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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

統合失調症は慢性脳炎である-だからナイアシンで治す

目次

はじめに

ほとんどの慢性疾患は、ビタミン、ミネラル、栄養素などの天然作用物質の1つ以上が慢性的に欠乏していることが原因で最終的に引き起こされ持続するというのがオーソモレキュラー医学の基本的な考え方です。その欠乏状態を改善することができれば疾患は好転します。逆に、欠乏度が増すほど、また、体内でその欠乏状態が長く続くほど、疾患は進行し治りにくくなります。いくつかの栄養サプリメントの臨床効果は用量を増やすほど高くなるという事実を、一般人だけでなく多くの医療従事者も把握していないことが多いのです。その場合の用量とは、米国科学アカデミーによって設置された「食品栄養委員会」が広めた「推奨一日摂取量(RDA)」を大幅に超えることもあります。1997年以降は、RDAとほぼ同じ情報を表すものとして「食事摂取基準(DRI)」という用語が使われています。DRIの推奨値には以前のRDAからの大幅な逸脱は見られていません[1]

少しの摂り過ぎで急激に毒性を生じかねない栄養素もわずかにありますが(カルシウムや銅、鉄)、多くの栄養素は、ほとんどどんな用量で摂っても毒性を生じることはまずありません[2] 。一般にビタミン剤の用量はいくら引き上げても臨床毒性には至りにくい一方、ミネラルの栄養剤はほとんどどれも、すぐ過剰摂取の域に至り様々な形で毒性を呈する可能性があります。ここでいう「毒性」とは、サプリメント摂取者が限定的な生理学的損傷を被ることをいい、時折見られる副作用を指すものはありません。副作用には、摂取量が多すぎて効率良く吸収されず結腸にたまってしまった結果、胃が敏感になる(ナイアシンの副作用)、浸透圧性の下痢をする(ビタミンCやマグネシウムの副作用)といったものがあります。

毒性が生じないか心配してナイアシン、ビタミンC、マグネシウムといったサプリメントの用量を過剰に抑えると、最適量での摂取で得られる素晴らしい効果が得られなくなります。

ビタミンCとマグネシウムの補給

ビタミンC

ビタミンCは、知られているすべての栄養サプリメントの中で最も安全なものです。実際、ビタミンCについては、それを超えると確実に毒性が生じるという用量が定められたことは一度もありません。ビタミンCは、全細胞の生理機能が伝わる土台となる分子であり、体の健康機能は、ビタミンCが細胞の中にも外にも大量にある状態に依存しているからです。間違いなく、ビタミンCは最も安全に摂取できる作用物質です。ごく小さい副作用を生じる可能性がある人も稀にいますが、それを、何らかの細胞損傷毒性が生じたと錯覚してはなりません。対照的に、水の摂り過ぎは有毒であり、死に至る可能性さえあります[3-5]

ビタミンCのRDAは、成人や年齢の高い子どもの場合1日45~90 mgとされていますが、多くの人は、グラム単位での定期的なサプリメント摂取でその約100倍摂れば、はるかに高い総合的な健康状態を維持することができます。また、様々な感染症や疾患の治療の目的でRDAの1,000もの量のビタミンCを点滴投与する療法も世界中で頻繁に行われており、卓越した効果と比類のない安全性が確認されています [6-8]

マグネシウム

マグネシウムは、すべてのミネラルがそうであるように、摂取量を無理に上げると有毒なレベルに至る可能性があります。しかし、マグネシウムの経口摂取で毒性が生じる可能性はほとんどありません。極めて大量に摂った場合、吸収されなかったマグネシウムが結腸に達して確実に浸透圧性の下痢を引き起こすからです。点滴で投与した場合は、マグネシウムの充足によって、最高レベルの血圧でも確実に低血圧のレベルまで下がります。一部の手術では、十分なマグネシウムを注入して意図的に血圧を正常値より低くすることにより、止血を助け、術野を過度の出血から守っています [9-11]

それほどの高用量点滴は入院環境でしか行うべきではありません。しかし、数グラムのマグネシウムの追加であれば、診療所の環境でも、治療用のビタミン・ミネラル点滴バッグにマグネシウムを加える方法で常時可能と思われ、1時間ほどで安全に注入できます。とくに、マグネシウムをあまり多く経口摂取できない患者の場合、低マグネシウム値の回復には、実際、点滴による適切なマグネシウム投与が最善策となります[12,13]。腎機能が低下している場合には、臨床医が注意を払い用量を調節する必要があります。

