脳は、体内のどの臓器よりも多くのブドウ糖をエネルギーとして利用しています。
食事のGL(グリセミック負荷)が将来の認知症リスクを左右する?
食事による血糖への負荷は、将来の認知症リスクとどのように関係するのでしょうか。20万人以上を対象とした研究では、炭水化物の「質」と「量」の両方を示すGL(グリセミック負荷)と認知症リスクとの関連が報告されました。本記事では、血糖管理と脳の健康との関係、日々の食事で意識したいポイントを解説します。
なぜ「糖」そのものより、血糖への負荷が重要なのか
この事実から、「糖は脳のエネルギー源なのだから、糖を多く摂れば、それだけ脳のエネルギーも増える」と考えられがちです。
しかし実際には、血糖と脳の健康との関係は、それほど単純ではありません。
英国の大規模なUK Biobank研究では、20万人以上を対象に、食事のグリセミック・インデックス(GI)およびグリセミック負荷(GL)と、将来の認知症リスクとの関係が調査されました。
では、研究から何がわかったのでしょうか。
GL(グリセミック負荷)と認知症について、研究でわかったこと
2025年、『International Journal of Epidemiology』に発表された研究では、UK Biobankに登録された認知症のない202,302人を対象に、食事のGI・GLと将来の認知症リスクとの関連が調べられました。
研究者らは、24時間食事質問票を用いて参加者の食事のGIとGLを推定し、その後の全認知症、アルツハイマー病、血管性認知症の発症リスクを解析しました。
その結果は、単純に「GLは低ければ低いほどよい」というものではありませんでした。
GLと認知症リスクとの間には、J字型の関係が認められました。
食事のGLがおよそ111を超えると、GLの上昇に伴って認知症リスクが高くなる傾向がみられました。潜在的な交絡因子を調整した後でも、この値を超えるGLは認知症の相対リスクが14.5%高いことと関連していました。アルツハイマー病および血管性認知症についても、同様の傾向が認められました。
一方、GIでは異なる傾向がみられ、約49未満のGI値は認知症リスクの低下と関連していました。
これらの結果は、食事に含まれる炭水化物について、「質」と「量」の両方に目を向けることが重要である可能性を示しています。
Food for the Brain財団でも、これまで食生活と認知機能との関連について研究を行い、自己申告による食事パターンと認知機能テストの結果、糖の摂取量と認知機能との関係などを調べています。
Food for the Brain財団の研究から何がわかったのでしょうか?
今回の結果は、炭水化物の質、食事全体のGL、代謝の健康状態が、将来の脳の健康と関連する可能性を示す研究をさらに補強するものです。
また、食品ごとのGIだけを見ていては、全体像の一部を見落としてしまう可能性があります。
なぜならGLは、食品のGIだけでなく、「実際にどれだけの炭水化物を摂取するか」も考慮する指標だからです。
ただし、今回の研究は臨床試験ではなく、観察研究です。
そのため、食事のGI・GLとその後の認知症リスクとの「関連」を示すことはできますが、GLの高い食事が認知症を引き起こすことや、GLを下げることで認知症を予防できることを証明したものではありません。
また、食事内容についても、参加者自身が回答した食事質問票をもとに推定されています。
私たちの体が本当に必要とする糖の量
自動車にとってのガソリンのように、ブドウ糖は私たちの体にとって主要なエネルギー源です。すべての細胞で利用される重要な燃料です。
一方で、私たちの体はケトン体もエネルギー源として利用できます。いわばガソリンでも電気でも走れる自動車のように、私たちの体も複数のエネルギー源を使える「代謝のハイブリッド」といえます。
ここで興味深い事実があります。
私たちの体内には約10万kmもの血管があり、脳だけでも約1,000kmに及ぶとされています。これらの血管が、約30兆個の細胞へエネルギーを届けています。
それほど大規模なシステムでありながら、ある時点で血液中に存在するブドウ糖は約4gで十分だとされています。
これは小さじ1杯程度です。
その量で、その瞬間に脳や全身の細胞へエネルギーを供給することができるのです。
GLを決めるのは「質」と「量」
GL(グリセミック負荷)は、食品のGIと1回に摂取する利用可能な炭水化物量の両方を考慮した指標です。
つまり、血糖値にどの程度影響を与える食事なのかを、より実際的に考えるための目安になります。
GLを左右するのは、大きく2つです。
・炭水化物の「質」
・食べる「量」
「質」とは、ブドウ糖がどのくらい速く血中へ放出されるかを示し、これがGIとして表されます。
食物繊維やタンパク質は、その速度を緩やかにします。
例えば、白米よりも食物繊維を含む玄米の方がGIは低くなります。また、ご飯を魚や豆、肉などのタンパク質と一緒に食べることで、糖の吸収がより緩やかになります。
