改善できる可能性があります(110,111)。
- 健康転帰: フォトバイオモジュレーション療法は様々な健康障害の改善に有望であることがわかっています。日光曝露に伴う効果は、ビタミンDの生成という域を越えて、赤色光や近赤外光を介して得られる他の生理学的効果にまで及ぶと考えられます。その例として、フォトバイオモジュレーション療法には、慢性疾患の重大な要因である酸化ストレスと炎症の軽減との関連が見られています(112,113)。
- 臨床的エビデンス: 従来の考え方ではビタミンD補給に重点が置かれていましたが、近赤外線・フォトバイオモジュレーション療法による効果が、日光曝露に起因する健康効果の説明となり得ることが、新たなエビデンスから示唆されています。慢性疾患の治療におけるフォトバイオモジュレーション療法の有効性を調べる無作為化比較試験が現在実施されており、ビタミンD補給による単独療法から、もっと広い意味での光線療法へと重点が移っていることがわかります(113,114)。
- 皮膚の健全性: フォトバイオモジュレーション療法は皮膚の健康維持に役立つ可能性もあります。この療法は表皮肥厚を増すことにより、皮膚のビタミンD合成能力を高める可能性があるためです。こうしたプロセスは、フォトバイオモジュレーション療法を受けた後の紫外線曝露時にビタミンDの吸収力が高くなる可能性があることを示唆するものであり、ビタミンD抵抗性におけるその役割の考察の裏付けともなります(111)。
5.4メチレンブルーとビタミンD抵抗性
- メチレンブルーは、特にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)などによるウイルス感染症において、ビタミンD抵抗性の改善に役立つ可能性があることが研究で示されています。
- 作用のメカニズム: メチレンブルーの研究で、それが様々な細胞経路にもたらす効果が調べられています。ヒトサイトメガロウイルスについては、ビタミンD受容体の転写調節に影響を及ぼすことがわかっています。ビタミンD受容体は、体内でビタミンDの効果を取り次ぐために欠かせないものです。具体的には、ヒトサイトメガロウイルスに感染すると転写抑制因子Snail(スネイル)の調節不全が生じる可能性があり、それによってビタミンD受容体の機能が侵されることにより、ビタミンD抵抗性の一因となります。このことは、ウイルス感染時にビタミンD抵抗性をもたらすいくつかのメカニズムの抑制にメチレンブルーが役立つ可能性を示唆しています(115,116)。
- 酸化ストレスと炎症: ビタミンDは酸化ストレスや炎症を防ぐことがわかっていますが、こうした酸化ストレスや炎症は、ウイルス感染時に増悪することがよくあります。メチレンブルーの抗酸化特性によってビタミンDの効果が補完されることにより、酸化ストレスと炎症に対する細胞反応が改善されると考えることもできます(116,117)。
- 臨床での効果: 特に、ビタミンD抵抗性を誘発する感染症の患者について、メチレンブルーとビタミンDの併用による効果を臨床現場でさらに詳しく調べることも可能と思われます。この2つを併用すれば、ウイルス感染症を含む様々な疾患に対するビタミンDの予防効果に不可欠なビタミンD受容体経路の機能が回復することにより治療成果が高まる可能性があります(115,116)。
5.5幹細胞
ビタミンDと併せて幹細胞を投与する治療法は、酸化ストレスに対処し、分化を促進し、免疫反応を調節することにより、特に代謝性や炎症性の疾患がある場合、ビタミンD抵抗性を改善する有望な結果が得られています。
◆幹細胞とビタミンDによる効果
- 糖尿病に対する幹細胞・ビタミンD併用療法: 間葉系幹細胞(MSC)とビタミンDを併用した場合に、糖尿病の改善に有望な効果が見られています。幹細胞とビタミンDの併用では、骨芽細胞分化、免疫調節、消炎、オッセオインテグレーション(インプラント体と骨の結合)など、糖尿病の様々な側面の改善において相乗効果が見られています。糖尿病治療におけるこの併用療法の有効性は動物実験で実証されています。
≪骨芽細胞分化に対する相乗効果≫
- メトホルミンとビタミンD3を併用した場合、高グルコース条件下でいずれか一方を単独投与した場合よりも、ヒト脂肪組織由来の間葉系幹細胞の骨芽細胞分化がより効果的に促進されるという研究結果が得られています(118)。
- ビタミンD3によって、ヒト骨髄の間葉系幹細胞の増殖、多能性マーカーの発現ならびに骨形成が刺激され、その一端をSIRT1シグナル伝達が担っていました(118)。
≪免疫調節効果と抗炎症効果≫
- 間葉系幹細胞の注入とビタミンD補給の併用により免疫調節作用がもたらされる可能性があり、その場合、1型糖尿病における残存β細胞の維持時間が長くなることも考えられます(119)。