マグネシウムの場合も、ビタミンCと同じく(ただしそれほど用量の飛躍はありませんが)、浸透圧性の下痢が生じないかぎり毎日数グラムの経口補給が可能です。マグネシウムのRDAは1日300~400 mgほどで、ほとんどの成人は、その5倍以上摂っていないと重度のマグネシウム欠乏を防ぐことができません。なお、経口補給していても最適なマグネシウム状態に至る可能性がある人はほとんどいません。どちらかと言えば、実際的な目標はマグネシウムの欠乏を最小限に抑えることです。そうは言っても、重度のマグネシウム欠乏はいくつかの疾患を引き起こし、あらゆる疾患の悪化の原因となるため、体が容易に耐えられるだけ多くのマグネシウム補給をすることが得策であることに変わりありません[14]

13の必須ビタミン(ビタミンA、C、D、E、K、B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12)のうち11のビタミンに、摂取量や血中値が高いほど全死因死亡率が低くなるという関連が見られています[15-23]。ビオチン(ビタミンB7)とパントテン酸(ビタミンB5)については、こうした関連を明確に示した研究結果は見つかっていません。ほとんどの場合、こうした研究で調べたビタミン摂取量はRDAやDRIの範囲内のものしかなく、比較的少量の摂取でも健康維持に重要な役割を果たしていることを立証しているに過ぎません。ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEについては、あまり用量を増やし過ぎると有毒作用が見られる可能性がありますが、それ以外のビタミンはRDAやDRIを大幅に超えた量を摂っても、健康状態と血液検査結果の改善しかもたらしません。

ナイアシン:名称と生理機能

ナイアシンとその誘導体に関する文献をより分ける際、すぐ混乱が生じることもあります。ナイアシンはビタミンB3のことであり、ニコチン酸としても知られています。ナイアシン、ビタミンB3、ニコチン酸という用語は化学的に同一の物質を示す同義語であり、完全に置き換え可能です。文献では稀に、完全を期すためナイアシンを「ビタミンPP」と呼ぶこともあります。PPは「ペラグラを予防する(pellagra-preventive)」という意味で、体内での重度のナイアシン欠乏によって生じる疾患がペラグラです[24]

ナイアシンには「ビタマー」がいくつかあります。ビタマーとは、化学的に同一でないにもかかわらずにビタミンと同じ特定の機能を果たす誘導体または関連化学物質のことです。ナイアシンの誘導体でビタマーと言えるものには、ナイアシンアミド(ニコチンアミドやニコチン酸アミドとしても知られる)、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチドなどがあります。ニコチンアミドをナイアシンアミドと呼ぶと、ナイアシンとそのビタマーに(実際にはない)ニコチンのような特性があると一般人が感じる可能性は低くなります。上記の物質はどれも、体中でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の生合成を促進することから、NADができる基本的な源となります[25,26]

電子伝達系には4つの段階があり、その最初の段階で最適な電子供給を行うには大量のNADが不可欠です。電子伝達系はあらゆる細胞のミトコンドリア内膜に沿って位置し、体内でのすべてのATP(アデノシン三リン酸)の産生を担っています。ATPは体内で最も重要なエネルギー供給分子です。ATPの産生に障害があると、影響を受けるすべての組織と器官の健康機能が低下することになります。電子伝達系の最初の段階で十分なNADがないと、どうしても十分なATPを産生することができません。

ナイアシンとそのビタマーの最も重要な機能は、細胞内でのATP合成のためにNADの生成を最適化することです。

利用できるNADの欠乏が進むと、体中でさらに顕著な細胞機能の低下が生じます。最適な健康状態を保つためには、細胞内のATPの量を最大限に高めることが最も重要です[27]。人間に限らず動物や昆虫を含むあらゆる生体細胞において、NAD量の低下は老化の兆候として認められています[28-34]

ナイアシンのサプリメント

体内でのNAD生成を直接促進するナイアシンサプリメントには下記の形態のものがあります:

  • ナイアシン
  • ナイアシンアミド
  • ニコチンアミド
  • ニコチンアミドモノヌクレオチド
  • イノシトールヘキサニアシネート
  • イノシトールヘキサニコチネート

