1976年にノーベル賞受賞者で化学者のライナス・ポーリング博士(写真1)は、大量のビタミンCががん細胞を死滅させる可能性を提唱しました。彼の研究によると、がん患者が高用量のビタミンCを点滴と経口で投与された場合、治療を受けなかった患者に比べて4倍長く生存したことが判明しました。その後、メイヨー・クリニックの研究者たちがポーリングの発見を再現しようと試みたところ、ビタミンCはがん患者の症状や生存率に何の利益ももたらさないという結論に至りました。ビタミンCががん細胞を死滅させる成分であるという考えは、実質的に30年間にわたり棚上げされたのでした。
高濃度ビタミンC点滴と化学療法の併用により、進行膵臓がんの生存期間が2倍に延長
高濃度ビタミンC点滴療法(IVC)は、一度は効果が否定されたものの、経口摂取と点滴では作用が異なることが明らかとなり、近年再び注目を集めています。アイオワ大学の第2相臨床試験では、進行膵臓がん患者に標準化学療法とIVCを併用した結果、生存期間中央値が8.3か月から16か月へと延長しました。また、無増悪生存期間や治療継続性の向上も確認されています。さらに、脳腫瘍やメタ解析でも有望な結果が報告されており、標準治療を補完する新たな選択肢として期待されています。
高濃度ビタミンC点滴の歴史
しかし、米国国立衛生研究所(NIH)のマーク・レバイン博士(写真1)が、両研究の決定的な違いを突き止めたことで状況は一変しました。

<写真1>マーク・レバイン博士
ポーリング博士はビタミンCを点滴と経口で、メイヨー・クリニックの研究者たちががん患者にビタミンCを経口投与のみをしていたという点でした。経口摂取した場合は血中濃度が十分に上昇せず、ビタミンCは抗酸化物質として作用するが、静脈内投与で高濃度を達成すると酸化促進物質として作用し、アポトーシスを誘導することが明らかになったのです。これを機に高濃度ビタミンC点滴療法(IVC)の研究が一気に進展したのでした。
アイオワ大学による膵臓がんの臨床研究
アイオワ大学の研究チームは、高濃度ビタミンC点滴療法(IVC)のがん患者への有益性を実証するために約20年にわたり継続して研究に取り組んできました。彼らが選んだのはステージ4の膵臓がんでした。転移のある膵臓がんは患者にとって予後が極めて不良ながんです。治療を受けても生存期間の中央値は8ヶ月で、治療を受けなければおそらくそれより短くなり、5年生存率はごくわずかです。しかし、研究チームはIVCによるがん治療の可能性を信じて、膵臓がん臨床試験を進めていました。
2024年11月に発表されたアイオワ大学研究チームの論文によれば、彼らの予想した以上のIVCによる膵臓がん治療の高い効果が証明されたのでした。
この研究では、ステージ4の転移性膵臓がん患者34名が、標準的な化学療法(ゲムシタビンとnab-パクリタキセル)を受ける群、または化学療法に加え75gのビタミンCによるIVCを追加した場合の効果を検証しました。外科および放射線腫瘍学の教授であり、本研究の筆頭著者であるジョセフ・カレン教授(写真2)は、試験を開始した当初、生存期間の中央値が8ヶ月から12ヶ月に達すれば成功だと考えていました。

<写真2>研究を主導したアイオワ大学医学部のジョセフ・カレン教授
ところが2024年11月号の『Redox Biology』に掲載された彼らの第2相臨床試験の結果によると、患者の生存期間の中央値は8.3ヶ月から16ヶ月に倍増し、無増悪生存期間も3.9ヶ月から6.2ヶ月へと延長したのです(図1)。

