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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

高濃度ビタミンC点滴はメタボリック症候群を防ぎNrf2を活性化する

執筆者: Nina Mikirova, PhD

(OMNS、2017年2月1日) 人間が生きていく上でビタミンCは必須である。ビタミンCを合成する能力を人間は進化の過程で失ってしまったからである。ビタミンCについては、抗酸化性があること、コラーゲンの合成に関わっていることに加え、免疫系の強化や、血中ヒスタミン濃度の顕著な低下をもたらすこと、抗ウイルス活性があることがわかっている。ビタミンCをはじめとする抗酸化物質の摂取は、高血圧症や、糖尿病の症状(糖尿病性網膜症など)を防ぐ可能性があり、また、(保護作用があると考えられている)高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールを増やす可能性や、内皮機能を強化する可能性があることも、複数の大規模な疫学的調査によって示されている。

1回に10,000 mg以上という量のビタミンCを静脈内に注入すると、血中値が、経口ビタミンC剤によって到達可能な数値の100倍にも達することがある。これくらい高濃度になると、ビタミンCは一部の種類のガン細胞に対し、細胞毒性を呈する。我々の研究室では、高濃度ビタミンC点滴(15,000 mg)が炎症とメタボリック症候群の軽減をもたらすか知りたいと考えた。この研究で肯定的な結果が見られたら、慢性炎症性疾患を患っている世界中の何百万という人々に役立つ可能性がある[1]。

メタボリック症候群

メタボリック症候群、つまり「脂肪症」は、体脂肪の慢性的な蓄積をいう。メタボリック症候群は、世界中で見られる重大な保健問題の一つであり、以下を特徴とする:
・ウエスト周りの脂肪が多い
・血中トリグリセリド値が高い
・HDLコレステロール値が低い
・空腹時血糖値が高い
・血圧が高い

こうした症状には、呼吸器疾患や循環器疾患などの慢性疾患、II型糖尿病、脂肪肝、内臓脂肪症およびガンとの関連が見られている。こうした病気はすべて、死亡率を高めるものである。

過剰な脂肪は、慢性的な軽度の炎症を伴う。こうした脂肪組織はやがて、体の他の部位に対し、炎症を加速する信号を放出するおそれがある。これが、肥満関連疾患の主な発症原因である。また、過剰な脂肪は、インスリン抵抗性や高血糖症をもたらすことがある。その他にも、アテローム性動脈硬化症や、脂質異常症(高脂血症)、高血圧、血栓、虚血性脳卒中を引き起こす可能性もある。

メタボリック症候群によって生じる酸化ストレスは、遺伝子発現にエピジェネティック(後成的)な変化を引き起こし、それがガンの発生を促すことがあることから、その酸化ストレスがガン発生の一因となる可能性も考えられる。

炎症性サイトカインによるシグナル

我々は、炎症と免疫反応に関与しているサイトカイン(メッセンジャー分子)の発現に対して高濃度ビタミンC点滴がもたらす影響を把握したいと考え、また、高濃度ビタミンC点滴が炎症の軽減およびゲノムレベルでの免疫反応の促進に役立つか判断したいと考えた。

結果として、高濃度ビタミンC点滴により、血液中のアスコルビン酸値の増加と、酸化アスコルビン酸に対する還元アスコルビン酸の比率の増加が見られた。メタボリック症候群である被験者グループの中でも、炎症値が高いグループではこの比率が低くなっており、そうしたグループは酸化ストレス値が高かったことが、その説明となり得る[2]。したがって、酸化アスコルビン酸に対する還元アスコルビン酸の比率が高いほど、治療には向いている。こうした点で、Irwin StoneはビタミンCを「ヒーリングファクター(治癒因子)」とみなしていた。

炎症スコア

我々の研究では、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの値によって定義される「炎症スコア」が、高濃度ビタミンC点滴後には低くなるという結果が見られた。高濃度ビタミンC点滴により、血球中の免疫関連遺伝子が調節されたことは明らかであり、高濃度ビタミンC点滴が炎症と酸化還元電位の調節に役立つ可能性があることを示唆している。メタボリック症候群に関連している他の炎症マーカーと抗炎症マーカーのいくつかにも改善が見られた。これは慢性疾患のリスク低減を示している。