ナイアシンは、そのビタマーにはない重要な特性を別に持っています。1955年という早い時期からの研究報告で、ナイアシンは、アテローム性動脈硬化を促進する異常な脂質代謝を抑えることが立証されています[35-37]。ナイアシンはトリグリセリド値を下げ、リポタンパク質でもVLDLとLDLは低下させますが、「善玉」リポタンパク質のHDLは増やします[38]

体に十分な耐性があるなら、上記のうちサプリメントの形態として最も良いのはナイアシンです。脂質にも体内のNAD量にも良い影響があるからです。費用も他より安く済みます。その一方で、ナイアシンはサプリメント摂取者の多くに、温かいまたは熱い感覚の紅潮作用(フラッシング)を生じます。多くの人は、この紅潮作用が最小限で済む、もしくは数回の摂取で消えるのですが、許容不能な人もいます。上記のうちナイアシン以外のサプリメント形態は、主に「フラッシュフリー(紅潮が生じないもの)」であり、ほとんど誰でも容易に摂取が可能です。だだ、単純なナイアシンなら得られる脂質への効果が、非フラッシュ型にはないという欠点があります。

ナイアシンとそのビタマーはすべて、全身におけるATP産生に深い影響を与えることは前述のとおりです。ただ、ナイアシンのRDAもDRIも驚くほど小さな値のため、それをはるかに超えた用量の重要性と効果について、健康を求める人に誤った情報を信じ込ませることになります。他の数多くの強力なオーソモレキュラー療法でも同様の問題が見られます。エネルギーを維持する最適なナイアシン用量は、RDAやDRIといった公的な推奨値の200~1,000倍に達する可能性もあります。ごくわずかな人に見られる吐き気以外、副作用は稀であると断言できます[39]。きわめて高用量でのナイアシン摂取と肝臓毒性との関連付けも行われており、これは有意な肝酵素上昇が見られたためです。しかし、サプリメントの摂取をやめなくても通常は解消する軽い酵素上昇は珍しくありません。こうした酵素上昇は、炎症性の損傷ではなく、肝細胞における代謝活動の一時的な増加の表れと思われます[40]

毒素が多く存在し酸化が促進されやすい現在の生活環境で、ほとんどの人に欠けているのは、ナイアシン補給によって得られる抗酸化効果と、それによるNAD値の維持です。誰もが、少なくともナイアシンのサプリメントをいくらか摂るべきです。たとえ最小限の摂取量でもNADの生成効果は得られます。そうした効果が得られる食事療法は実際のところ存在しません。

ナイアシン、健康、統合失調症

体内でのATP生成を最適化するというのは極めて望ましい目標です。現代の多くの臨床医は、慢性疲労の患者について、「ミトコンドリア機能障害」または「ミトコンドリア疲労」があると考えています。そうした患者にはATP産生の低下が一様に見られますが、産生低下の理由は患者によって異なる可能性があります[41]。完全に解消することが通常できない遺伝的欠陥がある人の場合を除いて、ATPの産生増加は、疲労とその関連症状の解消をもたらす可能性だけでなく、機能不全の代謝経路に必要なエネルギーを注入することによってATP産生低下のそもそもの原因である生化学的欠陥の完全な解消に至る可能性もあります。これはまさに細胞が治癒されるということです。ナイアシン補給は、健康的なNAD値を回復(それによってATP産生を増加)することにより、ミトコンドリア機能障害患者に筋力の大幅な改善をもたらすことがわかっています[42]

ミトコンドリア内だけでなく細胞質中でのこうした機能障害はすべて、正常な還元生体分子の数に比べて不活化された酸化生体分子の数が増えたことに起因しているのです。この状態はシンプルに「酸化ストレスの増加」と呼ばれてきました。ATPの産生が増えれば、あらゆる病態の改善が期待できます。ATP量が少ないことによる筋肉疲労など、病態によってはさらに劇的な反応が期待できます。心不全を生じた心筋は、ATPが著しく不足した組織の典型的な例であり、ATP産生を十分に増やして動かそうとしても反応できなくなります[43]

うっ血性心筋症ならびに肥大型心筋症の心筋はATP値もNAD値も有意に低い状態であることが、心内膜心筋生検によって実証されています[44]。心筋は正常であれば、体の中でNAD値が最も高い場所となります[45]。うっ血性心筋症と肥大型心筋症の両方においてエネルギーの代謝障害が確認されています[46]。また、様々な研究におけるNAD値の増加は、アテローム性動脈硬化症だけでなく、虚血性心筋症、肥大型心筋症、うっ血性心筋症を含む様々な形の心不全に改善をもたらすこともわかっています[47,48]。動物実験では、ナイアシンによって心筋梗塞時の損傷が軽減されることもわかっています[49]。動物ならびに人間を対象とした研究では、ナイアシンアミドが高血圧の低下ならびに心臓死亡率の低下をもたらす可能性があることがわかっています[50,51]。心不全のマウスモデルを使った研究では、ナイアシンアミドの投与によってNAD値を正常化し生存率を上げることができました[52]

