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「処方薬によるマグネシウム欠乏症」Vol.3

この記事の執筆者

一般社団法人 日本オーソモレキュラー医学会

私たちの体にとって大切なミネラルであるマグネシウムは、使っている薬によって思わぬ形で不足することがあります。抗ウイルス薬や抗真菌薬の一部は腎臓に負担をかけ、マグネシウムが体に戻りにくくなることがあります。また、インスリンや気管支拡張薬はマグネシウムが細胞内に移動しやすくなるため、血液中の量が下がることもあります。免疫抑制薬では吸収が妨げられることも。

薬を使う際には、体のミネラルバランスにも目を向けることが大切です。

薬剤によるマグネシウム欠乏のメガニズム

抗ウイルス薬(ホスカルネット)

この薬は、AIDS患者などの免疫不全状態の患者における耐性サイトメガロウイルス(CMV)および単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症に使用されます。

ホスカルネットは、腎不全や腎臓の遠位曲尿細管(DCT)への損傷といった深刻な副作用を引き起こすことで悪名高い薬剤です。
さらに、カルシウム・マグネシウム・亜鉛をキレート化して不溶性の複合体を形成することで、これらのミネラルが腎臓で再吸収されないようにし、結果としてそれぞれの欠乏症を引き起こします。

加えて、ホスカルネットによって誘発される低カルシウム血症(カルシウム不足)は、副甲状腺ホルモンの分泌を抑制し、それがマグネシウム欠乏をさらに悪化させる原因となります。

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抗真菌薬(アンホテリシンB)

アンホテリシンBは、アスペルギルス症、クリプトコックス症、ブラストミセス症、全身性カンジダ症、ヒストプラズマ症など、重篤な真菌感染症の治療に使用される抗真菌薬です。

簡単に言えば、この薬は、エルゴステロールと結合することで真菌の細胞膜に微小な穴を開け、プロトンやナトリウム・カリウムといったイオンが漏出することにより、最終的に細胞死を引き起こします。

問題なのは、この作用が腎臓の遠位集合管(DCT)やヘンレ係蹄上行脚太部(TAL)のヒトの細胞膜にも影響を及ぼしてしまう点です。アンホテリシンBは、真菌のエルゴステロールではなくヒトのコレステロールと結合することにより、同様に細胞膜や細胞間の「タイトジャンクション(tight junction)」にも穴を開けてしまいます。これらの構造はマグネシウムの吸収に関与しているため、電解質の漏出が引き起こされます。

この漏出を補正するために、細胞はNa⁺/K⁺-ATPアーゼポンプを活性化させて、電解質バランスを維持しようとします。しかし、このポンプを動かすにはATP(細胞のエネルギー分子)が大量に消費されます。ATPの需要が供給を上回ると、細胞死が発生し、結果として腎障害が生じるのです。

アンホテリシンBは、65年以上使用されてきた古い薬です。確かに最初に発見された有効な抗真菌薬の一つではありますが、現在ではより安全で効果的な新しい抗真菌薬が登場しており、そろそろアンホテリシンBには引退の時期が来ているのかもしれません。<イラスト2>

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抗精神病薬

統合失調症などの精神疾患の治療に用いられる抗精神病薬に関しては、マグネシウム欠乏を引き起こすという明確な証拠は現時点では不足しています。

血漿中のマグネシウム濃度が変動するというわずかな証拠はあるものの、それはマグネシウムの喪失というよりも、体内での再分布が起こっている可能性が示唆されています。ただし、結論はまだ出ていない(陪審は評議中)のが実情です。

とはいえ、これらの薬剤にはマグネシウム欠乏を補って余りあるほどの多くの副作用が存在することは、広く知られています。<イラスト3>

Haloperidol - ハロペリドール, Not Guilty? - 無罪?

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インスリン

インスリンに関しては、複数のマグネシウム関連メカニズムが関与しています。

まず1つ目のメカニズムは、マグネシウムの再分布です。インスリンは、TRPM7やMagT1といったマグネシウム輸送チャネルを刺激することで、マグネシウムを血清から細胞内(特に筋肉や脂肪細胞)へ取り込ませる作用があります。その結果、血中を循環するマグネシウム濃度が低下する可能性があります。

次に、もう1つのメカニズムとしては、腎臓からのマグネシウム排泄の促進があります。インスリンは、ヘンレ係蹄上行脚太部(TAL)におけるタイトジャンクションチャネル(クローディン16およびクローディン19)やTRPM6チャネルの発現を低下させることで、マグネシウムの再吸収を妨げ、結果として腎性マグネシウム喪失を引き起こします。これが低マグネシウム血症(hypomagnesemia)の一因となります。

さらに、マグネシウムが不足すると、体内の細胞はインスリンに対して抵抗性(インスリン抵抗性)を持つようになります。これにより高インスリン血症が生じ、マグネシウムの喪失がさらに悪化するという悪循環が形成されます。

最後に、糖尿病では血糖値が過剰に高くなることで、血液の浸透圧(オスモラリティ)が上昇します。これにより、腎臓は余分なグルコースを尿中に排泄しようとし、その過程でマグネシウムなどの電解質も一緒に排泄されてしまいます。<イラスト4>

Magnesium Deficiency - マグネシウム欠乏症,Insulin resistance - インスリン抵抗性, Magnesium loss - マグネシウム喪失,Hyper-insulinemia - 高インスリン血症

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気管支拡張薬(β₂作動薬)

喘息治療に用いられる気管支拡張薬(特にβ₂作動薬)がマグネシウム欠乏を引き起こすかどうかについては、いまだ結論が出ていない(陪審は評議中)のが現状です。

多くの喘息患者はβ₂作動薬と同時にコルチコステロイドも使用しており、これは先述のとおりマグネシウムを消耗させる薬剤です。

インスリンと同様に、β₂作動薬はカリウムやマグネシウムを細胞外から細胞内へ移動させる作用があります。そのため、喘息患者やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者にマグネシウム欠乏が見られることが多いのですが、それがこれらの薬剤によるものかどうか、はっきりとした因果関係はまだ証明されていません。

サルブタモールなどのβ₂作動薬が交感神経系の緊張(交感神経トーン)を高め、代謝率を上昇させることで腎血流量(腎灌流)を増加させる可能性も指摘されています。
このような作用により、マグネシウムの濾過量が増加し、その結果として排泄量も増えるという仮説はありますが、現時点ではあくまで推測の域を出ていません。<イラスト5>

Jury Recessed - 陪審団は休廷しました。

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免疫抑制薬(タクロリムス)

タクロリムスは、臓器移植後の拒絶反応を防ぐために使用される免疫抑制薬の一種です。これらの薬剤には、低マグネシウム血症(マグネシウム欠乏)や高カルシウム尿症(尿中カルシウムの過剰)といった一般的な副作用があり、移植後の骨粗鬆症の一因となることがあります。

タクロリムスは、細胞内(サイトゾル)に存在する「FKBP12」と呼ばれる免疫関連タンパク質に結合します。FKBP12は細胞内のシグナル伝達に関与するタンパク質であり、この複合体は次にカルシウムシグナル伝達タンパク質であるカルシニューリンに結合します。

その結果、腎臓の遠位曲尿細管(DTC)におけるTRPM6チャネルの活性が低下し、マグネシウムの再吸収が妨げられます。<イラスト6>

Tacrolimus - タクロリムス,Calcineurin - カルシニューリン

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