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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Richard Z. Cheng, M.D., Ph.D.
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会 第4代会長(2012-2023))
溝口 徹(医療法人回生會 みぞぐちクリニック 院長)
姫野 友美(医療法人社団友徳発心会 ひめのともみクリニック 院長)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

「ビタミン D: 科学的根拠に基づく健康効果と集団向けガイドラインの推奨事項」の要約

執筆:Richard Z. Cheng, M.D., Ph.D.

要旨

  • 毎日5,000 IUのビタミンD3の補給は、ほとんどの成人にとって安全であり、血清中の25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D]濃度を50~100 ng/mL (125~250 nmol/L)の範囲で達成および維持するのに効果的であると考えられており、これは多くの健康上の利点に関連しています。
  • この範囲は、ビタミン D レベルが高いほど、がん、心血管疾患、自己免疫疾患などの慢性疾患のリスクが減少するという研究によって裏付けられています。
  • 研究によると、ビタミン D は長期間にわたって1 日あたり最大 10,000 IU(250㎍)の量を摂取しても安全であり、血清濃度が100 ng/mLまでであれば重大な副作用は報告されていないことが示されています。
  • 毒性は通常、血清濃度が150 ng/mLを超えるか、1 日の摂取量が長期間にわたって40,000 IU(1,000㎍)を超える場合にのみ発生します。
  • 体重、基礎ビタミンDレベル、年齢、遺伝などの要因によって、サプリメントの効果には個人差があります。
  • 最適な摂取量を調整し、過剰摂取を避けるためには、血清中の 25(OH)D 濃度を定期的に検査することが不可欠です。
  • 日光への曝露、食事、基礎疾患などは血中ビタミン D 濃度に影響を与える可能性があるため、サプリメントを個人に合わせて選択する際には、これらを考慮する必要があります。

内分泌学会のビタミンDガイドラインは、主に骨の健康に焦点を当てており、それ以外の健康効果に関する科学的根拠を十分に考慮していない。この問題を受け、「オーソモレキュラー医学ニュースサービス(OMNS)」は国際的な専門家フォーラムを主催しました。このフォーラムでは、内分泌学会のガイドラインの限界を厳密に評価し、免疫、心臓血管の健康、がん予防、妊娠の経過などにおけるビタミンDの役割を裏付ける幅広い研究を評価しました。

このフォーラムの成果として、最新の科学的根拠に基づいた包括的なビタミンDガイドラインを提案する論文が「Nutrients」誌に発表されました。ビタミン D の広範な健康効果を反映するためにビタミン D ガイドラインを更新することの重要性と、最新の証拠に基づくより多くの人々に適切な補給を促す必要性を強調しています。以下は、この論文の簡単な要約です。

一般集団におけるビタミンDの不足や欠乏が広まっていること、また地理的な場所、年齢、体重、日光への曝露など、ビタミンDの血中濃度に影響を与える複数の要因(3)があることから、本論文では積極的な補給の必要性を強調しています。ビタミンDの高い安全性プロファイルを考慮して、私は個人的に、成人に対してビタミンD3は1日5,000 IU(125㎍)を目安に摂取し、その後の血清25(OH)D 濃度の定期的な測定を推奨します。最適レベルは50~100 ng/mLに維持する必要があります。この範囲は、多くの健康効果と関連し、適切に定期測定されていれば、重大な副作用はありません。これらの推奨は、この論文で議論された研究結果と一致しており、公衆衛生の向上のためのビタミンD補給へのより包括的なアプローチを支持しています。

「ビタミンD:科学的根拠に基づく健康効果と集団向けガイドラインの推奨事項」の要約

ビタミン D は、骨や筋肉の健康維持という従来認識されている役割をはるかに超えて、極めて重要な栄養素です。最近の研究により、ビタミン D がさまざまな生物学的プロセスや健康状態に深く関与していることが明らかになっており、特に胎児の健康、脳機能、免疫サポート、心血管の健康、がん予防、妊娠の転帰に重要な役割を果たしています。しかし、これらの多様な健康効果があるにもかかわらず、現在の公衆衛生ガイドラインは主に骨格の健康に対するビタミンDの効果に焦点を当てており、その重要な非骨格系の機能を裏付ける膨大な科学的証拠が十分に考慮されていません。

ビタミンDの幅広い健康への影響

1.腎外組織と免疫機能

ビタミンDの活性型は腎臓で生成されるが、その機能は腎外組織にも及び、遺伝子発現の調節、細胞分化・増殖・アポトーシスの制御に関与する。特に免疫調節において重要な役割を果たし、自然免疫を強化し、過剰な炎症反応を抑制します。血清25(OH)D 濃度の低レベルは、感染症や自己免疫疾患のリスク増加と関連しており、免疫力維持に不可欠です。

2.出産前および母体の健康

ビタミン D は、胎児の発育と母親の健康に不可欠です。妊娠中の適切な血清25(OH)D 濃度は、妊娠高血圧症候群(子癇前症)、妊娠糖尿病、早産のリスク低下と関連している。また、母体のビタミンD状態は胎児の脳発達、免疫系の形成、成人期の健康にも影響を及ぼすことが示唆されている。

3.脳機能と精神的健康

ビタミン D の神経保護作用は大きな注目を集めており、研究では認知機能低下、うつ病、その他の神経精神疾患のリスクを軽減する役割があることが示されています。ビタミン D が脳の健康に与える影響は、神経伝達物質の調節、酸化ストレスの軽減、シナプス可塑性の維持を通じて脳の健康をサポートすします。