ナイアシンのビタマーを人に補給すると血中NAD値が劇的に増えることははっきりわかっています[53]。また、NADを増やす作用物質は、ATP産生を強く助けることから、老化防止と全体的な健康維持のどちらにも役立つものとして評価が高まっています[54-59]。極めて進行度が高く恐ろしい疾患である敗血症の動物研究では、ナイアシンのビタマーが、他の方法では見られなかった生存率の改善ならびに肺と心臓の損傷予防をもたらすことがわかっています[60]

NADとATPの減少は、ガンにつながる初期異常であると示している研究がいくつかあります[61-63]。人を対象としたある研究では、皮膚ガンの新規発生を減らす上でナイアシンアミド補給が有効であることがわかりました[64]。ナイアシン値がきわめて低い場合、ペラグラ関連の皮膚炎症(皮膚炎)が見られるという研究結果もあります[65]。ナイアシンの摂取量増加と、死因死亡率低下との関連も見られており、これは、体のあらゆる細胞でナイアシンが重要であることを示しています[66,67]

グラム単位の1日用量でのナイアシンアミド摂取による臨床的効果については、ATPを作るのに必要なNADが、疾患で影響を受けた組織や器官でどれほど欠乏しているかによって異なります。心不全の場合、NADの産生が増えても必ず良くなるとはかぎりませんが、NADの状態が改善されれば劇的に反応することも多いでしょう。うっ血性心筋症と心拍出量の低下が見られる患者で、コエンザイムQ10(CoQ10)を十分な用量で摂取した結果、心臓移植をしなくて済んだ人はかなり多くいます。CoQ10は、ミトコンドリア中の電子伝達系を介してATP産生を増やす能力があるもう一つの作用物質です。こうした患者の多くに、駆出率の劇的な上昇、全死因死亡率の低下ならびに運動能力の改善が見られています[68-74]。ナイアシンアミドと同じようにCoQ10にも、駆出率が保たれている心不全(拡張機能障害を伴う肥大型心筋症)の患者の改善効果があります[75,76]

ナイアシンアミドはアセチル-CoAの生成を促進することもわかっています。その結果、CoQ10の生合成が促進されます。

つまり、ナイアシンアミド補給は、NADとCoQ10の両方の生成に必要な基質をもたらす可能性があり、ATPを産生する電子伝達系の4つの段階のうち2つの段階を直接促進する働きがあると考えることができます[77,78]

心筋と同じく、脳と中枢神経系も、体の他の部分と比べ、きわめて高いATP量を維持しないと正常に機能しません。そのため、ATPを産生するための構成要素が体内に十分にないと、他の疾患より顕著に神経系疾患や精神疾患として現れるほうが多くなります。多くの研究で、ナイアシンアミドが中枢神経系の発達、成長、維持に不可欠であることはわかっています[79-81]。また、ナイアシンアミドは血液脳関門を両方向に容易に通過できることがわかっており、ナイアシンアミド補給が中枢神経系の様々な疾患に対するシンプルで有効な治療法となることが裏付けられています[82]。ナイアシンアミドの経口補給についても、吸収率がきわめて高いことがわかっています[83]

動物実験の結果によれば、ナイアシンアミドは、虚血(血液供給の減少)によって引き起こされる脳や中枢神経系の損傷から身を守ります。神経細胞死を減らし、また、影響を受けた感覚機能や運動機能の回復力を高めます[84-87]

ナイアシンをはじめとするNAD生成作用物質を用いてNADの生成を最適化すれば、感染症の予防と解消に有意な効果が見られる可能性があります。敗血症は、ナイアシン値を高めれば回復が後押しされます。COVIDについても、細胞のATP量を最適化する助けをする作用物質により、解消が早まることがわかっています[88-91]。ナイアシンアミド療法によって、COVID関連の急性腎障害の転帰改善も見られています[92]。また、ナイアシンアミドは、動物モデルにて炎症誘発性の腎不全を軽減することがわかっています[94]。ラットの実験では、パラコート(毒性の強い除草剤)の炎症促進性毒性に対する保護効果も見られています [94]