<図1>標準治療にIVCを併用すると膵臓がん患者の生存期間が2倍に延長した
カレン教授は「IVCは全生存期間を2倍の16ヶ月に延ばすことができました。この治療法が患者の生存率に及ぼす有益性を示す結果が極めて明確であったため、臨床試験を早期に終了することができました。これは患者にとっても、アイオワ大学にとっても喜ばしいことです。」と述べています。
また、「全生存期間が延びるだけでなく、患者さんたちはこの治療によって体調が良くなっているようです。ビタミンC治療を受けたグループを見ると、より高用量の化学療法をより長期間受けられたという点です。彼らは化学療法への耐性がより高かったようです。これは他の臨床試験でも同様の傾向が確認されています。」と語っています。
脳の悪性腫瘍(膠芽腫)に有効
アイオワ大学で実施された脳の悪性膠芽腫の臨床試験では、ビタミンCを投与された患者は、化学療法と放射線療法のみを受けた参加者よりも11ヶ月長く生存していました。生存期間中央値がわずか12.7ヶ月というがんにとって、これは非常に大きな時間の差であると、本研究の主任研究者であり、アイオワ大学放射線腫瘍学部の教授兼学部長であるブライアン・アレン教授(写真3)は述べています。

<写真3>脳腫瘍へのIVC研究を主導したブライアン・アレン教授
アレン教授によると、高用量のビタミンCはがん細胞に悪影響を与えるだけでなく、正常組織を放射線や毒性から保護する働きもある。そのため、治療を受けた多くの患者は、受けなかった患者よりも体調が良いと報告したのでした。「これは、11ヶ月間病床で苦しんだというわけではない。11ヶ月間、外に出て人生を謳歌できたということだ」とアレン教授は語っていました。
しかし、すべての臨床試験参加者が等しく恩恵を受けたわけではありませんでした。一部の患者には驚くほど良好な結果が見られた一方で、アレン教授によれば、わずかな効果しか得られなかった患者もいれば、全く効果が得られなかった患者もいたと言っています。アイオワ大学の研究者チームは現在、患者の生存率に鉄貯蔵量が果たす役割など、考えられる要因について調査を進めています。
システマティックレビューとメタ解析でも生存期間が1.8倍延長
中国の首都医科大学の研究グループはIVCのこれまでのシステマティックレビューとメタ解析を行いました。8つの研究(計2,722名)を分析した結果、IVCは患者の全生存期間を1.83倍延長させる効果がありました。これはアイオワ大学の研究グループの結果と一致し、今後は標準治療の一部として検討される可能性を示唆しています。
おわりに
新たな化学療法の開発分野の時代において、IVCは強い存在意義があります。製薬企業は生存期間を20〜30%延長するため大きな投資をしています。ところがIVCを併用することで生存期間の中央値が2倍近く延長することがいかにすごいことかは明らかです。その有効性と低コストという両立性の点から、IVCは非常に費用対効果の高い治療法です。また、患者への耐容性が高く、副作用もほとんどありません。今回のアイオワ大学の第II相臨床試験に加え、システマティックレビューおよびメタ解析でも生存期間の延長が示されたことで、高濃度ビタミンC点滴療法は、今後、がん標準治療を補完する支持療法として、さらに大規模な第III相試験へ進むべき段階に入ったと考えます。私は、IVCは今後、多くのがん種において基本治療の一つとして位置付けられる可能性を秘めていると考えています。
参考文献
1)Bodecker KL et al: A randomized trial of pharmacological ascorbate, gemcitabine, and
nab-paclitaxel for metastatic pancreatic cancer. Redox Biology 77 103375, 2024
(2) Qu J et al.: O2⋅- and H2O2-Mediated Disruption of Fe Metabolism Causes the Differential Susceptibility of NSCLC and GBM Cancer Cells to Pharmacological Ascorbate. Cancer Cell 2017 Apr 10;31(4):487-500.e8.
(3) Qu J et al.: Overall and progression-free survival of patients with malignant neoplasm following intravenous vitamin C: a systematic review and meta-analysis. Int J Vitam Nutr Res 2025 1;95(3):37372
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