- 十分なビタミンD値を保つことにより、残存β細胞が保護されて免疫調節効果が得られる可能性があります(120)。
- ビタミンD受容体の活性化は、遺伝子の抗炎症機能を誘発し、ストレス下で細胞が生き延びる助けとなる可能性があります(121)。
≪インプラントのオッセオインテグレーションの改善≫
- 糖尿病のラットの実験では、ビタミンD3とインスリンの併用療法により、チタン製インプラントと骨の結合(オッセイオインテグレーション)が促進されました(122)。
- 骨芽細胞分化: ビタミンDは間葉系幹細胞の骨芽細胞分化を促進することがわかっています。研究では、細胞の接着と分化に関わっている主要なインテグリンの発現がビタミンDによって促進されることが実証されています。インテグリンは、間葉系幹細胞が骨芽細胞系に分化する上で不可欠なものです。こうした効果は骨の再生にとって極めて重要であり、ビタミンD抵抗性が存在する条件下で役立つ可能性があります(123,124)。
- 免疫調節: ビタミンDは免疫細胞の機能にも影響を及ぼし、移植片対宿主疾患(GvHD)のような場合にはこれが重要となります。ビタミンD補給は、移植片対宿主疾患におけるステロイド耐性の克服に役立つ可能性があります。これは、ビタミンD補給によって治療の免疫抑制効果が高まるためであり、炎症性サイトカインを調整する作用が働いている可能性もあります(125)。
結論
ビタミンD抵抗性は複雑な疾患で、遺伝的要因、生理学的要因、生活要因が組み合わさって生じることがあります。こうした要因に含まれるものとして、質の悪い食事習慣(炭水化物の多い食事、オメガ6脂肪酸を多く含む種子油、超加工食品の摂取など)、睡眠不足、運動不足、日光曝露不足、特定の処方薬、重金属や化学的毒素への曝露、ビタミンや微量栄養素の欠乏、ホルモンバランスの乱れ、慢性感染症などがあります。ビタミンD抵抗性を克服し、健康にとって最適なビタミンDの状態を確保するためには、上記のような相互につながっている要因を把握し、それに対処することが非常に重要です。
ビタミンD抵抗性は、遺伝性であれ後天性であれ、無数の要因が影響しています。本論文では、ビタミンDと他の必須栄養素間での複雑な相互作用を考慮に入れた全人的(ホリスティック)アプローチの重要性を強調しています。種々のビタミン、ミネラル、栄養素間の相乗効果に注目したホールセルニュートリション(全細胞のための栄養摂取)というコンセプトは、ビタミンD抵抗性に対処する上で重要であり、ビタミンD抵抗性の軽減に役立つ可能性があります。統合的オーソモレキュラー療法は、正しい栄養バランスによって健康状態を最適化することの他に、健康に良い食事などの生活習慣を組み込み、健康的なホルモンバランスを保つことにも重点を置いており、ビタミンD抵抗性に対する有望な対処法となります。包括的かつ統合的なアプローチを用いれば、体がビタミンDを効果的に利用できる能力が高まり、健康転帰の改善につながる可能性があります。
本論文にて考察したビタミンD抵抗性の種々の原因は、他の多くの慢性的健康障害の主要な誘因ともなっています。ビタミンD抵抗性は、根底にあるこうした問題が健康被害をもたらす上で作用するメカニズムの一つにすぎません。最適な健康状態を実現するためには、中間にあるメカニズムや臨床症状に加えて、こうした根本原因の認識、特定、対処を含む包括的なアプローチが必要です。
統合的オーソモレキュラー療法には、最適な栄養摂取のみでなく、生活習慣の改善、解毒、ホルモンバランスの改善、ならびに幹細胞移植などの生物学的療法を含む先進療法といった本質的な介入も含めるべきです。
我々はこうした全人的(ホリスティック)アプローチを用いて統合的オーソモレキュラー療法プロトコルを開発し(126)、広範囲に及ぶ疾患に対処して成功しています。このプロトコルには、定期的な検査とビタミンD補給の他に健康的な生活習慣の実践も含まれ、炭水化物・オメガ6系の種子油・超加工食品をあまり摂らないバランスの取れた食事、断続的断食、運動、日光曝露、ならびに良質の睡眠を重視しています。また、最適な栄養摂取、ホルモンバランスの改善、解毒、他の根本原因の是正を優先するとともに、近赤外線・フォトバイオモジュレーション療法、メチレンブルー、幹細胞移植などの先進療法も優先的に適用しています。このアプローチによってこれまでに、骨粗鬆症、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、2型糖尿病(T2DM)、ガン、自己免疫疾患、気分障害、精神疾患を含む慢性疾患の大幅な改善が観察されており、完全な好転が見られたケースも多くあります。