重度のナイアシン欠乏は、ペラグラとして知られる疾患をもたらします。この症候群は、せん妄、皮膚炎、下痢の3つを特徴とします。この3症状はもっと広義に、神経認知症状、皮膚症状、胃腸症状と呼ぶほうが正確です。この症状パターンにかなりの多様性が見られる場合があるのは、ナイアシン欠乏の原因となった環境が各患者において他にも様々な栄養素や微量栄養素の重大な欠乏をもたらしている可能性があるためです[95-97]。とは言え、バランスの取れた食事をすることで微量栄養素を補うとともに、体内のナイアシン値を完全に回復させれば、中枢神経系に関わる症状を含め、ペラグラの各症状が解消されることは確実です。

重度のナイアシン欠乏症患者には必ず神経認知症状があり、その症状は臨床的にきわめて顕著に現れることもあります。アルツハイマー病とパーキンソン病はどちらも、影響を受けた組織のNAD量が極めて低い状態を一般的に伴うため、ナイアシンを多く摂ればその症状のいくつかを軽減できる可能性があります[98]。重度のナイアシン欠乏がある患者には他の中枢神経系症状が見られることもあり、これには、見当識障害、記憶障害、精神錯乱、認知症、睡眠不足、さらには明らかな精神病も含まれます[99]。注目すべきこととして、ナイアシンを含む食品を多く摂取している人は統計上のパーキンソン病リスクが低くなっています[100,101]

統合失調症は極めて深刻な疾患の一つであり、患者は機能的な生活を事実上失ってその症状に耐えることに加え、多大な社会的影響を被ります[102]。慢性的な酸化ストレスの増加は、脳に慢性炎症がある状態(神経炎症)の本質的な特徴です。統合失調症患者の脳に慢性炎症があることはすでに十分立証されています[103,104]。若い人の統合失調症は、出生前の感染症暴露で、毒素つまり酸化促進物質にさらされることによって引き起こされた可能性があることを示した研究もあります[105,106]。これに整合する事実として、統合失調症の症例の多くは、毒素によって誘発される神経発達異常を伴って若いうちに発症します[107,108]

統合失調症の症状は非常に数が多く多岐にわたり、症状の中には、一人の患者において、他よりはるかに顕著な現れ方をするものもあります。文献のほとんどは、よく知られている古典的な統合失調症の症状を詳述しているだけで、脳の機能障害にのみ焦点を当てています。そうした症状には、幻覚、現実とのつながりを失う妄想、明晰な思考の困難、社会的・情動的引きこもりが含まれ、ほとんど動きのない緊張病状態に陥ることもあります。一方、脳機能障害に直接起因していない症状が見られることも多く、その認識もなされています。古典的なペラグラの症状もその一つです。ペラグラは体内での重度のナイアシン欠乏に続発する疾患で、命に関わる可能性もあります。

ペラグラでのナイアシン欠乏は、短気、集中力低下、社会的引きこもり、うつ・躁うつ病、不眠症、せん妄、幻覚、昏睡、さらには明らかな精神病といった形で現れる、脳や中枢神経系の病的状態につながる可能性があります。これを「ペラグロイド脳障害」と名付けている研究者もいます[109]。ペラグラでも妄想を伴う精神病が生じることがあり、これは統合失調症に見られる一部の症例と見分けがつきません[110]。ペラグラのこうした症状は一般的に、体内のナイアシン値を十分回復させ、それを維持すればすべて解消します[111]。精神症状にナイアシンが有効利用できることから、「可逆的な認知症」という考え方も生まれています。一般に認知症は進行性で特に高齢者の場合は性質上治らないとみなされているため、これは驚くべき表現です[112]。また、ペラグラと脳機能障害は密接な関係にあることから、「統合失調症のナイアシン反応性サブセット」という言葉も生まれています[113]