4.がん予防

血清中の 25(OH)D 濃度が高いほど、乳がん、大腸がん、前立腺がんなどの特定のがんの発生率が低くなるという新たな証拠が出ています。ビタミン D の抗がん作用は、腫瘍細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導し、血管新生を減らす能力によるものです。観察研究では、ビタミン D レベルが最適な人は、欠乏している人に比べてがんのリスクが低いことが一貫して示されています。

5.心臓血管の健康

ビタミン D が心臓血管の健康に寄与していることは、ますます認識されつつあります。ビタミン D は、血圧、血管機能、炎症の調節に影響を及ぼします。ビタミン D の欠乏は、高血圧、動脈硬化、心血管イベントのリスク増加と関連付けられており、心臓の健康のために適切なレベルを維持する必要性が重要視されています。

現在のガイドラインと制限

骨中心のガイドライン
  • 政府や保健機関のガイドラインのほとんどは、ビタミン D の骨の健康における役割にのみ焦点を当てており、骨以外の部分への効果については考慮していません。これらのガイドラインは、多くの場合、いくつかの点で欠陥のあるランダム化比較試験 (RCT) に基づいています。
  • ベースラインの 25(OH)D レベルが高い:これらの研究の参加者の多くはすでに十分なビタミン D レベルを持っているため、ビタミンD補給による追加の健康効果を観察しにくいです。
  • 中程度の補給量:一般的な RCT 用量である 1 日あたり 400 ~ 800 IU(10〜20㎍) では、疾患予防に関連する血清レベルを達成するには不十分です。
  • 研究デザインの欠陥: RCT の多くは、ベースラインの 血清25(OH)D 濃度に基づく層別化が欠如していたり​​、サプリメントに対する反応の個人差が考慮されていないため、結果の解釈に制限があります。
前向きコホート研究の知見

RCT とは異なり、前向きコホート研究では、血清25(OH)D 濃度の上昇と健康状態の改善を結びつける強力な根拠を示しています。主な研究結果は次のとおりです。

1.病気や死亡リスクの低減:

  • 血清25(OH)Dレベルが30 ng/mL(75 nmol/L)以上の人は、20 ng/mL(50 nmol/L)未満の人と比較して、慢性疾患や死亡リスクが有意に低いです。

2.妊娠と出産の改善:

  • 母体のビタミンDレベルが高いほど、妊娠高血圧症候群(子癇前症)や低出生体重などの合併症リスクが低減されることが示されています。

欠乏症の蔓延

ビタミン D の健康効果が広く知られているにもかかわらず、欠乏症は依然として広く蔓延しています。

  • 米国:人口の 25% は血清中の 25(OH)D 濃度が 20 ng/mL 未満です。
  • 中央ヨーロッパ:最大 60% の人がこの基準値を下回っています。

これらの統計は、ビタミン D 不足に対処するための公衆衛生の取り組みが緊急に必要であることを浮き彫りにしています。

サプリメントの推奨

広範囲にわたる欠乏症を防ぎ、健康状態を最適化するために、本レビューでは毎日のビタミンD補給を推奨しています。

1.基本的な予防:

  • 1日2000 IU(50㎍)のビタミンD3は、血清中の25(OH)D濃度を30 ng/mL以上に維持するのに効果的であり、欠乏関連疾患のリスクを軽減します。

2.最適な保護:

  • 血清レベルを 40~70 ng/mL に維持し、さまざまな健康リスクに対する保護を強化するには、 1 日あたり4,000~6,000 IU (100~150 ㎍)のビタミン D3 摂取が推奨されます。体重が重い人は、同じ範囲の血清レベルを維持するために、1 日あたり最大 10,000 IU(250㎍) が必要になる場合があります。
今後の方向性

本レビューでは、観察研究と適切に設計された RCT の知見を取り入れた公衆衛生ガイドラインのパラダイムシフトを求めています。これらのデータを臨床診療に統合することで、個別化されたケアが可能になり、集団レベルで健康成果が最適化されます。

結論

ビタミン D は、骨の健康における従来の役割以外にも、あまり認識されていない健康効果を数多く持ちます。広範な欠乏症に対処し、血清レベルを最適化することで、主要な疾患や死亡リスクを大幅に減らすことができます。今後のガイドラインは、ビタミン D の多様な健康効果を反映し、世界的な公衆衛生を改善するために、科学的根拠に基づく補給戦略を採用する必要があります。

参考文献:

1.OMNS. 2024 International Virtual Vitamin D Forum & Expert Panel Discussion. Orthomol Med News Serv [Internet]. 2024 Sep 25;20(15). Available from: https://orthomolecular.org/resources/omns/v20n15.shtml

2.Grant WB, Wimalawansa SJ, Pludowski P, Cheng RZ. Vitamin D: Evidence-Based Health Benefits and Recommendations for Population Guidelines. Nutrients. 2025 Jan;17(2):277. https://www.mdpi.com/2072-6643/17/2/277

3.Cheng RZ. Understanding and Addressing Vitamin D Resistance: A Comprehensive Approach Integrating Genetic, Environmental, and Nutritional Factors. Orthomol Med News Serv [Internet]. 2024 Sep;20(13). Available from: https://orthomolecular.org/resources/omns/v20n13.shtml