この研究結果が非常に重要であるのは、メタボリック症候群と軽度炎症に対する高濃度ビタミンC点滴療法が「炎症スコア」の低下をもたらすことが証明されたためであり、それによって多くの種類の慢性疾患が予防できると考えられる。

Nrf2による抗酸化物質の調節

我々の研究室では、ストレス反応に関与している酵素と蛋白質に関係がある因子のうち、その一つの高濃度ビタミンC点滴後の発現について解析した[1]。

その因子とは核呼吸因子2(Nrf2)で、これは抗酸化物質と解毒分子を合成する数種類の酵素の発現を調節する転写因子の一つである[1,3]。さらにNrf2は、細胞エネルギーの生産と維持に関与している遺伝子の発現を促進するものであり、こうした遺伝子は健康と長寿に不可欠である[4]。Nrf2によるシグナル伝達は、反応性代謝物と活性酸素種(ROS)の解毒に必須である。Nrf2はまた、毒素を取り除くよう細胞を助ける。Nrf2のシグナル伝達による産物により、分子損傷に対する保護力が強くなる。我々の研究では、高濃度ビタミンC点滴後に、Nrf2および他のいくつかの重要なシグナル伝達分子に対する遺伝子コード化の上方調節が見られた[1]。高濃度ビタミンC点滴による、こうしたNrf2の活性化は、加齢性変性疾患やガンを防ぐ可能性がある。

加齢はNrf2の減少をもたらし、それによって酸化的損傷が増進する。このメカニズムは、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病をはじめとする多くの加齢性疾患や、動物実験におけるアテローム性動脈硬化に関与している[5-9]。

多くの疾患状態において、酸化ストレスや炎症ストレスが極めて大きく関与している。変性疾患と免疫疾患には、アテローム性動脈硬化、炎症性腸疾患、糖尿病、関節リウマチ、HIV・エイズ、神経障害、敗血症をはじめ、多くのものがあるが、世界中で4,500万人を超える人が罹患している。こうした疾患は、病状の現れ方はかなり異なっているが、その多くにおいて、Nrf2経路が重要な役割を果たしている。

Nrf2は、酸化ストレスを抑制することにより疾患を防ぐ能力があるため、Nrf2を活性化する治療介入をすれば、長寿や健康的老化が助長され、また、ガンの発生率が下がることになる。Nrf2を活性化する方策としては、薬剤、食品、サプリメント、運動などが考えられるが、そうした方策によって様々な疾患を予防できる可能性があることが、最近の医学研究で示されている[10]。

Nrf2の活性化は、科学的毒素を含む様々な要因によって生じる肺・腎臓・脳・肝臓・目・心臓の急性傷害を防ぐ可能性がある。また、Nrf2の活性化は、糖尿病や肥満などの慢性疾患や、いくつかの神経変性疾患の予防に役立つ可能性がある。Nrf2の活性は、アテローム性動脈硬化、肝炎および線維症(マウス実験では肥満との関連が見られている)の改善をもたらす。この活性は関節リウマチにおいても重要であることがわかっている。酸化ストレスは、関節炎における軟骨退化に大きく関与しているため、軟骨の維持と新しい軟骨の再建には、機能的なNrf2遺伝子の存在が不可欠である。

要するに、Nrf2経路の活性化は、ガンを含む多くの疾患に対する有望な抗炎症療法として、すでに広く受け入れられているのである。

結論

メタボリック症候群である被験者グループにおいて、高用量ビタミンCが炎症を防ぐ可能性があることが、我々の研究で実証された。我々の研究結果は、高濃度ビタミンC点滴療法による転写因子Nrf2の活性化により、加齢性変性疾患やガンの予防作用が誘発される可能性があることを示唆している。

(Dr. Nina Mikirovaは、カンザス州ウィチタにあるリョーダン・クリニックの研究ディレクターであり、ロシアのモスクワ大学で物理学および数学において博士号を取得している。彼女はこれまでに、生物学的反応修飾物質としての栄養素という分野で40を超える査読付き論文を発表しており、太陽放射の生物医学的影響という分野では50の論文を発表している。)