ペラグラでのナイアシン欠乏は常に脳機能障害の症状を伴い、ナイアシンを取り戻すことはそうした症状の有効な治療法となります。

ペラグラは胃腸に重大な問題や症状を引き起こします。このことは、病原体が過剰に増殖した微生物叢(マイクロバイオーム)を伴うペラグラ関連のリーキーガット(腸管漏出)が中枢神経系(ならびに体の他の場所)の疾患にもたらす影響や悪化作用について理解する上で重要です。アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、統合失調症はすべて、影響を受けた神経組織に病原体や有毒な病原体代謝産物の存在があったことが文献に明確に示されています [114-125]。ナイアシン欠乏症(ペラグラ)が微生物叢に与えるダメージは、付随する神経精神医学的な問題、ならびにこの疾患で見られる統合失調症様症状の重要な要因となります。ナイアシンの欠乏は、統合失調症患者において、脳におけるエネルギー産生の低下をもたらすだけでなく、病原体や、異常な腸内微生物叢による代謝産物に中枢神経系をさらし続けることにもなります。

統合失調症は、青年期の後期もしくは成人の早期に現れるのが一般的です[126]。しかし、もっと後に生じることもあります。細胞内の酸化ストレスが大きくなった状態を放置すると、影響を受けた細胞が早死にします。脳体積を調べた研究では、統合失調症患者の場合、灰白質ならびに脳の実際の物理的質量が減少する経時変化が、加齢で見られる劣化の速度をはるかに超えていることが確認されています[127-130]。脳の白血球としてスカベンジャーの機能を果たしているミクログリアは、統合失調症で見られる炎症において活性化します[131-133]。炎症誘発性サイトカインをはじめとする炎症マーカーの値も高くなります[134-136]。これらすべての情報から、以下のように断言することができます:

統合失調症は慢性脳炎です。

脳炎は、一般的に新規のウイルス感染に関連して急性発症する脳の炎症であり、脳と中枢神経系の至るところで広範な炎症を引き起こします。統合失調症の場合、炎症パラメーターが慢性的に高い状態であれば、進行中の炎症が統合失調症の兆候や症状を引き起こしていることがわかります。統合失調症は慢性の脳炎症、つまり慢性脳炎です[137]。意識変容、混乱、幻覚、認知障害など、急性脳炎の脳に見られる症状の多くは、統合失調症患者の慢性脳炎脳でも見られます。統合失調症のことを「精神破壊」と記述している論文もあります[138]。慢性炎症は着々と脳組織を壊していきます。発症して間もない統合失調症より何年も続いている統合失調症のほうが栄養素や薬剤の投与に反応しにくい理由はそこにもあります。統合失調症で慢性炎症が脳組織をゆっくり壊していくという状態は心筋炎の進行にも似ていて、心筋が死んでしまった患者は最終的にうっ血性心不全に至ります。積極的な治療の開始が遅れるほど、治療効果は下がるでしょう。

統合失調症の治療に一般的に使用される薬剤には重篤な副作用がよく見られることが、多くの統合失調症患者の有効な臨床的解決をさらに困難にし、さらにはその解決を損なっています。こうした副作用の多くは、その薬で治そうとしている症状の多くと見分けがつきません。たとえば、落ち着きのなさ、ブレインフォグ(頭にモヤがかかったような状態)、他者と交流したい気持ちの喪失を伴う社会的引きこもりというような症状がこれに含まれます[139]。統合失調症患者が処方薬をかなり長い期間分受け取っている場合、病状自体がいつ悪化しているのか、また、いつ薬をやめるまたはその量を減らす必要があるのか、知ることができなくなる可能性があります。実際、服薬していない統合失調症患者の臨床像でも、多岐にわたる症状が様々な組み合わせで見つかっています[140]

統合失調症患者におけるナイアシン値は常に低く、深刻な値もよく見られます。これは、細胞内のATP量が大幅に低下しているということでもあります。統合失調症は、たとえ進行した段階でも、ナイアシンやそのビタマーを(RDAやDRIにある推奨値と比較して)高い用量で摂ると完全な解消に至るが多いことはすでに実証されています。完全な臨床的解決に至らなくても、統合失調症の主要症状における大幅な改善がほぼ必ず見られます。

急性統合失調症患者30人のグループに、ナイアシンもしくはナイアシンアミドを1グラムずつ1日3回与え、これを30日間のみ続けた後、1年間追跡した試験では、ナイアシン治療グループの80%に回復が見られた一方、プラセボグループの回復率は33%でした[141]。ここでいう「回復」は、急性または慢性の統合失調症患者が以下の状態に至った場合に限っています:

  • 疾患関連の症状と兆候が完全に解消
  • 家族やコミュニティーの人々と普通に交流
  • 有給職に就業

ビタミンCは、慢性炎症を含むいかなる疾患にも使える完全な治療剤であり、これについても1日1〜10グラムといった用量で投与した例がよく見られました。体内で働く主要な抗酸化物質(抗炎症物質)としてビタミンCを常用し、統合失調症の脳炎症の解消に役立てるべきです[142]。とくに、発症して間もない統合失調症の場合、はるかに高い用量で摂取すれば必ず役立ち、場合によっては劇的な効果が見られるでしょう。

急性の統合失調症は自然に解消することが稀にあります。おそらく、患者の脳内で炎症を引き起こした要因(感染、毒素、自己免疫反応、微量栄養素の枯渇など)が最終的に解消された、もしくはそれほど顕著ではなくなった結果と推定されます。

ナイアシンが統合失調症患者の回復にもたらす好影響については、さらに6つの二重盲検式無作為化比較臨床試験で確認されています[143,144]。慢性度が最大級(脳の構造損傷が最大級)であった患者の多くは、ナイアシン療法を5年以上続けないと明確な効果が得られませんでした[145]。この統合失調症治療では、ナイアシンの用量を1日3回1,000 mgずつから初めて徐々に増やし、臨床反応に応じて1日4,500~18,000 mgもの量まで引き上げました。ナイアシンではなくナイアシンアミドを治療に用いた患者グループでは、吐き気や胃の過敏の問題が増えたため、1日用量が6,000 mgを超えた例はほとんどありませんでした[146-148]

Dr. Abram Hofferは、このナイアシン投与プロトコルで5,000人を超える統合失調症患者の治療を行いました。ナイアシン投与による死亡はこれまで見られていません。ナイアシンは体中でNADの量を増やす広範な効果があることは前述のとおりですが、Hofferも、ナイアシン治療を受けた患者は統合失調症に直接起因していない多くの症状に改善が見られたことに注目しています[149]。彼は、臨床実践を長年続けるうちに、オーソモレキュラー医学にもとづく包括的な統合失調症への対処法も考案しています[150]。従来の方法で治療を受けている慢性統合失調症患者の85%以上は、何らかの治療効果は得られたとしても決して解消はしないというのが現状です。少なくとも治療プログラムの一環としてナイアシンを用いないと、患者は不調や機能障害が一生続いてしまいます。

以下のことは間違いなく断言できます:

急性統合失調症はほとんどの場合、ナイアシンで良くなります。急性の統合失調症や、長期にわたる統合失調で、たとえ完全には治らなくても、実質的な臨床的改善が通例もたらされます。

先に述べたとおり、統合失調症は複数の要因によって引き起こされ悪くなる疾患であり、ペラグラと密接な関係があります。そのすべての患者において、臨床反応を最適にするためには質の高い食事、ならびにビタミンおよびミネラルといった広範な栄養素が必須です。ナイアシン治療を受けた統合失調症患者に様々な(好ましい)臨床反応が得られる理由はいくつかあります[151]なお、ナイアシンアミドを用いた単独療法によっても統合失調症の完全な解消が見られています [152]。ナイアシンは、無毒で栄養のある重要なビタミンとして、脳障害患者、ましてや統合失調症患者に使うことを決して否定すべきではありません。Dr. Hofferが言っていたように「伝統的な医学における最大の罪はどうやら、回復というものを不当な理由で見ること」です。

統合失調症患者の 脳(および体内)にNADが重度に欠乏している場合、ATPの生成が最終的な生理学的目標となりますが、ナイアシンだけでなく、リボフラビン、CoQ10、メチレンブルーもATPの生成を特異的に助けます。この4つの作用物質は、ATP生成の最適化に必要とされるミトコンドリア電子伝達系の各段階を直接促進します。ATP生成の最適化は、あらゆる疾患治癒と健康維持の直接原因となります。脳の永久的損傷が最小限で、かつ神経炎症の進行による症状の場合は、たとえ完全な治癒に至らなくても優れた臨床反応を見込める可能性があります。ナイアシン、CoQ10、リボフラビンは、乳ガン患者の抗酸化状態に役立つことがわかっている3栄養素です[153-155]。ビタミンB3はすべての人に重要ですが、最適な用量で摂取している人はほとんどいません。まさに誰にでも役立つ一方で、次のことを主張しておく必要があります:

何らかの心理的疾患や精神的疾患がある人は誰でも、ナイアシンまたはそのビタマーを1つ摂取すべきであり、自分の疾患が永続する・治療に反応しないとみなす前に、用量を最大限まで増やして摂るべきです。

