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国際オーソモレキュラー医学会、トロントで開催 〜ポール・マリック氏とジョン・ガナージュ氏が殿堂入り

この記事の執筆者

鎌倉元気クリニック

一般社団法人日本オーソモレキュラー医学会 代表理事。鎌倉元気クリニック 名誉院長。 杏林大学医学部卒、同大学院修了。 医学博士。杏林大学医学部内科助教授を経て、2000年〜2008年同大学保健学部救 ... [続きを見る]

国際オーソモレキュラー医学会(ISOM)年次大会がトロント大学で開催され、テーマは「多剤併用の削減と栄養の役割」。多職種が参加し、薬剤依存医療を見直す議論が活発に行われました。殿堂入り式典ではポール・マリック医師とジョン・ガナージュ医師が受賞。がんを代謝性疾患として捉える新たな治療プロトコルも紹介され、栄養・代謝を基盤とする医療への国際的な流れの変化が強く感じられる大会となりました。

国際オーソモレキュラー医学会(ISOM)年次大会開催

国際オーソモレキュラー医学会(ISOM)の年次大会が10月3日、4日にカナダのトロント大学キャンパスで開催されました(写真1)

<写真1>学会が開催されたトロント大学のキャンパス

今年のテーマは「多剤併用(ポリファーマシー)の削減と栄養の役割」でした(写真2)。

薬剤偏重の現代医療に対し、栄養療法や代謝医学の視点から見直す試みが世界的に注目を集めており、本大会も例年以上に参加者が多く、会場は国際色豊かな活気に満ちていました。

<写真2> ポリファーマシーの削減と栄養の役割を掲げた学会のバナー。

初日の開会式では、私が国際オーソモレキュラー医学会の前会長としてスピーチと開会の宣言をしました(写真3)

<写真3>学会の開会宣言をする筆者

他分野からの参加者が集結

今回の大会には、医師だけでなく研究者、栄養士、薬剤師、教育者など多様な専門家が参加しました。トロント大学構内に設営された会場は朝から熱気があり、通路では各国の参加者が臨床例と研究成果を語り合う姿が見られました。

講演は医療政策、薬剤デトックス、遺伝学、分子栄養学など多岐にわたり、特にポリファーマシーの問題については患者の生活の質(QOL)や医療費の観点からも議論が交わされました。複数の抗うつ剤や胃薬、睡眠薬などが慢性的に処方される現状を変えるため、栄養や代謝の測定を診療の出発点に置くべきだという提案には、多くの参加者が頷いていました。

2025年度オーソモレキュラー医学会殿堂入り式典

大会の大きな節目となったのが、恒例の「オーソモレキュラー栄養医学殿堂入り(Hall of Fame)」式典です。今年の受賞者には、米国の救急医学専門医 Paul E. Marik(ポール・E・マリック)氏 と、カナダの統合医療医 John Gannage(ジョン・ガナージュ)氏の2名が選ばれました。

式典は会場全体が静まり返る厳粛な雰囲気の中で進められました。事務局のアンドリュー・クスシアーナ氏より二人の受賞者の功績が紹介され、私より両名に歴代の殿堂入り受賞者の名前が刻まれた記念のクリスタルを手渡すと、会場の出席者による大きな拍手が響き渡りました(写真4)。

<写真4>今年度受賞者のジョン・ガナーシュ医師(左)、ポール・マリック医師(中)と筆者(右)

殿堂入り受賞者:ポール・マリック医師

マリック氏は、2017年に『Chest誌』にビタミンC・ビタミンB1・ヒドロコルチゾン併用療法で敗血症の死亡率を従来の1/4以下に減らしたというインパクトのある論文を発表し、世界的に注目されました。また、新型コロナ流行時にはFLCCCアライアンスの創設メンバーとしてイベルメクチンやビタミンC点滴を組み合わせた治療プログラムを提唱して世界に配信、多くの患者の命を救いました。

この二つの功績については以前に本誌でも詳細に報告しました。救急医学と栄養医学の両方に通じ、臨床と科学を結ぶ姿勢は医師の鏡であると受賞理由でした。

しかし、彼は多くのコロナ感染患者を救ったにも関わらず、国が認めていない治療で患者を危険な目に遭わせたという理由で現在では州の医師会から医師免許を剥奪されました。この不当な処置に、現在マリック氏は地位保全を求めて裁判で闘っています。

殿堂入り受賞者:ジョン・ガナージュ医師

もう一人の受賞者であるガナージュ氏は、ADHDや自閉症など神経発達症のこどもを対象に、腸内環境と栄養状態を重視した治療を行う臨床家として知られています。カナダ国内では教育者としても活動し、多くの医師に統合医療的アプローチを普及させてきました。

筆者とは、2019年のブラジル・サンパウロでの国際オーソモレキュラー医学会を皮切りに、その後も複数の国際学会で顔を合わせてきました。今回の受賞は友人としてとても誇らしく思えました。

がんを“代謝性疾患”として再定義

今回の大会では、マリック氏による特別講演「Metabolic and Repurposed Drugs in Cancer Care(代謝性および再利用薬によるがん治療)」が、特に大きな関心を集めました。同氏はがんを「遺伝子の病気」でなく「代謝異常としての病気」と捉える視点を示し、既存薬(repurposed drugs)と天然成分を組み合わせた治療プロトコルを公開しました。そこには、(1) イベルメクチン、メベンダゾール、フェンベンダゾールなどの駆虫薬、(2) クルクミン、レスベラトロールなどの天然成分、(3) メトホルミンなどの代謝調整薬が含まれ、これらを中心に治療を行い、時には従来の化学療法と併用し、がんの治癒、副作用の軽減と再発抑制を図るものです。

マリック氏の許諾を得たので、日本オーソモレキュラー医学会や点滴療法研究会では、このプロトコルの日本語版を準備中であり、近く会員向けに公開される予定です。

国際会議で感じる“流れの変化”

今回のトロント大会を通じ、オーソモレキュラー医学を取り巻く国際的な潮流が大きく変わりつつあることが実感されました。特に欧米では、医療者自身が「薬だけでは限界がある」と感じ始めており、治療の土台を生活習慣・代謝・栄養に戻す動きが強まっています。すなわち、(1)薬物の多剤併用投与の見直し、(2)栄養状態と代謝改善を治療の基盤に据える考え方、(3)既存薬の新しい活用(Repurposed drug)、(4)こどもの健康を守る統合医療への注目、(5)栄養医学の教育体制の強化などです。

カフェテリアや廊下で海外の医師と話をする中でも、「患者が本当に必要としているのは体を治すための材料だ」ということが、共通の言葉として何度も繰り返されました(写真5)。

<写真5>講演の合間でも参加者は熱心に議論を重ねている

【おわりに】

国際オーソモレキュラー医学会のトロント大会は、世界の医療が薬物中心から代謝・栄養中心の医療へと大きな転換点を迎えていることを鮮明に示すものでした。救急医学の第一線で活躍したマリック氏、こどもの未来を守る臨床家ガナージュ氏。

両名の受賞は、オーソモレキュラー医学の歩みが世界で確かな評価を得ている証でもあります。日本においても、〝治す医療〟から〝治る医療〟へと歩みを進めるために、栄養医学の果たす役割はますます大きくなるでしょう。

柳澤 厚生 (ヤナギサワ アツオ)先生の関連動画

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