そしてGLでは、食べる量も重要です。
魚と少量の玄米であればGLは低くなりますが、たとえ魚と一緒でも、白米を大量に食べればGLは高くなります。
過剰な血糖は脳にどのような影響を与えるのか
では、体が必要とする量を大きく超えるブドウ糖を摂取すると、どうなるのでしょうか。
甘い炭酸飲料1缶には、およそ35gの糖が含まれています。これは通常、血液中を循環しているブドウ糖の総量のおよそ9倍に相当します。
過剰な血糖は血管や、その血管から栄養を受け取る組織にダメージを与える可能性があります。
糖尿病で腎臓、目、神経などに障害が起こり得るように、脳も例外ではありません。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経内分泌学教授Robert Lustig氏は、脳は他の臓器より多くのエネルギーを必要とし、多くのミトコンドリアを有している一方、糖はミトコンドリアにダメージを与えると指摘しています。
高い糖摂取量や糖分の多い飲料、超加工食品と認知症リスクや記憶機能との関係についても、さまざまな研究が行われています。
「隠れた糖」を摂りすぎていませんか?
長期的な血糖状態を知るための代表的な指標がHbA1cです。
HbA1cは、ヘモグロビンにブドウ糖が結合した「糖化ヘモグロビン」の割合を測定するもので、過去2〜3か月程度の平均的な血糖状態を知る目安となります。
HbA1c 6.5%(48 mmol/mol)以上は、糖尿病を診断する際に用いられる基準の一つです。
原文では、より良好な健康状態を目指す目安として5.4%未満、理想的には5%未満を挙げています。
Food for the Brainでは、HbA1cを血糖への対応力を見る重要な指標の一つとして、家庭用検査キット「5-in-1 DRIfT」にも採用しています。
食生活では、何を意識すればよいのでしょうか?
今回の研究から、「すべての人にとって理想的なGLはこの数値」と断定することはできません。また、GLを下げれば認知症を予防できると証明されたわけでもありません。
しかし、私たちが食べる炭水化物の「質」と「量」、そしてそれらが血糖に与える影響が、長期的な脳の健康と関係している可能性を示す研究の一つといえます。
実際の食生活でGLを抑えるには、精製された炭水化物や消化・吸収の速い炭水化物を減らし、血糖への影響が比較的穏やかな食品を選ぶことがポイントです。
例えば、
・豆類、レンズ豆
・でんぷん質の少ない野菜
・丸ごとの果物
・ナッツ類
・種子類
などが挙げられます。
HbAlcで変化を確認する
赤血球の寿命はおよそ3か月です。
原文では、低GLの食生活を3か月続けた後にHbA1cを再検査し、変化を確認する方法を提案しています。
また、インスリン感受性などをサポートするものとして、グルコマンナンなどの食物繊維、クロム、シナモン由来成分、タマリンド由来のHCAなどのサプリメントにも言及しています。
次にできること
もし食事のGLが将来の認知症リスクと関係しているのであれば、重要なのは、自分の状態を知り、生活を見直し、その変化を確認することです。
まず、自分の血糖状態を確認してみましょう。
HbA1cは、過去約3か月の平均的な血糖状態を知る手がかりになります。数値が高い場合には、低GLの食生活を意識することが、血糖管理を考える一つの方法になります。
そして、現在の脳の働きを確認することも大切です。
Food for the Brainが提供する無料の「Cognitive Function Test(認知機能テスト)」は約20分で、記憶力、注意力、情報処理速度など、現在の認知機能を客観的に確認するためのツールです。
食生活などを見直したら、一定期間後にHbA1cや認知機能をもう一度確認し、変化を見ていきます。
予防への取り組みは、「測ること」で、より具体的になります。
【参考文献】
1.Novau-Ferré N, et al. Glycemic index, glycemic load, and risk of dementia: a prospective analysis within the UK Biobank cohort. International Journal of Epidemiology. 2025.
2.Wasserman DH. Four grams of glucose. American Journal of Physiology.
<出典>
Food for the Brain Foundation
“The GL of Your Diet Determines Your Future Dementia Risk”
※本記事は、Food for the Brain Foundationに掲載された記事をもとに、日本オーソモレキュラー医学会にて翻訳・編集しています。
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