参考文献

1. Mikirova N, Scimeca RC. Intravenous high-dose ascorbic acid reduces the expression of inflammatory markers in peripheral mononuclear cells of subjects with metabolic syndrome.(高用量アスコルビン酸点滴はメタボリック症候群である被験者の末梢単核球における炎症マーカーの発現を低減) Journal of Translational Science. (2016) Volume 2(3):188-195. doi: 10.15761/JTS.1000139?https://oatext.com/pdf/JTS-2-139.pdf

2. Godala MM, Materek-Kuzmierkiewicz I, Moczulski D, et al. Lower Plasma Levels of Antioxidant Vitamins in Patients with Metabolic Syndrome: A Case Control Study.(メタボリック症候群である被験者のほうが血漿中抗酸化ビタミン値が低いという結果:症例対照研究) Adv Clin Exp Med. 2016 Jul-Aug;25(4):689-700. doi: 10.17219/acem/41049.

3. Holmstrom KM, Kostov RV, Dinkova-Kostova AT. The multifaceted role of Nrf2 in mitochondrial function.(ミトコンドリア機能におけるNrf2の多面的役割) Curr Opin Toxicol. 2016 Dec;1:80-91. doi: 10.1016/j.cotox.2016.10.002.

4. Hawkins KE, Joy S, Delhove JM, Kotiadis VN, et al. NRF2 Orchestrates the Metabolic Shift during Induced Pluripotent Stem Cell Reprogramming.(人工多能性幹細胞(iPS細胞)の再プログラム化時の代謝シフトにおけるNRF2の調和作用) Cell Rep. 2016 Mar 1;14(8):1883-91. doi: 10.1016/j.celrep.2016.02.003.

5. Pajares M, Cuadrado A, Rojo AI. Modulation of proteostasis by transcription factor NRF2 and impact in neurodegenerative diseases.(転写因子NRF2による蛋白質恒常性の調節および神経変性疾患における影響) Redox Biol. 2017 Jan 10;11:543-553. doi: 10.1016/j.redox.2017.01.006. [印刷に先行した電子出版]

6. Sun Y, Yang T, Leak RK, Chen JH, Zhang F. Preventive and protective roles of dietary Nrf2 activators against central nervous system diseases.(中枢神経系疾患に対する食事性Nrf2活性化因子の予防作用と保護作用) CNS Neurol Disord Drug Targets. 2017 Jan 2. [印刷に先行した電子出版]

7. Kowluru RA, Mishra M. Epigenetic regulation of redox signaling in diabetic retinopathy: Role of Nrf2.(糖尿病性網膜症におけるレドックスシグナル伝達のエピジェネティック(後成的)調節:Nrf2の役割) Free Radic Biol Med. 2017 Feb;103:155-164. doi: 10.1016/j.freeradbiomed.2016.12.030.

8. Prasad KN. Oxidative stress and pro-inflammatory cytokines may act as one of the signals for regulating microRNAs expression in Alzheimer’s disease.(酸化ストレスと炎症性サイトカインがアルツハイマー病においてミクロRNA発現を調節する信号の一つとして作用する可能性) Mech Ageing Dev. 2016 Dec 10. pii: S0047-6374(16)30291-3. doi: 10.1016/j.mad.2016.12.003. [印刷に先行した電子出版]

9. Handy DE, Loscalzo J. Responses to reductive stress in the cardiovascular system.(心臓血管系における還元ストレスへの反応) Free Radic Biol Med. 2016 Dec 8. pii: S0891-5849(16)31090-5. doi: 10.1016/j.freeradbiomed.2016.12.006. [印刷に先行した電子出版]

10. Jimenez-Osorio AS, Gonz lez-Reyes S, Pedraza-Chaverri J. Natural Nrf2 activators in diabetes.(糖尿病における天然のNrf2活性化因子) Clin Chim Acta. 2015 Aug 25;448:182-92. doi: 10.1016/j.cca.2015.07.009.