現在、精神科での標準治療では、統合失調症を含むいかなる精神障害や情緒障害に対するものであれナイアシンまたはナイアシンアミドを定期的に投与する療法は行われていません。

確立された診療基準に従っていれば大抵、医師は医療過誤から十分守られますが、ここで引用されている文献や情報の多くに触れた後も統合失調症に対するナイアシン使用を故意に避けることは、たとえ判定が下されずとも明らかな医療過誤となります。

医療従事者は、称賛を受けることが滅多にありませんが、それでも、旧式の療法、現在の療法、新しい療法について科学的な情報を常に得ておく義務があります。統合失調症やほとんどの脳障害にナイアシン療法の効果があることは確かに新しい発見ではありません。ビタミン、ミネラルなどの栄養素の欠乏に対処するためのオーソモレキュラー医学的な方法を用いれば明らかな効果が得られることがわかっているその他のあらゆる疾患と同様に、医療従事者は、患者が提供する合理的なあらゆる科学情報に対し、常に心を開くべきです。そうした情報を見ることさえ拒む、または患者とそうした情報について話し合おうともしない開業医にかかっている場合は、新しい開業医を探す時期に来ています。

ナイアシンは医師に与えてもらう必要もなく、その摂取に対する絶対的な禁忌もありません。自分で摂ることができます。また、神経疾患や精神疾患のある友人や家族がいる場合、正確な診断に関係なくナイアシンは役立つことが多いことを示す情報を伝えることもできます。

まとめ

ナイアシンならびにその関連化合物には、様々な精神障害と情緒障害における精神状態の改善をもたらしてきた長い歴史があります。統合失調症に対しては、適切な用量を用いればほとんどの場合、治癒または大幅な改善をもたらすことがわかっています。こうした障害の主因として、ATPを産生する全細胞内のミトコンドリアにおける重度のNAD欠乏があります。ナイアシンの主要な役割はNADの量を増やすことであり、その結果、体内で最も重要なエネルギー供給分子である細胞内ATPの量が改善または正常化されます。統合失調症に有効である栄養素は他にも多くありますが、進行している神経炎症を抑え鎮めるためには、ビタミンCとマグネシウムの高用量摂取を常に行うべきです。

ペラグラは、重度のナイアシン欠乏が長く続くと発症することが確認されている疾患で、通常は重度の脳機能障害を伴い、統合失調症と臨床的に全く同じ症状が見られることもあります。ナイアシン投与はこうした精神病状態の完全な解消をもたらすことが多く、NADを補充して脳内のATP量を最適化することが統合失調症治療の根本となるというコンセプトはこれに支えられています。

NADが慢性的に欠乏していると、影響を受けた組織での酸化ストレスが常に大きくなります。これは、統合失調症が慢性脳炎であることを意味します。慢性脳炎とは単に、脳内で神経炎症が進行している状態を指すからです。

ナイアシン療法に対する統合失調症の臨床反応にばらつきがある主な理由は、他にいくつの栄養素の欠乏があるのか、また、それが適切に回復しているのかによって異なるためです。また、統合失調症がどのくらい長く続いているのか、不可逆的な脳損傷(脳質量の減少)がどの程度生じているのかということも、臨床効果がどれくらい得られるか判断する上で非常に重要です。

統合失調症に対するナイアシン療法は、精神科の標準治療には含まれていませんが、とくに、この恐ろしい疾患がもたらす多大な身体的・精神的・社会的影響を考えれば、ナイアシン療法を適用しないのは医療過誤としか考えられません。有毒な治療法で、比較的軽度の疾患に少ししか役立たない可能性があるものは用いないという選択は、統合失調症へのナイアシン療法には当てはまりません。そうした論法の矛先は、天然の栄養素ではなく、多くの医薬品に向けられるものです。

Abram Hoffer,MD,PhDの業績に敬意を表して

(OMNSの寄稿編集者であるDr. Thomas E Levyは、心臓専門医で弁護士でもあり、13の著書がある。連絡先は televymd@yahoo.com。彼がOMNSに寄稿した記事はすべて下記リンクから閲覧可能で、「Orthomolecular」のセクションにまとめられている:https://www.tomlevymd.com/health_ebytes.php

参考文献

https://isom-japan.org/storage/public/img/common/news/news_references_1.pdf

執筆: Thomas E. Levy, MD

OMNS(2023年10月12日)